還らぬ存在編
ーー翌日、ネスト支部・ヘリポートーー
「本当にイクシラーを使わなくて良いのか?なんならそのままくれてやっても構わんのだが」
「あの手の操縦の経験はあるが、遠慮しておく。それにお前もそれで帰った方が良いだろう、時空間魔法で次元が繋がっている以上、またモンスターやリュウガの手先が出現する可能性があるからな」
フュームは視線を逸らし少し考え、再び僕へと視線が戻る。
「分かった……何かあれば連絡してこい、イクシラーでいつでも飛んで行ってやる」
「心強いな、その時は宜しく頼む」
フュームが手を差し伸べ、僕はそれ掴み握手をした。同じく近くにいたリョウマが、僕の方を見る。
「リュウイチ、改めてあの子たちの事は頼んだぞ。お前の過去に何があろうと、あの子たちはお前を嫌ったりなんかしねぇ、俺が保証する」
「……そうだと良いんだがな、まあお前が保証すると言うなら、気持ちが少しは楽になる……お前も気をつけろよ、リョウマ」
今度は僕から手を差し伸べ、リョウマとも握手を交わす。
「リュウイチ様、そろそろ出発しますよ!」
僕、リョウマ、フューム、僕たち三人は交互に見渡し、頷いた後僕はヘリに向かって歩きだし、それと入れ違いに、ミツキとサツキがリョウマの元へ行き、何やら会話をしはじめた……僕はそれを一瞥しヘリ内部へ乗り、席につく。
ミツキたちは直ぐに会話を終え、こちらへ走り出し、乗り込んだ。
……
ーー前夜、ネスト・宿屋内部ーー
「じゃあ、やはりリュウガが蘇っているのは確実で、しかもリュウガの能力でイレギュラー達がパワーアップしている、そしてそれを相殺できるのは、同じナルミ家の因子を受け継いでいるリュウイチ隊長だけという事ですね……そして戦闘が激化する恐れがある……と」
「ミナト達のポテンシャルが高いのは事実だが、天地聖創が宿ってる兆候等はなかった。だから恐らく現存するナルミ家の中で天地聖創を宿しているのはリュウガだけだということだ。その双子である僕が受け継いでいるかは本当に分からないんだ……すまない」
マザーベースから戻ったあと、キラが僕の部屋に訪ねて来ていた。情報の再確認をしたいとの事だ。
「そんな、謝る必要なんて有りません!仮にリュウガやリュウイチ隊長の能力で僕たちの感情やらを改変しているとしても、僕はリュウイチ隊長には感謝しているくらいですから!」
なぜだ?
「僕はリュウイチ隊長の事を尊敬していますから!隊員としても人としても、リュウイチ隊長から教わった事は僕の経験となり力になっている……そしてその力で何人もの人達を、大切なものたちを守れているのは事実ですから!……きっと、いや絶対みんなも同じ気持ちの筈ですよ、じゃなければ直ぐにみんなリュウイチ隊長から離れている筈……だから、リュウイチ隊長、改めてありがとうございます!あなたから教わった事や同じ時を過ごした日々は僕の経験であり宝物です!」
……真っ直ぐ過ぎる真っ直ぐな瞳で僕を見据えるキラ……これが天地聖創の能力のせいじゃないという根拠は何も無いし、確認する事もできない……それでも僕を疎ましく思っていないどころか、尊敬していると言ってくれるその気持ちには素直に嬉しいし、どことなく安心感を感じさせる。
「……そうか、思い切って話した甲斐があった……感謝するぞ、キラ」
「いえいえ……これからも宜しくお願い致します、リュウイチ隊長!」
ーー現在、ネスト付近上空ーー
「ねぇ、兄さん、セントラルへ戻って帰宅したら夕飯作りに行っていいかしら?」
「なんでまた急に……」
そうしたい気分なの、と返答するユマリ。リュウガとナルミ家の能力の事を話したあとのせいか、僕は皆んなのどんな言葉にも敏感に反応してしまっていた。
「……なら僕が夕飯作るからその手伝いをしてもらおう、それで良いか?」
少しでも不自然に見られないよう、言葉を選びながら話している……僕がリジェネレーションしていた事はいずれは分かる事だと思っていたが、リュウガまで蘇っていた事で、僕の思考回路が大渋滞している。僕らしくもない……
「分かったわ……ついでに泊まっていってもーー」
「良いわけないだろ、食べ終わったらさっさと帰りなさい!」
残念、と言って薄い笑顔を作ってため息をついた。
……ため息をつきたいのは僕の方だ。
「いいなぁ、あたしも行きた〜い!」
「サツキ、リュウイチだって疲れてるんだから、あまり困らせたらダメよ」
「ぶ〜……ねえ、りゅうくん……あたしもりゅうくんの事、別に責めたりしてないし嫌いになんてなってないからね……ただ悔しいの……」
……?
