第56話 刃とミコの愉快な暗躍的な六日間(弟子は意外と万能な使い魔(メタル君)にも容赦ない)。
全ての話は繋げる為に、一度話を戻そう。
具体的には初日、試験会場であるダンジョンの施設で荷造りをしていた際だ。
桜香にブツブツ言われながら軽装で準備を終えると……。
「ジ〜ン」
「ミコか」
尊ことミコが人懐っこい猫みたいに近付いて来た。……なんか桜香から苦手そうな声が聞こえたが、肩を組んで来たミコが悲しげだったのでそっちに意識が奪われた。ってどうした?
「どうして白坂なんかと〜?」
分かった。きっとアホな誤解が生んでるわ。
挙句付き合ってる疑惑まで浮上していたが、そこはバッサリと否定。桜花も激しく動揺しつつも否定したので……どうにかなったと思いたい。
その後、何故か俺の取り合いになって修羅場みたいな雰囲気になり、俺の脳内に多大な負荷を与える事になった。
「はぁ、頭いてぇー」
あらゆる角度からあらぬ誤解の大量発生。試験前からダメージが大きくてすぐさま離れようとするが、去り際にミコの制服のポケットに石ころサイズの『メタル君』の欠片を入れた。
「……!」
「……」
ミコも当然気付いていたが、俺が目配せすると大事そうにポケット越しに触れて頷いた。
『赤界竜王』のダンジョンに入った初日の夜。
「あー、あー、マイクテス、マイクテス」
『マジで繋がった』
分裂したメタル君の欠片を利用した通信。
予めメタル君をいくつかに分裂。空間魔法の中に隠して入り口の持ち物検査をクリアした。え、違反? バレなきゃセーフです。
そのうちの一つ小型の通信機を入れる。ミコに渡したのがそれだが、俺が持っているのとしか通信が出来ない。二つで一つの機器だ。
バッテリー問題があるので小型でも一週間は保つ。問題は階層ごとに魔道具でも無い限り一切の通信が出来ない点であるが、分裂させたメタル君が役になった。そもそも通信機はメタル君から取り出せないようにしてある。
「あれ、通信機って気づいたのか?」
『この石ころ? がオレが一人になった時に動いて地面で字を書いたんだよ。“我はボスの下僕のメタル君と申します! この中に通信機があるので無くさないでください!”って』
石ころでも意思は宿ったままだ。俺が持っているメタル君の欠片や大部分にも意思はそのまま残っている。
それがスライムのそもそもの特性かどうか知らない。分裂して暴れるスライムがいるのは知っているが、同じ自我かまでは分からないし、それ以前にちゃんとした自我があるかどうかも怪しい。俺が鍛えて進化したメタル君だけかもしれない。
そして学園のダンジョンで徹底機に調べていった結果。階層が違ってもメタル君の意識は階層を超えた分裂体とも繋がっている事を知った。
それはある種の電波と言える。試しにメタル君と通信機を合体。第一層の隠しエリアにいたマドカへ連絡したら見事に繋がった。細かな原理は分からんが、これに関しては本当に良い収穫だった。
その代わりスマホとか無理だった。トランシーバーでも可能であるが、メタル君が扱いづらそうにしていたので今回は小型のインカムにした。
バッテリーの件と盗聴の問題もあるので、聞きたそうにするミコには悪いが、細かな説明はなしでこの日は終えた。
だが、問題は翌日の夜。
ミコからの連絡で状況が大きく変わった。
「隆二さんと契約を交わしただと?」
『スマンっ! 実はそうなんだ』
どうも白坂のシスコン問題児様が密かに動いていたらしい。
本当は即決で拒否するつもりだったそうだが、向こうは咲耶姉さんの話を持ち出した。悩みに悩んだが、最終的に捕まえて引き渡すだけというのを絶対条件として、血を吐き出しそうな想いで承諾したそうだ。……本当に吐いてないよな?
