二三時限目 『 スワンプドラゴン 』
スワンプドラゴン
■種別:大型の下位ドラゴン
■主な出現地域:魔獣深森の沼沢地、河川
■出現数と頻度:単独、まれ
■サイズ:体長20メートルクラス(尾が長い)
■危険度:大(興奮時)
■知能:動物なみ
■人間への反応:警戒〜攻撃
■登場エピソード:『蜘蛛の意吐』第1部
■身体的特性とパワー
スワンプドラゴンは、魔獣深森の沼地にすむ下位の地竜です。首が長くて足が太く、茶色のからだの大きさは一軒家ほどもあります。
図体の大きなトカゲのようなモンスターで、竜と呼ばれるものの、ツノや翼は持たずブレスも出しません。ウロコはなくかたく分厚い皮です。
基本的に危険性は低く、一度ナワバリをつくると大人しく暮らします。
しかし、あえてスワンプドラゴンへ手を出すとなると、普通?のドラゴンに負けず劣らず討伐は困難です。
成獣はとてもタフな上、沼に身をかくすので生半可な攻撃ではダメージを与えられません。とくに剣や槍や矢は、泥まみれの外皮で滑ってしまいます。
そもそも、すみかの沼地は人間にとって不快で足場が悪く、集団戦に不利です。かわいた土地へ追い立てることが、スワンプドラゴン討伐の基本です。
なお、ある討伐戦の参戦者の証言によると、スワンプドラゴンの口臭はかなりひどいそうです。
▷ 攻撃と暴走
スワンプドラゴンの武器は、巨体に宿った大重量と怪力です。突撃の威力は凄まじく、 前足の軽い蹴りでさえ武装した人間を吹き飛ばします。
ふだん、人間を脅かすことはありませんが、干ばつですみかの沼が干上がったりすると、自分からかわいた土地へ出て新たな水場へ走り出します。暴走時は非常に凶暴で、途中、山小屋や村(丸太の村壁)に行き会うと、いらだちをぶつけるように向かって行きます。
◎ 利用可能部位と用途
『ドラゴン』 は希少な魔獣素材とされますが、スワンプドラゴンは巨獣に過ぎず、たいして魔力を宿していません。
大量にえられる肉や内臓は食べられますが、すぐれた効能のようなものはなく、爪や牙、目玉なども同様です。
[骨]
上位のドラゴンの骨は、とても優秀な魔術具をつくることができて、竜骨の杖は実戦派、学究派を問わず、魔術師の憧れの的です。古い大貴族や高位の騎士の中には、竜骨の魔術具を家宝にしていたり、下賜品や戦利品の短杖を愛用する者がいます。
スワンプドラゴンの骨の杖は、残念ながら特に優秀な力はありませんが、上位ドラゴンの骨に近い色合いと質感なので、竜骨の杖にロマンを感じる若い魔術師に人気です。
また、ドラゴンの骨は、昔から万病に効く薬、長寿の妙薬と噂されていて、人知を超えた効能の秘薬の逸話やレシピが残されています。
スワンプドラゴンの骨は、少しだけですが煎じて飲めば体力回復とスタミナ回復の薬効があります… わざわざ危険を侵して手に入れるほどか? という低いレベルですが。
● 頭蓋骨
スワンプドラゴンの頭骨は特別注目されます。
大きく迫力があり、角こそありませんがそのままトロフィーとして高く売れます。しかし、スワンプドラゴンの頭蓋骨の多くは、ニセの角をつけて「ブレスを放つ真の竜の頭蓋骨」に仕立てられてきました。十倍近い値段がつくためです。
力信仰と称されるスピルードル王国では、近年、第二王子(当時)が不要不急のスワンプドラゴン討伐に軍を動かし、自身が命を落としかける事件がありました。ドラゴン殺しの栄誉を求めたとされます。
(小説「蜘蛛の意吐・第1章」より)
── ある意味、スワンプドラゴンの竜首欲しさの愚挙でしたが、この時、部下の騎士が致命傷を与えて斥けたとされるドラゴンの首は行方不明になっています。
