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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第十二章 移動要塞バハムート エピローグ

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556.部屋を訪れた理由

バハムート編まもなく完結!

連休中にテンポよく更新するつもりです。

よろしくお願いします。

 師団長用の船室だから、広さはじゅうぶんにある。ドアを開けていきなりベッドがあるということはなく、わたしはレオをソファーに案内した。


「お茶淹れるね」


「私がやる。変わった香りがするな……」


 ティーセットに向かうと彼は眉をひそめる。フタを持ち上げると白磁のティーポットには、黒々とした液体が入っていた。


「それ、ローラが持ってきた薬湯だよ」


「ならばこちらが先だな」


「うへぇ……」


 レオが差し出すカップには、どす黒い変なにおいのする薬湯がなみなみと注がれていた。師匠も師匠なら、弟子もこういうときは情け容赦ない。


 しょっぱい顔になってちびちびと飲んでいると、レオはくすりと笑った。


「そんな顔をするな。香りのいい茶を淹れてやる」


 ティーポットに浄化の魔法をかけると、中身の水を新しく替えて加熱の魔法陣を展開する。


 茶葉の入った缶をいくつか取り出して眺め、ひとつうなずくと缶を二つ三つ開けて、少量ずつすくった茶葉をブレンドしている。


「お茶を混ぜるの?」


「その薬湯を洗い流して、後味がさわやかになるようにな」


 やがてお湯が沸き、レオポルドはポットに茶葉を入れてフタをした。


「湯の中で茶葉が開いてゆったりと舞うとき、自分自身も解放されてゆくような心地がする」


 なんとか薬湯を飲み終わると、レオはカップを受け取り、きれいにしてから温めて茶こしをセットすると、淹れたばかりのお茶をコポコポと注ぐ。


「うわ、ごほうびみたい!」


「そのつもりだが」


 カップの底が見える澄んだ茶色い液体からは、蒸気とともにかぐわしい香りが立ち昇る。


 ひと口ふくむと鼻からノドにかけて清涼感が抜けていく。口の中に残っていた薬湯のくさみが消え、さっきまで感じていた胸のむかつきも治まっていく。


「おいしい……うれしい……」


「ドレスは体を締めつけるからな。慣れない茶会で緊張して気分が悪くなる者も多い。スタッフの手元を見ていて覚えた知識だが、こんなときに役立つとは」


「すごくおいしいよ。ねぇ、ふだんでも淹れてくれる?」


 思わずおねだりすると、わたしの横に座った彼は、渋い顔をして首を横に振る。


「うまいと感じるのは体が弱っている証拠だ。ふだんならもう少ししっかりした、味の濃いものをきみは好む」


「そう、だっけ……」


 返事をしながら彼が細かくわたしを観察していることに驚く。どのお茶もおいしく飲んでいるつもりだったから、自分の好みなんて考えたこともなかった。


 彼がわたしのために淹れたというだけでもうれしいのに、こんなに体のことまで考えてくれているなんて。軽くてさらりとした飲み心地の優しい味をしたお茶は、魔素がたっぷり入った魔力ポーションよりも体に沁みわたっていくような気がした。


「あのさ、さっきカイに何か言われて顔をしかめてたでしょ。何を言われたの?」


「あれか」


 レオは黒髪をかきあげて、ふぅと息を吐く。それだけなのになんだか色気がすごい。


 わたしは彼の横顔をこうして眺めるのが好きなんだと、ふと気づいた。


 いつもだったらそれだけで落ち着かないのに、ふしぎとわたしの鼓動は落ち着いている。これもローラが煎じた薬湯のおかげだろうか。


 けれど彼が口にしたのは思いがけない言葉で。


「今夜はきみの部屋に行けと言われた」


「え、それでここに?」


 カイのことだから、いつもの軽いノリだろう。わたしが目を丸くすると、勢いよく強い口調で返ってくる。


「ちがう!」


「ちがうんだ……」


 それはそれで何だかモヤモヤする。もちろん自分の体調だって思わしくないし、そんなことになっても困るのだけど。彼もさすがに気まずくなったのか、わたしからふいっと顔を背けて、ポケットから四角くたたんだ紙片を取りだした。


「いや、そうではなく……話というのは」


 それきり彼は口を閉ざして、折りたたんだ紙片を広げる。


「きれいな魔法陣だね」


 描かれていたのは少し時代がかった、きれいな術式の魔法陣だった。バランスのとれた形といい刻まれた文様といい、長く使われて洗練された完成形のものだろう。


 けれどわたしははじめて見る魔法陣だ。


「きみが茶を飲み終わってから見せるつもりだった」


「これを?」


 ふと彼を見上げて、そこにいる存在の異質さにゾクリとする。さっきまでのやわらいだ雰囲気は消え失せて、ただ硬質の冷たさを感じさせる美貌がそこにたたずみ、ひたとわたしを見すえている。


 急にノドが渇く。さっきお茶を飲んだばかりなのに。こんなことになるなら、おかわりぐらいしとくんだった。そんな小さな後悔が押し寄せる。


 何もかもさっきまでと違う。甲板でカイといっしょに、歌の練習に興じていた青年はもうどこにもいない。


 カサリと音をさせて彼が紙片を持ちあげる。その顔にはまったく何の表情も浮かんでおらず。これまでに何度ももどかしい思いでぶつかった、魔術師団長がまた戻ってきたようだった。


 彼はためらいつつも薄い唇を開く。


「これは〝消失の魔法陣〟。サルジアに入る前に、きみの体へこれを刻めと……そうローラに提案された」


お読みいただきありがとうございました!

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