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二一時限目『ワイルド・チップス』【写真付き】

    挿絵(By みてみん)

ワイルド・チップス


      挿絵(By みてみん)


 □□ SS □□ その過去の凶気


 おかしな栗鼠を見た。


 もちろん、ただの栗鼠じゃ無い。魔獣深森の中にすまう猫ほどもあるやつだ。…… だが、栗鼠の魔獣としてもおかしかった。小さいが猛々しい面相、刺すような眼光。

 エコースクヮーレルの噂は知っていた。聞くすがたそっくりだった。しかし、そいつらは声を上げず、すがたを陽の下に堂々と見せて、とんでもない狩りをしていたのさ。


 俺はそのとき森で一人だった。

 大物の魔獣狩りに失敗して仲間とはぐれていた。怪我していなかったのは幸運だったが、俺は宿営地に戻ろうと焦っていた。後ろばかり気にして── その空き地へ、雑に見渡して踏み込んだ。


 気づいたとき、そいつらの近くに寄りすぎていた。



 ハンドレッドバイパーは知ってるかい? 『腐毒の牙』だ。


 栗鼠たちは地面に降りて、猛毒の大蛇に挑みかかっていた。小柄な二匹と地を這う蛇体。死に物狂いの静かな対峙だ── 俺は壁に当たったみたいに何もない場所で止まって、恐ろしい気配に身をすくませた。


 そのとき、鎖がジャラジャラと鳴るような音がした。ハンドレッドバイパーの威嚇だ。森の中で鎖の音がしたら道を引き返せ、そこから離れろ。ヤツと絶対に戦うな。── 俺の師匠の警句だ。


 ハンドレッドバイパーの牙の毒は、とにかく酷い。


 ひとかみで傷口が腐って、みるみる崩れていって手の施しようがない。しかも、血の流れに入った毒がからだの奥の臓器も蝕む。ブルーベアの屈強さえ数滴の牙毒に勝てず、百歩も進めない。だから「ハンドレッド」。


 あのハンドレッドバイパーは、急に思い出したように音を立てやがった。息をのんだ俺の気配のせいか?


 おせぇ。


 聞こえていたらお前らに近づかなかった………心のうちで罵ったよ。


 だが、二匹の栗鼠は、開始の合図(GONG)を聞いたみたいにハンドレッドバイパーに跳びついた。



 魔獣といえども栗鼠だ。力はないし爪もちっぽけだ。噛みつき合いは蛇毒の魔獣が数段上。勝ち目なんかない。だけど、その二匹は連携して、格上の蛇を翻弄していた。

 片方が毒蛇の目前で注意を惹いて、もう片方が背後から鱗の胴を噛む。それを交互に繰り返す。必殺の毒牙をひたすらかわして、浅い傷を与えつづけ魔蛇の出血を少しづつ増やす。

 呼吸が合うなんてもんじゃない。

 まるで、熟練のハンターが、左右の手で剣をふるって戦っているようだった。囮役が一瞬で入れ替わる様は……軽業か奇術だ。


 どのくらい、かかったかな。


 俺は馬鹿みたいに無防備に立ったまま、見いっていた。死闘の間中、栗鼠たちは一息も休まず、相手を休ませず。ハンドレッドバイパーが動きを鈍らせると、首がとれかかるくらい深くえぐって仕留めた。

 蛇の毒牙はとうとう敵(栗鼠)を捉えられなかった。


 …… なんか感動したな。


 ちっこい二匹が大きく危険な蛇獣をやっつけたところは、ジャイアントキリング、番狂わせもいいところだ。だが、なんというか。手練れのハンターや戦士の落ち着きみたいなものも感じられたな。


 気がつくと、二匹は並んで俺を見ていた。

 ── 恐ろしくなったよ。もしかして俺も襲うつもりか? ゾッとしたが弓や剣に手はのびて行かなかった。

 傍目にはまぁ、ハンターが自分を見上げる栗鼠に居すくむ、滑稽な有様だったろう。


 今でも思い出すよ。真正面から向き合った小さな目。妖しい赤光をおびていた。針くらいに細くて、研いだ刃みたいな眼光。


 どのくらいそうしていたかな……… 視線がふいと外れると、栗鼠たちは倒したハンドレッドバイパーをズルズル引っ張って、藪の中へ消えていった。


      挿絵(By みてみん)

 猛々しくてヘンな栗鼠たち(チップマックス)を見たのはそのときだけだ。あとは噂も聞かない……

 だが、あいつらが野たれ死んだとはどうしても思えないのさ。俺が想像もできないことを、きっとやらかしたよ。


 あの栗鼠たちはなんだったんだろうなあ?



