表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第十章 ネリアと魔導列車の旅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

427/564

427.魔石の町ルルス

よろしくお願いします!!

 さすがにユーリも自分の補佐官には、連絡しているだろうと思ったのに、テルジオは困った顔で遮音障壁を展開した。


「それが……エンツで連絡はつきますが、どこにいるのかさっぱりわかりません。所在不明です、あの家出王子」


「ええええっ⁉」


 おどろいたわたしがガタっと椅子から立ちあがれば、遮音障壁を展開してあるとはいえ、何事かと周囲の乗客がこっちを見る。あわてたテルジオが両手をあげ、わたしに座るようにうながす。


「ネリアさん、落ちついて」


「だってテルジオさんこそ、何でそんな落ちついているの⁉」


 わたしがまたストンと腰をおろせば、テルジオは顔をしかめてふぅと息をつき、ぼやきながら教えてくれる。


「所在不明といっても、魔導列車に乗ってタクラに向かったことはわかっています。弾かれることが多いですが、たまにエンツで連絡もあります。それにオドゥの使い魔、シャングリラからずっと、ネリアさんについていますよ」


「はいぃ⁉」


 ……カラスのルルゥが⁉


「あれ、やっぱり気づいてなかったんですか?」


「ぜんぜん気づかなかった……」


「ルルスで降りたら確認できますよ。魔導列車の屋根にいますから。師団長会議でもご覧になったでしょうが、使い魔を通じてオドゥに連絡もとれます。だからあんまり心配してません」


「そ、そうなんだ……」


 使い魔って……そういえば異世界は連絡手段も、バラエティに富んでいたよ!


「まぁ、魔力を食うわりに役に立たないんで、使い魔など今じゃほとんど、持ちませんからねぇ」


「ユーリはサルジアに出発する前に、どうしても黒縁眼鏡がほしいみたいなの。まだオドゥといっしょにいるってことは、眼鏡が未完成なんだね」


「そうらしいですねぇ、殿下の魔道具好きにも困ったもんです。あんな冴えない眼鏡なんか何に使うんでしょ」


 魔術の痕跡を可視化して目で追えるようにする眼鏡……レオポルドでさえ『あんな魔道具は見たことがない』と言っていた。使いかたも特殊で、きっと認識阻害の機能もついている。


 グレンのかわりに素材を集めていたオドゥは、わたしがいるときにデーダスの工房へあらわれることはなかった。王都の研究室にあったのは本や研究ノート、それに文献ばかりで、あそこで彼は錬金術師団の仕事しかしていない。


 デーダスから閉めだされた彼は〝死者の蘇生〟を研究するために、自分の工房を持っているはず。


「たぶんふたりはオドゥの工房にいるんだと思う。タクラにあるというのは意外だったけれど」


「港のあるタクラなら、輸入される素材も手にいれやすいですしね。そんなわけですから殿下を探しがてら、ゆっくりタクラを楽しみましょ。まずはルルス観光ですかねぇ」


 そうのんびりとテルジオがいったところで、魔導列車はゆっくりとスピードを落とし、ルルスの町に入っていった。





 エレント砂漠のはずれ、渇いた大地にその小さな駅はあった。魔導列車はここでいったん停車し、魔石の補充をしてから砂漠を抜けて、タクラへ向かうことになっている。砂ぼこりが舞うさびれた駅でも乗降客は多い。


「あまり時間はとれませんが、魔石鉱床は見学されますよね?」


「うん……ありがとうテルジオさん!」


 にっこりすればテルジオはハッとしたように息をのんで、それからあせったようすで胸に手をあてた。


「うわ、今のはヤバいですね。私どちらかというとスタイルのいい、大人っぽい女性が好みなんですが、それでもドキッとしましたよ」


「……さりげにディスるのやめてくれせんか」


「やだなぁ、ほめてますよ!」


 ちょっとひと言多いけど、テルジオはいい人だ。きっと昨夜貸してくれた本も、わたしのことを考えて選んでくれたんだろう。


「あのさ、テルジオさん」


「はい、何でしょう」


「テルジオさんはすごいね、わたしのこと何でもお見通しみたい。補佐官さんっていろんなことに気がつくよね」


 彼は一瞬きょとんとして、カラカラと笑った。


「まぁ、これが仕事ですからねぇ。師団長に認められたのなら、私もうれしいです」


 まずはルルスの駅で魔石を補充するようすを見学した。魔導列車が運んできた荷物を受けとりに、住人も集まっていて駅はにぎやかだ。ホームにおりると駅舎にとまる黒いカラスを見つけた。


(あれがルルゥなのかなぁ……)


