352.衣装合わせ
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カーター副団長とオドゥが必死に宝石の合成をしている最中、わたしはメレッタの衣装合わせに王城の服飾部門へ呼びだされた。
服飾部門はニーナ&ミーナの店よりもずっと広く、王城スタッフの制服がずらりとならんでいた。
王族の衣装をあつかうところはさらにその奥にある部屋らしい。
わたしはなんとなくコスプレ写真館を思いだす。洋館に置いてある衣装を借りて、ちょっと素敵なティーセットや家具といっしょに写真を撮りまくるやつだ。
できたらドレスよりもピシッとした制服を借りて着てみたい。そんなことを考えながら部屋にはいると、先にきていたメレッタがわたしをみつけて元気よく声をあげた。
「ネリス師団長!」
「メレッタ元気そうだね、婚約おめでとう!」
メレッタは可愛らしく唇をとがらせる。
「ぜんぜんおめでたくないですよ……どうしてこうなっちゃったの?って感じです」
「そうなの?」
服に囲まれてメレッタは学園の勉強をしていたらしく、読んでいた魔道具の本を置いてため息をついた。
「私、本当にライガが作れればそれでいいんですもん。それまではカディアンにつきあうしかないかなって。婚約破棄ってどうやったらできると思います?」
「ええとごめん、やったことないからわかんない」
「ですよねぇ……」
二人そろって頭をひねっていると、白いドレスをトルソーごと抱えたカディアンとアナが製作室からでてきた。
「ほらメレッタ、ごらんなさいよ。殿下がデザインしたあなたのドレス、とっても素敵だわ!」
「メレッタは可愛いから、きっとこんなドレスも似合うと思ったんだ!」
メレッタがみるみる真っ赤になった。
「ちょっとカディアン!」
「ホントのことだ。もちろんいつも着ている紺のローブだって可愛いけど」
カディアンが甘い、甘すぎるぐらいに激甘だ。わたしがポカンとしていると、メレッタは両手で耳をおさえた。
「もうやめて、ホントだれかとめて!こんなの毎日ささやかれたらたまんない!」
「ごめんなさいねぇ、この子ったら照れているのよ」
アナがほほに手をあてておっとりというと、カディアンは切なそうに眉をさげた。
「毎日じゃない……メレッタに会えた日だけだ。きみはエンツをいやがるし」
「だーかーらー」
「それにクオードさんがいるときは、話しかけることも難しいし」
「ごめんなさいねぇ、あの人ったらすねているのよ」
アナがカディアンをなぐさめる横で、メレッタは呪文のようにブツブツといっている。
「ライガよ、ライガ……ライガのためなんだから!」
ええと……アナもメレッタもいつもどおりだね……。わたしを案内してくれた服飾部門長もニコニコしている。
「アーネスト陛下とリメラ王妃のお若い頃を思い出しますねぇ……ご成婚までは思うようにお会いになれないので、ここでお会いになるのがデートがわりというか、衣装合わせの際はいつもアーネスト陛下がピッタリとくっついておられました」
うわぁ、カエルの子だ……。
「カディアンがドレスのデザインをしたの?」
そう聞くと彼はうれしそうにこくりとうなずいた。
「本当はアナさんに考えてもらおうと思ったんだ。だけどアナさんから『自分のなかにイメージがあるならそれをやってみればいい』とすすめられて。メレッタの可愛らしさをひきだすためにはどうしたらいいかって必死に考えた」
「殿下がそこまでメレッタのことを考えてくださるなんて……私もうれしいですわ!」
アナが感動する横でカディアンはドレスのすそを持ちあげ、縫いつけられたレースにそっと触れた。
「生地はちょうどいいのがあったけど、レースは王城にあるストックだけでは物足りなくて、服飾部門長にも相談してサルカスから取り寄せたんだ」
「あらほんと。ちょっとみない細工ですわね!」
「植物をあしらった伝統的なものではなく、幾何学模様がメレッタにあうと思って。光にあたると直線的なデザインが浮かびあがるんだ。シンプルにみえてとても繊細な細工だから、アナさんも気にいってくれるだろうか」
「まあぁ……私のことまで!もちろんですとも!」
ドレスの説明がとまらないカディアンに、アナが瞳を潤ませてあいづちを打つ。彼らの真剣なようすにわたしは口をはさめなくて、メレッタにそっとささやいた。
「すごいねぇ……」
「ちがいますよ、私を着せ替え人形にして遊んでるんです。この二人、ずっとこんな調子!」
そういうとメレッタはまた呪文のようにブツブツと唱えた。
「ライガよ、ライガ……ライガのためなんだから!」
それから不安そうにわたしの顔をみた。
「でもどうしよう、このままいくと逃げられなくなりそうで怖いです」
いや、無理じゃないかなぁ……。スタッフのひとりがやってきて服飾部門長にささやくと、彼女はにっこりしてこちらに向き直った。
「ネリス師団長の御衣裳もご用意できました、合わせられますか?」
その言葉にようやくメレッタがいつもの元気をとりもどした。
「わ、ネリス師団長のドレス、楽しみです!でもいつもつけている仮面はお茶会では外すんですか?」
「うん……そうなるね」
カディアンとメレッタが婚約した日に研究棟にやってきたリメラ王妃は、わたしに王太后のお茶会への出席をうながした。
「メレッタさんといっしょにあなたのお披露目もしたいのです。そろそろ仮面をはずしてもいいのではなくて?」









