第79話 致命的な相性と次元を越える銀色の流星(弟子は****)。
色々あったが、桜香と緋奈。特に緋奈との関係は今でも分からない。
距離感が掴めない。原因は色々と暗躍していた緋奈自身だけど、その件でも魔神の横やりがあって結局有耶無耶になった。それも二度もだ。
いい加減しつこいと思っていたが、まさか今度は人の妹を巻き込むとはな……。
「コノ害虫ガ……! 今度コソ終ワラセテヤル!」
「どうしてこんな周りくどい真似をしたと思ってるんだい? そんな君を待っていたからさ!」
仮面越しでも愉しげに笑う。クソ女の顔面を殴り潰してやる。
「さぁ見せてよ! 神々のチカラを!」
「……!」
笑いながら飛んで来る魔神の向かって、俺は銀時計の封を解いて銀色と黒色の玉が埋め込まれたブレスレットを呼び出す。
「『擬似・究極原初魔法』!」
「ッ──刃待て!」
「 『黙示録の記した書庫』……発動。“受け継ぐは──修羅の世界”!」
「刃!? 冷静になってください!」
壁のような暗黒の雷の隙間から焦った零さんとマドカの声が聞こえる。罠だと訴えているようだが、今更引き返せる訳がなかった。
「蹂躙シテヤル──【鬼神大災】ォォォォォォォオオオオオオオオッ!!」
暗黒の修羅となって魔神を迎え撃つ。種類は違うが、赤鬼の仮面が顔に覆われる。
鉤爪のガントレットの部分を魔力で形状変化。暗黒色の鋭利な鉤爪二本を手の甲に付けて殴り掛かった。
「ガァアアアアアアア!」
「ふふふはははははっ!」
死属性の『死滅の鐘』を乗せた一撃。
暗黒のオーラを纏った魔神の拳と激突し魔力を削り合って逸らされるが、本命は刃の方にある。
「『死滅させる牙』!」
「ぐっ! フ、フフフッッ……! 良いねぇ!」
手の甲に付けていた二枚の鋭利な刃が魔神の肉体を切り裂く。だが、水のように魔力と同化した奴の肉体は血を流さない。この現象は!
「魔力の一体化、同化か!」
「あの時とは違うんだよ?」
代わりに魔力の煙のように吹き出すので魔力を削る。『死滅させる牙』による鉤爪攻撃の連撃が魔神の肉体を少しずつ削っていくが本体まで通らない。
「その属性魔力は何度も受けたからねぇー。そう簡単には通さないよ?」
「っ、なら──」
ならば内部に鉤爪ごとガントレットを押し込み。死属性の魔力で体内から破壊を……と思ったところで。
「ッ!? 邪魔を……!」
「アハハハハハ!」
『極悪の傲慢者』の暗黒炎の壁が鉤爪を遮る。さらに太い鎖のように形を変えると俺の四肢に絡み付いて拘束。無防備な顔面に殴り掛かって来た。
「楽しいね! 本当に楽しいよ!」
「っ……フザケルナァァァァァアアアアアアア!」
『死滅の咆哮』。死属性が含まれた咆哮を至近距離で浴びせる。
「アハハハハ! 良い感じだ! もっと来なよ!」
「気色悪いなァァァァッ!」
だが、魔力と同化した肉体によって咆哮が受け流される。前回の戦いからより完璧な対策を立てて来たって事か!