「あたし、りゅうくんの事ならなんでも知ってるって自負してた。多少だけど、りゅうくんがどんな思いであたしたちと関わってたのかも分かってた……分かってたつもりだった……でも違ってたし、大切な事も理解してあげられてなかった……それが悔しい。大好きな人の事なのに……」
「私もサツキと同じ気持ち。とっても悔しい……だから……その……昨日言いそびれた事、聞かせてくれる?リュウイチ……お願い……」
「……セントラルに着いたら、僕の執務室に来い。その時皆んなに話す」
……分かった、とミツキは短く返答し、視線を逸らした。サツキも隣で僕の手を握りながら黙って頷いた、しかし顔を見てはおらず、俯いたままだ。
「……あ、そう言えば、ミナトさん達はリュウイチ隊長が再生した事をご存知なんですか?」
「あいつらは物心ついた時期辺りに僕から説明したから知ってる、リュウガの事も能力の事も全部な……ユキタカは説明した当初はお前たちみたいに困惑していたが、ミナトは聞いてすぐ受け入れてくれたよ"流石お兄ちゃんです"ってな。ユキタカもちゃんと受け入れたのか、自分たちにそんな力が無い事に喜んでたよ"バカでかい責任に押しつぶされずに済んで良かった"ってな」
それを聞いたミツキがクスクスと笑った
「ユキタカ君たちが言いそうな事ね、予想通りと言ったらあの二人に悪いかしら?」
「良いんじゃないか、本当にその通りだからな」
ミツキは僕と軽く鼻で笑いながら同調した。
……今考えると、やはり僕は周りの者達に恵まれてるんだなと思う。もし悪ければ、こんな話もせずにただ何事もなく平然とした日常に流されていただろう。
それも良いことなんだが……こういうのも悪くない
ーーセントラル・ホーリーヘヴン本部ーー
「やあ、おかえりみんな、全員無事みたいで何よりだ」
「またあなたはこんな所までお出向きになられて……」
この人には用心するという意思はないのだろうかと思うくらい、マスターは平然とヘリポートまでいらっしゃっていた。
「君がいれば安心さ……レナから連絡があったよ。色々と危険な事になってきたみたいだね……それにリュウイチ君の出生も知ったとの話みたいだけれど……」
マスターはそこまで言うと僕の周りにいるみぃ姉たちを見渡した。
「……うん、大丈夫みたいだね。みんなこれからもリュウイチ君の事を宜しく頼むよ」
「もっちろんです!あたしたちにお任せ下さい♪」
「リュウイチの出生がなんであろうと、私がリュウイチを嫌う理由にはなりません。彼の事は私たちが必ず守ります」
「兄さんを守るのは私の役目よ……でもミツキにも手伝ってもらおうかしら……とりあえずはね」
「リュウイチ様のガードとしても友人としても、リュウイチ様の事は僕たちにお任せ下さい、必ず善処致します」
「僕も及ばずながら、リュウイチ隊長のお力になる所存です!大切な人達を必ず守り抜きます!」
お前たち……
「リュウイチ君、よい仲間をもったね」
「……僕が見出した者達です、当然ですよ」
マスターはにっこりと微笑み、僕にそう言った。素直に認めるのが小恥ずかしいので、少しひねくれた言い回しをした。しかしそれは本心でないことを理解しているんだろうな、この方は……
「兄貴ぃ!!おかえりなさいませ!!」
キド?
「あん?なんでお前がここにいるんだ?」
「りゅういちお兄ちゃーん!!おかえりぃ!!♪」
なっ!?