 ○○○○○○



 ワイルド・チップス(チップマックス)


 ■ 異称:邪栗鼠イヴル・スクヮーレル、ブレイブツインズ、ほか多数。


 ■種別:単尾のエコー・スクヮーレル(下位の栗鼠魔獣)の変異体?


 ■主な出現地域:大陸西部


 ■出現数と頻度:つねに二頭


 ■サイズ:猫ほど


 ■危険度:小〜中?


 ■知能:動物なみ?


 ■人間への反応:中立〜 防衛


 ■登場エピソード: なし


      挿絵(By みてみん)

■身体的特性とパワー

「ワイルド・チップス(チップマックス)」は、ある一群の古記録に登場する二頭の栗鼠の魔獣です。最近になってつけられた仮の名前で、伝承によってはちがう通り名が付いています。

 見ためは猫ほどの小柄な獣ですが、荒ぶる二匹の栗鼠はかなり広い範囲に伝承や証言が残されています。


 エコー種の同種同族の栗鼠の魔獣が、つねに人目をさけて、森に入った人間を隠れながら翻弄したのに対し。かれら二頭は、上位の魔獣と激しい戦闘を繰り返し、その際、人間に平然と姿を見せました。


 小さな身体と非力さを、攻撃性と素早さ、巧みな連携で補い。猛毒で知られる大蛇や十数倍のサイズのオーガ、熊魔獣すら倒したとされます。


 人間にも攻撃的で、不用意に手を出したハンターの腕を無造作に噛み切ったという話が残されています(被害者が何をしたか不明)。しかし、無視・無関心。あるいは貧しい集落を亜人型魔獣(オーガ)から守ったという話もありケースバイケースだったようです。


 過去事例の目撃者の印象は「魔獣の狼や大鷲の鋭気」「ヤジリみたいな眼光」など。危険性をうかがわせるものでした。しかし、いくつかの事例は当時作り話扱いされています。



◇◇◇◇◇



 荒ぶる栗鼠たち(ワイルド チップス)の存在は、最近明らかになりました。


 ハンター個人の手記、開拓村の古い聞き語り、あるいはギルド支部の書類箱など…… その目撃談は土地土地にバラバラに埋もれていました。それがある事件をきっかけにして、過去の魔獣災害の史料の整理と再検証が大々的に行われることとなり、旅するような足跡そくせきが浮かび上がったのです。

 

『魔獣詩歌断片集(フラグメント)』は、過去の無名の吟遊詩人が、魔獣ハンターから話を収集したとされる文芸作品です。幾つかのエピソードは大陸全土に広まり、歌としても物語としてもたいへん人気があります。一方少なくない有識者から、魔獣災害を面白おかしく脚色し、荒唐無稽な創作もしていると批判されてきました。 

 ところが整理事業によって作品を裏付けるメモ類がつぎつぎみつかりました。『魔獣詩歌断片集(フラグメント)』の作者は、ことさら希少な事例を選んだり多少は脚色しているものの、あくまでも実話を題材にしていました。


 

邪栗鼠イヴル・スクヮーレル』はとりわけ注目されています。


 断片集フラグメントの原典の一編ですが、凶相の栗鼠と人喰い巨人の死闘は、荒唐無稽な創作の最たるものと批判されつづけ。いつしか一般社会で詠われなくなりました。

 魔獣災害が発掘史料からは、この幻の一編と酷似した事件も見つかりました。裏付け調査は順調で、“名誉回復”された名作が再び世に出る日は近いようです。


      挿絵(By みてみん)


── 今後、いくつかの有力な戦歴が裏付けられれば。伝説的なマッドフォックス『悪霊』と同等か、それ以上の戦闘者として、猛き栗鼠たちはスピルードル王国の王国魔獣研究院に公認されるかも知れません。同院は、魔獣史料の収集保全・再調査活動の中心的存在でもあります。


