277.メロディがいうところのしょうもない男
魔術師の杖シリーズ、本編のほかに以下のものがあります。
『魔術師の杖 登場人物紹介・詳細設定』
『魔術師の杖 設定資料・用語集』
『魔術師の杖外伝 王都の恋物語』本編8~9章あたりの出来事。
『魔術師の杖 短編集』季節イベントや本編のこぼれ話を時々。
『魔術師の猫 魔術師レオポルドと使い魔の猫』
「えっ、サージさん……ふつうの人でしたけど」
わたしはギルド一階の検査部門にいた、オレンジ色の髪がバクハツしていたサージ・バニスを思いだす。たしかにマイペースな人だったし、わたしも最初めんくらった。
けれど検査結果をまとめたものを見せてもらったら、彼は適当にやっていたわけでもなく、むしろ実習生二人のめんどうを見ながら、効率よく仕事を片づけている印象だった。
実習生なんて受けいれる側にしてみれば、正直いって足手まといでしかない。
それなのにサージはめんどくさがるでもなく嫌な顔ひとつせず、わたしたちを仕事に参加させてくれた。わたしたちも疲れたけれど、彼はわたしたち以上にいろいろなことに気を配っていたはずだ。
わたしとカルが壊した魔道具のなかに、壊れたりしたら本当に危ない魔道具はなかったのだから。
「メロディさんがしょうもないっていうぐらいだから、よっぽど女好きとか……それともギャンブル好きとか?」
「ちがうわよ。あいつ……私がまだ駆けだしの魔道具師だったころに、開発した新製品の魔道具をかたっぱしから壊したの!」
「あ……あの検査、メロディさんも受けたんですか」
メロディは拳をにぎりしめ、くやしそうに顔をゆがめた。
「それも二十よ。検査するにしても目の前でぶっこわして、『あ~こりゃダメだね』って……魔道具師にとって魔道具は、たとえ不良品でも大事な自分の子どもみたいなものなの。そこのところを全っ然わかってないんだから!」
ビルが苦笑しながら、トポロンがのった青い皿を差しだす。
「サージの検査を通らない魔道具は販売できないからな。だがメロディだってそこであきらめずに、ようやく二十一個目の〝噛みつく財布〟で、無事にあいつの検査を通ったじゃないか」
メロディはちいさく息をつくと、皿に盛られたトポロンに手をのばした。
「なんとか新製品を作りたかったのよ……お店の宣伝にもなるし。魔道具の修理だけだったら、どの魔道具師にたのんでもおなじだもの。パロウ魔道具の〝朝ごはん製造機〟ほどじゃなくても、〝メロディの魔道具店〟の看板商品を作りたかったの」
魔道具ギルドのある三番街には何軒もの魔道具店が建ちならんでいる。
三番街のはずれにあるメロディの店はお客さんでにぎわっていたけれど、店が軌道にのるまでには苦労があったのだろう。
わたしはトポロンをもしゃもしゃと食べるメロディにたずねた。
「でもそれのどこがしょうもない男なんですか?」
メロディは甘いトポロンを食べているとは思えないほど渋い顔をする。
「あいつ……ことごとく私の恋愛運をさげるのよ」
「恋愛運をさげる?」
「もともとあいつはトロくさくて、モノはしょっちゅうなくすし課題もよく忘れるし、おなじ学年だから私がわりと面倒みてたの。課題忘れられるとこっちも連帯責任だからよ。ホントそれだけだったんだから!」
「はぁ」
メロディはうっとりするような表情をした。
「私は学園では、ひとめぼれした先輩に思いきって告白したの。もぅ、ホントにカッコよくて優しくて素敵な人でね……それなのに相手はなんていったと思う?」
なんだかろくな結末じゃない気がするけれど、いちおう聞いてみる。
「……なんていわれたんですか?」
「『きみにはサージがいるだろう』ですって。なんでそこであいつがでてくるの!」
「なんででしょうね?」
メロディは頭をおさえて、はぁ~と大きくため息をついた。
「気づけば私たちの学年はみんなペアができあがっていて、残っていたのは私とサージだけだったの。それから何かとペア扱いなのよ……サージがさっさと彼女をつくればそんな誤解とけるはずなのに!」
「もしくはメロディさんが彼氏をつくるかですね……」
「それよ!」
メロディがさけんだので、わたしは飛びあがった。
「忘れもしないわ……二年前の秋祭りに私を誘ってくれた人がいたのよ!」
「ひゃいっ?あ、秋祭り……ですか?」
「魔道具店が軌道にのるまで毎日必死だった……そんな私にようやく訪れた恋のチャンスよ。ものすごぉく気合いをいれたわ」
メロディの表情が怒りに満ちたものにかわる。なんだろう……イヤな予感しかしない……。
「なのに秋祭り当日、サージがようやく発売までこぎつけたわたしの魔道具に欠陥があるって言いだして……なんと使った部品の一部が不良品だったのよ!」
「それは発売前に見つかって、よかったんじゃ?」
