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史郎と亮とオタク少女な直美ちゃん㊼

「ぶぅ……どぉしてお年頃の女の子である直美お勧めのワンポイントアクセントをさいよーしないのぉっ!!」

「あのねぇ、直美ちゃん……眼帯&モノクルとか格好いいとか以前に身体を気遣われちゃうでしょうが……」


 結局殆ど霧島の意見を聞いてばかりの亮に対して、直美は不満そうに頬を膨らませて見せていた。

 尤もお洒落に興味の無かった直美の出す意見は、基本的にゲームやアニメのキャラから想定したコスプレもどきな恰好なのだから当然の結果だと言える。


「うぅん……流石にあれはねぇ……親しくなってお互いの趣味を受け入れ合った後ならまだわかるけど……」

「あ、あはは……ま、まあもし次があったらその時は直美ちゃんの意見を参考にさせてもらうよ……」


 だから普段は直美の意見を最重視している霧島ですら困ったように俺の意見へ賛同するように呟き、亮もまた直美の機嫌を損ねないような口ぶりでやんわりと断りを入れていた。


(おいおい、そんな甘いこと言ってると直美ちゃんは本気で次の時にそう言う格好させようとするぞぉ……まあ次が無いって思い込んでるからこその台詞なんだろうけど……)


「ふん、だ……せっかくそーだんに乗ってあげたのにぃ……そりゃあ直美はお洒落とか気にしてなかったけどさぁ……まさか……に負けるなんてぇ……」

「勝ち負けとかじゃないからねコレ……」

「そ、そうなんだ……なお……貴方はお洒落とか興味ないの?」


 不貞腐れた様子で呟いている直美に突っ込みを入れようとしたが、そこで霧島が恐る恐るながらも口を挟んできた。

 その目は直美を真剣に、それでいてどこか観察するように全身を見回しているようであった。


(そう言えば霧島は直美の事全然知らないもんな……どう育ってきてどんな趣味を持っていて……どうやって日々を過ごしてきたかも……)


 今更ながらに母親としての自覚を持ち始めた霧島は、遅れながらもようやく娘に対して興味を抱き始めているのだろう。

 そんな霧島の言葉を受けても直美はつまらなそうな顔を崩すことなく机に突っ伏したまま視線すら向けようとせず……口を動かした。


「……別にぃ……およーふくとかにお金使うぐらいなら趣味にぼっとーしたほうがいいに決まってるし……どぉせ直美は史郎おじさんのお嫁さんになるんだから、どっかの誰かみたいに男に色目使う必要ないしぃ……」

「あぅ……そ、それは……その……ご、ごめんなさい……」


 直美の返事は霧島の過去を揶揄するような言葉であり、それを聞いて霧島は途端に申し訳なさそうに顔を伏せて謝罪を口にしてしまう。


(直美ちゃん……口は悪いし霧島とは未だに目を合わせようとしないけど……話しかけられたら無視しないでちゃんと応えてあげるんだな……)


 だけれど俺はむしろ着実に二人が直接交流できるようになってきていることが分かって、霧島には悪いが少し嬉しくなってしまう。

 果たして亮も同じことを思っているのか、そんな二人のやり取りをどこか微笑まし気に見守っていた。


「ふふ……さぁてと、じゃあ悪いけど明日の支度があるから俺はこの辺で帰るよ……霧島さん、それに直美ちゃんも相談乗ってくれてありがと……」


 そして亮は何やら満足した様子で立ち上がると、帰り支度を始めてしまう。


「えぇ~、もう帰っちゃうのぉ~? まだ直美遊び足りないよぉ~……もう少しいいじゃぁん……」

「直美ちゃん、あんまり我儘言わないの……だけど亮もそんなに急いで帰らなくてもいいんじゃ……」

「そりゃあ大丈夫だとは思うけど、万が一変なトラブルに巻き込まれて帰れなくなったら約束破る羽目になりかねないしな……とにかく余裕をもって行動しておこうと……」

「むむぅ……あっ!! わかったぁっ!! さては亮おじさん、実は結構明日のお出かけ楽しみにしてるでしょぉっ!!」

「ななな……何がをいってるんでござるですますかぁっ!?」


 俺達の問いかけにも首を横に振って見せた亮だが、そこで直美がびしっと指を突き付けて叫ぶと途端に動揺したように訳の分からない返事をし始めた。


(図星かよ……でも考えてみたら俺も心当たりが……)


