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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜嵐の前編〜
64/112

嵐の前編・兄弟

「もぉ、なんで教えてくれなかったのぉ!」


執務室に着くなり、サツキは僕に迫り来た

……なんだ?朝からやかましいやつだな


「とりあえず落ち着いてなんの事か説明してから怒れ」


「リュウイチ、昨日アカリが来た事私たちに黙ってたでしょう?考えたい事があるって言うから、邪魔しないように"わざわざ"気をつかって行かなかったのに……」


なるほど、その事でみぃ姉とサツキとユマリの目が鋭い訳か


「別に来るなとは言ってないだろう、それに"わざわざ"お前たちに来客者が誰かを伝えないといけないのか?」


「そうだよ!」

「そうよ!」

「そうよ」


本当にアホだこいつら


「伝える必要性を感じない、お前たちの家じゃないし、近所やお前たちに迷惑はかけてないだろ」


「カイ!恋人の家に別の女性や男性が来てたら普通は怒るか疑惑を向けるわよね!?」


「えっ?!あー……いやまあ、その……恋人なら怒るかもな」


「ほら!」

「ほらぁ!」

「ほら」


「それは恋人だったらの話だろ、僕は今現在フリーで恋愛は遮断してるんだ。お前らは何度言えば理解してくれるんだ」


いやダメか、今のこいつらに何を言ってもこっちが悪いみたいな空気に染まってしまう。ここは一度リセットして、別の事に思考を向けよう


僕はデスクにあるモニターを操作し、最近のミッション履歴や被害データを調べる事にした。


……やはり、あれ以来高レベルのイレギュラーや時空間魔法の発生情報も無いし、紅についても新しい情報は入っていない。ユマリたちが付けた発信器も今はもう沈黙している……リュウガが関与しているから、一切の痕跡を残さないという可能性も無くはないが……


「ちょっとリュウイチ、聞いてるの?!」


「いや、半分以上無視してる。そんな事よりお前たち、あれからリュウガ因子を持ったイレギュラーやモンスターとは戦闘してないのか?」


「ええ、少なくとも僕は戦闘していません……気になりますね、あの者たちのブラフだったのでしょうか?」


レイも僕と同じ考えに至っているようだ、でもその場合のメリットも考えてみたが、奴らのそれだと分かるような被害も情報もないし……


「よお、リュウ兄!遊びに来たぜー!」


ユキタカが軽快な声を上げて入室してきた、当然の如くトモカちゃんも一緒だ。


「遊ぶなら他でやれ、ここを遊び場にした覚えもないし許可した覚えもない」


「いっらしゃ〜い、トモカちゃん!調子はどう?ユキタカ君と仲良くしてる?♪」


「お疲れ様です、サツキ隊……さん。ユキタカ君との仲は……良いです」


素直なやつだな、それに呼び方も変わって来てるみたいだな……アカリちゃんかサツキの仕業か?


「羨ましいですねぇ……おや?ユマリ、リュウイチ様との仲は……今は残念みたいですね☆」


ガンッ!


レイの発言を聞いたユマリは凄まじい速さで立ち上がり、これまた凄まじい速さでレイの頭を短剣の持ち手部分で殴りつけた。


「不愉快だわ……黙ってなさい」


あの加速度での一撃……強烈だな

それによりレイはその場で倒れ込んで沈黙した

そして、ユマリは短剣を元に戻し、僕の方に向き直ってゆっくり歩み寄って来た……イヤな予感がする


「兄さん、キスしましょう」


「はい?仮にそういう関係だったとして、この状況ですると思ってるのか?」


ユマリさん?


「当然よ、兄さんと私の愛は無限大だもの」


やはりそうか!やはりお前はユマリさんなんだな!だからお前も黙ってた方が良いぞ!


……はぁ


「キスもしないし愛し合ってもいません!大人しく席に戻りなさい、ユマリ」


「残念……」


残念じゃない!ユマリ、そこは謝罪して勘違いしてたと言うところだぞ。


「ふ、ふふ……ほらみなさい、僕を痛めつけるから罰……っが!!」


ガン!


デジャヴ?

ユマリは帰り際に再びレイの頭部を殴打した。レイ、お前も少しは学べよ


ピロリン……ピロリン……!

ん?


