373.デーダスの書斎
きょうは海の日!
偶然だけどマウナカイアの海がたっぷりの4巻は季節にピッタリ!
後書きにアンケートがあります。
朝食を食べたらずっとふたりでグレンの書斎にこもっている。
私は懐かしい気分で本をいくつか手にとっては、それを読んでいたけれど。
レオポルドは何冊かの本をぬきだすと机に運び、胸ポケットからとりだした眼鏡をかけると、すごい勢いで読みはじめた。
とても読書とは思えないスピードで、ページがパラパラとめくられていく。
すべてのページをめくり終わると、またほかの本にとりかかる……といった感じだ。
「それでちゃんと読んでいることになるの?」
「読む……というより映像として頭に刻む感じだ。何か違和感があればひっかかる……その違和感を探してる」
「ふぅん……」
本の山を崩すとデーサを唱え本棚に本を戻し、またべつの本を抜きだす。
黙々とやり続ける彼の表情は真剣で、彼が探している違和感とは何だろう……と思った。
「レオポルド、そろそろ休憩しない?」
私は読んでいた本を閉じて、何個かめの山を崩し終わったレオポルドに声をかけた。
彼はハッとしたように顔をあげると、本を脇にどかし眼鏡をはずすと腕をまっすぐにあげ伸びをする。
目を閉じると椅子の背に深くもたれ、大きく息を吐いて右手でまぶたをもんだ。
「そうだな……つい読みふけった。何かを探るのにこんな読みかたをしていては、時間がかかってしまうのだが」
いや、すごい速さで読んでたけど……。
ソラが居ないから食事は自分たちで用意する。
「手をかける必要はない」といわれたから、朝のうちに作ったサンドイッチの皿をとりだした。
作業のあいまに食べられるように軽食にして、燻製にしたマール川の魚にクリームチーズとタラスの葉、リンガランジャの照り焼きにはふかしたトテポをあわせ、それぞれパンにはさんだ。
作りおきの野菜スープを温めなおしていると、レオポルドもやってきた。
「頭をスッキリさせるために、昼はコーヒーでいいか?」
「あ、うん」
これまた朝と同じように彼はきっちりと豆を量り、魔法陣を展開するとそこからあらわれた紫の炎が豆の周囲で踊った。
焙煎を自分の炎でおこなったレオポルドは、炎をおさめてからていねいに豆を挽いていく。
その香ばしい香りを、わたしは胸いっぱいに吸いこんだ。
「すごくいい香り!ぜんぜん焦げくさくないね!」
彼は静かに答える。
「炎の魔術師だからな……」
そうだった!
炎属性の魔術師たちが自分の炎を使い、コーヒー豆の焙煎を練習しているところを想像すると何だかおかしい。
挽いた豆にお湯をたらしてしばらく蒸らし、ゆっくりとお湯を糸のように注ぐとプツプツと小さな泡が弾け、なめらかなクリームのような細かい泡が浮かんだ。
「すごくていねいだけど、これもレオポルドの気分転換?」
「……そうだな」
表情はかわらないけれど彼がリラックスしているのはわかる。
(オンとオフがはっきりしてるんだなぁ……)
いままで仕事中の彼ばかりみていたから厳しい表情のことが多かったけれど、こうやっていっしょに過ごすとそれだけじゃないのがわかる。
表情に変化はなくても、息を抜いたり楽しむこともある。
(王城で楽しいことなんか何にもなさそうな顔をしてるのは、気を張ってるのかしら)
そんなことを考えていると、わたしにマグカップについだコーヒーが差しだされた。
「どうぞ、マイレディ」
うひゃあああ!
