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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第十章 ネリアと魔導列車の旅

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445.リリエラとの再会

 タクラの駅前広場に到着してライガを腕輪に収納し、わたしが魔力ポーションをガブ飲みしていると、ニーナがあきれた顔をした。


「追いこみ中の作家みたい。ネリィったらだいぶ無茶したんじゃないの?」

「あはは……早く寝たいですね」


 収納鞄から取りだした瓶をさらにもう一本あけ、くいっと飲み干した。もう街に着いたから、ライガを飛ばしたり派手な錬金術を使ったりしなければ、自然に回復するはずだ。


「うっわぁ……街が大きい。海が広い!」


 まだひっそりとしている駅前広場から海をみおろし、わたしは水色の透明なアクアマリンのような記録石をとりだした。テルジオが調べてくれたタクラの情報が、これに入っているのだ。


「ちゃんと役立ってるからねー、テルジオさん」


 検索機能がないのはちょっと不便だけれど、魔法陣を起動させれば地図とともに、街の情報が映しだされる。


「うーん……今知りたいのはグルメ情報じゃないんだけど。ルルゥ、オドゥはどこかな」


 話しかけてもカラスは……わたしの肩にとまったまま眠っていた。


 ため息をついて周囲を見回せば、駅前広場に面したいちばん大きな建物はホテル・タクラといって、わたしが泊まる予定だったところだ。


「ホテルにのこのこ行って捕まるわけにもいかないし……とはいっても泊まれる宿は限られているかも」


「港のそばにも船員や乗船客向けの宿があるらしいわね。そこなら朝早くから食事ができる店が開いているわよ」


 ぼんやりと港を見下ろせば、夜のうちに漁を終えた船が明かりをつけて戻ってくるのがみえた。夜明けを迎えれば、昇る太陽とともに海鳥イールが鳴きだして、じきに港は目覚めるだろう。


「朝食をとったら、みんなを探しましょうか」


 始発はまだだから、タクラの転移門は動いていない。


 わたしたちは記録石の地図を表示させながら、まだ静かな通路を駅前広場がある上層から中層を通り、港がある下層へと移動していく。


 ズボンにショートブーツをはき、ラベンダーメルのポンチョに収納鞄を斜め掛けしたわたしは、師団長にはとても見えないから、とくに気をつけることはないだろう。


 駅があるタクラ上層はホテルやゴブリン金庫など、主要な施設がそろった行政エリアだ。ひとびとは中層で生活し、そこにある市場を利用している。食料品や生活用品、輸入された品まで買える市場の路地は入り組んでいる。


 港のある下層は港湾設備だけでなく造船所や倉庫、船乗りたちの宿泊所や酒場もあった。


 それぞれの層はとても広く、ところどころ空中で途切れた場所は通路でつなげてある。まっすぐな道はなくて複雑だけれど、他の層へは縦に移動するだけなので時間はかからない。


「これだけ大きな街だと、工房はどこなんでしょうね」


「中層にある三階建ての建物ですって。港を利用するときは一階、駅方面に行くときは三階のドアを使うって」


「便利そうですね」


 治安のいい王都とちがって、タクラはどうかと心配したけれど、明けがた近い街はひたすら静かだった。





 港には魔導ランプが灯る屋台があり、がっしりした体つきの漁師や、船乗りらしい男たちが食事をしている。


 湯気を立てるスープをすすり、海鮮まんを手にもくもくと食事をする、ガタイのいいお兄さんたちに交じる勇気は……と思ったけれど、いざとなればしっかり大きな声がでた。


「海鮮まんひとつずつとスープ……ダルシュをお願い!」


「あいよ、姉ちゃんにはキトルもおまけだ!」


「ありがとう!」


 食い気百パーセントの勇気に感謝しながら、波止場のすみっこでニーナとふたりベンチに座る。支払いのときにそれほど持ち合わせがないのに気づいたけれど、まずはフカフカの海鮮まんをほおばる。


「んーっ、しあわせ!」


「やっぱ海鮮まんはタクラよねぇ」


 湯気を立てる生地から餡に包まれた、プリプリのエビや貝がトロリとでてきて、刻んだ海草のコリコリとした食感も楽しい。口いっぱいにほおばってモグモグしながら、ダルシュをすすればお腹もじんわり温まる。


