三時限目「ブリリアント・ゾンビ」
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□□ SS「虹色の奈落」 □□
【 きらめくアンデッドは金銀財宝をまとい、
この世に哀しい未練をいだき、
昏い密林を終わりなく彷徨うと言う …… 】
「── いや? その哀しぃ未練ってさ、どうしてわかったんだろーね」
「眉唾もんだな」
「ま、そおだけどよ。動く屍一つで一攫千金だぜ? マボロシの宝石なんてのも持ってるらしい」
「あ″ー。溜め込んだ金銀宝石を抱えた欲深な商人だっけ?」
「生贄の娘のゾンビ、じゃなかったか」
「たしか『財欲』の邪神を、商いの街ぐるみで信仰してたんだよね」
「なんだっていい。
それに財宝がなくても、おれたちが名を挙げるチャンスだ。みなれない魔獣の足跡を辿って、世間を驚かす未発掘の遺跡迷宮を発見── 昔はあった話だろ?」
「『みなれない』やつが、どのぐらい危険かに依るぞ」
「立ちすくんで獲れる成功なんて、ねぇよ」
自信に満ちた表情だ。
五人のハンターは、悪路など何でもないように密林の奥へ進む。目指すところはまだ先だ。
「おかしな魔法を使う、って聞いたが」
「奥地の廃墟で人影を追った奴の話だ
── 途中『割れたガラス細工みたいな色と光』が目の前にあふれて “ おかしな ” 気分にもなったんで、あわてて無事なヤツが仲間を引きずって逃げたそうだ」
「幻覚系魔法の目くらましとは厄介だな」
「ヒュプノマンティスみたいに、対処が分かりやすいといいんだけどね」
「深入りしないぞ。未発見の新種は何するかわからん」
「お宝は? ほかの奴らにとられちまうぞ」
「そう言ってると、命を取られるはめになるからね」
軽口を叩く男たち── 若くして一人前といえる実力をそなえて、自信を深くしたハンターは無茶しがちになる。
今までだれひとり、知識や経験を持ち帰っていない本物の『未知』。そんなものに出会ってしまう強者には、それまでになかった心がまえが必要だが──
きらきら光る、万華鏡のような悪夢が行きつく先に待つことを、かれらはまだ知らない。
***
ブリリアント・ゾンビ
■異称;ゴージャスなゾンビ、綺羅ニンゲン
■種別:下位のアンデッド(動く屍)
■主な出現地域:ジャスパル王国の僻地の、商都テルナテの遺跡の内外
■出現数と頻度:数体〜十数体? 非常にまれ(特定地域)
■サイズ:人間大
■危険度:中
■知能:なきに等しい
■人間への反応:攻撃
■登場エピソード: なし
■身体的特性とパワー
ブリリアント・ゾンビは、大陸西部のジャスパル王国の、とある密林の中に出没するアンデッドです。
古い時代の商都テルナテの「人身御供」がふたたび動き出したもので、人里から離れた未開地であるにもかかわらず、『財宝伝説(後述)』に魅せられた人間が後を絶たず、被害が出つづけています。
見た目は、ぼろぼろの白い衣装の少年少女の亡き骸です。金銀の鎖の貴石の装身具をまとい、衣の下に暗色のカビやキノコの塊が生えています。
黒ずんだ皮膚、石鹸質の肉がからだに残り、整った顔立ちの眠るような表情も見てとれます。
(人間に噛みつくとき、ひどく口もとが歪みますが……)
きらめくゾンビになったのは、生贄の屍が都市の廃墟残りどこか、暗く冷たい安置所に長年おかれていたせいです。しかし、未だに、彼らが眠っていた場所はわかっていません。
○ きらめき
最大の特徴は、全身にまとう『輝き』です。
木漏れ日や月明かりの下ですら、ゆらめく光点や虹色の “光の環”を帯び、すがたや動きが捉え難いほどです。明るい陽の下では、ゾンビの真近のものもあふれるきらめきに隠れてしまいます。
さらに暗がりでは、小さな冷光のスポットが、 身体のそこかしこにうかび、イルミネーションのように明滅します。
ゾンビそのものは、意思も知性のない、不器用な力持ちです。人間に対して、噛みつく、つかみかかる単調な攻撃しかしません。
しかし、悪夢のようなイルミネーションが視界をふさぐので、障害物の多い場所での遭遇戦、不用意な接近戦は危険です。
○ 財宝の噂
