史郎と亜紀⑯
「…………ねえ史郎、まだ起きてる?」
「起きてるよ、あれだけ興奮……騒いで眠れるわけないだろ?」
お風呂関連の騒動がまだ跡を引いていて、俺は同じベッドで眠る亜紀を妙に意識してしまいどうにも眠れないでいた。
そっと身体を起こして時刻を確認すると、既に日付は次の日になっている。
(あらら、これは今日の学校はきつそうだ……まあ確か午前で終わるはずだから耐えられるだろ……)
「あはは、そっかぁ……私もちょっと眠れないんだぁ……ちょっとお話ししない?」
「いいけど、学校で眠くなっても知らないぞ?」
「もぉ、最近はそんなことないでしょ? 私頑張ってるんだからぁ~」
「知ってるよ……うん、最近の亜紀は本当に頑張ってる……凄い立派だよ……」
実際にクラスメイトや担任の先生からも驚かれているほどだ。
そして同時に俺たちの関係の変化もだんだん周知されてきて、その関連を尋ねられることも増えてきた。
「えへへ……これもそれも全部史郎のお陰……ありがとうね」
「いや俺なんか何もしてないよ、亜紀が自分で考えて行動するようになったから……これは亜紀自身の手柄だよ」
「ううん、私は史郎が見ててくれるって分かったから……愛してくれてるって分かったから頑張れてるの……それを気づかせてくれて本当に嬉しかった……」
「……俺だって亜紀に想われて……両思いだって分かって嬉しかった……それから毎日楽しくて仕方ないよ……」
「そうなんだぁ……けど史郎には嵐野君も居たし……嵐野君と二人で遊んでるときも楽しそうで……羨ましかった……」
亜紀の言葉が余りにも寂しそうで思わずその顔を見つめてしまうが、当の彼女はそっと天井へと視線を移してしまった。
「そ、その……悪かったよ……けど今は亜紀が一番だから……」
「ああ、そう言う意味じゃないの……別に嵐野君に嫉妬してるわけじゃ…………いやちょっとだけ……ううんかなり……結構してるけどそう言うわけじゃないの……」
「あ、亜紀?」
(し、嫉妬してはいるのか……じゃ、じゃなくてどうしたんだ亜紀は?)
何処か儚げな雰囲気をまとっているように見える亜紀は、少しの間沈黙したかと思うと何かを決意したかのように口を動かし始めた。
「…………私はさ……史郎と違って…………友達いないから」
「え?」
「居ないんだぁ友達……軽く話す相手ぐらいいるけど……史郎みたいに放課後も一緒に……まして相手の家に行ったりこっちの家に呼んだりして遊ぶような相手は一人もいないの……」
そう言って亜紀はようやくこっちを見ると、今にも泣き出しそうな顔で笑ってみせた。
それが余りにも辛そうで、俺は反射的に抱きしめていた。
「そっか……そう言えば俺亜紀が友達と遊んでるところ見たことないもんなぁ……全然気づかなかった……」
「当たり前だよ、そう気づかれないよう振る舞ってたもん……だからこそ友達と遊んでる史郎が羨ましくて……もっと私に構ってほしくて……何度も乱入しちゃってたんだぁ……」
「そうだったのか……気づかなくてごめんな亜紀……」
優しくその頭を撫でてあげると、亜紀は心地よさそうに俺の胸に頭をうずめてくる。
「だから史郎は悪くないよ……私が何もかも面倒くさがって……それにお父さんがアレで、お母さんはヒステリックになっちゃってて……友達作るどころじゃないって……ううん、勝手に悲劇のヒロインぶって作ろうとしなかったから……」
「それは亜紀は悪くないよ……むしろ幼馴染でずっと愛してて……見つめてた俺が気づいて支えてあげてれば……」
「十分支えてもらってるよ……だけど私ずっとそれに気づかないで史郎に甘え切ってて……しかもそれが当たり前だってどこかで考えてて……本当に駄目な子だよねぇ……」
亜紀がそっと俺の背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめてくる。
俺もそんな亜紀を離すまいと、力を込めて抱き返す。
「亜紀は全然ダメじゃない……俺が世界で一番愛する素敵な女の子だよ……」
「……史郎は優しいなぁ、だけど……ううん、だからこそ私頑張るの……そんな史郎に相応しい女の子になりたいから頑張ってるの」
「もう亜紀は十分すぎるほど魅力的な女の子だよ……むしろ俺のほうが釣り合わないぐらいだ……」
「そんなことない、史郎はすっごく格好いい男の子だから……私が唯一自慢できる世界一素敵な王子様なんだから」
「亜紀……」
まっすぐ俺の目を見つめてはっきりと言い切ってくれる亜紀。
そんな健気で可愛い彼女を見ていると、胸の奥からどんどん愛おしさが湧き上がってくる。
「だから私ももっとっもっと頑張るの……それにやっぱり人が見ててくれるって思うと……私の努力を評価してくれる人が居るって分かったら物凄くやる気になれるの……最近はお母さんも仕事こそ忙しそうだけど、良く笑ってくれるようになったし褒めてくれるようにもなったの……だから全然頑張れちゃうんだぁ……」
「そっか……だけど無理だけはしないでくれよ……そしてどんなことでもいいから話してほしい……俺は亜紀の彼氏として何でも知っておきたいから……」
「うん、わかったよ……ありがとう史郎……大好き」
そして亜紀は瞳を閉じるとそっと顔を近づけてきて、優しく口づけしてくれた。
俺も目を閉じるとそんな亜紀の想いを受け止め続けるのだった。
「……ねぇ史郎、今度の休みうちのお母さん夜勤で帰ってこないの」
「そうか……じゃあまた泊まりに来て……」
「それでね、史郎の両親もお出かけするから帰ってこないんだって……」
「……あいつらぁ、実の息子の俺に話さないで何で亜紀に……」
「だからね、史郎…………その日なら私ね……か、覚悟できてるから……も、もっと仲良くなりたいから……ね?」
「……え? そ、それってどういうこと?」
「も、もぉ……し、史郎の馬鹿ぁ……鈍感………………大好き」
亜紀好感度+10
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