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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜嵐の前編〜
65/112

嵐の前編・兄妹

ーーPM18時過ぎ、ナルミ家自宅前ーー





ん?


「兄さん、どうしたの?……あら?」


「おかえりなさい、お兄ちゃん!」

「おかえりなさい、お兄ちゃん!」


……


「なんで兄貴がここに居るんだ?」


「なんだ?実家に帰ってきちゃいけねぇのか?」


なるほど、隠す気は無いって事か

ユマリが僕の後ろで短刀に手を伸ばしている気配に気づき、僕は少し振り返り、軽く頷いてみせて落ち着かせた。


「……別に、それより訊きたいことがある。さっさと夕飯を済ませよう……ユマリ、またな」


「……ええ、またね」


ユマリは予備のヘルメットを僕に手渡し、大人しく自宅へ帰って行った。さて、僕もバイクをしまいに行くか……ん?


みぃ姉もサツキも心配してるのか、二人とも玄関前で中に入らずこちらを見ていたので、帰宅するよう促すと、あいつらも大人しく入っていった。


「相変わらずモテモテだな……人気者は辛いってやつか?」


「今回は兄貴がいるからだろ?皆んな異常事態が起こってるから心配なんだよ」


「ん〜……じゃあここに帰る頻度増やすか、そんなに心配されると少し罪悪感を感じるし……なあ、ミナトも俺に帰ってきてほしいか?」


自分が置かれてる状況分かってるんだか、分かってないんだか……


「ミナトは今のままでも大丈夫です、お兄ちゃんがいるので!」


「うぅ……ミナトよ、いつの間に兄離れするようになったんだ……お兄ちゃん寂しいよっ!」


アホか……


僕はバイクをしまい、裏口から中へ入って行った。ミナトはすかさず、駆け足で裏口方面へ向かって行った。やっぱりできた子だ。


「しかもシカトかよ!はぁ……やっぱ帰ってくる頻度増やすか……」


まだ言ってるし……


「ただいま、ミナト。お迎えサンキュ」


「おかえりなさい、お兄ちゃん!……あの、なんでアキトお兄さんが帰ってきたんですか?」


「さあな、もしかしたら兄同士のお話をしに来たのかもしれないな」


なるほど、と言ってミナトは少し納得した様だった。そしてほぼ同時に兄貴の声が聞こえてきた


「おーい、早く夕飯済ませようぜー!腹減っちまった」


……はいはい、僕はジャケットをミナトに渡し、僕の部屋にしまいに行ってもらった。

さて……どんな流れになるかな?


「お、来たきた!って、まだユキタカのやつが帰って来てねぇな……あれか。恋人の……えっと……なんて名前だっけ?」


「トモカちゃんだ」


「あぁ、そうだそうだ!そんな感じの名前だっ!……ったく、リア充アピールしやがって!三男坊のくせに小生意気なやつだぜ」


「悔しいなら兄貴もガールフレンドの一人くらいつくれよ、ガールフレンドと言っても女友達のほうな」


僕は手を洗い、野菜やらを冷蔵庫から出しながら皮肉を混ぜて異議を唱えた。


「ちっ、こっちの弟も小生意気ときてる……あーあ、可愛いのはミナトだけかよ。お兄さん若干悲しいぞ……」


そうかい……でも確かに恋人持ちはユキタカだけだよな、性格上も一番下なのに……世の中不思議なもんだな


「ほお、悲しいから国外にでてまで友達つくろうとしてたのか?」


「半分当たりだな!俺のフレンド枠を世界規模にしようかと思ってな!そうすれば女友達……いや、彼女が出来る!と思ってたんだが……どうやらその子はお前の事が気になってるらしい……」


……誰の事だ?


「おんや?その顔は誰の事か分からないってとこか?あいつだよあいつ、えっと……火だか炎だかが関係した名前の女剣士だ!」


「あぁ、レッカとか言う名前の紅か、あいつがなんだって?」


確かあいつと最後に会った時は何やら悩んでる感じだったが、まだ解決してないんだろうか?