宝飾品で飾り立てられたゾンビの噂は、多くの人々の関心を集めました。
その結果、いにしえの商都テルナテの歴史が掘り起こされ。謎の滅亡や見つからなかった財宝、廃墟になる前の商都の民が『財欲の悪神』を崇め、人身御供の儀式をしていたことが知られました。
ゾンビは、金銀財宝を帯びた生贄の成れの果てとされ。万華鏡のようなきらめきは「虹の卵」という、滅んだ商都でのみ加工された、今日、まぼろしの貴石と呼ばれる高価な宝石を帯びている証拠、と信じられました。
○ 討伐と捕縛
ブリリアント・ゾンビは、単なる討伐戦なら難しい相手ではありません。
射撃武器の遠隔攻撃、火炎魔術の範囲攻撃、あるいは長柄武器を大雑把に叩きつける戦闘でも、光の眩惑ごしにダメージを与えられるからです。
(正確に狙いにくく、時間はかかりますが)
しかし、宝飾品を狙う人間たちはことさらに接近戦を挑みました。
財宝が傷ついたり飛び散ることを嫌い、大きな網や刺又を持ち出して、密林や都市の廃墟でゾンビを取り押さえようとしたのです。
きらめくヒトガタは、目にしたものに財宝を意識させ、たやすく捕獲できそうに思わせました。
実際には、ゾンビのきらめきは、未知の毒がみせる異常感覚でした。不用意に近づけば、より強く視覚を狂わされ。動く屍肉を蟻塚のようにして棲みつく『蟲』が、接近戦の伏兵になりました(後述)。
ブリリアントゾンビに殺された犠牲者は、少なく無い数が新たなゾンビ(きらめかない)に成り。その一部は、人里近くに舞いもどって騒ぎを起こしました。
元宝探しのゾンビの中には、なおもブリリアント・につきまとうものがいて。後から来た宝探しに、人違い?で狩られたりしました。
○ 毒と蟲の存在
後になって明らかになった特性です。
「毒のもや」
ブリリアント・ゾンビのからだは、特異なキノコやカビ類の榾木や培地さながらです。ボロボロの衣裳にかくれていますが、つねにまわりに毒(胞子)やガス状物質を振りまいています。
ゾンビの闊歩する狭い空間に踏み込んだり、ゾンビそのものに不用意に近づくと、人間は気がつかないうちにこの毒に冒されます。
きらめきの正体は光刺激に対する過剰反応で、中毒者は視覚器や脳が変調をきたし「幻想的な光のエフェクト」がかかってしまいます。
ただし、幻覚(幻視)ではないので、何もない空間にヒトガタのきらめきは見えません。
さらに、毒は人間の意識にも弱く作用します。あざやかな光や色を目で追う衝動が生じ、思い込みの強い人間は、財宝への執着が強まることがあります。
きらめきには魔法がかかわっている、との意見もあります。異様なイルミネーションが単なる毒の作用のはずがない、ゾンビ以外のもの(背景やほかの人間)が普段通り見えるのはおかしい、と、いうことです。
ほとんどの研究者はゾンビの魔法能力を否定しますが、メイモントのフロストゾンビを詳しく知る研究者は、アンデッドのからだが、非常に長い時間をかけて魔法の “ような” 力を宿す可能性はあると論じています。
「蟲」
ブリリアント・ゾンビの皮下には、ある種のキノコバエの蛆が何百何千と棲んでいて、蟻塚さながらです。
蛆は蟲の魔獣ではなく、大きさも小指の爪ほどしかありません。ふだん隠れていますが、暗闇で頭を出し、青や緑の色味の冷光を発して、ゾンビ(巣)をヒトガタのイルミネーションにします。
さらに、ゾンビ(巣)が激しい攻撃に遭うと、至近の敵へ、興奮して弾けるように飛び移る習性をもちます。
直接的ダメージは与えられないものの、相手のからだに張りついて離れず。目鼻や耳、口。さらに、からだに出来た傷口に強引にもぐり込もうとして、襲ってきた相手はひどい嫌悪感と痛みで、戦いどころではなくなってしまいます。
さらにあるハンターは、ブリリアント・ゾンビと密林の廃墟で戦ったさい、どこからともなくハエの群れが押し寄せて来て苦戦したということです。
蛆の冷光は、近くの親バエを呼ぶ「救難信号」の可能性があります。
○ 今後の可能性
ブリリアント・ゾンビについて、最近、あるハンターグループがいくつかの謎を解き、毒の存在を明らかにしました。
