322.五番街、〝ニーナ&ミーナの店〟
お待たせしました!しっかり休養をとったおかげで副反応は吐き気と痛みぐらいですみました。
魔道具ギルドでのエピソードは他にも考えたのですが……。
〝秋の対抗戦〟への期待度が高いようなのでちょっと巻きでいきます。
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メロディは五番街にある〝ニーナ&ミーナの店〟にやってくるなりさけんだ。
「あああ、やっと終わった~」
「あらメロディ、臨時講師おつかれさま!」
その声を聞きつけ、きちんとまとめ髪にした黄緑の髪を、ひとすじだけ耳のわきに垂らしたニーナが店の奥から顔をのぞかせた。
「みんないる?トポロン買ってきたの」
「いいわね、お茶にしましょうか。ミーナもスターリャも休憩にしましょ」
ニーナに案内されてメロディが店の奥にはいると、黄緑の髪を頭のうえでお団子にしたミーナとラベンダー色の髪をショートカットにしたアイリがいた。
「メロディさん、いらしゃい!」
「これ差しいれね」
「わぁトポロン!ありがとうございます!」
メロディは三番街で買ったトポロンをアイリに渡すと、自分の指定席になっている椅子にいきおいよく座った。
「濃かったわ……ネリィはいるし王子様は婚約しちゃうし」
「あーいきなり発表されたわね。魔道具ギルドにも人が押しかけたりしたの?」
ミーナがテーブルを片づけると、アイリがお茶のしたくをしてトポロンを皿に盛りつける。
アイリが淹れるお茶は本当においしくて、ニーナとミーナはそれだけでも彼女を雇ってよかったと思っている。もちろんそれだけじゃないのだけれど。
「そうでもなかったわ、まだ学園生だったのが助かったわね……もしも卒業して成人されているユーティリス殿下だったら、とんでもない騒ぎになったかもしれないけれど」
「そうねぇ、王太子殿下だものね」
「でもメレッタ・カーターって……こないだ工房にきていた子よね?」
ニーナがうなずく横でミーナがおもわずアイリの顔をみると、彼女は静かにうなずいた。
「メレッタからエンツをもらいました。いいんじゃないかしら」
「アイリがよければいいんだけど……」
アイリは紅茶にミルクを注ぐと、注いだミルクがカップのなかでゆらりと形を変えて紅茶と混ざりあうのをしばらくながめた。
「カディアンの近くにいたときは気づかなかったけれど、離れてみるとなんだかあの二人しっくりくるな……と思えるんです」
「そう……」
メロディはお茶のはいったカップを手に、ふしぎそうな顔で店内をみまわした。
「夜会も終わったしドレス作りは落ち着いたと思ったんだけど……ずいぶん忙しそうね。七番街にある収納鞄の工房につめているのかと思ったらこっちなんだもの」
五番街の店は服を売るだけでなく、奥ではドレスのデザインや試着などができるようになっている。
そのため壁収納には布やリボン、レースなどが収納してあるのだが……製作中のドレスが何着もトルソーにかかり、布の切れ端なども散乱していて、お世辞にもかたづいているとはいえない状況だ。
「ああ、それね……」
疲れた顔をしたニーナがごくりと紅茶を飲むと、ふうぅ~と大きく息を吐きだしてため息をついた。
「……どうやらネリィのせいで、ウチの店にドレスの注文が殺到しているようなの」
「ネリィのせいって、あの子何かやらかしたの?」
メロディが首をかしげると、ミーナがめずらしく難しい顔をした。
「ん~なんていったらいいのかしら……夜会の後、アンガス公爵夫人から呼びだされたの。表向きはドレスの相談だったのだけど」
「すごいじゃない、〝アンガス公爵家の夜会〟といえば冬のはじまりを告げる大がかりなものだわ。ニーナが公爵夫人のドレスをつくるの?」
おどろいたメロディにミーナはうなずいた。
「ええそう、ニーナがつくることになったわ……それで私が公爵邸にうかがったら、公爵夫人の話はドレスの相談じゃなかったのよ」
「どういうこと?」