『ただ、向こうも色々と用意してるみたいで、最終日までお前が残っていたらやる手筈なんだ。本当はその前に合流して話したかったんだが、向こうは学園とも協力関係にあるみたいで、もしかしたらバッジとかで……』
「位置が筒抜けかもな。……念の為に訊くが、バッジは?」
『着替え中でタオルとかで何重にも包んでるから盗聴の心配はないと思うが、今後はこの通信も気をつけた方がいいな』
ミコの言葉に俺も肯定する。俺のバッジはメタル君がオモチャにしてるので大丈夫。
テントの外で俺の姿をしたメタル君が火を起こしているが、バッジは何の警告音も発していない。一応心拍や血圧なども測られているが、今回のヤツは特別性だ。ちゃんとその辺りも複写出来ているようで良かった。
しかし、それでも気を付けなければならない。
万が一盗聴されていたら面倒だし、数分間であれば誤魔化すのも難しくないが、思わぬ形でバレるリスクもある。
三日目は連絡は無し。
四日目は藤原に仕掛けられた件もあり、ミコがキレ気味であったが、バッジを通してバレている気配はなかった。
五日目も特に何もなく、もしかしてこのままスムーズに終われるか? なんて思っていたのが良くなかったか。
地獄の六日目。
事前に知らされた情報にもない姫門学園の女子チームことアイドルチームの襲撃。あと双子。
藍沢と予期せぬ再会を果たしたが、結果として隆二さんだけじゃなく、妹の緋奈まで動いている可能性が高いと警戒を強めた。
いくら隆二さんでも単独で姫門の生徒まで動かせれるとは思えない。
緋奈が動いているならまさか桜香もか、とそちらも警戒したが、双子との対峙中、何故か鬼苑じゃなくて土御門にやられかけていたので、流石にそれはないかと助けた。
ミコの情報から土御門や西蓮寺、それに咲耶さんの参戦は隆二さんの影響だと分かる。卒業生という事や名家である白坂の立場もあるが、親父と同じ警務部隊の隊長である事もそうだろう。
警務部隊の隊長だけあって色々とダンジョンに関する物品などの融通が利く。
元の管理者は龍崎であるが、その後は土御門や白坂など色んな魔法名家が共同で担当する事が増えていった。
問題児な俺の存在も大きかったと思うが、学園側が色々と手を貸した理由はその辺りも関係していると考えるべきだ。
学園が手を組んでいるなら隠蔽もあり得る。ならそれも捻じ伏せる確かな証拠が欲しい。
仮にここで正面から隆二さんを撃退したとしても、また仕掛けて来ない保証はない。シスコンだから来る可能性が高いと思った方がいい。
その場合、今度は問答無用な裏工作をして俺を学園から追い払う、なんて馬鹿げた手段をしてくるかもしれない。冗談かと思うが、妹の為だけにあの男は平気でやる。妹が関わってない場合は有能なのに……。
「だからって薬まで使うか? はぁ、あのシスコンには困ったもんだ」
「同感だが、普通に喋ってて大丈夫なのか? 盗聴の心配はないって言ってたが、もし聞かれてたらアウトだぞ? 正直異世界の話よりもこっちの話の方がマズイと思うし……」
「心配ない。連絡が取れた時点で確信した。位置の方も怪しいが、盗聴の方はまずしてない」
六日目が終わった就寝後、正確には二時間の仮眠後からミコが隆二さんに連絡した後の事だ。
宿に入った時点で盗聴の心配ないと伝えた上で、過去の異世界の関する話をミコに打ち明ける。
「罠を仕掛けていた。四日目に藤原に襲撃を受けた時から」
「え?」
戸惑いながらミコは盗聴を心配した様子だが、俺の言葉を聞いて不思議そうに首を傾げていた。
そんなミコに笑みで返すと俺はパチンと指を鳴らす。すると何もない空間から──。
『はろー』
「は、はろー?」
真っ黒なコスと髑髏マスクを付けた少女の登場するが、実は護衛のために隠れて貰っていた。
ポケ〜とした顔(半分髑髏)で、にぱーとした笑みで背中から俺に抱き付いてくる。
「『夜夢の悪魔』のルゥ。こいつは戦闘能力は低いが、魔力と五感から相手の精神へ侵入する特殊な幻術を得意とする召喚獣だ」
『ルゥだよー。よろしくねぇー』
「お、おお……」
能天気な感じのルゥは手を振い戸惑いながらミコも応じる。
初対面としては良い感じだ。いつもお利口という訳じゃないので、脱線する前に呼び出した理由とさっきまでのミコの疑問を解こう。
「二日目の話を聞かれたと考慮して、三日目は一切の連絡を絶った。二日目同様に点数稼ぎに集中した」
そしたら四日目、藤原の固有術式によるトラップと配下のチームが包囲して来た。
最終的には振り切ってルゥの力で返り討ちにしたが、隆二さんの話をミコから聞いていた俺は藤原が刺客として来た可能性があると……注意をして保険を掛ける。
「さっき言ったようにルゥは五感を通して相手を幻術に嵌める。そこで俺は四日目、お前に連絡を取った際、実はルゥを召喚してバッジを付けたまま連絡を取った」
「え、え!?」
するとどうなるか。
スキルによる『同調融合』程ではないが、ルゥ曰く声による幻術が行えるそうだ。
「安心しろ。お前が聞いても問題ないように調整してある」
「でも良い気はしないんだが……」
「けどそれで危険は解けた。もし聞いていたのなら無事じゃ済まない」
