史郎と霧島母娘⑫
「はぁ~、楽しかったぁっ!! じゃあ次はぁ~……」
「残念だけどそろそろお開きにしないと……ほら、時計見て?」
しばらく遊んでいた俺達だが、まだまだ遊び足りないとばかりに次のゲームに手を伸ばした直美を亜紀が制した。
果たして言われるままに時計を見てみると、もうすぐ日付が変わろうかという時刻だった。
どうやら文字通り時を忘れて三人で遊ぶことに熱中してしまっていたようだ。
「えぇ~、もう少しだけいいじゃぁん……」
「ダメよ直美、また今日みたいに朝起きれなくなっちゃうでしょ……それに史郎だって明日も仕事があるんだからあんまり夜更かしさせたらまずいわよ」
「ああ、そうだなぁ……直美ちゃん、名残惜しいけどまた明日遊ぼうね……」
「そ、そんなぁ……」
俺達の言葉を聞いて直美は未練がましい声を漏らす。
しかし正直なところで言えば、俺もまだ帰りたくないと思っている。
(もっと二人と遊びたい……というか一緒に居たい……けど確かにこれ以上遅くまで遊んでたら体力的に明日の仕事に支障をきたす可能性が……それに直美ちゃんに夜更かしさせるわけにもいかないもんなぁ……)
それでも理性的にそう判断した俺は名残惜しくなる前に腰を上げて、二人に向き直った。
「今日も色々ありがとう、食事は美味しかったし一緒に遊べて楽しかったよ」
「ふふ、こっちこそ顔を見せてくれてありがとう……凄く嬉しかった……」
「むぅぅ……ほんとぉに帰っちゃうのぉ?」
俺の言葉に笑顔で返事をする亜紀だが、どこかその口調は寂しそうに感じた。
それに対して直美は、こちらは露骨に寂しそうな顔でぼそりと呟いてくる。
(うぅ……お、俺だって本当はこのまま残りたいよぉ……泊って行きたいけど、そうしたらそのままズルズルとまた一緒に暮らしたくなってしまう……)
二人が自立できるようになるため、そして母娘として水入らずで生活するためにわざわざ別れて暮らしているのにそれではまったく意味がなくなってしまう。
それどころか下手にここで一緒に暮らそうものなら……俺の方が二人と離れたくないばかりに自立させまいと、自分に依存するように行動するようになりかねない。
だからこそ何とかその甘い誘惑を振り切り、優しく微笑みながら直美の頭を子供の頃のように撫でてあげた。
「……また明日も来るからさ、ちょっとだけ我慢しようね?」
「……はぁぁい……約束だかんね?」
「うん、絶対に来てね……私達待ってるから……」
「ああ、必ず会いに来るからさ……」
俺の言葉を聞いて神妙に呟く直美と亜紀に頷き返し、改めて俺は自宅に帰るべく移動を始めた。
するとすぐにその後ろを二人が付いて歩いてきた……かと思うと、玄関に差し掛かった時点で足を止めて俺を見送ろうとしてくれる。
冷静に考えればすぐ隣の家に行くだけで、しかも部屋の窓が開けっぱなしだからすぐにでもまた顔を合わせることになるはずだ。
それでもこの別れがここまで大げさに感じられるのは、それだけ俺達の仲が深いということなのだろう。
「じゃあ、また明日」
「うん……脱衣所にある衣服は洗っておくからね」
「またね史郎おじさん……ちゃんと帰ったら帰ったってお部屋の窓から顔を出してほぉこくしてよ?」
「わかってるってば……じゃあ、また……」
俺を見つめる女性二人に後ろ髪惹かれる想いで背を向けて、俺はゆっくりと玄関を出て隣の家……自宅へと向かった。
「……ただいま」
家に入りそう呟くが、当たり前だが返事が聞こえてくることはなかった。
(ずっとこの家で……産まれた時から今日まで過ごしてきたはずなのに……何で違和感を覚えるんだろうなぁ……)
何故かあの二人が出迎えてくれる霧島家の方が自分の家のように感じてしまう自分がいた。
それは多分、あの二人を本当の家族だと思っているから……俺にとって帰るべき場所はあの二人の居るところだと心がそう判断してしまっているからなのだろう。
(早くあの二人の顔を見たいな……うん、さっさと部屋に戻ろうっ!!)
先ほどまでの騒がしさと一転して静まり返ってる自宅の空気に耐えかねて、俺は急いで直美達と顔を合わせられる自室へと急ぐのだった。




