亜紀のお友達
「お邪魔します亜紀先輩っ!!」
「はい、いらっしゃい……適当に寛いでね」
亜紀先輩に頭を下げながら家にお邪魔した私は居間へと向かいながら室内を軽く観察してみたが、中々良い暮らしをしているようだった。
急にバイトを辞めた時からちゃんと生活できているのか気になっていたが、どうやら考え過ぎだったようだ。
(ひょっとして変な男にでも捕まったんじゃないかとか不安だったけどこの調子なら大丈夫そうかなぁ……)
「いやぁ、でも本当に私の会社に来るとは思わなかったからちょっとびっくりしちゃったよ」
「だって亜紀先輩の話を聞いてたら物凄く待遇が良さそうだったんですから……そりゃあ受けますよ」
亜紀先輩はコンビニの仕事を辞めてからもちょくちょく私とは連絡を取ってくれていた。
軽い雑談から果ては私の進路に至るまで親身になって相談に乗ってくれた亜紀先輩は、年上だけど大切な親友で……尊敬できる人だ。
だから私は亜紀先輩とまた一緒に働きたいと思い、また条件も良かったので同じ会社に応募したのだ。
そして見事内定を獲得してから今日までずっと交流を続けてどんどん仲良くなった私は、ついに家にまで招待してもらえたのだ。
「あはは、うちの会社は本当に良い所だもんねぇ……社長は社員想いだし皆仲良しだし……困ることもあるけど……」
「亜紀先輩モテますもんねぇ……子持ちだって知ってなおですし……はぁ……羨ましい……」
「もう他人事だと思ってぇ……こっちは本当に困ってるんだからねぇ……」
「それはわかってますけどぉ……全く男に縁のない身としては分けてもらいたいぐらいですよぉ……どうして誰も私には寄り付かないんだろう……やっぱり見た目かなぁ……」
「あなたも十分美人でしょぉ……ただ単にがっつき過ぎで男の人が引いてるだけだと思うけどなぁ……」
呆れたように言う亜紀先輩だが、こちとら彼氏いない歴=年齢なのだから少しでも素振りが見えたらガシガシ行きたくなってしまうのだ。
「あれ、マ……お母さんもうお客さん来てたの? 初めましてぇ直美でぇす」
「へぇ……あなたが直美ちゃんかぁ……初めまして」
挨拶しながらも噂で聞いていた通り、もう中学生ぐらいになりそうな娘さんの姿に内心びっくりする。
(本当にこんなに大きいなんて……じゃあ逆算した通り本当に高校生ぐらいで産んでるってことか……な、なんかすごいなぁ亜紀先輩……)
私が知る限り亜紀先輩は真面目で、男遊びなんか縁のなさそうな女の子だった。
だからこそそんなにも若く子供を産んでいて……しかも相手と結婚もしていない事実にどうしても困惑してしまう。
「どうもどうもぉ……お母さん、お茶とかお菓子用意してないのぉ?」
「あ、忘れてたぁ……ごめんごめん、ちょっと用意してくるから」
「ああ……気にしなくていいのにぃ……」
台所へと入っていく亜紀先輩を見つめていた私だが、その姿が見えなくなると同時に直美ちゃんがばっとこちらへ近づいてきた。
「あのさぁ聞きたいことがあるだ……んですけどぉ……マ……お母さんとはいつごろからお友達なの……ですかぁ?」
「あはは、無理して畏まらなくていいよ……うーん、亜紀先輩と出会ったのは大体だけど七、八年ぐらい前かなぁ……」
「なぁんだぁ……てっきり私の記憶にない学生時代のお話聞けると思ったのにぃ……」
直美ちゃんは椅子に座ると残念そうに机にもたれかかってしまった。
「直美ちゃんは……亜紀先輩の学生時代の話を聞きたいの?」
「うん……だって全然話してくれないんだもん……史郎おじちゃんとどー言う関係だったのかもさぁ……」
不満そうにつぶやいた直美ちゃんだが、私はむしろその中に出てきた名前が気になってしまう。
「史郎さんって……あのちょっとワイルド気味というか……迫力のあった男の人だよね?」
「えぇ~? 確かに史郎おじちゃんはイザって時は格好いいけどぉ……普段は迫力なんか欠片もないヘタレで優しい人だよぉ?」
「あれぇ? おかしいなぁ……」
前にコンビニで何度かすれ違った際の印象を思い返すが、直美ちゃんは全然違うとばかりに首を横に振って見せた。
そこにお茶菓子をもって戻ってきた亜紀先輩が会話に加わってきた。
「史郎は直美にだけは甘々だからねぇ……ハイお待たせぇ~」
「へぇ……あの人がねぇ……亜紀先輩を迎えに来たときは誰に対しても厳しそうだったのになぁ……」
「お母さんにだってじゅーぶん甘いよぉ……いつだってなお……私に見せつけてきてさぁ……もぉぷんぷんなんだからねぇっ!!」
「あのねぇ直美ぃ……どう考えてもあなたのほうがくっついてるでしょうが……全くもう人の気も知らないで……」
「わかるわけないじゃん……なぁんにも話してくれないんだもん……ふん、だ」
むくれながらお菓子に食らいつく直美ちゃんだったが、その言葉に亜紀先輩は少しだけ表情を変えた気がした。
