史郎と霧島母娘㉙
「……なるほど、今は史郎達の面倒を見ながら教習所に通ってるのね?」
「どちらかと言えば面倒を見てもらっているのは私の方です……本当に金銭面を始め色んな所で史郎には助けられてて……だからこそ早く免許を取って家事をしながらできる仕事を探そうかと……」
亜紀と母親が用意してくれた朝食を食べ終えた後、俺達は食後のお茶を啜りながら世間話というか近況報告をしていた。
特にうちの両親は亜紀が何をしているのかが気になったようだけれど、目を逸らすことなく真剣に話す亜紀の様子に納得したように頷いている。
「いやいや、むしろ助けられてるのは俺の方だって……本当に家事の一切を引き受けてくれるおかげで凄く楽になってるし仕事も捗ってるぐらいで……それこそ亮んとこみたいに家事手伝いとして給料払ってもいいぐらいだし……」
働くことに意欲を見せる亜紀だけれど、正直なところ俺としては亜紀には家に居てほしい。
家事をこなしてくれることがありがたいのもそうだが、それ以上にいつ帰ってきても亜紀と直美が出迎えてくれる……そんな状況に幸せを感じているからだ。
だからこそこんなことを言ってしまうのだが、亜紀は慌てた様子でフルフルと首を横に振って見せる。
「そ、そんなの駄目だって史郎……こんなの私が好きでやってることだし今までに受けた恩を思えばこんなの全然足りないし……だからちゃんと働きに出てせめて自分たちの生活費ぐらいは……」
「だいじょーぶぃっ!! 直美がそつぎょーした暁にはプロゲーマー実況者としてバンバン稼いじゃうんだからぁっ!! それにおかーさんはネット販売で衣装とか作って売ってるじゃんっ!! あれをしょくぎょーにすればいーんだよっ!!」
申し訳なさそうに呟いた亜紀だが、そこで直美が自慢げに口を挟んでくる。
「な、何言ってるの直美っ!? あんなのそんな大したことじゃ……っ」
「おや? そうなのかい?」
「へぇ……衣装を……」
「あ、あう……い、嫌本当に大したことじゃなくて……う、売れたって言ってもまだ数点だけだし……こ、こんな感じで……」
それを聞いて驚いた様子を見せる俺の両親に対して亜紀は恥ずかしそうにしながら、携帯を取り出して見せた。
(そう言えば前にそんなこと言ってたっけ……どれどれ……?)
俺もまた話には聞いていたけれど実際に売れたところは見ていなかったので、両親と共に画面を覗き込んでみた。
するとネット販売用のアプリが起動していて、亜紀のニックネームと共に幾つかの衣装の写真が売り切れという文字と共に表示されていた。
「あらっ!? これを作ったのっ!? 凄いじゃないっ!?」
「おおっ!! それに結構な値段で売れてるし、うん大したもんだ」
「……す、凄いじゃないか亜紀っ!! 直美ちゃんの言う通りこれで食っていけるんじゃないかっ!?」
「お、大げさだよ……材料費と送料を考えたらそこまで儲かってるわけじゃないし……そ、それにたまたま売れただけだろうから……」
「そんな事無いってばぁ~、直美だって見たら欲しくなっちゃうもん……おかーさんさいのーあるんだってばぁ~」
謙遜する亜紀だが出品した商品は全て売り切れになっているのだから、直美の言う通り才能があるのだろう。
(これなら家に居ながらお金が稼げるな……どうしても働きたいならこれを本業にしてもらいたいところだけど……)
「はいはいわかったからもうこの話はお終いっ!! そ、そんな事より直美はどうなのっ!? プロゲーマーとか言ってるけど大学に行く気はないの?」
「そう言えばその辺はどうなんだい直美? まだ昔みたいに高校卒業したら進学しないで就職する気なのかい?」
「むぅ、露骨に話逸らしてぇ……別に直美のことは心配しなくていーのぉ……自分で考えられるんだからぁ……」
しかし亜紀はやはり恥ずかしいのか話をそらしてしまい、自然と話の流れは直美の進路になっていくのだった。
「だけど直美ちゃん俺も気になるよ……その辺のことどう考えてるの? もし進学費用とか気にしてるようなら……」
「にゃぁぁ……し、史郎おじさんまでぇ……うぅ……い、いちおー美瑠とか陽花が……お友達が進学するみたいだから同じ大学に行けたら行こうかなぁとかは思ってるけど……お、お金よりせぇせきが……その……えへへ……」
「な、直美ちゃぁん……だから真面目に勉強しようねって言ってるのにぃ……」
「直美ったらぁ……やっぱり遊びすぎよ……あんな良いお友達に愛想つかされても知らないわよぉ……」
「あらあら……お金の方は私達が出してもいいけどお勉強の方はねぇ……」
「うぅぅ……こ、この話は終わりにして今度は史郎おじさんの今後を……にゃぁぁ……」
身内の法事関係で色々と時間を取られてます。
申しわけありませんが、次の投稿は月曜日か火曜日になります。