「そうそう!そんな感じの名前だ、お前よく覚えられるなぁ……あいつら少なくても1万人はいる組織だぞ?」


「単純にそいつと、あと二人が名前を呼びあってたのを見たから覚えてただけで、特に特別って訳じゃないぞ」


「あー!あの上から目線の奴だろ?確かゼンだったっけ?リーダーやるからには統率力があると思っていたんだが、俺から言わせりゃ、カリスマ性なんてなく、同じ思想でなんとなぁく発言力のある奴がボスになってるって感じだ」


ゼンにも会っていたのか、確かあいつはヘヴンのスポンサー会社の社長だっけ?名前はアウラだったかな?にしても、やはり兄貴も僕と似たような見解をしていたんだな。


「……で?結局紅に入るのか?」


「最初は良いかなぁと、思っていたんだが、如何せんリーダーがあんな感じだったから、とりあえず共闘しようぜって誘っておいた」


軽いノリだな、兄貴らしいけど


「兄貴がそんなやつを誘うなんて珍しいな、僕はてっきり関わるのを止めたと思ってた」


「まあ、色々あってなぁ……友達は増やして行こう!ってなってさ、だから致し方なく……な」


ほお……マスターもやはり紅とは共闘するべきだと思っているのだろうか……?


「あ、そうだ!明日ファクロム支部に転任してたミラーが戻って来るらしいぜ、ホーリーヘヴンがあるこのセントラルの街で、相当な破壊活動をするような奴が出てきたから、精鋭且つこの辺りに詳しいミラーが選ばれたんだろうな」


ミラーか、確かキラと仲が良かったやつで、主にバズーカとかガトリング系が得意な中距離担当だったような?

まあ、あいつなら安心だな。


と、そろそろミナトを呼ぶか


「ミナト!もうこっちに来ても良いぞ!」


そう声をかけると、ミナトはパタパタと階段を降りリビングへ入って来た。


「ミナトも立派になったなぁ、お兄さん達の話の邪魔にならないように、気をつかってくれてたのかぁ!えらいえらい!」


「……んーなんだかいつもお兄ちゃんに撫でてもらうときと違って違和感を感じます。あまり嬉しくないです」


ミナト……言うようになったな。ミナトの頭を撫でた兄貴に痛烈なコメントを放った……兄貴はショックを受けたようで涙をながしながら固まって動かない……致命傷だな……


「ただいまぁ!って、ん?リュウ兄、誰か来てるのか……ってアキ兄!?」


「丁度いい時に帰って来たな。ユキタカ、兄貴の話し相手になってやれ。今しがたメンタルに大ダメージを受けたばかりなんだ」


これでとりあえず、やかましく騒ぐ事はないだろう。


「良いタイミングだったな兄貴……じゃなくてユキタカ、かな?」


「うぅっ!!ユキタカぁ!こいつら酷いんだぞ、兄である俺に対して遠慮ってものがないんだ!」


「あはは……なんとなぁく分かる気がする……俺もこの二人にはいつもいつも……」


ある意味でこの二人は凄まじく共鳴する点があるだろうな、まあこれも人の生き方の違いってやつさ、素直に受け入れろ。


「あの、お兄ちゃん……お二人は何故泣いているのでしょうか?」


フッ、ご本人は無自覚みたいだな。


「お互いを癒しあってるんじゃないか?放っておいても良いぞ」


はい、と元気よく返事をしたミナトは自分の席へとついた。兄貴たちは未だ愚痴を言い合っている。

まあ、良いか……どうでもいい……


僕はそのまま作業をすすめた。






ーーPM20時過ぎ、ナルミ家・自室ーー





「お兄ちゃん、お兄さん会議はどうでしたか?」


「なかなか有意義な時間だった、おかげで色々分かってきたよ」


「でも、顔色が悪いですね……」


本当に観察力が高いな、ミナトは……僕が無意識に表面化させてるのかもしれないが、それを差し引いてもミナトは中々鋭いところがある。


「……ミナトは、兄さんたちがケンカするところ見たくないよな?」


「……いいえ!」


っ!?


