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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん70

「にゃははっ!! どぉしたの史郎おじさぁ~ん、早く切らなきゃぁ~」

「うぐぐ……っ」


 手元にある牌と場に捨てられている物を見比べながら、俺は何を切るか必死に悩んでいた。


(俺の手牌は①②③ⅠⅡⅢ一二三東東東そして西と北……一体どっちを切るべきか……)


 西はドラ表示牌と捨て牌に一つずつ出ており、それに対して北はまだ一つも見えていない。

 もちろん効率的にも安全策としても北を取っておくのが一番だろうけれど、問題はこれを抱えていたところで相手が出してくれるとは限らないという点だ。


(くぅぅ……ここで上がらないと間違いなく俺の負けなんだ……だけど対面の直美ちゃんが……)


 ニヤニヤと笑いながら点数が一番低い俺を見つめている直美だが、その捨てた牌には早い段階から④やⅥといった本来なら切られないはずの真ん中の数字が並んでいる。

 おまけに最後の捨て牌はリーチの証拠とばかりに横向きになっているのだ。


(間違いなく俺の持っているような端っこだったり字牌で待っているよなぁ……そして直美ちゃんのことだから点数を高くするためにドラを抱え込んでいる可能性が高い……だから西を切りたいところだけど……)


 もう一度、俺は全員の捨て牌を見て回り……未だに一九字牌の中で四枚とも見えている種類が無いことを確認する。


(絶対に怪しい……一九字牌を一つずつ集めた国士無双があり得る……ああ、もっと早く気づいて警戒していればぁ……)


 尤もこのタイミングで北を積もってしまった己の運の悪さばかりはどうにもならない。


『おじさんさぁ~ん早く早くぅ~、陽花待ちきれないよぉ~』

『制限時間も刻々と迫っているはずだ……悪あがきしていないで早く切り給えおじ様……』

「にひひ、陽花と美瑠もこぉ言ってることだし~早く切った切ったぁ~」

「こ、こうなれば……ど、どうだっ!!」


 結局凡夫な俺は西を選び、捨て牌置き場に叩きつけた。


(国士無双も怖いけど、そればっかりを警戒するわけにもいかない……違う手だった場合、ドラの北で上がられたら余計に点数を取られてしまう……それに一枚も見えてない牌よりはこっちの方が当たる確率も低いはずだか……っ!?)


「にゃっはは~っ!! おもったとぉりぃっ!! 史郎君のイーピン……じゃなくてそれロォンっ!! ロンロンロンロォオオンっ!! 国士無双ぉ~っ!!」

『いずれ出ると思っていたがまさかおじ様からとはな……あえて言おう、ご無礼、大三元』

『うわぁ……二人ともえげつなぁい……陽花降りててよかったぁ~』

「がはぁっ!?」


 しかしどうやら裏目を引いたようで、まさかのダブル役満を受けて俺は撃沈してしまう。


(て、点数が一瞬でマイナス……箱割れしたぁ……こ、こんな事って……)

 

「まさか役満に振るなんてねぇ~、史郎おじさんも落ちたもんですなぁ~」

「うぅぅ……そ、そんなこと言われてもぉ……」

『最下位だったのだから仕方ないのだろうが、余りにも短絡的な一手だったな……一発逆転の手でも来ていたのかい?』

『おじさんさんかわいそぉ~……だけどおかげで陽花はびりを免れちゃったもんねぇ~』

「はぁぁ……完敗だぁ……」


 ヘッドホン越しに聞こえる直美のお友達たちの楽しそうな声に俺は負けを宣言しつつも、内心では感謝していた。


(わざわざ向こうから遊びに誘ってくれるなんてなぁ……直美ちゃんが自分一人で登下校するようになったから色々と気になってたんだろうなぁ……)


 食事が終わりお風呂にでも入ろうかと思ったタイミングでこの二人は直美に連絡してきて、退屈だから少しでも俺を含めた四人で何かゲームをしようと呼び掛けてきたのだ。

 そしてネットを介しての通話をさりげなく求めて来て、実際に対応した俺達に少しだけ心配そうな声で語りかけてきた。

 しかし直美がご機嫌な声で対応するのを聞いてようやく安心したのか、それからはこんな感じで二人とも純粋に直美との遊びに興じていて……何やら俺一人を狙い撃ちにしてきているような気さえするぐらいだった。


(まあここの所の直美ちゃんが調子いいのはわかってたと思うけど、空元気じゃないかどうか心配だったんだろうな……だから家にいる時に俺を交えて会話しようと思ったみたいだけど……)


 直美だけではまた虚勢を張りかねないからこそ、保護者の俺も交えることで嘘偽りない直美の実情を知ろうと思ったようだ。

 そんな俺もまた直美と同じで落ち着いた声を出せていただろうから、恐らくそれで二人は直美が本当に調子が良くなっていると理解してくれたのだろう。

 そこまで直美のことを気遣ってくれている友人二人に、俺は心の底からの感謝してしまう。


(でもまあ、まさかちょうど四人だからって麻雀をやる羽目になるとは思わなかったけど……しかもボコボコだし……うぅ……)