話がさっぱり飲みこめないメロディが首をかしげると、ミーナはちらりとニーナの顔をみてから話しだした。
「それが……公爵夫人には開口一番こういわれたの。『オーロラ色のドレスはあなたたちのお店で作られたものよね』って。私、肯定も否定もしなかったけど」
公爵夫人の御用聞きとはいえ、彼女本人が出入りの業者と話すことなどほとんどない……それなのにミーナはめずらしく屋敷の奥まで通され、待ちかまえていた彼女から質問攻めにあった。
「ねぇミーナ、オーロラ色のドレスはあなたたちのお店で作られたものよね、すそのしあげに特徴がありましたもの。灰色の地味なドレスが大広間の中央でいきなり輝いたかと思ったら、光の加減でピンク色にも薄紫にもみえるふしぎな色合いに染まって……本当に見事ですばらしかったわ!」
「オーロラ色のドレス……それを夜会でご覧になったのですか?」
意表をつかれたミーナはあいまいにほほ笑む。オーロラ色のドレスにさっぱり覚えはなかったが、灰色の地味なドレスといえばおそらくネリィが着たものだろう。
「あんなドレスがこの世にあるなんて……と、夜会に参加した皆さんの話題をさらいましたのよ。まるで〝月の精霊〟が〝夜の精霊〟に贈ったとされる蜘蛛の衣のよう……ねぇ、あれはどちらのご令嬢のために用意されたドレスですの?家名だけでも教えてくださらない?」
(……ネリィ!あなた夜会で何やったの⁉)
ミーナは内心あせりまくりながら、ほほ……と、精いっぱい上品な笑みを浮かべた。
「アンガス公爵夫人……他のお客様の情報は私どもの口からは申しあげられませんわ」
それを聞いたアンガス公爵夫人は、がっかりするどころか逆に目をかがやかせた。
「まぁ!やっぱり秘密なのね!そうでなくては!でなければレオポルド様もあなたたちに注文したりしないわよね」
「……はい?」
ミーナが思ってもいなかった名を口にして、アンガス公爵夫人は得意そうに扇をひろげてその奥からほほ笑んだ。
「まるで〝夜の精霊〟のために作られたような……あの美しいドレスを注文されたのはレオポルド・アルバーン魔術師団長、そうでしょう?」
一瞬、ミーナは表情をつくることを忘れ、そんなミーナの顔をみたアンガス公爵夫人はひとりで納得したらしい。
「いわなくてもよろしくてよ、レオポルド様の瞳は光の加減で微妙に色をかえますもの。大広間の中央でそのかたのドレスを、レオポルド様がオーロラ色に染めあげたときの美しさといったら……本当に神話の一場面ををみているようでしたわ!」
メロディが口をはさんだ。
「オーロラ色のドレス?ネリィのドレスは灰色だったんじゃ?」
ニーナが自信なさげにこたえた。
「あの布……私たちもはじめてあつかう布だからよく知らなかったけど……魔力で染めるらしいの」
「ウソでしょ!まさかアルバーン師団長がエスコートした〝夜の精霊〟って……」
目を丸くしたメロディにミーナが肩をすくめた。
店内に林立するトルソーに散らかった端切れ、書き散らされた服のデザイン画……夜会が終わってからなぜか店には注文が殺到し、一度はキャンセルした客さえも詫びて予約をとろうとする。
ニーナは悲鳴をあげさすがにミーナも手一杯で、工房で働いていたアイリに頼んで五番街の店も手伝ってもらうようにした。
「私たちにもさっぱりわからないんだけど……そんなわけでこの有様なのよ」
ニーナがヒロインの小編『キスから始まる婚約破棄』https://book1.adouzi.eu.org/n3779hk/より、時系列的には前なので女子たちはみんな王都にいます。本編にディンがでてくる予定はないです。
『魔術師の杖③ ネリアと二人の師団長』発売記念イラスト!
(画:よろづ先生)
わたしが悶えていた正面バージョンのラフ絵をカラーに仕上げてくださって……よろづ先生、本当にありがとうございます!
よろづ先生が描かれる〝蜘蛛の衣〟も楽しみすぎますが、それって多分5巻……まだ遠いなぁ(フラッ
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