「……亮……ここ数日のお前は妙にゲームが弱くてフルボッコだったよなぁ……まるで他の何かに気を取られてるかのように……さてはお前っ!! 案外明日が楽しみで浮かれるだろっ!!」

「あぁ~、そう言えば今日だけじゃなくて昨日も帰るの早かったもんねぇ……それにそのお着替え写真と言い……明日のお出かけに備えて昨日から時間をかけて念入りに支度してたんでしょぉ~?」

「はぐぅっ!?」


 更に俺達からも指摘されたことでついに亮は変なうめき声を洩らしながら固まってしまった。

 そして脂汗を流しながら視線をさ迷させたかと思うと……急に逆切れしたような勢いで叫び出した。


「うぐぐ……わ、悪いかぁっ!! お、俺だって二次元じゃない女の子とデートとかしてみたかったんだよぉっ!! し、しかもあんな可愛い子なんだぞぉっ!! 向こうはその気じゃないって分かってるし、そもそもデートもどきかもしれないけど産まれて初めて女の子とお出かけするんだぁいっ!! 浮かれて悪いかぁあっ!!」

「あ……は、はい……そうですねすみません……」


 余りの勢いに思わず謝ってしまう俺だったが、直美はむしろニヤニヤ笑いながら興味津々とばかりに身を乗り出してみせた。


「や、やっぱりぃっ!! つ、ついに亮おじさんにも春がっ!! こ、これはオーエンしてあげなきゃっ!! ねえ史郎おじさんっ!! 明日は直美たちが傍で付いてて陰ながら手伝ってあげるってのはどぉっ!?」

「な、直美ちゃん……流石にそれは……アニメじゃないんだから止めておこうね……」


 とんでもない提案をする直美を慌てて諫めようとする俺。


「か、勘弁してくれ直美ちゃぁん……流石に向こうにまで迷惑をかけるのは……そ、それにどうせ俺なんか社交辞令で誘われたぐらいだろうし……」

「……それはどうかなぁ? 嵐野君も史郎に負けず劣らず素敵な人だからねぇ……その子がちゃんと相手の内面を見れる良い子なら好きになっても不思議じゃないと思うけどなぁ?」


 同じく亮もあの子とのお出かけが今回限りのことだと思い込んでいるようで、二人の関係を進展させようとする直美の行動を諫めようとする。

 しかしそれを聞いた霧島は真顔で亮の魅力を肯定するように呟くのだった。


「えぇっ!? そ、そんなことないと思うけど……お、俺なんかがあんな可愛い子に……」

「嵐野君は史郎に似て自己評価が低すぎるだけだよ……行動力も能力だってあるのに……ただちょっと異性に対して消極的だからデートに誘ったりできるは思わなかったけど……向こうが乗り気で来てくれてるんならきっと上手く行くと思うよ……ねぇ史郎?」


 そして俺に同意を求めるように尋ねて来て……そんな霧島の言葉を頭の中で反芻しながら落ち着いて考えてみる。


(亮……俺が辛いときに傍で支えてくれて、直美ちゃんの面倒も一緒に見てくれて……霧島の事だって助け出して……そうだよな、本当に良い奴なんだよこいつは……もしそれを見てくれる子ならきっと誰だって……)


 そこまで考えたところで俺は自信をもってはっきりと頷いて見せるのだった。


「……そうだな、俺の自己評価云々はともかくとして亮は確かに凄い奴だと思う……モテないのがおかしいぐらいに……だから堂々として自分の気持ちを伝えられればきっと上手く行くと思うぞ?」

「えぇっ!? そ、それ逆だろぉっ!? どう考えても史郎の方が……」

「とぉるおじさんも史郎おじさんもどっちも素敵なのぉっ!! だからきっとだいじょーぶぃなのぉっ!! 自信もっていこうね亮おじさんっ!! ちゃんと私たちが影から応援して……」

「「だ、だからそれは止めようね直美ちゃんっ!!」」

「だ、駄目よ……人の恋時に他人が口出ししたらろくなことにならないからね……それこそ下手したら……私、みたいに……」

「…………はぁい……ぶぅ……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 心配しなくても、大丈夫、大丈夫。 まあ、心配するなら自分たちのことを、ですね。 それでも、余裕ができてきたからひとのことを心配できるのかな。
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