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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第六章 ネリアと人魚の王国

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161.人魚のドレスが気になります

ブクマ&評価ありがとうございます!

「ええ?グレンが『傀儡師』だったとして、なぜわたしが興味を持たれるの?」


「サルジアでは、『呪術師』もそうだけど、基本的に師が口伝で自分の弟子に術を伝えるんだ。魔術みたいな体系的な学問じゃないし、魔術学園みたいな学校もないんだよ」


 ということは……。


「グレンがもしも『傀儡師』だったら、わたしが『傀儡師』の術を受けついでいる……とみなされるってことね?うーん、それこそ違うと思うなぁ……そんなの教わってないもの」


「ほむ……皇帝を支えた『傀儡師』と『死霊使い』か……失われてよかった術じゃとおもうぞ?魂なき軍勢など、ドラゴンでもなければ対抗できんじゃろう」


「魂なき軍勢……」


 なんだか、聞くだけで不気味だ。


「……地上はせまいのに、いろいろと物騒なんだな。海の中じゃそんな争いないのに」


 だまって話を聞いていたカイが、水槽に揺蕩(たゆた)う色鮮やかなウミウシ達を眺めながらつぶやいた。


「海の生きものは、自分達の気にいった場所に住んで、食べたいものを食べる。だいじなのは環境が保たれることであって、ほかの生物が好む環境にまで、でしゃばりはしない」


 同意するように、ポーリンもうなずく。


「そうだねえ……海の中には多様な環境があるからこそ、それぞれの環境に適した生命が存在する。環境がかわれば滅びる種もいるが、繁栄する種もいて、変化に適応する新たな種もうまれ……結果的に生物の多様性は保たれる」


「ポーリンの専門はウミウシ?」


「ああ。こいつらが殻もないのに巻貝の一種だなんて信じられるかい?なにか考えているようにも見えないのに、草食もいれば肉食もいる……好みがハッキリしているんだ。環境に合わせてこれだけ多様な進化を遂げているんだから、いくら眺めていても見飽きないさね」


 ウブルグと話があいそうだ。専門分野はちがっても、研究所でうまくやってくれればいいな。


「ウミウシを飼育するのはむずかしいんでしょう?」


 わたしは水槽を見ながらたずねた。


「むずかしいというか、こいつらがこのむ環境を用意してやる必要があるんだ。カイがそういうのは得意でね、研究所の水槽の世話は彼にまかせてる。この辺の生き物については、泳ぎが得意なカイのほうが詳しいよ」


「カイは泳ぎが得意なの?そういえば地元の人なんだっけ」


『人魚の末裔』といわれる一族だってさっき聞いたなぁ……と思いだしながら聞くと、カイは水槽をみつめたまま、ぶっきらぼうに答えた。


「俺は……海流に乗ってやってくる生物の研究をしているから」


 ポーリンは研究所で暮らしているけれど、カイはマウナカイアビーチから通ってきており、研究所の休みの日は、ビーチで家族が経営する店の手伝いをしているらしい。


「ビーチで『人魚のドレス』を買うなら、カイの店に行っておやりよ。なかなかお洒落なものがそろっているよ」


「へぇ!カイのお店に、みんなで行ってもいい?」


 そうたずねると、カイはめんどくさそうに答えた。


「……ビーチの外れのせまくて古い店だ。ドレスだって年とったばあさんがひとりで縫っているだけだし……」


 あまり店にきて欲しくなさそうなカイのかわりに、ポーリンが説明してくれる。


「そのばあさんが、ドレス作りではいちばんのベテランでね。私も『人魚のドレス』の作りかたは知らないけれど、なんでも『人魚の鱗』を使うそうだ」


 人魚の鱗?


「……観光客がよろこびそうな話を盛ってるだけだ。人魚なんて……ただの伝説だ」


 それだけ言って、カイは部屋をでていった。初日にわたしに「もしかして人魚じゃないか」と聞いてきた本人が、「ただの伝説だ」と言うのが不思議な気がして、わたしは彼の背中を見送った。







 研究所の下の潮だまりでは、ヌーメリアがアレクやメレッタに、毒がある海の生き物について説明していた。海に入る前の予備知識として教えているようだ。


「海の生きものは、獲物を麻痺させて捕食するために神経毒を持つものがいるわ。ウミウシも毒を持っているの……綺麗でも手でふれないでね」


「どうやって毒を作るの?」


「ウミウシ自体が毒を作るのではなくて……毒を持ったクラゲを食べて、その毒を自分のものにするのよ。クラゲの毒は『刺胞』という入れものに入っていて……それごと自分の身体に取り込むの」