王国軍が回収する前、死んだドラゴンの頭がほかの魔獣に食われて(ひどく壊されて)いたとも。第二王子の醜態を思い出させる頭骨を、支持者がひそかに破却、あるいは売却したともいわれます。
その後、政変が起こって第二王子は王都を追放され、スワンプドラゴンの頭骨の行方はうやむやになりました。
[ 泥 ]
スワンプドラゴンのねぐらの泥です。
一般的に魔獣素材と呼ばれるものと異なりますが、最近、この泥をつかった新たな美容法が、富裕層や芸能関係者の間で噂になっています。
ただの沼土ではなく、ねぐらに5〜10年しかれた上質の陶土のようなモノを使うらしく。特殊な全身泥パック施術は若返りに等しい効能とされます。
現在、王都の有名女優と、社交界の数人の女性に限って恩恵を受けているようですが、厳重な箝口令が敷かれていて詳細不明です。
西の聖都の有力商会が中心になって動いていることがわかっているものの、同商会は聖都のウィラーイン伯爵家とつながりが深く、王都の大商会や有力貴族も表立って手を出せません。
魔獣の泥をつかう革新的美容術は、理由不明のまま当面、秘匿・独占される模様です。
◇◇特別SS;とある裏舞台の試験風景 ◇◇
とある女史
「どうですか、ノエミイ?」
とあるモニター
「いいですねえ、この泥パック。お肌トゥルントゥルンですぅ♪」
とある女史
「ふむ、やはりただの泥とは違うようですね。何が美肌効果を生むのか比較して調べてみますか」
「しかし、どの成分がお肌に作用するのか。そもそもなんでヒトの美肌化が起きるのでしょう。スワンプドラゴンの皮膚保護となにか関係が?」
・・・ カリカリカリ[筆記の音]
とあるモニター
「え? あの、この泥、魔獣素材で ……若返りの魔法なんじゃあ??」
「スワンプドラゴンに未発見の特殊な魔力があって、それが、すみかに蓄積されて──」
とある魔獣学者女史
「若返りの魔法?? なんですかそのおかしな話は。
いいですか……… そもそもこんな沼の泥に、魔力はたまりません。この泥の中に含まれるものが重要なのです」
とあるクノイチ
「そーですね。東方では、ある鳥のフンが美肌薬として使われました。乾燥させて薬草と混ぜたもので、これがけっこう希少な品なのですよ」
とあるモニター
「え? まさか、この泥パック。スワンプドラゴンのフン? 顔に塗ったくられましたあ!」
とある女史【 まわれ右!】
「フンなのか尿なのか、それともスワンプドラゴンが分泌する体液なのか……(ぶつぶつぶつ)」
とあるモニター
「ええっ、どこ行くんです⁉︎ 先生!!!
トゥルントゥルだけど、そんな、ドラゴンのフンドロを顔パック!
聞いてません! まって!! 先生〜!」
とあるクノイチ
「 ── バツグンの効果もそれはそれ。抵抗感は消えませんか。
(根性の太いノエミィですら)
商会長や大奥様は不本意かもしれないけれど……
ドラゴン泥の美容は心に傷を負う客が大勢出そうですね。これは秘密を説明して納得した相手に限るのがいいですか」
とある伯爵婦人
「あら? 小じわが取れてくすみが消えるなら、フンまみれになるくらいたいしたことでは無いわよ」
NOMARさま、毎回ありがとうございます。
今回、プロットに加えて、SSと参考資料をいただきました。スワンプドラゴンの記事をまとめるうち、なぜか、魔獣エステの話がみるみる膨らんだ……
SSで触れている「ウグイスのフンエステ」に興味のある方は、こちらへ!
https://newsphere.jp/entertainment/20140814-3/