苦しそうと言うか申し訳なさそうと言うか……だから空気を変えようと反射的に口を動かしてしまう。
「け、けど話しぶりからすると史郎さんって……雨宮史郎さんでしたっけ……は良く亜紀先輩の家に遊びに来るんですか?」
「あ、あはは……それはその……何と言うか……」
「一緒に暮らしてるのぉ……結婚もしてないのにぃ……誰だってどー言う関係か気になるよねぇ……」
「えっ!? ど、同棲してるんですかっ!?」
「ああ……うん、まあ……ちょっと色々あって……」
どうやらこの話題も鬼門だったようで、複雑そうな様子で母娘揃って顔を背けてしまう。
(道理で亜紀先輩、今まで誰一人家にご招待しなかったわけだ……き、気になるけど……聞いたら不味いよねぇやっぱり……)
「そ、そうなんですかぁ……じゃあ今も部屋に居るんですか?」
「いや今日はちょっとお出かけしてるから……職場で色々あったみたいで携帯電話を買い替えに行ってて……」
「ちぇ……今からごーりゅうしに行っちゃおうかなぁ……」
直美ちゃんはつまらなそうに携帯を取り出すと、何やら操作し始めてしまう。
この様子からすると私から亜紀先輩の学生時代の話を聞けるかもと思って付いて行かなかったようだ。
「もう直美ったらぁお客さんの前で失礼でしょぉ……ごめんねぇ良い子なんだけどまだまだ甘えん坊だから……」
「むぅ……別に甘えん坊じゃないもぉん……」
「……ふふ」
不貞腐れたように呟く直美ちゃんだったが、それは年相応の子供らしい反応にしか見えなくてその可愛さについつい微笑んでしまうのだった。
「ああ、わかった……じゃあ一旦切るぞ……ふぅ……ただいま」
「史郎おじちゃ……さんおかえりぃっ!!」
「直美ちゃんただいま……だ、だから引っ張らないのぉ!?」
そこへ話題に上がっていた史郎さんが戻ってきた。
すぐに直美ちゃんは玄関へと駆けて行き、腕を取って引っ張りながら戻ってきた。
「やれやれ……お帰りなさい史郎」
「ただいま亜紀……そして初めまして、ですよね?」
「あはは、実は前に何度か会ってますけどね……まあこうして言葉を交わすのは初めてですね……どうも」
頭を下げながらさりげなく史郎さんを観察するが、はっきり言っていい男だった。
(立ち振る舞いも堂々としてるし格好も整ってる……当時より年取ってるけどずっといい男になってるぅ……本当に亜紀先輩が羨ましいなぁ……)
もしも道端や会社の同僚として出会っていたら私は惚れていたかもしれない。
そんな素敵な男の人と仲良く同棲している亜紀先輩が羨ましくて、私は内心ため息をついてしまうのだった。
(うぅ……私も素敵な男の人とお付き合いしたぁい……どこかにいないかなぁ……はぁ……)
「よろしく……ところで亜紀、それに直美ちゃんにちょっと話が……携帯を新調して電話帳を更新したら昔の友達から連絡が来てなぁ……うちに遊びに来たいんだと……呼んでもいいか?」
「もちろん良いけど……ひょっとして嵐野君?」
「はは、バレバレだな……そう言うことだ、今日もたまたま近くにいるみたいで寄れたら寄りたいとか言ってたけど流石になぁ……」
「えぇっ!? 史郎おじ……さんのお友達さん来るのっ!? どんな人どんな人ぉっ!?」
史郎さんの言葉に直美ちゃんがすぐに食いついた。
「そっか直美ちゃんは知らないかぁ……俺が学生時代につるんでた嵐野亮って言う野郎で……どうしようも無く騒がしい奴だ」
「が、学生時代のお友達なのっ!? よぉし今すぐ呼んじゃおうよっ!!」
「そーいうわけにいかないでしょ直美ちゃん……せっかく亜紀のお友達が来てるんだから……」
「……亜紀先輩、その人ってどんな人ですか?」
「ふぇ? 嵐野君? その、何というか……史郎と趣味も話も合うぐらいオタ……どこか似てる人で……凄く友達想いで……良い人、だったなぁ……」
(亜紀先輩が良い人と評する人で雨宮さんのお友達……しかも似てる……こ、これは大当たりな男の人なんじゃないですかぁっ!?)
そんないい男との接点を逃す気にはならず、私もまた史郎さんと亜紀先輩に食いつくのだった。
「わ、私は構いませんから呼んであげたらいいんじゃないですかぁっ!?」
「えぇっ!? な、何で急にぃっ!?」
「い、いやほら私と亜紀さんが話してたら史郎さん居心地悪いかなぁって……だ、だから呼んであげたらバランスが良いかなぁって……べ、別に他意はありませんよっ!!」
「ほらほら、こー言ってくれてることだしぃ……呼んじゃえ呼んじゃえぇっ!!」
「う、うーん……本当に良いのかこれ?」
「あはは……まあよくわからないけど二人とも乗り気だし……良いんじゃないかなぁ」
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