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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第十二章 移動要塞バハムート

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509.ユーリとの雑談

『魔術師の杖⑧ネリアと魔導列車の旅』

挿絵(By みてみん)

 航海士の緊迫した声が艦橋に響く。


「まもなく竜王の領域をでます!」


 レオの足元で転移陣が光り、彼の姿は一瞬で消えた。それを見送ったユーリが、首をひねってつぶやく。


「彼の騎士としての戦いぶり、はじめて見ますね」


「訓練場でライアスと手合わせをしていたのは、見たことがあるけど……」


 そのときはオドゥがいっしょだった。三人はとても仲がよさそうに話していたのに。いつも不機嫌そうなレオポルドまで楽しそうに笑っていた。あのときわたしはびっくりして、彼の笑顔をぽかんと眺めていたっけ。


「心配ですか?」


 わたしが黙ってしまったのが気になったのだろう。皮肉っぽいときもあるけど根は優しくて素直なユーリは、赤い瞳でわたしの顔をのぞきこんだ。


「あ、ごめん。ちょっとオドゥのこと考えてて……」


「…………」


 ユーリの顔がくもり、わたしはあわてて話を変えた。ここは艦橋でみんなが見ている。不安そうな顔をしたり、考えこんだりしちゃダメだ。


「わたしね、レオポルドといっしょなら、オドゥに立ち向かえるかなって思ったの」


「オドゥにですか?」


 驚くユーリにわたしは打ち明けた。


「うん。わたし最初のころ、オドゥのことが怖くて警戒してた。レオポルドの態度はひどかったけど、むしろ彼のほうが怖くなかった」


「あぁ、それは僕もわかります。研究棟に来てすぐ、オドゥにはコテンパンにやられましたから」


「そんな話、はじめて聞くよ?」


「そりゃあ、言いたくないですよ。魔力は僕のほうがあったけど、錬金術の腕も魔術全般に関する知識も、体術だって……なにもかも彼に敵わなかったんです」


(……ん?)


「体術って……どこで?」


 引っかかる単語があって聞き返せば、ユーリはあごに手を当てて、思いだすようなしぐさをした。


「僕の研究室や工房、研究棟前の広場を使ったこともあったかな」


「きみたちは研究棟でなにをやっていたの」


 思わずツッコミを入れると、ユーリは赤い髪をかきあげてクスクス笑う。


「グレンが師団長だったときは、僕らはのんびりしてたんですよ。ネリアがきてから、めっちゃ働かされてますけど」


「え……ちゃんと休憩もとってるし、休日もあるじゃん。夏はバカンスにも行ったよね?」


 ちょっとそれは師団長としては聞き捨てならない。王太子をこき使ったりなんてしていない。そりゃあ魔道具ギルドにも魔術学園にも、ユーリについてきてもらったけど!


「ポーション作りや素材の精製、ミスリルの精錬は元からやってたし。わたしがきてから始めたのって、防虫剤と収納鞄とグリドルぐらいで、研究棟はブラックな職場ではないと思うんだけど……」


 ところがわたしを見下ろして、ふふんとユーリは鼻で笑う。


「あとは収納鞄にグリドル作り、そしてカナイニラウとの交易、対抗戦は衝撃だったなぁ。ネリアといると退屈しないですよ。『死ぬ気で働け』って言葉、つくづく身に沁みてます」


「王太子を死ぬ気で働かせてなんていないよ⁉」


 人材も素材も費用も足りないから、みみっちく稼ぐ手段を増やしているんだもん!


「どっかでドカンと稼げばいいのよ」


 わたしはググッと拳を握りしめる。定期航路を開設したら、サルジアとの交易でがっぽり稼げるかもしれない。エクグラシアからも輸出できるものがないか、あとでテルジオに聞いてみよう


「そういうネリアの姿勢、僕も好きですよ」


 ユーリがにっこりと笑った。タクラにいてしばらく会わない間に、彼のキラキラ王子様スマイルには、ますます磨きがかかったような気がする。


「わたしは艦橋にいるつもりだけど、ヌーメリアとリリエラはどうする?」


 ネグスコ夫人になったヌーメリアが、おそるおそる手を挙げる。


「私は海で採れる毒物を研究したいのですが……よろしいですか?」


「毒を?」


「ええ。マウナカイアでは休暇を楽しみましたけど、今回は仕事ですし……ペンダントだけでなく、手持ちの毒を増やしておきたくて。あの男との対決も待っているでしょうし」


 そういってヌーメリアは、もじもじと両手の指を絡めて、恥ずかしそうにほほえむ。


「私の持つ毒の知識がほしいなら、殺されることはないでしょう。その隙をつけないかと思っています」


 なんとヌーメリアがやる気になっている。


「うん。でも危ないことはしないでね」


「はい。ラボを用意して頂きましたので。危ないので私以外は近づかないでくださいね」


(……うん?)


「わたしは『危ないことはしないで』と言ったんだけど」


 こてりと首をかしげて念を押すと、ヌーメリアは目をぱちくりとして、真面目な顔でこくりとうなずく。


「私は知識がありますので平気です。でもみなさんには危険ですから」


 やめる気はないんかーい!


 そのままヌーメリアはローラに頼んでいる。


「戦闘後に魔物から素材を採集することはできますか?」


「どうしても……というなら、なるべく傷つけないよう気をつけるけど。なにがほしいのか、あらかじめ教えといてくれないか。レオ坊とも共有しておかないと、あいつはチリひとつ残さず片づけるからね」


「ええ。ネリア、さっきの〝海の魔獣図鑑〟を見せてもらえますか?」


「あ、はい」


 退屈そうに話を聞いていた秘書のリリエラが、あくびをしながらテルジオへ話しかける。


「ねぇテルジオ、ノドかわいた。なんか作って」


「はいぃ⁉」


 書類をペラペラとめくっていたテルジオが、すごい形相で顔を上げる。


 タクラにいるとき、レオポルドはネリアに化けたリリエラの世話を、テルジオに頼んでいたらしい。そのせいかリリエラはノドが渇いたり、お腹がすいたりするといつも彼に声をかける。


 けれどサッとなんでも用意できたタクラと違い、ハルモニア号ではテルジオも忙しいみたいで、わたしに文句を言ってきた。


「ネリアさんっ、秘書がほしいなら私に言ってくだされば、優秀な人材をいくらでもご用意しましたものを。なんで彼女なんですか!」


「うん、ごめん。リリエラもサルジアに行きたいって言うし。気になることもあって」


「気になること?」


 精霊たちが世界に干渉するとしたら、サルジアの建国神話は〝海の精霊〟からどんな風に見えているんだろう。わたしはそれが気になっていた。


「それにリリエラはテルジオと仲がよさそうじゃん」


「そうだよな。絶世の美女から気にいられるなんて、僕もテルジオがうらやましいよ」


「殿下もっ、そんなこと心にも思ってないくせに!」


 キイッとなったテルジオに、リリエラはするりと腕を絡ませる。


「イライラすんじゃないわよ。ほら、厨房にいこ。なんか作ってテルジオも食べればいいわ」


「わっ、私はですねぇ、仕事がっ……ああああ⁉」


 人魚族のリリエラはああ見えて力が強いらしい。テルジオはあっさりと引きずられていった。


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[一言] リリエラ美人=可哀想ってどーゆー事???
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