「あ、あの……その呼びかた、何とかならない?」
「……『ネリア・ネリス』と呼ぶことに抵抗がある。だが真の名を無理に聞きだす気はないから安心しろ」
そういうと自分のコーヒーとサンドイッチの載った皿を持ち、レオポルドはさっさと書斎へ移動した。
てことは、わたしはずっと「マイレディ」のままですか……ため息をつくと、マグカップを手に彼のあとを追った。
サンドイッチに手を伸ばしたレオポルドは、何気なくかじって目をみはった。
「ずいぶん手がこんでるな」
「えっ、そう?」
考えこむようにしながらレオポルドは、サンドイッチをもうひとくち食べてゆっくりとそれを噛む。
そういえば、特製ポーションも味わうようにして飲んでたっけ……。
「味つけが複雑だ。普通はパンに具を挟むだけだろう」
「ええっと……トテポにハーブを振ったり、チーズにピュラルの果汁を混ぜたことかな?ほんのひと手間でぐっとおいしくなるんだよ」
「……ありがとう」
「えっ?」
わたしが驚くと彼は眉をあげた。
「そんなに驚くようなことか?」
「いや、だってあの、レオポルドがお礼をいうなんて」
「……私がどういう人間だと思われているのかよくわかった」
レオポルドは顔をしかめるとサンドイッチを皿に置き、真面目な顔でわたしにむかって頭をさげる。
「正直、歓迎はされないと思っていた。家探しするようなものだからな。だからこのように食事まで気を配ってもらえるのは感謝するしかない」
「このぐらいはあたりまえだよ」
「お前の基準だとそうなのだろうな。そろいの夜着まで用意してあるとは……少々面食らったが」
わたしの手にあったサンドイッチがポトリと落ちた。
そろいの夜着⁉︎
「あああの、そろいの夜着っていっても深い意味はなくてっ、そう、アレクともおそろいなの!」
とたんにレオポルドの目つきが険しくなり、部屋の気温がぐんと下がる。へっ⁉
「……アレク、とはだれだ?」
「ヌ、ヌーメリアの甥御さんで、居住区にいっしょに住んでる……十歳の男の子です……」
いきなりの尋問にわたしがビクビクしながら答えると、レオポルドが脱力して額をおさえて緊張をといた。
「あの子か……そういえばそんな名だったな」
アレクとおそろいのパジャマだからって、なぜそんなに不満そうなのでしょうか……。
気をとりなおしてわたしは話題を変えた。
「あの……それで探していた違和感てみつかったの?」
レオポルドは黄昏色の目をまたたいた。
「いまのところ違和感はない。それでもわかったことがひとつある」
「わかったこと?」
「この書斎にある本は……たしかにグレンの蔵書にはちがいないが、ほとんどはきみのために集められた本だ」
「わたしのため?」
レオポルドは読んでいた本をとりあげる。
「魔術や錬金術のなりたちが順を追ってわかりやすく学べるようにしてある。たとえばこれは魔素をあつかった本、そしてこちらは魔力の属性と特徴……魔術学園の入学前から卒業までに読んでおきたい本ばかりだ。どれもわかりやすくて面白いが、グレンにいまさら必要な本ではない」
グレンの書斎……本棚にならぶたくさんの本……世界のようすを本で知るしかなかったわたしは、グレンの留守中も本を読んですごした。
そしてここにある本のほとんどは、わたしのために集められていた……。
レオポルドは本棚をにらみつける。
「ここは……グレンの書斎というより、きみに用意された勉強部屋だ。正直おどろいた……グレンがお前を錬金術師として育てることに、ここまで手をかけていたとは」
「わたしを錬金術師として育てていた……」
レオポルドにいわれてようやく、たった三年でわたしが錬金術師になれた理由がわかった。
どの本も私にとって読みやすくて面白くて。
この書斎に必要なものが集められていた。
そしてグレンは不要な知識は置かなかった。
たくさんあるようにみえて、ここの蔵書は偏っている。
わたしはグレンの書斎とよく似た傾向の本がならんだ本棚のことを思いだした。
王都にある研究棟の二階、錬金術師オドゥ・イグネルの研究室にある本棚。
オドゥが学園生のときから研究棟に出入りし、グレンに入団を認められたのであれば。
グレンはきっと彼のことも錬金術師として育てていた……。
それもとても手をかけて。
つまり、そういうことなんだ。
【アンケート】回答期限7/25まで
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1.ミシュランみたいなマシュマロ
2.萌え度UPのジェラピケ
3.リモートワーク風にフリース
4.魔道具だもの!高機能宇宙服
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