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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第十二章 移動要塞バハムート

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546.精霊の目印

『魔術師の杖』シリーズ発売4周年!

挿絵(By みてみん)

10冊は…がんばりましたね!

 上空に上がれば、バハムートの全景がよく見えた。


「なんだか大きな亀みたい……」


 もしも巨大な古竜が生きていたら、自分の背中に暮らす人間たちをどう思っていたのか、聞いてみたい気もする。


 甲羅の部分に亀裂が走り、端からボロボロと塊が崩れ落ちる。風化した部分が地鳴りの振動に耐えきれなかったのだろう。


「魔羊牧場は……あれね!」


 険しい岩場を軽々と跳びながら、地鳴りの振動に興奮した魔羊たちが、バハムートの甲羅だった地面を駆けている。


 そしてその向こう、ポツンと突きでた亀の頭にあたる場所にデルモスの花畑がある療養所。今は全員が避難して無人となっている。


「皮肉なものだな。魔羊たちが島を破壊するとは」


「なんとかできないかな」


 わたしのつぶやきにレオが眉をあげた。


「魔羊たちまで助ける気か?」


「もとは人間の都合で連れてこられただもの。それに魔獣って……人間なら魔力持ちってことでしょ?」


 凶暴で危険な存在。それは魔力持ちにも言えることで、魔力の制御やさまざまな術式を学ぶことで、彼らはようやく人間社会に溶けこむことができる。


 この世界にきて王都でさまざまな魔力持ちと出会い、マウナカイアやタクラで暮らす人たちとも接して、魔力持ちというのがどういう存在なのか、だんだんわかってきた。


 ひとびとは魔力持ちに憧れる一方で恐れを抱き、魔力持ちもその力を誇示しながらも制御に苦しむことは隠そうとする。


 くりかえし必死に練習して覚えた魔術を、なんでもないことのように使ってみせる。


 わたしの後ろで盛大なため息をつく気配がする。


「きみが望むなら、助ける方法を考えよう」


「ホント?」


 勢いよく振り返ったわたしは、彼のアゴに頭突きしてしまい、思いっきり顔をしかめさせた。


「いてて……ごめん」


「今は海中に描く転移陣に集中しろ」


 自分の手でアゴを押さえた彼に注意され、わたしは深く息を吸いこんだ。


 大きな……ハルモニア号や潜水艦も使えるような転移陣。


 海底都市カナイニラウの場所は決まっているから、手元に描いた魔法陣に、座標を慎重に書きこんでいく。


「それだと一方通行だ。人魚たちを喚ぶには、こちら側の情報も陣に配置する」


「えっ、あ……そっか」


 わたしはバシュッと魔法陣を消して、もう一度書こうとして……さっそく手づまりになった。


「レオポルド、海流に乗って移動するバハムートの座標はどうやって指定するの?」


「レオだ」


「ご、ごめ……」


 つい呼びかけた名前を言い直されて、わたしはもだもだと謝って唇をかむ。


 崩壊する砦部分からバラバラになったはしけ部分が切り離されて、ひとびとの避難はだいぶ進んだのか海上にいくつも浮かんでいる。


「今この瞬間だけ使用するなら、距離や方角を打ちこむだけだが……今後も使用するとなると……」


「うん」


 低くよく通る声が聞こえるだけで、わたしのなかに安心感が広がっていく。


「精霊たちが見つけられる目印になるものが必要だ」


「目印?」


「そうだ。マウナカイアに建つ灯台のように、精霊の目で見てそこにあるとはっきりわかるものがいい。バハムートのカケラでも残れば、それが目印になるだろうが……」


「精霊の目で……あ!」


 またもやわたしは勢いよく振り返り、レオの高い鼻に頭をぶつけた。


「……きみは私になにか恨みでもあるのか」


 鼻を押さえてうめくレオに、わたしは謝りながらあわててまくしたてた。


「ちがっ、ごめ……あのね、ユーリが持ってる眼鏡、精霊眼っていうんだって。魔素痕跡を追えるあの眼鏡だよ!」


 レオが黒曜石の目を見開いた。


「オドゥが使っていた眼鏡のレプリカか!」


「そう!」


 わたしはすぐさまハルモニア号にいるユーリにエンツで呼びかけた。


「ユーリ、お願い!あの眼鏡で見つけてほしいものがあるの!」


「ユーティリス、長距離転移陣で人魚を喚ぶための、目印となるものを見つけろ。精霊が反応するものならなんでもいい!」


「……わかりました!」


 レオが説明をつけ加えて、わたしは上空でふたたび魔法陣を紡ぎながらユーリの返事を待つ。


 わたしが術式を構築する後ろで、レオが海中の地形や海流から、設置場所を計算していると、ユーリの興奮した声が飛びこんできた。


「見つけました!すごい……こんなものが実際にあるなんて!」


「どこだ。なにを見つけた!」


 レオが怒鳴るとエンツから聞こえる声が割れたけれど、すぐに返事がある。


「デルモスの花畑、地下五十ムゥ。魔石鉱床……いや違う。巨大なバハムートの魔石です!」


「魔石が……」


「信じられない……バハムートの人たちは魔石をほしがる必要なんかない。だってずっと足元に巨大な塊があったんですよ!」


 レオがわたしの前にバハムートの立体図を展開した。


「花畑の地下五十ムゥ、ここだ。長距離転移陣を完璧な陣形で完成させろ!」


「わかった!」


 わたしは目の前に広がる紺碧の海に向かって、術式とともに魔素を放った。

ありがとうございました!

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