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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第九章 デーダス荒野のネリア

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360.アナの作戦大成功?(メレッタ視点)

今回はメレッタ視点で、ネリアたちが帰ったあとの茶会のようすです。

 魔術師団長レオポルド・アルバーンにいざなわれ、あらわれた錬金術師団長ネリア・ネリスは茶会の席で〝錬金術〟を披露すると仮面をとって挨拶をした。


 そのまま退席した二人に、残された貴婦人たちのざわめきがとまらない。


「ねぇ、リメラ……あなたのもくろみはあの子に邪魔されたようね?」


 王太后が横にすわるリメラ王妃にそっとささやくと、リメラ王妃もほぅ、とうなずいてため息をつく。


「そのようですわね……彼女を表にひっぱりだすのはあきらめなくてはなりませんわ。似ているけれど別人……と説明するつもりでしたのに」


 アルバーン公爵夫人や貴婦人たちの反応をみる限り、だれもがあの一瞬で信じてしまったろう。


 そして錬金術師団の研究棟は禁断の聖域……そう思わせた。


「ふふ……でもあの子があのように行動するとはね。無表情で自分の感情をまったく見せない子だったのに」


 あの子が茶会に姿をみせていたのはずいぶん昔……だれもが賞賛する精霊のような儚げな美貌とは裏腹に、そのような立場に置かれている自分に腹を立てているようだった。


 何にも関心を示さず、ただ給仕するスタッフの手つきだけを眺めていた。


 王太后もネリア・ネリスと話をするのを楽しみにしていたが、それはまたの機会になった。


 パチン、と音をたてて扇を閉じると、王太后はよく通る声で会場に呼びかけた。


「さぁみなさま、錬金術師団の楽しい余興はおしまい。歓談のときといたしましょう。カーター氏とメレッタさんはこちらにお座りになって。お菓子はお好きかしら?」





 座の中心はどうしたってメレッタとカーター副団長になる。だれもが熱心に錬金術師団や新しい師団長について聞きたがった。


 メイビス侯爵夫人がメレッタのドレスをほめ、つぎにやさしく話しかけた。


「メレッタ様、錬金術師を目指されたきっかけはやはりお父様の影響ですの?」


「いいえ、ネリス師団長が直接学園にいらしてお話をうかがったのがきっかけです。でも父の影響でもともと魔道具は好きでした」


 侯爵夫人の目がキラリと光った。


「そのお話、ぜひお聞きしたいわ。こんど我が家の茶会にもぜひいらして。ディアも楽しみにしていますわ」


「まぁ、それでしたらうちにもぜひ……!」


 つぎつぎと社交の誘いが舞いこんでくる。メレッタは少し考えて、にっこり返事をした。


「ありがとうございます、でも私はまだ学生ですし、まずは学園をきちんと卒業しなくては。成人して一人前の錬金術師になりましたら、お声をおかけください」


 もちろん彼女はそのまますっとぼけるつもりだ。





「でもいくら証明するためとはいえ、メレッタさんの身を飾るものがカチューシャの花飾りだけになってしまったわね」


「メレッタ様の花飾りはお母様がつくられていると娘のディアに聞きましたわ。可愛らしいじゃありませんか」


 残念そうな王太后にメイビス侯爵夫人がとりなすと、それを聞いたカディアンの顔がパアッと明るくなった。


「よかった、メイビス侯爵夫人もそう思われますか。まだ習いはじめたばかりでカーター夫人のようにはうまくできず、不安だったのです。これでは私の気持ちを彼女に伝えられないのではないかと心配で」


 侯爵夫人は扇をぽとりと落とした。


「え……まさか、この髪飾りは殿下がみずから?」


「はい、彼女の明るい栗色の髪には青い花も似合うと思い、だからバーデリヤの花を」


 顔を真っ赤にしてもじもじするカディアンに、貴婦人たちはあぜんとなった。


 青いバーデリヤが意味する〝初恋〟にもびっくりだが、アーネスト陛下そっくりの第二王子が、武骨な剣ダコのついた指でせっせとレース編みをするなんてみな想像できない。


 彼の言葉を冷めた気分で聞いているのは当のメレッタだけだ。これも彼女の母、アナの作戦なのだ。


「貴婦人たちの豪華なアクセサリーと勝負しなくていいの、カディアン殿下の真心ひとつで十分ですわ!」


「そ、そうか……俺が作った花飾りでメレッタを飾ればいいんだ!」


(もうっ、よけいなもん編むヒマがあるなら術式を書きなさいよっ!)


 そう思ったけれどあきらめた。婚約者に贈るという大義名分を手にいれ、カディアンは堂々とレース編みができるようになった。


 熱心な生徒ができてアナも楽しそうだし、母の機嫌がいいと父もうれしそうだ。


 ほんというとメレッタは花飾りなどどうでもいい。けれど創作意欲というやつは手が勝手に動き止めようがない。結局、本人のやりたいようにさせるのが一番だ。


 きっとカディアンの中では花飾りをつけたメレッタがうふうふ笑っている。


(それ、ぜったい私じゃないし!)


「たまにはカディアン、自分でつけたら?」


 会うたびに髪飾りを贈られたら頭がいくつあっても足りない。皮肉のつもりでそう言えば、婚約者の顔が幸せに輝いた。


「そ、そうか……卒業パーティーにおそろいでつけるという手もあるな。俺が胸につけてきみが髪に……」


(やーめーてー)


 メレッタは心のなかで叫んだ。カディアンがうれしそうに話すだけで、「婚約者想いの優しい殿下」なんてイメージがどんどんできあがる。


 レース編みは時間がかかるだけ数は作れないからマシだと思うしかない。


「つぎは何の花にしようかと……卒業パーティーにも贈るつもりですが、冬の装いに合う花飾りもつくりたくて。冬は生花が手にはいりにくいので、おばあ様の温室にスケッチのためにお邪魔してもいいですか?」


「まぁこの子ったら、すっかりメレッタさんに夢中ね!」


(ちがいます、彼が夢中になってるのはレース編みです!)


 さすが赤をまといし王族、本気になったカディアンはアナ以上に手がつけられない。


 遠い目をしたメレッタはふと王太后の横にすわるリメラ王妃と目があった。困ったように眉をさげた王妃はため息をつき、彼女の手をとる。


「メレッタさん、いたらぬ息子ですがカディアンのことをよろしくお願いしますわね」


「は、はい?」


「わたくし息子のことをちっとも理解していなかったと、メレッタさんのおかげでようやく気づきましたわ」


「いえ、そんなことは」


(絶対ないですよ、リメラ王妃。私も理解してませんから!)


 そうメレッタは心のなかで叫んだ。


 彼がせっせと編んだ髪飾りはやがて王城の一室を占領し、将来それを美麗フォトでまとめた〝愛を伝える花飾り〟という超恥ずかしいタイトルの本が出版されることを、彼女はまだ知らない。

カディアンの〝愛を伝える花飾り〟、私も見てみたいです。

暑さもあり、熱中症だけでなく頭痛や胃腸炎を起こす人も増えてます。

みなさまご自愛くださいね!

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