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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第七章 ネリアとお城の舞踏会

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224.王立植物園 一層

明日5/21『魔術師の杖 錬金術師ネリア、師団長になる』発売です!

みなさまの応援、本当にありがとうございます!

「でも〝王立植物園〟って、魔術学園の生徒たちもよく植物採集にいくんでしょ?そんなに危険なとこなの?」


 今回はアレクも連れていくのに……薬草に興味があっただけだから、危険な場所と聞いてわたしはためらった。


 ヌーメリアが〝王立植物園〟のパンフレットをひろげる。


「危険は危険ですけれど……エクグラシア全土の植物が集められていて薬草の勉強や採集には欠かせません」


「エリアによってちがうんだ。植物園は階層ごとに気候別の五つの領域にわかれている。シャングリラ近郊の植物があつめられている一層は、マール川流域に生息する比較的おとなしい植物が多い。パパロッチェンの材料になるパパロスもここで採れるから、魔術学園の生徒たちもよく出入りする」


「一層って……何層まで……あ、五層って書いてある」


 パンフレットによると〝王立植物園〟は螺旋状の構造をしていて、ゆるやかなスロープをのぼるにつれて気候が変化する仕組みらしい。ライアスもパンフレットをのぞきこんで説明してくれた。


「二層がデーダス荒野やエレント砂漠などの乾燥地帯の植物、三層がカレンデュラやサルカスといった山岳地帯の植物だ。四層は北のアルバーン領の湖水地方を模していて、冷涼な気候でも育つ植物が主体だ」


「それじゃ王都にいながらにして、エクグラシア全土を巡れるようなものだね。やっぱりいってみたいよ、王立植物園!」


 勢いこんだわたしをみて、ライアスは目をみひらいた。


「そうか……ネリアが何に興味をもつのかわからず誘いにくかったが……考えてみればきみはデーダス荒野以外、ほとんど知らないんだったな」


「えっ、誘いにくい?」


 キョトンとすると、ライアスはすまなそうに眉をさげた。


「ええと、ちがうんだ……きみを喜ばせたくてつい考えすぎてしまって」


 わたしを……喜ばせたい?


 ライアスのセリフにわたしの顔がじわじわと赤くなる。


「あ、ありがとう。そういってもらえるだけでじゅうぶんだよ……」


「いや、そうではなく……」


 そんなわたしをみてライアスは困ったような顔をしたが、ふたたび顔をひきしめた。


「危険なのは最上階の五層で、植物の無法地帯ともいえる。サルジア国境の樹林地帯とおなじく、植物どうしがナワバリ争いをしていて好戦的だ」


 ライアスの説明をだまって聞いていたヴェリガンが口をひらいた。


「でも僕は……五層がいちばん好きだ。僕の故郷とおなじ植生で……天にむかって緑が勢いよく伸びていく」


「ヴェリガンの故郷には〝緑の魔女〟であるおばあさんが住んでいるんだっけ」


「うん……僕の両親はふつうに農園を営んでいるけれど……ばあちゃんは森の奥深くにいる。できれば五層まではいきたい……エクグラシアで薬草といえば樹林地帯だから」


 でもそこが一番危険だという……わたしの横で説明を受けていたアレクが、元気よく声をあげた。


「僕も五層までいきたい。ヴェリガンはそこで暮らしていたんでしょ?」


「うん……」


 ライアスが力強くうけあった。


「だいじょうぶだ、もうひとり助っ人をよんでおいた。王城での仕事をかたづけたらこちらで直接合流するといっていたから……そろそろくるだろう」


「助っ人?」


「こちらにみなさんお揃いです」


 そのときソラが師団長室に案内してやってきた人物をみて、わたしは目を丸くした。


「失礼する」


「オーランドさん⁉」


 あらわれたのは第二王子筆頭補佐官のオーランド・ゴールディホーン……ライアスの二つ上のお兄さんだ。彼はライアスと同じようにカーキ色の野戦服に身をつつみ、銀縁眼鏡のつるをくいっと持ちあげた。


「ネリス師団長が休日を利用して〝王立植物園〟の掃討に乗りだすとうかがったのでな……私もしばらく人間以外の相手をしていなかったので、訓練にはちょうどいいだろう。同行させていただく」


 ゴールディホーン兄弟が頼もしすぎる!


 そしてわたしが植物園の掃討をすることになってるけど、ただの見学だから!





 九番街は八番街の文教地区と十番街の貴族街にはさまれた区域で、〝王立植物園〟や〝王立魔獣園〟がある。


 そしてわたしとヴェリガンとアレク、ゴールディホーン兄弟の五名は〝王立植物園〟にやってきた。時刻は夕暮れどき……日没を迎えた世界はどんどん闇にしずんでいく。


 植物園の植物たちも光合成のできない夜は静かに眠りについている。


「こんな時期に見学者とは驚いたが……錬金術師団長であれば、不思議ではないのかもしれませんな」


 わたしたちを迎えた園長だという男性は、そういいながら入り口の鍵をあけた。


「では私はこれで帰ります。なかではご自由に……それでは失礼」


「どうも……」


 わたしたちが中にはいると園長は挨拶だけして扉をしめ鍵をかけて帰っていった。


「こんな時期って?」


「秋は実りの時期だから凶暴になる植物もいる。なるべく無傷で五層までいきたいが、危険だと感じたら無理せず研究棟に転移してくれ」


「うん、わかった」


 そっか、危険を感じたらいつでも転移で帰ればいいんだ……そう思うと気が楽になった。





 夜の植物園……緑がうっそうとしていて、葉っぱが不気味に揺れているのでは……と想像していたけれど、はいってみるとそんなことはなかった。


「うわぁ……きれい!」


 園内は光る夜光性のキノコや小さなヨルカズラの花がそこかしこにあって、その形を浮かびあがらせている。これはきっと昼間にみたらわからなかった。


 樹木がぼうっと光ってみえるのは、樹皮についているヒカリゴケという苔のせいらしい。ヒカリゴケはそのまま地面にもひろがり木の根元を照らしていた。


 蛍のように飛び交う夜光虫が、ヨルカズラの花にとまって羽を震わせながらジジジ……と鳴くと、光る花粉がばふっと煙のようにたちのぼる。


 花粉を浴びた夜光虫は体を光らせたまま他の花へと飛んでいき、受粉のなかだちをしていた。


「夜光虫は光れば光るほど、たくさんの蜜を吸う強い個体だとみなされるんだ。だから競うように花粉を浴びて、ヨルカズラの花も誘うように光る」


「へえぇ……」


 園内の通路には光る魔石タイルが敷かれ、足元がみえない……なんていうこともなく歩きやすい。


 灯りはないけれど植物は通路の両脇に植わっていて、みな名前が書かれた金属製のプレートをつけている。


「おもしろい!夜に植物園にくるなんて思いもしなかったけれど、ヴェリガンの研究室ともちがうんだね。夜にこんなに植物が光っているなんて……」


 わたしが感心しているとヴェリガンがボソボソと答えた。


「光るやつは……僕んとこには植えてない……寝にくいから」


 あ、そういう理由だったの……。

最後の参加者は、オーランドになりました。

そして園長の名前は考え中です。いい案があればお寄せください。

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