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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第十三章 ネリアと死霊使い

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564/564

564.マグナゼとの取り引き

『魔術師の杖 THE COMIC』(作画:ひつじロボ先生)マグカン様にて連載中!

1月からニコニコ漫画、アプリ『コミマガ』でも配信開始!

挿絵(By みてみん)



 食事を終えたオドゥは、戻ってきた呪術師のギドゥに話しかける。


「傀儡師ってのは、どういう仕事をしていたんだ?」


「皇宮を守る傀儡を作り、管理しておりました」


 わかりきった説明をする呪術師に、オドゥはさらに問いかける。


「でもいなくなったんだろ?」


「はい。もう四十年ほど前に、女の傀儡師がおりました。それが最後のひとりです」


 最後の傀儡師……オドゥはがぜん興味が湧いた。眼鏡のブリッジに指をかけ、深緑の瞳がキラリと光る。


「その作品ってさ、見られる?」


「……銀の領域も閉ざされております」


「え、入れないの?」


 ギドゥは無表情にうなずいた。


「オドゥ様がこられる前の金華殿と同様に、入れるのは傀儡のみです」


「ふうん……そのルール、破った者はどうなった?」


 どこかおもしろがっている風の〝死霊使い〟に、新参の呪術師はまばたきをした。


「傀儡に排除されます」


「じゃあ、試してみよう」


「は⁉」


 気楽な調子で言うと、カタリと椅子の音をさせて立ち上がった男に、呪術師は目をむいた。そのままスタスタと部屋を出ていく彼の背中を、ぼうぜんと見送ってからハッと我に返る。