「一体何を聞かせたぁぁぁぁー!?」
勿論聞いたのが本人でない可能性もあるが、それならそれで別のアクションが必ず起きていた。
けど何も起きず予想外の姫門の生徒たちが介入はあったが、予想通り二年三年たちが仕掛けて来た。
「まぁよく考えたら学園側が全部黒の線はそもそも薄い。あるとしたら上層部の一部だろう。だとすれば監視の方も一週間ずっとは難しいな。交代しないいけないし、露骨に監視の目を強めたら何も知らない教員に不審がられる筈だ」
「証拠もないのにそこまで推測して大丈夫なのか? 確かに隆二さんの声だけで全部黒なるっていうのはちょっと無理があると思ってたが」
「そもそも完全に掌握してるなら俺の成績だって操作出来る。学園に相応しくない学生として正当に追い出せばいい。試験を便乗したのなら魔物を倒してもポイントが入らないようすればいい。何を言っても所詮普通科の生徒だからな」
「あー、所詮普通科って言っても……お前の場合もう普通の学生じゃないって前の一件でバレてるぞ……?」
もし学園の全部が黒で掌握されているなら、これはもう試験ではない。
試練として利用している我が家のマドカ先生が敗北確定ルートを許すとは思えない。
立場を破ってでもマドカなら絶対に黙ってない。脳裏で死の闇で崩壊する学園がチラリと浮かんで、ブルっと肩が震えた。
「っ、とにかく向こうは気付いてないと考えていい。ならこっちはお前が結ばされた契約の方を何とかする」
「何とかってまさか自分から捕まる気か? 言っておくが、渡された拘束鎖は本物だぞ?」
まず契約を遂行すべきと判断した俺に対して、ミコが鎖を見せながら忠告する。
魔力を封じる拘束具らしく、魔法政府機関や警務部隊でしか手に入らないと言われている素材も頑丈な鎖らしいが……。
「まぁそれで拘束されてもあまり意味ないが」
試してみないと分からないが、今回は替え玉を使えば大丈夫だろう。
「メタル君のスキルと俺の魔法を合わせれば、俺の分身を作れる。契約では俺の拘束と引き渡しが絶対とあるが、俺の分身は俺自身だ」
「スマン。どういう意味だ?」
困惑するミコから粉状の薬入れを受け取る。
「“戻れ”──『ルゥ』」
『ふぁーい』
ルゥを帰還させてメタル君を召喚魔法で喚び出す。
「“来い”──『メタル君』」
すると地面にあの世界の魔法陣が発生。
体積が二メートル近くある銀色の液体金属が出現した。
「これがメタル君だ」
「これで全部なのか?」
「学園ダンジョンに少し残してあるが、殆どはこっちに付けておいた」
実際目で分かる大きさはアテにならない。メタル君の総量は既にこの四倍は大きくなっている筈だ。
宿だと俺の邪魔になるから気を遣ったんだろう。
「化けるぞ」
『(ピュイ!)』
動きや雰囲気から承諾の気配を感じたので、俺は師匠から受け取ったあちらの世界の魔法『原初魔法』を使用する。
メタル君も『形態変化』のスキルを使用して、形状を俺の形に合わせていく。もう慣れた様子で色までは変化できないが、形だけは完全に俺の姿をしている。
「仕上げだ」
師匠から受け取った『冒険家の秘密道具』の二つ。
『二番目の仮面』
『授けし魔術師の魂』
姿をより俺に似せるが、今回は前の時よりも精度を上げる。
融合スキルの新たな領域を解放する。
「第三権能───『原初融合』」
本来混じり合わせてはならない。
師匠だけに許された二種類の原初魔法を……。
「『奇術師の仮面』」
一つにした。
「薬を飲ませて拘束具も付けてある。契約の方はこれで誤魔化せれるだろう」
「正直本当にイケるか不安だぞ友よ……」
「ダイジョウブ、イケルイケル」
「なんかカタコト! ヤベェやっぱ超不安っ!」
なんてやり取りをしたのが、隆二さんと合流する前の事。
「あ、ジン。入れ替わるのは分かったけどよ。こっちに付けたバッジはどうするんだ? これでお前を居場所は騙せるけど、回収するの結構大変じゃ」
「ああ、壊していい。メタル君を起爆剤に使う予定だったし、合図ついでにそれも破壊しようかー」
「……今さらっと使い魔を爆弾扱いしたが、それは言葉のアヤだよな?」
なんかミコがドン引きした感じで言ってきたが、俺は笑顔で返すと固まった。
「さぁ、行くぞー。あ、双子の方にも教えようか。去り際に一応連絡手段は残して置いたんだ。あっちも勝負を邪魔されて苛立ってたみたいだし、鬼苑も優等生の藤原チームを落とせれるって伝えればきっと乗るよな」
「……やっぱヤベェーわ」
長々と続いたが、要するに…………こんな感じだ。
なんか親友から策略悪役キャラ扱いを受けた気がするが、以上が初日から今日の深夜までに行われた──俺とミコとの愉快な暗躍話である。
うん、周りくどいですね! 反省してます!
なんかうまい感じで回したかったのですが、途中色々あってこんな感じになりました!
正直にいうと途中から面倒になって、色々伏線無視して突っ切ろうとしてました。やっぱり準備は大事ですね。何年経っても反省が尽きません。
あと、さらっと融合スキルの第三権能が公開されました。
と言っても効果は名前の通り原初魔法同士の融合なので、意外と使う機会が少ないかも? 主人公攻撃系の原初魔法とかあんまりないから。