「ミナトもミナトなりにずっと思っていた事があります、リュウガ……お兄さんの事を聞いた時からずっとずっと……普通の喧嘩ではなく、本気の喧嘩をしないといけないんですよね……?」



ああ、そうだ……

僕はミナトの質問に黙って頷いた。


「だったら……ミナトはお兄ちゃんにいてほしいです……皆んなといる事が一番ですけど!……それでも……ミナトはお兄ちゃんにいてほしいです」


……ミナトに血なまぐさい話はしたくなかった、それでも言わないとダメだと思って、ミナトにも昔話をした。この子なりずっと苦しんで悩んでいたのだろう……


「……でも、それだけじゃないんですよね?」


っ!


…………


「ああ……」


僕の返答にミナトは少し身体をピクッと引きつらせ、やがて瞳に涙がにじんできた。

すまない、ミナト……


「僕の力不足だ……僕がもっとしっかりしていればーー」

「お兄ちゃんは悪くありません!お兄ちゃんがいつもどんなときでも皆んなを大切にしている事をミナトは知っています!痛いほど理解しています!……だから今お兄ちゃんが悩んでいる事はお兄ちゃんのせいじゃありません……ミナトはそんなお兄ちゃんが大好きです!……だから……これ以上自分を責めないであげてください……じゃないとミナトは……悲しいです」


……僕は自分が嫌いだ、いつも何より大切にしているのは僕自身の意志や信念だ。他人の事なんて関係無い、僕が変わらぬ日常を過ごしたいために僕は行動している……そして明言している……そのつもりなのに……心理を隠しきれない自分が嫌いだ

それなのに、ミナトは僕の深層心理を見てくれているんだな……その上で僕を好きだと言ってくれるんだな


「……兄さんはな、兄さんなりに家族や皆んなを大切にして、失わないように戦っているつもりだ、でもどうしようもないときもある……それでもミナトは僕の事を好きだと……一緒にいたいと言えるか?」


「はい!ミナトは、お兄ちゃんの気持ちに素直でいてほしいです……そうしている、いつものお兄ちゃんが好きです!」


そうか……フフ、妹にここまで言われる日が来るとはな。


「……ミナトがそこまで成長してくれている事が本当に嬉しい反面少し心配になるよ」


「どうしてですか?」


「ミナトが良い女になるほど、周りの男たちが騒がしくなるからさ」


「ふふ……でもミナトにとってはお兄ちゃんが一番ですよ!」


ミナトは凄いな、ここまで言いきれるとは……でもやはり兄として少し不安だよ……精神的に少し楽になったかもしれない。


「ありがとう、ミナト。おかげで前よりはちゃんとしていられそうだ」


「……うん、やっぱりお兄ちゃんに撫でてもらうと、幸せを感じます!」


はは、兄貴達がそれを聞いたらまたふくれっ面になりそうだな。


「……さあ、もう寝なさい。兄さんはもう大丈夫だ……助かったよ」


「またいつか、大人のお話をしてくださいね!おやすみなさい、お兄ちゃん!」


おやすみ、僕はそう返事をして部屋から出ていくミナトを見送った。


……そんなミナトの成長過程を僕はどこまで見守り続けられるだろうか……

そして僕はいつまで、兄弟たちと共に戦えるだろうか……


……違うな、ずっと見続けて行くんだ。皆んなと戦い続けるんだ!半端な気持ちでは奴らとマトモに戦えない、決めるんだ。自分の意志を……自分の望みを……必ず成就させる、信じ続けるんだ!








『 キ ミ デ ハ ム リ ダ ヨ 』









なんでこんな時にそんな事を思い出す……!








『 ソ レ ガ キ ミ ノ ゲ ン カ イ ダ 』









……僕の限界……あれが僕の限界……ヒメカやベルクレア様を犠牲にしなければ倒せなかった……いや、倒すことができなかった……それが僕の限界……


……それでも戦おう、今度こそ僕の信念を貫き通すんだ!


「難しい顔してるね、アキト君たちと何かあった?」


「いや、別に何も……って!お前いつの間に不法侵入してきたんだ!気配も何も感じなかったぞ!」


サツキがいつの間にか背後におり、そしてこれまたいつの間に抱きつかれていた。僕は状況を把握しようとベランダの方に目をやり慎重に観察する。


……またしても施錠していた鍵を解錠し、侵入してきたようだ。いつもの事だが、状況が状況だったため、少し混乱してしまった……情けない!