「お、お待ちを。オドゥ様!」


「探検だよ、探検」


 ギドゥはバタバタと追いかけてきた。


「傀儡には人の心がありません。ただ与えられた仕事を忠実にこなすだけです。いくらオドゥ様といえど……」


「そういうやつ、エクグラシアにもいたからさ。それともきみ、僕のことが心配?」


 くるりと振り向いて、オドゥはギドゥに顔を近づける。息が顔にかかるほど近い距離で、彼は呪術師にささやいた。


「その唇の朱は僕に見せるために、わざわざ塗ったと思っていいのかな?」


 近づいた距離と同じぶんだけ、ギドゥはバッと後ずさる。


「た、ただの身だしなみです!」


「そう。残念だなぁ、まじめな子って嫌いじゃないのに」


 ギドゥは顔を真っ赤にして、自分の唇をゴシゴシと手の甲でこすった。


「からかわないでください。後で女性の身上書をお持ちします。金華殿の主であれば正妻も側室もよりどりみどりで……」


「きみはその中に入らないの?」


 ギドゥは唇をギュッとかみしめ、オドゥをにらみつけた。


「私は呪術師として、ここで働いております。後宮の女性たちとは違います」


「僕も皇帝やマグナゼとは違う」


 深緑の瞳に宿る危険な光に、ギドゥは思わず口を閉ざす。すると眼鏡のブリッジに指をかけた男は、一瞬にして鋭い眼差しをやわらげ、穏やかにほほえんだ。


「忠告はありがたく受け取っておくよ。なら囮も連れて行こう」


 そしてすぐに、囮として指名された黒髪の男、筆頭呪術師のマグナゼが両脇を傀儡に挟まれて、オドゥの前に引きずりだされた。


「はっ、放せっ。何のまねだ!」


 ジタバタともがく男に、オドゥはにこにこと告げる。


「工房を失ったきみが、退屈しているんじゃないかと思ってね。銀の領域に入りたい。案内を頼む」


「……は?」


 とたんにマグナゼの動きがピタリと止まり、オドゥはおもしろそうに唇の端を持ちあげた。


「おもしろいねぇ。呪術師ってみんな同じ反応するんだ」


 そのままズルズルと引きずられながら、マグナゼはオドゥに向かってわめく。


「放せっ、退屈などしておらん。私を連れていく必要はなかろう!」


「僕もそう思ったんだけど。ギドゥが僕ひとりじゃ心配らしくって」


 スタスタと歩いていくオドゥに、ギドゥが追いすがった。


「お待ちください。マグナゼ様ではなく、私がいっしょに参ります。子どものころ、入ったことがあります!」


 オドゥが目をすっと細めて、ギドゥの顔を見下ろす。


「その話、なんでさっき言わなかったのさ」


「子どものころの話でしたから……うろ覚えで。どうかマグナゼ様をお放しください!」


「いやだね。こいつとも話がある」


「は、話だと?」


 ぎょっとしたマグナゼに、オドゥは薄く笑った。


「皇帝の望みを聞いたからには、きみの願いも聞いてやろうと思ってさ」


「私の願い……だと?」


「そう。心の奥底にしまって、軽々しく口にださない願いこそ、僕がかなえてやろう。もちろん『対価』はもらうけどね。きみはその願いのかわりに、何を差しだす?」


 傀儡に両脇をつかまれたまま、マグナゼはごくりとつばを飲んだ。やり取りを聞いていたギドゥの顔が青ざめる。


「マグナゼ様、このかたの言葉に耳を傾けてはなりません。オドゥ様は恐ろしいかたです!」


「ギドゥ、だまれ!」


 マグナゼは怒鳴り、ギリリと歯を食いしばってオドゥをにらみつけた。


「お前が私の願いをかなえるだと?」


「そう。呪術師ってのは周到に準備をしなけりゃ術を使えない。だから僕にしかできないんじゃないか?」


 くすくす笑いながら、オドゥはさっきギドゥにしたのと同じように、マグナゼへ顔を近づけた。


「きみが望んでいるものは、この国にはない。ここで誰がきみの望みをかなえるというのさ。忠実なギドゥが命を捧げたってムリだろ?」


「マグナゼ様、願ってはなりません!」


 ギドゥの叫びはオドゥが遮音障壁をしたことで、マグナゼの耳にも聞こえなくなった。ぶるぶると怒りで震えながら、サルジアの筆頭呪術師は言葉を紡ぐ。


「我が望みはエクグラシアを手にいれることだ。サルジアではなく!」


「いいね。でっかい望みほど、かなえがいがある。それで対価はなんだい?」


「この国を……」


「このサルジアをやるって話はなしだ。皇帝にも同じことを言われて断ったからね。それにしても……皇帝も筆頭呪術師も、そろって『いらない』と言うなんて、サルジアって国は不用品か何かかい?」


 ふしぎそうに首をかしげるオドゥに、マグナゼは吐き捨てた。


「お前も住んでひと月もたてば、わかるだろうよ。皇宮での暮らしは傀儡任せで退屈極まりない。人はすぐに呪術師を頼るしな!」


「ならば地位と身分を得て、外の世界に行けばよかったのに」


「そうしようとした。だから私は!」


「……リコリスの家を手にいれようと?」


 ぐっと言葉につまるマグナゼに、オドゥはあきれたように髪をかき上げる。


「やってることはグレンに近くても、だいぶみみっちいね。まぁ、いいや。対価はきみの全面的な協力。それなら願いをかなえてあげるよ。返事は?」


「全面的な協力だと?」


「そう。裏切りは許さない。エクグラシアのすべてを手にいれたいんだろう?」


 どのみち工房を失ったマグナゼに、サルジアでの居場所はない。かつての筆頭呪術師は、オドゥの申し出にこくりとうなずいた。

12月19〜21日:渋谷ヒカリエ8階渋谷〇〇書店に展示。

文学フリマ、コミティアにも参加予定。

1月18日 文学フリマ京都10

1月25日 関西コミティア75(大阪)

2月22日 コミティア155

3月22日 名古屋コミティア68

5月4日 文学フリマ東京42

挿絵(By みてみん)

ネリアの編みぐるみをこんとみ様に作って頂きました!

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☆☆コミカライズ開始!☆☆
『魔術師の杖 THE COMIC』

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