「そうなんだけど……ギルドで全部の品を調べなおしているうちに、秋祭りがおわっちゃったのよ!」
「あちゃあ~。でもそれはさすがに、サージさんのせいともいいきれないような……」
「あとから気づいてあわてて相手にエンツを送っても返事がなくて。疲れてたしお腹もすいたしおまけにフラれたしで、私泣きそうになったわ。そしたらサージのやつ、『じゃあかわりに僕と食事する?』っていったのよ!」
「いい話じゃないですか!」
「どこがよ!おことわりよ!そんなのサージと食事するために、わざわざオシャレしたみたいじゃないの!」
思いっきり否定したメロディをビルがなだめた。
「でもなぁ、そのぐらいで縁が切れるような相手じゃあ、そのときはうまくいったとしても長続きしなかったんじゃないか?」
そう言われてメロディは肩を落とした。
「わかってるわよ……サージにやつ当たりしてもしょうがないって。なんだかんだでサージとは腐れ縁なのよ。実習にやってきた魔術学園の子たちを見ると、私たちにもあんな頃があったなーって思うわ」
「サージさん、そんな悪い人でもなかったですけど」
わたしがそういうと、メロディは苦笑いした。
「言ったでしょ、私とサージは腐れ縁。どうにかなるなら学園時代にとっくになってるわよ。ネリィこそ……チャンスがあるなら勇気をださないとね」
「……うん」
トポロンは甘く、そしてビルの淹れてくれたコーヒーは、やはりほろ苦かった。
「ソラ、ただいま!」
「おかえりなさいませ、ネリア様」
居住区に戻ってきたわたしは、メロディにいわれたことをちょっとだけ考える。
「勇気をださないと……かぁ」
……とりあえずいまはサージからの宿題を片づけなきゃ。
わたしはプルプルと頭をふって、サージ・バニスに渡された袋をあけると、こわれた魔道具を取りだした。
なかからでてきたのはボールから二本の手が生えたような形の、〝シュルン〟という名のお掃除魔道具で、部屋においておくと散らかったものを集めては、もとの場所にしまってくれる便利グッズだ。
「みたところ欠けたり、割れたりもしていない……」
『この魔道具がこわれた原因をしらべて、修理してくること』
そういってサージ・バニスは、やりかただけひととおり教えてくれた。
魔道具をうごかすのは魔力……つまり魔素だ。魔道具が壊れた原因が魔道具そのものにあるのか、それとも使いかたによるのかを調べるには、魔道具に残っている魔素の痕跡をたどるらしい。
たぶん魔導回路を流れる魔素がどこかで滞っていて、うまく術式が働かないのだろう。
「単純な魔素不足なら苦労しないんだけどな」
サージに教わった魔法陣を展開し魔素の流れを可視化する。魔素の痕跡をたどり〝シュルン〟がうごかなくなっている原因をさがす。
痕跡をたどっていくと〝シュルン〟が物をつかむときに伸ばす腕のような部分に、負荷がかかりすぎていたようすがある。
「うん?重量オーバーなものをつかんだってことかしら……」
腕をうごかす部分の術式がぐちゃぐちゃに乱れていて、魔素を流そうとしてもうまく流れなくなっている。乱れた術式を書きなおすだけなら、わたしにもなんとかできそうだ。
慎重に術式を消して刻みなおし、そっと魔素を流せばブルルッと〝シュルン〟が震え、二本の腕がピンと伸びた。
「わっ!」
〝シュルン〟はぴょんっと跳ねて、机のうえにあったカップをつかむと、キッチンに持っていく。キッチンからヌーメリアの声がした。
「あら、〝シュルン〟……ソラ、これどうしたの?」
「それ、わたしが直したの。魔道具ギルドの宿題で……」
「まぁ、ネリアがもってかえってきたのですか?」
「うん。どうやら重たすぎるものを持ちあげようとしたみたい。修理はできたけど、こわれた原因も調べて報告しなきゃいけないんだ」
捕まえた〝シュルン〟を手に、魔道具ギルドでサージからだされた宿題の話をしたら、ヌーメリアは灰色の目をまたたいた。
「それなら……魔道具の記憶を見てみたらどうですか?」
「魔道具の……記憶?」
アンケート企画☆SSテーマ・オドゥ編☆
読者様とも双方向で楽しめる企画~ということで考えました!
カーター副団長にいつもこき使われている、さえない錬金術師オドゥ。彼には裏の顔もありそうで……。
投票は8/29に締切りました。
以下、Twitterでの投票もあわせた結果です。
1.やっぱりヒロイン!ネリアとの絡みが見たい!→5票
2.弟分(?)のユーリとのほほえましい(?)やりとりが見たい!→2票
3.マジ?レオポルドとの絡みが見たい……ですと?→11票
4.ライアスとの絡み!暴風がふき荒れる……かもしれない。→2票
結果は3番でした!294話にて、『オドゥとレオポルド(学園時代)』を掲載しました。
投票してくださったかたありがとうございました!









