史郎お兄ちゃん⑩
「……まさかそんな状態になってたなんて……なのに俺自分のことばっかり考えてた……ごめんな亜紀……ごめんね直美ちゃん……」
私たちの現状を知った史郎お兄ちゃんは、申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「別に気にしなくていいよ……気づかれないよう振る舞ってた私たちが悪いんだし……」
「そぉだよぉ……史郎お兄ちゃんは何も悪くないよ……悪いのはあのクソ親父だけなんだからぁっ!!」
「だけど俺、ずっと二人を見てたのになぁ……本当に自分が情けないよ……」
史郎お兄ちゃんは自己嫌悪してるかのように落ち込んでしまうが、私たちは首を横に振って見せた。
実際に言わなかったのは私たちの方なのだ、優しい史郎お兄ちゃんがこれを知ったら間違いなく助けようとしてくれちゃうからだ。
私も亜紀お姉ちゃんも、大好きな史郎お兄ちゃんにこんな迷惑をかけたくなかったのだ。
(けど史郎お兄ちゃんにもこーいう面があるんだ……意外だけど、ちょっと嬉しい……かな?)
ずっと頼りになる年上のお兄さんとして見ていたが、私たちとの関係に思い悩んでいたのは予想外だった。
しかし冷静に考えれば史郎お兄ちゃんも私たちとそう歳の変わらない中学生なのだ、ならばこういう弱い面があって不思議ではない。
だけど全く情けないだとか思わないし、失望だってしていない。
むしろ私たちに嫌われたくないと、恥も外聞も捨てて本音を曝け出してくれたのだから嬉しいぐらいだった。
「何度もいうけど史郎お兄ちゃんは気にしなくていーのぉ……これは直美たち霧島家の問題なんだからぁ」
「そうだよ史郎、これは私たち家族の問題だから……」
「いや……俺にも関係あるよっ!! だって俺にとって二人はもう家族みたいなものなんだからっ!!」
「ふぇっ!?」
「えぇっ!?」
そんな私たちに向かって、顔を上げた史郎お兄ちゃんは真剣な様子ではっきりと宣言して見せた。
まさかの発言に固まった私だが、少しして言葉の内容を理解してすぐに顔が熱くなってくる。
(か、家族って……え、ええぇっ!? そ、それってつまりけ、結婚とか考えてくれてるってことぉっ!?)
「だから関わらせてほしいっ!! 俺にも協力させてくれっ!!」
「し、史郎……」
「史郎お兄ちゃん……」
私たちの手を取って再度頭を下げる史郎お兄ちゃん。
思わず亜紀お姉ちゃんと顔を見合わせてしまうが、向こうも顔を真っ赤に火照らせてしまっていた。
「俺は頼りなくて情けない男だけど……亜紀や直美ちゃんのためなら何でも頑張れるからっ!! やってあげたいんだっ!!」
力強く断言してまっすぐこちらを見つめてくる史郎お兄ちゃんは、情けないどころかとても格好良く見えてしまう。
そんな素敵な史郎お兄ちゃんに私たちは魅入ってしまう。
「そ、そっかぁ……し、史郎は私たちのことそんな風に想って……えへへ……」
「えへへ……し、史郎お兄ちゃぁん……その気持ち……直美すっごく嬉しいなぁ……」
「俺は本気だよ……亜紀も直美ちゃんも……二人とも俺の大切な女性なんだから……」
改めて史郎お兄ちゃんは私たちを強く抱きしめてくれて、私たちも再度身体を預けてしまうのだった。
「そこはどっちか一人を選ばなきゃ駄目じゃないの史郎……ごめんなさい霧島さん、うちのバカ息子が優柔不断で……」
「ふふ、気にしてませんよ……むしろこんな風に想われて私の娘たちは幸せ者ですよ……ねぇ二人とも?」
「お、お袋ぉっ!?」
「「えぇっ!? お、お母さんっ!?」」
だけど急に第三者の言葉が聞こえてきて、顔を上げてみればドアと窓の向こうに史郎と私たちのお母さんが立っていてこちらをニヤニヤと見つめているのだった。
「な、何でっ!? というかいつの間にぃっ!?」
「あのねぇ……窓を開けてそんな大声で叫んでたら聞こえないわけないでしょうが……」
「ふふ、史郎さんはまだ中学生なのに私の娘の為にそこまで言ってくれるなんて嬉しいわ……亜紀に直美、そんな風に想ってくれる男の人が傍にいてあなた達は幸せね……」
「うぅ……わ、わかったからあっち行ってよぉっ!!」
「にゃぁ……お、お母さん恥ずかしいからぁっ!!」
「……一応言っとくけど道路にまで届いてるからなぁ史郎くぅん……清らかな関係みたいで羨ましいぜぇ……うぅ……」
「と、亮までぇっ!? と、というかお前今なんて言ったぁっ!?」
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