 風が吹くと砂ぼこりが舞い、くしゃみをしたわたしにテルジオがハンカチを差しだす。


「埃っぽいですから、口を覆ったほうがいいかもしれませんよ」


「くちゅっ、ありがと……魔石を使ってここを、もっと過ごしやすくするとかできないの?」


「ルルスはエレント砂漠のなかでは、唯一の人が住む町です。昔から魔石が採れるので、それを目当てに人が集まりました。ここの土地が枯れているのは、魔石鉱床のせいとも言われています」


「枯れている?」


「水も魔石を用いて喚ばないといけません。不便な場所ですが、魔石の採掘に仕分けや輸送、ここには魔力を持たない人間にも仕事がたくさんあります。逆に魔力持ちにとっては、居心地の悪い土地なのです」


「居心地が悪いの?」


「魔素を凝縮して固める力が働く場だから、魔石鉱床が形成されたのですが、魔力が吸われるんです。そのためエレント砂漠に棲む魔獣も、魔力を守るために外殻が硬いものばかりです」


「そうなんだ」


 それからテルジオの案内で駅前の通りを歩く。小さな町といっても駅前には乗降客目当ての店が並んでいた。魔石の仕入れにきた商人や、仕事を求めてやってきたひとびとが、それぞれ宿に向かっていく。


「小さな町にも宿がちゃんとあるんだね」


「鉱夫が使う日払いの宿は気が荒いのもいますから、魔石の買いつけ業者が使うところがおすすめです」


 二百年前に魔石鉱床が発見され、採掘のために造られたルルスの町に領主はおらず、採掘事務所があるだけだ。鉱夫の求人にやってくる者も多く、まずは採掘事務所で手続きをしたら、魔石鉱床の見学ができるらしい。


「この町には竜騎士も魔術師も駐屯していないの?」


「砂漠の町では水や食料は貴重で、ドラゴン一体を養うだけの余裕はないのです。〝魔力持ち〟は嫌う土地ですからね。王都から派遣される第三部隊が近くの魔獣を討伐するため、わりと安全ですよ。魔導列車も走行の邪魔になる魔獣を片づけますし」





 魔石が一番安く手にはいるルルスでは、駅前通りにある魔道具店の品ぞろえもいい。王都で作られた最新式の〝朝ごはん製造機〟や、〝たこパ用プレートつき特製グリドル〟も売られている。


「メロディさんが見たら喜びそう。これは……〝魔石ランプ〟って書いてあるけど?」


 傘の部分にくず魔石をモザイクのように散りばめた、美しい魔石ランプはルルスの名物で、卓上に置くもの、鎖で天井からぶら下げるもの、いろいろな形があった。


「鑑賞用として楽しむものです。中心に光の魔石を置けば、それぞれの魔石がさまざまな景色を映しだします。水なら海や滝、川……炎だと焚火や火山の爆発などが見られます」


「へえぇ……幻灯機に近いのかな。あっ、あれ何だろ……〝魔石キャンディ〟だって!」


 テルジオはスラスラと教えてくれる。


「あれはルルスに一軒だけある菓子店ですね。鉱夫たちには酒が人気ですが、なかには甘党もいるそうで」


「〝魔石キャンディ〟って……ふつうのお菓子とはちがうの?」


「〝炎の魔石キャンディ〟は舐めるとピリッとして、ノドがカッと熱くなります。〝水の魔石キャンディ〟は舐めるとひんやりして、水を飲むよりもノドが潤うそうです」


「ご試食なさいますか?」


 親切そうな店主から、銀のトレイにのった〝水の魔石キャンディ〟を試食させてもらう。


「ホントだ。ノドが潤う。わ、唇までトゥルトゥルだよ!」


「ネリアさんの擬音って変ですね」


 変な顔をして首をかしげるテルジオの横で、店主はうれしそうにうなずく。


「キャンディとしてもおいしいですよ。〝土の魔石キャンディ〟は空腹を紛らわせて腹持ちもいいです」


「なら……〝雷の魔石キャンディ〟は?」


 好奇心にかられてたずねれば、店主はにっこり笑った。


「〝雷の魔石キャンディ〟は食べてみてのお楽しみです。舐めるなら夜がいいですよ」


 さすが商売をしているだけはある。レオポルドと食べたり、アレクにお土産であげてもおもしろいかも!


 わたしは〝魔石キャンディ〟の袋を購入し、いそいそと収納鞄にしまった。

ルルス観光を楽しむネリア。

挿絵(By みてみん)

6巻発売記念イラスト(画:よろづ先生)

今回もお世話になりましたm(_)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆コミカライズ開始!☆☆
『魔術師の杖 THE COMIC』

『魔術師の杖 THE COMIC』

小説版公式サイト
小説版『魔術師の杖』
☆☆NovelJam2025参加作品『7日目の希望』約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天
☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
☆☆粉雪チャンネル(Youtube)☆☆
粉雪チャンネル
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