キドに気を取られてる間に後ろから聞き覚えのある声の人物が僕の背中に抱きついてきた
「アカリちゃん!?お前までなんで?と言うか放せ!そして離れろ!」
「やーだもん!」
「こいつ……それで?なんでこんな所にお前たちがいるんだ?」
僕は背中にくっついているくっつき虫を放置したままキドに問いかけた。
「はい、今日はヘヴンの入隊試験だったんすよ!そんで、カイさん達に今日兄貴達がセントラルに戻ってくるって聞いて、自分はミッションで迎えに行けないからって、そんで俺たちに……いやぁ、ご無事にお帰りになるなんて流石兄貴っすね!」
なるほど……にしても本当に暑苦しいやつだな……という事は、アカリちゃんもか
「私も!いっぱい勉強したり訓練したりして頑張ったんだよ!ほめてほめてぇ!!♪」
カイのやつ、自分が来れないから代わりにこいつらを寄越すなんて、後で仕置きが必要だな。
「はいはいよく頑張ったよ。二人とも試験お疲れさん、結果がどうあれ鍛錬は欠かすんじゃないぞ」
「了解っす!」
「了解でーす!♪」
ほお……敬礼がなかなか様になってるじゃないか、もしもこいつらが合格して入隊できたら、まあまあ期待できそうだな。
「アッカリ〜お疲れぇ!♪ 試験合格できたらヨロシクねぇ♪」
「ううっ!サツキ先輩!!ありがとうございますぅ!!今後とも宜しくお願いしますー!!♪」
アカリちゃんとサツキは涙を流しながら頬ずりしあっている……あいつらハンカチ持ってるんだろうな?
「ねえ、リュウイチ。良い機会だしアカリたちにも例の事話した方が良いんじゃない?機密情報だけど……この先リュウガの因子を持ったモンスターやイレギュラーと交戦する事もあるかもしれないし……」
僕の耳もとでそう囁くミツキ、確かに今後の事を考えるとこいつらにも事情を話しておいた方がいいかもしれない……しかし機密情報をまだ入隊もしていない二人に教えてもいいものだろうか……
「リュウイチ君、それは私が許可しよう。機密にしてきたが、モンスターやイレギュラー達の勢力が激化してきてる。もはや明かす他あるまい……それに聞いたかもしれないけれど、カイ君達がミソラやモンスターと戦闘したときも尋常ではない強さだった、一等粛正官が16人も死亡してしまったんだ」
一等粛正官がそこまで……ミソラ自体の潜在能力が高い上にリュウガの因子で上乗せされた力と統制のとれたモンスター……確かに話しておいた方がよさそうだな。
「おい、アカリちゃん……と、ついでにキドもこっちにこい」
「あ、兄貴……そんな"ついでに"だなんてひどいっすよ」
「はーい!なになに?」
早歩きでこっちに向かってくる二人を見て、本当にこいつらにも話すべきか悩んでしまう。こいつらにとってかなりな重荷になってしまうかもしれないからだ。
……
「……お前たち、この後僕の執務室に来い、話がある」
二人はポカーンとした表情をして僕を見るとやがて表情が変わっていった
「りゅういちお兄ちゃんが自分から誘ってくれるなんて珍しいね、超レア!うん、行くいく!♪」
「うぉぉぉぉ!兄貴からのお誘いなんて俺感激っす、ぜひ行かせてくだせぇ!マジ行きてぇっす!!」
むぅ……致し方ないとはいえ、こういう奴らを僕から誘うなんて……なんだか屈辱的だ……
「どうしたのぉ?りゅういちお兄ちゃん?」
「いやなんでもない……とにかく暇なら来い」
「はーい!♪」
「了解っす!」
はぁ……なんでこの僕がこんな事を言わねばならんのだ……
「カイ君やハク君も先程ミッションを終えたと連絡があった時期に戻るはずだ、それと、トモカ君も呼んで二人にも話しておいたらどうだい?」
「……了解、トモカちゃんとハクにも声をかけておきます」
「ふふ、宜しく頼むよ」
爽やかに笑うマスター
「……とりあえず、予定通り僕の執務室に行こう。話はそれからだ」
その後ミッションを終えたカイ達と合流し、僕たちは執務室へと向かった。
「……再生……天地聖創……りゅういちお兄ちゃんの双子の兄リュウガ……そしてリュウガ因子……そのせいでモンスターやイレギュラー達が強くなってる……普通ならまったく信じられないけど、りゅういちお兄ちゃんがこんな真剣に話してるんだもん、全部本当なんだね……」