 ふと気づくと同じようにベンチにすわり、海鮮まんを両手で抱えて食べていた、おばあさんがじっとこっちを見ている。その顔に見覚えがあって、わたしは目を丸くした。


「レイクラさん⁉」


「えっ、レイクラさんてどこに?」


「ネリアじゃないか、こんなところで会うなんてねぇ」


 マウナカイアで親切にしてくれたレイクラ……ビーチのはずれで〝人魚のドレス〟を売っていた彼女がコートを着てマフラーを巻き、手袋をした手をわたしに振った。


 老女だった姿を知らないニーナは、キョロキョロしている。


「どうしてここに……マウナカイアのお店はどうしたの?」


「店? ああ、この姿を借りているせいか。あたしだよ、あたし」


 レイクラはきょとんとして小首をかしげ、笑ってうなずくと一瞬で変貌する。


 しわくちゃだったおばあさんの姿がしゃんとすると、わたしの前には絶世の美女があらわれた。


 海の青さを写しとったかのような、群青色の長い髪と潤むような大きな瞳。深く吸いこまれそうな眼差しで、妖艶にほほえむ女性には見覚えがある。カナイニラウの牢獄で出会った〝海の魔女〟、リリエラがそこにいた。


「リ……リリエラ⁉」


「そうだよ、あんたはネリアで間違いないね。ちょっと見ないあいだに、ずいぶん可愛くなったじゃないか。あら、あんたったら……いつのまにかそんなピアスまでしちゃって」


 リリエラは唇をとがらせると深い海の色をした瞳をきらめかせ、手袋をした指でわたしのほっぺをつつき、そのまま耳たぶのピアスにふれた。


「ふえっ⁉」


「ふぅん、この魔法陣……あんたにそれをつけさせたのはずいぶん周到な男だねぇ」


「ひいいぃ、オドゥたちより早くリリエラに言われたぁ!」


 両耳を手で押さえて真っ赤になったわたしに、リリエラはけらけらと笑う。


「だってさぁ、人魚の男たちが作る〝人魚のドレス〟もたいがいだけど、そのピアスだって『近寄るな』って威圧してるみたいな魔法陣だ」


「そうなの⁉」


 ただきれいなだけじゃなかった。わたしがレオポルドのほどこした魔法陣におののいていると、ニーナも残念そうな目をしてうなずいた。


「この子、本当にニブいのよねぇ」


 クスクスと笑いながらリリエラは色っぽくウィンクした。


「ひさしぶりに積もる話でもしたいねぇ」


 そう言ってあごを前に突きだしたリリエラが背を丸めると、花がしおれるように再びおばあさんの姿になる。


「え……どうなってるの?」


「〝精霊契約〟で海王妃の〝時〟をもらったからねぇ、せっかくだから使わせてもらってる。目立ちたくないときは老婆に化けるのがいちばんだよ。もしも見張りがついていたら、あんたたちに声はかけなかったさ」


 わたしたちに顔を向けた彼女の変化に、まわりのだれも気づかない。目を丸くしているニーナに、リリエラはウィンクをした。


「リリエラはここで暮らしてるの?」


「ああ、それに働いてもいる」


「働いて⁉」


「だって陸は何をするにも金がいるだろう?」


「そうだね……」


 グレンに錬金術を教わらなかったら、わたしはどうしていただろう。


 歩きだした彼女の横で歩幅をあわせれば、背を丸めて足元を見つめ、ちょこちょこ歩く姿は本当におばあさんみたいで、ふとそんなことを思った。


「最初は観光気分でブラブラしたんだけど、すぐに飽きちまって。だからこの格好でそこそこ稼いで、そのへんの連中と変わらないような暮らしをしてみようかって。これから仕事なんだよ。後で会えるかい?」


「うん、だいじょうぶ」


「じゃあ今夜、この場所で」


 わたしがリリエラを見送っていると、彼女はするりと港のほうに消えていった。

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[良い点] レオポルドが騙されてるのかちゃんと分かっているのか、毎日やきもきして読んでいます笑。 返信頂く度にありがとうございますという気持ちと、辛口で申し訳ないですという気持ちと、でもレオポルドもう…
[一言] 粉雪先生! ほんとに 話のもって行き方うますぎですね。 続き気になって、仕事手に着かなくなったらどうしてくれるんですか! 続きわくわくしながら待ちますよ。 話の展開が荒削りだったのが、だんだ…
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