「あ、ごめんなさい私のSPDです……っ!すみません、ちょっと退席します……はい、こちらハクです」


そう言いながらハクは早歩きで部屋を出ていった。一瞬見えたSPDの画面には"音声のみ"と表示されていた、名前まではハクの手で見えなかったが、あの反応からすると結構大事な相手みたいだが……


「カイ、お前ハクと付き合い始めたのか?」


「はあぁ??!俺とハクが!?そ、そんな訳ないじゃないか!まだ知り合って長くないし、まだ告白する時期じゃない……って、何を言わせてんだ!?リュウイチ!?」


ふむ、カイのあの反応を見る限り、交際までには至っていないようだが、告白予定はあるらしいな。


「じゃあ、ハクに彼氏とかいるのか?」


「か、彼氏……?いや、いない……と思うが、俺の思い込みかもしれないし、ハクみたいに可憐な人だったらいてもおかしくないと言うか……」


今度は先程とは違い、声がどんどん低くなり気持ちまで落ち込んでいっている……悪いことを言ってしまったな


「すまん、まあそう思い詰めるな。きっと大丈夫だ」


「な、何が大丈夫なんだよ……!別に俺は……」


はいはい


……恋人でもなさそうだな……まあ特に気にする必要は無いだろう。

きっと家族や大事な人からの連絡だったんだろうな……大事な人か、カイのやつ大丈夫かな?


お?


「ごめんなさい、お騒がせして……あれ、カイ君?どうしてそんな暗い顔してるの……?」


「なんでもない、ちょっとした杞憂ってやつだ……それより良いのか?大事な連絡じゃなかったのか?


「あ、うん。大丈夫だよ、ちょっとした習慣みたいなものだから!」


だとさ……僕はそう小さく呟きながらカイの方に視線を送ると、少し狼狽した様子を見せたのち咳払いした。フフ、これ以上遊ぶのは止めておいてやるか


さて、とりあえずあいつに情報が入ってないか訊いてみるか


「ユウ、僕だ。忙しいところすまないが、ここ最近紅の情報やミッションや一般連絡で変わった情報は無いか?」


『あら、リュウイチ。あの一件以来ね。ダイレクトコネクションって事は……それほど貴重ではないのかしら?』


「当然機密情報さ、だがここにいる奴らにも関係している事だから、今日はこうして直接連絡を入れさせて貰った」


みぃ姉や何人かは僕とユウの会話に驚いている様だが、今はそれを気にするよりも優先すべき事なので無視する事にした。


『そう、分かったわ。レナやマスターから報告を受けていたけど、本当に情報解放をしたのね……とにかく、あなたの質問の答えだけど、紅の首領であるゼンがビリブル出身であり、元ヘリトニス家の長男であり、ヘヴンのスポンサー会社の社長、アウラ・ヘリトニスだという事実が判明したわ』


ヘヴンのスポンサー会社の社長だと……なるほど。資金の出どころはそこか、それにあの話し方や統率力は社長故の実力だったという事か。


『紅として動いていた者たちの遺体と目撃情報を照合した結果と、紅がビリブル国へ訪れた時に、関係者しか知らない隠し通路を利用していた事、それらの情報を照らし合わせ調査したところ、今回の事実に至ったんだけど……どう?少しは役に立てたかしら?』


「ああ、だいぶ合点がいった。流石の調査力と知力だな、助かる」


『わあ、素直!やっぱり相当丸くなったわね!昔とは大違い☆』


ふ、ふん……一言多いやつだ!


『フフ、失礼……それと、これも真面目な話、リュウガ関係の情報はまだ入ってないけど……リュウイチ、実は少し気になる事があるの、先日ビリブル国でアキトが紅の一人と思われる人物と接触していたようなの……これは私の一存でまだ非公式情報なんだけど……』


兄貴が……?