「くすぐったいなぁー。もっと刺激的なのは無いのかい?」
「グッ!」
暗黒炎の縛りも強くて動けない。これが光や聖属性のタイプなら死属性で相殺出来るが。……マズイ、こちらの鬼神モードだと同属性に扱われて魔力によるダメージが薄い。近接戦が封じられると……。
「ふふふっ、さぁーて? 次はどうするんだい?」
「……決まってるだろが!」
ブレスレットを再度起動させる。本来は不可能であるが、【鬼神大災】と対極である師匠のスタイルは可能だ。
「“受け継ぐは魔導王の世界”!【原初ノ魔導王】ァァァァァァ!!」
解放された魔力によって黒色から銀色へ。
仮面も取り払われると銀の瞳と髪になり、真っ白なローブが羽織られる。
銀色の魔力が拘束していた暗黒炎の鎖をあっさり破壊する。魔力で生み出した銀色のロッドを構えて魔神を睨んでいると……。
「やっぱりそうなるよねぇ。認めたくないけど、君はやっぱりボクが最も否定したい存在その者だ」
残念そうに肩をすくめている。隙だらけに見えるが警戒を怠らない。
怒りを少しでも落ち着かせて意識の全てを魔神に注ごうとしたが……。
「だけど今回はそんな君が居てくれて本当に助かったよ。───素材集めの手間が省けた」
浮かんでいた塔が輝いた。
途端、俺が立っていた真下に巨大な魔法陣が生み出される。
「は?」
「貰うよ。君のチカラ」
「ッ──なんだこれは!?」
暗黒の魔法陣。魔王か魔神が使う物だろうか。魔法陣から飛び出した無数の鎖の所為でまた拘束されてしまった。
「いや、正確には魔導神のチカラだけどねぇ」
「こ、こんなもの!」
さっきよりも強い拘束系の魔法だ。無理やり片膝をつかされる。師匠の魔力で振り解こうとするが、感触のそれがまるで生き物みたいだ。見た目は漆黒の鎖だが、妙に体に張り付いて剥がせれる気がしない。しかも他者に毒な師匠の魔力を平然と喰らっており、容赦なく俺の魔力まで、吸……収……ッ!?
「無駄だよ。それは魔力は特に強くてねぇ。完全な神でない君じゃ解くのは困難だろう」
「……おい待てよ。この黒い鎖って……まさか『神ノ盾』の鎖なのか!?」
「あ、知ってたのかい? その通りだよ」
師匠が持っている『古代原初魔法』が一つ。
黒闇の蛇、無限に魔力を喰らう蛇の盾。最強の原初魔法の一つがどうして此処に!?
「あ、あり得ない……! これは師匠が持っている筈だ! 聖剣の欠片で再現した俺の神具とは桁外れの代物なんだぞ!?」
「再現じゃないよ。それを直に受けてる君が一番理解してるんじゃないかい?」
いくら魔神だからってコピー出来る筈がない。ッ……考えられるとしたら!
「……何処で手に入れた」
「報告じゃ……確かダンジョンの内部。魔導神が隠していた保管庫の中にあったと言ったかなぁ」
報告にあった保管場所から盗まれた魔法の件だ。というかそれしかないぞ!
「盗難にあった中に『古代原初魔法』があるなんて聞いてないぞ! あのクソ師匠!」
「ホウレンソウは大事にしないと。こうなるんだよ?」
暗黒の魔法陣から出現した鎖『神ノ盾』。とんでもない吸収スキルで俺が解放している師匠の魔力を喰い尽くしていく。
師匠の魔力は耐性の無い生き物にとっては取り過ぎれば死んでもおかしくない猛毒だが、今回奴が器として使っているのは塔そのもの。塔全体が魔道具であり師匠の神の魔力さえも吸収出来るように作られているんだ。
「ありがとう龍崎刃くん。君のお陰で欲しかった素材の魔力が簡単に手に入ったよ」
「っ、クソが……!」
そして一分も経たない内に師匠の【原初ノ魔導王】が解けてしまった。
「もう戦えそうにないけど。前回の事があるしねぇー。念の為に命が尽きるまで吸わせて貰うかな?」
髪も服装も元に戻る。それでも鎖から残りカスの魔力まで搾られる。意識が飛んで干からびそうだ。体力と気を代償に補おうとするが、吸収速度が早過ぎて間に合わっ──。
「ジィィィィンッ!!」
『斬』と漆黒の鎖が俺から斬り裂かれた。
俺が何してもビクともしなかったが、微かに見えた斬られた断面は綺麗で鮮やかだ。
「っ大丈夫か! しっかりしろジン!」
「トオ、ル、さん……」
同時に魔法陣も消える。一気に力が抜けて倒れそうになる俺を駆けつけたトオルさんが抱えてくれた。
魔力が喰われ過ぎて意識がヤバい。すぐに気でカバーしたいが、蛇の毒にでもやられたか痺れた感じで上手く気をコントロール出来ない。
「あれ、もう突破したんだ? 思ったより腕が立つ? 足止めのファフニールくんを結構強化したんだけどなー」
「テメェ……ブッた斬られる覚悟は出来てんだろうなァ?」
「ああ、そうか! 死神と四神使いが協力して無理やり突破したのか〜! そうだよね〜! 君みたいな守護者程度でボクが育てた魔王を倒せるわけないもんねぇー!」
「……!」
トオルさんは俺を片腕で抱えたまま一太刀。急接近して魔神を真っ二つにしようとしたが、軽やかにバク転して躱される。トオルさんの動きも速いが、やはり魔神の女の方が反射もスピードも上か。俺を抱えた状態じゃ絶対無理だ。
「無駄だって事が分からないかなぁ? それに一番欲しいのはゲットしたんだし。ボクらは──」
「ハァ? 何言ってんだテメェ? 此処に来て遂にボケたか?」
「……はぁ?」
呆れながら言う魔神に対して何を言っているんだとばかりに鼻で笑うトオルさん。え、狙ったんじゃないのか? 俺を抱えた状態じゃ無謀だと思ったけど、トオルさんの狙いは始めから別って事か?