しかし、世間が注目したのは、かれらが持ちかえった宝石で、す生贄の体内に希少な『虹の卵』がひと粒、縫いこまれていたのです(正確な部位は明らかにされていません)。
その結果、ふたたび、一攫千金を狙うゾンビ狩りの熱狂がわき起こっています。
商都テルナテの生贄の亡骸を納めた秘密施設は、いまだに密林の廃墟から見つかっていません。
より危険な生物を宿したゾンビ、特異な力を宿したゾンビがまだそこに閉じ込められている可能性がありますが、密林に分け入る者たちは警鐘にほとんど注意を払いません。
◎ おまけのコラム………『 財宝伝説と番人 』
古代の墳墓(遺跡、迷宮)の財宝を、はるか昔から守りつづけて、ヒーローの前に立ちふさがる『異形』── ファンタジーやアドベンチャーの熱く盛り上がる対決の定番です。
現実にありえない、という点でも正にファンタジー。どんな番人、番犬も、死んでしまいますから。
逆にいうと、架空の物語の古代の墳墓に財宝の番人を登場させるのなら、何百年何千年という歳月をものともしない『死なない存在』がふさわしいことになります。
独断と偏見でいうと、ファンタジーな古代の財宝の守り手は、アンデッドとゴーレムが基本です。
どちらも『死なない存在』で、老いや病、飢えと無縁。闇や孤独に苦しむメンタルをもたず、命令に忠実です。
そして、アンデッドの財宝の番人といえば、ミイラ(包帯男)でしょう。
今回の記事のゾンビは、財宝を身にまとうことで、略奪者の攻撃を封じている(かのように見える)変化球です。
王道?のミイラは、何千年という歳月をものともせず、墳墓の奥深くにひそみ。王の眠りを妨げ、金品を奪うものがあらわれると、侵入者を八つ裂きにしたり、闇に引き込んだり、おそろしい呪いをかけて報いを与えます。
《動く屍の番人》の代表格がミイラなら、《動く器物の番人》の代表格はゴーレムです。
…… まず思い出すのは、遺跡の彫像『六本腕のカーリー像』です。
米映画『シンドバッド 黄金の航海』(1974)に登場し、ストップモーションアニメの六腕六剣の大立ち回りは、印象的でした。今、新たにフィギュアが売り出される一方、テレビ放送されず、見る機会自体はなくなっている、ような。
魔法が強大な力をふるう世界観なら、閉ざされた墳墓に《生きている番人》をおけるでしょう。
ドラゴンや巨人、半人半獣の怪物を石に変えたり、魔法的な眠りにつかせ。侵入者があらわれると、目覚めて襲いかかるのです。
多用しすぎ。主人公の行くところ、生きのいい守護獣がつぎつぎ飛び出してくると、閉ざされた未調査の古代遺跡、その探索ムードがぶち壊しですが。
よりトラップに近い【手】は召喚魔法── 侵入者が宝物庫に近づくと、隠された「召喚の魔法陣」から一瞬前までいなかった、危険な番人が飛び出してくるのです。
こうした「分類」でいうと── 宝箱になりすますミミックや、床や家具などに化けるイミテーターは、 《動く器物の番人》と、目覚めて襲いかかってくる《生きている番人》の中間でしょうか。
最後に変わりダネを。
ソードワールド小説の「かくもささやかな凱歌」(収録『ステャラカ冒険隊、南へ』)から ──
(以下ネタバレ有ります)
剣と魔法の世界で、筋肉娘とあだ名された少女が、一人の青年と組んで「かくもささやかな凱歌」と名付けられた地下迷宮に挑む短篇ストーリーです。
古代魔法文明の迷宮の秘密と、名もない造り主の人生。
それが「今」、迷宮攻略に挑む主人公たちの想いや成長とひびき合う展開で、ラストも印象的 。。。
『魔法が一切、使われていない』古代遺跡が舞台。
メインの番人も、カカシ型の自動戦闘機械で、甲冑を着た虫のような雄姿が高得点 (わたしだけ?)。
長い多腕から一発づつ、鎖つき鉄球を放ち、侵入者の位置や動きは、床に敷き詰めたタイル状の感圧センサーで捉える仕掛け。
《機械仕掛けの番人》… つまり純然たるロボットです。
剣と魔法の世界への登場は、異物、興醒めになりかねませんが、この短篇は《機械仕掛けの番人》にする理由があり。ラスボスにすえて、ファンタジーな冒険を成立させています。