「兄貴の兄が大いなる災厄、そして兄貴が紅の悪魔……そんでその災厄がどういう訳か蘇ってイレギュラーたちを強化し、黒幕として活動している……そんな能力持ってる野郎とどう戦えってんだ……!」
「リュウイチ君にはその能力が無いの?」
ハクが質問して来たので僕は、ああ、と答えた。
アカリちゃんもキドも信じてはいるようだが、強大な力を相手にする事にかなり動揺している。
「リュウイチ、じゃあやっぱりあの時俺やユキタカ達が戦った時のミソラは、リュウガの力が関与していたからか?」
「おそらくそうだろうな、いくら元特務執政官であろうと、お前達精鋭部隊を相手にして無傷でいられるはずがない……僕ほどの実力がなければ、な」
カイの表情は非常に暗い、いつもの爽やかさを一切感じさせない程だ
……それもそうか、こいつも……
「あの、ユキタカ君やリュウイチお兄さん達もナルミ家の血縁ですが、そのリュウガ因子に目覚めると言うか……その天地聖創の力を会得するできたりするんですか?」
「会得しようとして会得することは出来ない、能力は生まれつきのものだ。ユキタカも兄貴もミナトもナルミ家特有に潜在能力は高いが、リュウガ程の力は無い」
そうですか……と言って、トモカちゃんは安心したような感じで胸をなで下ろした。リュウガのような強大な力でユキタカが大きな責任を背負わずに済んだ事に安心したのだろう。
……と、その時室外に気配を感じた。この感じは……あいつか……
「よう!リュウイチ!リュウガの事とかを皆に話してるんだってな!なのに俺を呼ばないなんて、ひでぇじゃねぇか!」
やかましいやつが来た……
「兄貴はもうとっくにご存知だろ?僕が復活する前に知らされたんだし、今更改めて話す必要あるか?」
「ある!お前らよりリュウガの事を知ってるからな!」
そう言うと、兄貴は胸を張って威張るように鼻を高くした。
はいはい……
「ならリュウガはいつ蘇ったんだ?」
「お前に殺されてすぐさ、正確には死んでなかったと言うべきだな」
……なに?
「そんな!じゃあ千年以上も前からあいつは生きていたって事ですか!?」
「そういう事だ、俺も聞いただけなんだが、リュウガはリュウイチとほぼ対消滅する形で一旦は活動を停止した……しかし、リュウイチが一命を取り留めたように奴も一命を取り留めた……そして今まで休息に入り、力を蓄えたリュウガは今になって行動を再開したって事さ」
……ふざけるな、ならあいつは一体なんの為に命を落としたんだ!?
「……リュウイチ、そう怖い顔をするな。あいつの活動を停止させただけ良かったと思え」
兄貴の言葉を聞いて、僕は周りを見渡すと全員が僕の方に視線を向けていた。
「別に怒ってる訳ではない、ただ気に入らない事があった……それだけだ」
誤魔化すには少し苦しい言い方だったかな?
「リュウイチ、お前があの時死にものぐるいで戦っていなければ、今のこの世界は無かっただろう。ある意味ではお前はこの世界を保つことができたんだ……無意味な犠牲なんてなかったんだよ。お前たちにとってはな」
……皆んなの命で保たれた世界……この世界の理を保つことで僕たちはこうして生きて出会えて暮らしている……共に過ごしたかった人たちがいたのに、なんでそいつらじゃなくアイツが生きてるんだ!!
「……リュウイチ、こんな時で悪いと思うけど……どうしてあなたが暴走して、擬似バーサーカーになったのか、教えてくれる?」
ミツキは僕に歩み寄ってくると、申し訳なさそうな顔をしながら手を僕の肩に置き問いかけて来た……いや、ほとんど触れてるだけに近い感覚だ。
「……あの時、僕はリュウガと戦っていたが、手も足も出せずにいた。リュウガは"お前はもう必要のない存在だ"と僕に言ってとどめをさそうとした時、僕を守ろうと、リュウガの気を引くため時間稼ぎしてくれた人たちが現れた……一人はマスターの奥方様であるベルクレア様……そしてもう一人は……ヒメカ……僕が唯一……愛した女だ」