「あっ!ネリス師団長!」


 メレッタがわたしに気づいて手を振り、わたしもみんなのそばに近づいていく。


「ヌーメリア、カイのお店で『人魚のドレス』が買えるんだって。今度みんなで行ってみない?」


「まぁ!どこに行こうか迷っていたけれど、カイのお店があるんですか」


「うん、カイのおばあさんが作っているみたい」


 メレッタが目をかがやかせた。


「いいですね!マウナカイアビーチで『人魚のドレス』なんて……あこがれちゃう!」


「『人魚のドレス』って……水着とはちがうの?」


「そうですね……魔道具の一種です。見た目はあざやかなサマードレスのようですけど……水に入ると人魚になれるんです」


 人魚になれる⁉︎


「わたしもヌーメリアも人魚になるってこと?アレクは?」


「男の子のは腰巻風ですけど、ちゃんとありますよ」


 えっ、なにそれ!滅茶苦茶気になるじゃん!そばで日傘をさしてて椅子に座っていたアナ夫人が、のんびり提案する。


「そうねぇ……『人魚のドレス』は女の子たちだけで買いに行きましょうか。あんまり殿方に見せるものでもないでしょう?」


「それがいいですね。せまいお店らしいし」


 わたしが同意すると、アレクが心配そうに聞いてきた。


「僕は?」


「アレクは一緒でいいよ、それじゃ今度、カイがお休みの日に行ってみようか」


「賛成!」


 メレッタがうれしそうに手をたたいた。


「ねぇ、人魚ってほんとうにいるの?ドレスには『人魚の鱗』を使うって、さっきポーリンに聞いたんだけど」


「そう言われてますね……でも本物の『人魚』を見た人は実際にはいないと思いますよ。ドレスの作りかたが実際どうなのかは秘密らしいですし」


「あくまで『伝説』なんですよね!」


 カイは「ばあさんがひとりで縫ってる」と言っていたから、ドレスの製法をなにか知っているのかな。


「そういえば、『人魚のドレス』にもロマンチックな伝説があるんですよ!」


 メレッタがとっておきの情報を教えるようにささやいた。


「もともとは『人魚のドレス』って、人魚が人間の花嫁を迎えにくるときに、自分の鱗を縫いつけて用意した花嫁衣装なんですって!」


「花嫁衣裳……」


「人間と人魚の恋は、悲恋だったりハッピーエンドだったり、マウナカイアにはいろんな伝説があるらしいです」


「えっ、ホント?あとで教えて!」


 ウミウシの話も人魚の恋も、どっちの話も興味深い!






 研究所内に戻ると、カーター副団長がオドゥをどやしつけていた。


「オドゥ!その魔道具はお前が修理しろ!水槽の浄化をつかさどる術式が壊れている」


「はいはい、まったく人使いが荒いんだから……」


 オドゥだけでなく、ヴェリガンやカディアンまで、カーター副団長の指揮のもと、魔道具の修理にかりだされ、せっせと作業していた。


「ほむ……これでわしの研究もラクになるし、助かるのぅ」


「悪いね!こんなに錬金術師がやってくるなんて、研究所創設以来はじめてだからね!ついあれこれ頼んじゃって!あははは」


 ウブルグがヒゲをなでてうなずく横で、ポーリンが豪快に笑う。こわれて動かなくなっていた魔道具が修理され、彼女はご機嫌だ。


「かまわん。こわれた魔道具を見ると、ほうっておけない性分でな。カディアン、次はこれを直せ!」


 カーター副団長が、職業意識に燃えている。王子様をアゴで使うとニーナにいわれたわたしだけど、副団長だって気にしちゃいない。カディアンも汗をかきながら、まじめにやっている。


「やぁ師団長!なんなら、ウブルグの他にも活きのいいのを、二人ぐらい置いていってくれてもかまわないよ、あはは」


「活きのいいの……」


 ポーリンに言われておうむ返しにつぶやくと、顔を上げたオドゥと目が合った。


「ちょっとネリア、なんで僕を見るのさ」


「あ、ごめん」


 べつに他意はない……。

ありがとうございました!

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