「正直嫌だったが、こうなっちまったら仕方たねぇか」
「さっきから何を言ってるのかな?」
やや調子に乗った様子の魔神だったが、トオルさんの反応を見てさすがにイラっとした顔を見せる。殺気も飛ばして気分次第でトオルさんを亡き者にしてやろうと考えているみたいだ。
「オレが斬ったのはテメェーじゃねぇよ。ジンが捕まった時点で方針を変更した。いや、本来の方針に戻したってところだ」
しかし、トオルさんは注がれる冷たい殺気に全く怯まない。
なんでもない様子で剣先を魔神の横へ。徐々に上の方を指したところで不敵に笑った。
張られていた巨大な雷の壁が斬られて、その先にある透明な結界も斬られているみたいだが……もしや?
「オレやジンを覆っているテメェの雷。それとマドカが張っている隠蔽結界。それと魔術師のアイツが張っている結界。種類は全然違うが三種類の邪魔な壁があったわけだ」
「それが……なんだって言うのかなぁ? 邪魔だから憂さ晴らしに斬ったってこと?」
俺はその説明を聞いて無意識にトオルさんが何をしたのか理解した。
トオルさんは遠慮のない筋肉剣士だが、師匠の守護者の一人。師匠の命令は最優先に従う……と思う。
今回トオルさんは師匠の指示で加勢に来ていたが……本命は別にある。
「入り口が小さいとアイツでも移動しづらい。だから入り口を大きく開けてやったのさ。《《異次元の先にいる》》アイツの為にな!」
「!?」
ハッとした顔で魔神がトオルさんが向ける剣先の方角を睨む。
「こ、この気配は……!」
すると異変はすぐに発生する。三種類の壁が消えたずっと先の次元が突如……割れた。
「やっと追いついたぞォォォォォォォォォ!」
「やはり貴様は魔導神の……!」
「『ジーク・ウルトラ・スペシャル・デリシャス・マグナム・ダイナマイト・キィィィィィィック』ーーーッッ!!!!」
銀色の流れ星。じゃなくて銀髪の姿の師匠が飛んで来───は???
「ば、バカ待てジー……!?」
ゴン!!!!(*イメージはお任せします)
ライダーみたいな飛び蹴りの要領で魔神や魔王でもなく、馬鹿でかい空飛ぶ塔を蹴・り・飛・ば・し・や・が・っ・た。おいこら師匠さま。
「ふ、決まったな」
「って! 登場早々何してくれてんのォォォォォォォォ!?!?」
「お、トオルご苦労さーん」
「いや、ご苦労さんじゃねぇェェェェェェェェェェ!! アレどうすんだよっ!? アレェ!?」
塔がボーリングのピンみたいに倒れる。浮かんでいた機能が衝撃で途切れている。得意げな笑みを浮かべていたのに一瞬で青ざめたトオルさんが叫んでる。気持ちはよく分かります。
広場は俺たち以外誰もいないが、ここは街のど真ん中、ビルよりも高い位置にいる巨大物体が落下したらガチで地盤が割れるな。ていうか俺たちもピンチでは?
「知らんのかトオル? 勝負の定石はまず頭を取る事から始まる」
「始まった瞬間、絶望的な終わりが見えちまったわ! アアアアアアアアアっ! やっぱり手伝うんじゃなかったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
神と魔神が揃った事でカオスが生まれる。主に師匠の所為だけど。
魔力がカスカスで何も出来ない俺を他所に、何か戦いがトラブルメイカーな師匠の乱入で阿呆な方向へ進みそうであった。不安・大です。
あれ? いつの間にかシリアスが死んでる気が……
シリアス回だと思いました? 残念バク回突入です!
作品の方はバランス崩壊が限界突破しそうですが(笑)。