── 『悪霊』を生んだキツネ魔獣のほかにも、おそるべき危険性を示した下位魔獣がいたこと。過去に遭遇事例が存在しながら見過ごされていたこと。

 王立魔獣研究院の事業は今後、多くの類例を発掘する可能性が………魔獣対策の根本に関わる問題………

……………

……



ノエミイ

「様々な視点から考察しませんと。不明点はまだたくさんあります。

 いつもついで闘ったのは種族の特性かしら? 目撃された状況はまちまちなのに、単独でもそれ以上の群れでもない── ツガイかしら? 本当、独特ですねぇ。

 魔獣にしては、人を襲った例がほとんど無いのも珍しいです。相手は上位魔獣ばかり……なぜでしょうね。でも、おかしいわぁ。荒々しい二匹… 聞き憶え、ある、ような?」



カッセ

「ほう? 人はこんな話を伝えているのか」


ノエミィ

「 ── ぅあ?れ?」


ユッキ

「むむ? 姉よ、憶えはないか?」


ノエミイ

「そんな、まさか……」


カッセ&ユッキ

「「これはわれらかもしれんなぁ」」


ノエミィ

「ぅ、ええぇ⁉︎ 」


カッセ&ユッキ

「なんとなく覚えがある。ほら、このオーガは間違いないぞ。技を試したろう?」

「うむうむ………」

「まだ、覚悟と勢いで挑んでいた頃だな」

「見て覚え、見て習ったシタンの技だが、矮躯の獣にはムリ。そう決め込んでいた。だが、さにあらず! 気づきはそう、あの ──、」



ノエミィ[ 話のもり上がりぶりが耳に入らない ]

「そんな、一生懸命調べたのに…… 」

「進化した魔獣が絡んだ話じゃあ、ことさら注目されるような発表なんてできない。過去を暴くことだし……… でも、それじゃあ、再来月の論文発表は???」


ルブセィラ女史

「リテイクですね」


ノエミイ

「── 先生 ⁉︎ そんなぁああ! ここまでまとめたのにいい!」


ルブセィラ女史

「発表前に発覚して幸運でした。これからは、アイジスにチェックしてもらった方がいいかもしれません」


ノエミイ

「ふぉぉぁぁあ!? ほ、他に何か! 何かネタはあああ!」


カッセル&ユッキル

「「 なんか、すまん 」」


      挿絵(By みてみん)

      癒しのもふもふ



 ❀ ❀ ❀



 関連項目

 △エコー・スクヮーレル

◎その製作の秘話


バルーンアートでリスつくりましたー。ヾ(´∀` *K (((


N(* ̄∇ ̄) おー、めっちゃ目付きがやる気満点。


邪リス、ですよねー。___ ( ̄▽  ̄;K 

やんのかオラって顔つき。___


N(* ̄∇ ̄)ノ これ、進化前のリス姉妹かも。


え″ッ ( なんですとぉ⁉︎ )_ Σ( ̄□  ̄;K 


N(* ̄∇ ̄)ノ よし、膨らませよう ♪


え″え″え″!?__ Σ( ̄□  ̄ ;K 



>こんなやりとりがあったり?なかったり?


>むやみに人相?の悪い栗鼠。ふわっとできたバルーンアートです。モチーフはなく自然と手が動きましたが、それが今回[モンスター]化……


>「栗鼠姉妹」は、小説「蜘蛛の意吐 スピンアウト集」に登場するキャラクターです。


NOMAR様からは今回、とくにショートストーリーや魔獣詩歌断集など。いくつもの文章やアイデアを頂きました。ありがとうございました。

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蜘蛛の意吐
欄外スピンアウト作品集
後日談を中心に過去話、パロディ、サブキャラクターたちの短編などを、順不同で不定期掲載。100話突破。




◎ 同じ世界観の別主人の外伝異伝
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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K John・Smith (自作)

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『 魔犬 』〜 ブラックドッグの起源を考える 〜 イングランドの黒妖犬の伝承から、人間と犬の関係を考えたエッセイです。
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