 尤もゲームの勝敗などそこまで本気で気にしているわけではない……ともいいきれないが、ともかく直美のお友達二人も笑えているようで何よりだった。


(ただ……出来れば学校での直美ちゃんの様子も聞きたいんだけどなぁ……二人の様子からして問題はなさそうだけど……)


 直美を取り巻く状況をもっと細かく知りたいと思ってしまうのは俺が直美の保護者としての想いからか、或いは別のもっと個人的な理由からなのか……。

 どちらにしても隣に直美がいる状況で聞ける話ではなかった。


(何か上手い事、直美が離席する状況になればなぁ……トイレとか行ってくれないかな?)


「にひひ~、じゃあ次は何をして史郎おじさんを倒し……」

「ちょっとゴメン、邪魔するね……お風呂出たんだけど次は誰が入る?」


 そこへまるで狙いすましたようにドアがノックされて、先にお風呂へ入っていた亜紀が顔を覗かせてきた。

 俺達がゲームを始めてしまったから温くなる前にと入って貰っていたのだが、このタイミングで出てきてくれるとは有り難い限りだった。


「次は直美ちゃんだね、入っておいで」

「えぇ~、まだ直美遊び足りないんだけどぉ~……史郎おじさん先に入っちゃっていいよぉ」

「ダメダメ、前にそう言って遊び続けて結局そのまま眠っちゃったことがあったでしょ? だから先に入っちゃってから遊びなさいって……それに元々少しだけって約束だっただろ?」

『そうだねぇ、考えてみたら陽花もそろそろお兄ちゃんとお風呂入らないと……』

『ふむ、確かにな……そろそろ兄さんがお風呂を沸かしてくれているころだな……』


 俺の言葉を聞いて通話の向こうにいる二人もまたいったん解散しようという雰囲気を醸し出してくる。

 それを聞いて流石の直美も渋々と言わんばかりの態度で画面の前から腰を持ち上げ始めた。


「むぅぅ……ちょっと名残惜しいけど、二人の大切な時間を邪魔しちゃ悪いもんねぇ……仕方ない、この続きはまた今度とゆーことで直美はお風呂に……史郎おじさんと一緒に入……」

「……りません、ほら早く行って……俺が入る時お風呂が冷めてたら嫌だからね?」

「ちぇ、史郎おじさんたら冷たいんだからぁ……こぉなったらそのうち史郎おじさんが入っているところに後から押し入って……」


 ブツブツと物騒なことを呟きながら部屋を出て行く直美を見送ったところで、俺は通話を切られないうちに二人へと話しかけていた。


「ごめん、ちょっとだけいいかな?」

『ふふ、わかっているとも……学校での直美の様子を聞きたいのだろう?』

『ちゃぁんと話してあげるから……だから代わりに、そっちでのなおみちゃんのよーすも聞かせてね?』


 しかし向こうもまた俺の思惑を呼んでいたのか、念のために声を潜めながらそう呟いてきた。


「あれ? 史郎はまだゲーム続けるの?」

「いや、ちょっと直美ちゃんのお友達に学校でのことを聞こうと思って……そうだ、亜紀も会話に参加するか?」


 亜紀に話しかけられて俺は一旦ヘッドセットを外して返事をしようとしたが、そこでふと思いつきそんな提案をしてみた。


「えっ!? そ、そんな……駄目よそんな……私なんかがあの子のお友達とお話する資格なんか……」

「だけど気になるだろ?」

「そ、そりゃあ学校でのあの子が何をしてるのか……どんなお友達がいるのか気になるけど……でも……」


 俺の提案に亜紀は困ったような顔をして俯いてしまった。

 恐らくは言葉通り、自分なんかが直美のことに深入りしてはいけないと思い込んでいるのだろう。

 それでも直美が学校でどう過ごしているのか……自分のせいで苦しい思いをしていないか気になっているようで複雑そうな声を洩らしている。


 だから俺はあえてヘッドセットを付け直して、直美のお友達二人の方へと語りかけた。


「こっちの話ももちろんするけど、この会話に亜紀も……直美の母親も加えてもいいかな?」

『……こちらは構わないとも……いや、むしろ望むところだが……』

『……いっとくけど、おじさんさんがなんていおーと陽花達が駄目だって判断したら実力こーししてでも排除するからね?』

「ああ、それで構わないよ……亜紀、向こうの二人もお前も含めて会話したいってさ……直美ちゃんのことを本気で想ってくれてる人達だから……」

「……わ、わかったよ……うん、じゃあ私も……」


 それを聞いてようやく亜紀も覚悟を決めたのか、恐る恐るといった手付きで直美の外したヘッドセットへと手を伸ばすのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大三元に、西で上がり。字一色はつけなかったか… 友達二人と亜紀は初対面ですね。どんな話になるのか…
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