「えぇ、ちゃんといつも通り遊びに来たよぉ?りゅうくんの方に問題があるんじゃない?」


……くそ、否定できない。


「少し考え事に熱中しすぎたみたいだな……とりあえず早く帰……っれ!?」


そう言い終える前に、僕を背後から抱きしめられているサツキの腕に力を入れられた。

……苦しいんだが?


「どぉ?これでも熱中しちゃう?」


「……とりあえず締め付けはやめろ、胸が当たってる……と言うか当てすぎだ!」


「えぇ?聞こえなぁい♪」


煩わしい……


「……辛い事忘れるまでずっと抱きしめるね」


……カンの鋭いやつだな、野生のカンってやつか?

それとも、僕がそんなに分かりやすい顔してたのかな?そんなつもりなかったんだが……


「……いつから気づいてた?」


「ん〜今日、エリールさんと話した時からかな?その時のりゅうくんの目を見て分かった……ユキタカ君やアキト君と戦う覚悟をし始めたのかなって……そしたらアキト君がお出迎えでしょぉ、だからりゅうくんの部屋の電気がつくまで少し待ってみて、こうして参上しましたぁ♪」


最初からってことか、昔からサツキやミツキやユマリには何故か気づかれるんだよなぁ……


「そんな分かりやすい顔してるか?」


「幼なじみの絆ってやつかな〜?りゅうくんの事は目を見たら大体どんな感情を抱いてるか分かるんだぁ、みぃ姉もユマリんもそうみたいだし……だからユマリんが構えてたんじゃないかな」


こいつら姉妹とユマリにはお見通しって事か……今度から僕を見るなって言おうか?


「お前たちこそ、ユキタカたちと戦えるか?」


「……正直、りゅうくんほどの覚悟は無い……知っていて止めてあげられないのがこんなに苦痛とは思ってなかった。何とかしてユキタカ君たちを助けてあげられないかな?」


「その方法があれば僕はどんな事でもするんだがな……」


「……ぎゅうっ!!」


な、なんだ!?


「その優しさをユキタカ君たちが知ってくれたら、誰も悲しまなくてもすむんだけどね……」


優しさだけじゃダメだって事だろう、それに見合う力と信念を持ち合わせていないと……こう考えて行った末に、今の結論に至ったのかもしれないな、ユキタカは。


「りゅうくんは?戦えそう?」


「戦うさ、本気でな……じゃないとあいつらに説教するだけの説得力に欠けるだろう」


そう、力だけでもダメなんだ。両方揃っていないと誰も救えない……まさか……いや、でもだとしたら……


「どうしたの?」


「……サツキ、何があっても僕と兄貴の戦いには介入するな……絶対にな」


僕はそう言いながら、未だに抱きついているサツキの手を強く握った。


「…………分かった、みんなにも伝えておくね」


気持ちが伝わったのか、サツキは自ら抱擁を解き、僕の目を真っ直ぐ見つめている……こうして僕の気持ちを見抜いているんだろうな。僕が見ていなくても、皆んなは僕の目を見ているのかもしれない。


当たり前の事なのに今まで気づかなかった、本当に単純で基本的な事の筈なのに、しかも僕は今までそうして来たにも関わらず、自分の事となると盲目的に気づかないとは……僕もまだまだだな


「……じゃあ、そろそろ戻るね。みぃ姉がお風呂から出てきちゃう」


「ああ、またな」


ベランダへ向かうサツキをなんとなく見送っていると、ピタリと歩みを止めた……なんだ?



「……死んじゃ嫌だよ……」


……っ


離れていくサツキの顔を改めて見ると、僅かに涙を浮かべていた……


「……んじゃ、またねぇ!♪」


今度こそベランダに出るサツキ、ベランダの柵をひょいと飛び越え、自分の部屋へと戻って行った。


……女って怖いな……


何をアホな事を考えてるんだ僕は


……でも、本当に気をつけないとな




これ以上、何も失わないように……




















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