確かに、兄貴が紅に興味を示すのは何となく分かるが、なぜビリブルまで行ってまで奴らと接触したんだ?マスターの命令……ではなさそうだが


「兄さん……」


僕が考え込んでいると、ユマリが声をかけてきた。

そうだな、とりあえず……


「ユウ、その情報はマザーであるお前とレナと、マスター以外には報告を控えてくれ。それと、兄貴の事でまた進展があったら僕のSPDに直接報告してくれ」


『了解したわ、拡散は控えてもらうよう二人には伝えておく』


助かる。僕はユウにそう返事をして、デスクにあるモニターで兄貴の動向やミッション履歴……帰還時刻……等などを検索にかけ、ユウに視線を戻す


「ユウ、わざわざありがとう。あとは僕の方で調査してみる、またな」


『どういたしまして!またね☆』


ユウが明るい笑顔で返答したのち、通信を切った。

僕は引き続き検索をして兄貴の事を調査する。


「リュウイチ、まさかアキトまで紅に……?」


「この前会ったときはそんな様子は見せてなかったが……あいつなりに思う事があるのかもしれないな」


「も、もしアキ兄が紅に属したらどうするんだ、リュウ兄……!?」


兄貴が紅に入ったらか……それは決まっている


「拘束し、事によっては粛正対象に認定されるだろうな」


僕が淡々とそう述べると、周りがかなり困惑したようで、暗い空気が立ち込めた。


「アキト様……って、カイ君と待機してる時やリュウイチ君達が帰国した時にお会いした人だよね?あの人が敵にまわるとは思えない雰囲気だったけど……」


一応兄貴は人望が厚いからな、気さくだし実力もあり、それに対する責任もしっかりしてるやつだ……でもナルミ家の中では、ユキタカたちより僕と兄貴の方がかなり考え方が似ている。

故に、紅に入らないとは言いきれない……。


「アキ兄が紅に入っちまったら、俺もアキ兄と戦わなきゃいけないんだよな……」


「ユキタカ君……信じよう?一緒に」


良いサポーターを持ったな、ユキタカ


……ん?

僕はディスプレイに表示された情報に目を向けた。

拘置所面会リスト……ユキタカ・ナルミ、トモカ・ニシミヤ……ほぼ毎日のように出入りしている。

ちょっとした興味では済まない頻度だ、これについてどう説明するかな……?


「ユキタカ、それにトモカちゃん、最近やけに頻繁に拘置所へ通ってるみたいだな。何をそんなに話しているんだ?」


僕がそう尋ねると、ユキタカは明らかに顔色を変えた。トモカちゃんも顔を俯かせ視線を合わせようとしない……


「い、いや……何か手がかりになる情報はないかと思ってさ……ダイの奴、口が固いだろ?だから何度も訊いたらその内、何か話すようになるかと思って……」


「あのっ!決して不正等はおかしていません!紅についての詳細を聞き出そうとしているだけで……」


……トモカちゃんは先程とは打って変わって真っ直ぐ

な瞳で僕を見ている。確かに嘘偽りではないみたいだが、何かものを思わせるような雰囲気を出している。


「そうだろうな、だがこれ以上紅には深入りするな。お前たちの為にならない」


「っ!俺らだって当事者だぞ!それなのにどうして!」


「お前はアイツらの影響を受け過ぎている、今のお前じゃまともに紅とは戦えない。そうだろう?ユキタカ」


「……っ!それは……」


ユキタカは言葉を失い俯いた……やはりそこまで来ていたか、トモカちゃんとの会話で辛うじて保っている様だが……今の兄貴の行動を知って、傾倒していってる感じだな。


決断を誤るんじゃないぞ、ユキタカ



「……まあ、ユキタカは一人じゃないんだし、何かあれば僕やトモカちゃん達もいる。色んな選択肢を聞いて、前みたいに自分で決めろ……後悔だけはするんじゃないぞ」


「ああ……サンキュ、リュウ兄……トモカも、本当に助かってるよ」


「ユキタカ君、リュウイチお兄さんの言う通りだよ、アキトお兄さんの事だってきっと何か理由があっての行動のはず!アキトお兄さんが紅と結託してるとは言いきれないし……だからユキタカ君も……!」


……トモカちゃんの必死の気持ちを垣間見て、ユキタカも少し落ち着いたのだろう。トモカちゃんの手を握り、優しい笑顔で頷いた。

そして視線を僕に向け、決意した様な表情をして真っ直ぐ僕を見つめるユキタカ。


「良い恋人を持ったな、ユキタカ」


「ああ、自慢の彼女だ!」


その人を守るために、お前はどう行動する?お前の守るべきものはトモカだけか?お前は何を求める?


……お前はどの道を行く?


「トモカちゃん、成長したねぇ!と言うか元から強い子だったから尚更かなぁ?♪」


「わ、私はただユキタカ君の支えになろうと……」


「フフ、二人で頑張ってね、トモカちゃんっ!」


このいつもと変わらぬ日常を僕はいつまで見ている事ができるだろう……ユキタカ、僕はお前と戦うなんてごめんだからな。


「兄さん、私たちも頑張りましょう……とりあえず週に六日は外出デートかお家デートしましょう」


「そういう努力はしないっ!しかもちゃっかり既に恋人同士になってる事を前提で言ってるし……」


ダメ?と、訊いて来たユマリに僕はダメ、と即答した。


次回掲載日

9月12日の18時

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