第45話 最悪な双子の奇襲(弟子はブレイドだった)。
春野たちは第三層の門番を倒して第四層へ到達した。数分かつ無傷で。
「どうしてアタシたちを助けたわけ?」
春野と霧島の二人だけならこれほど早く、さらに無傷の突破などあり得なかった。
訝しげに問い掛ける霧島の相手──彼女らの協力がなかったら不可能であった。
「あなた達には何一つ得なんてないよね? いったいどういうつもりなの───ルールブさん?」
サラ・S・ルールブ(双子の姉)。
リサ・S・ルールブ(双子の妹)。
霧島に続いて春野が金髪の双子に問う。普段見せる笑みはなく、注意深く観察する目と緊張した表情をしている。少しでも読み取られない努めているようだが、筒抜けである。
「怖がらなくていい」
「あなた達に興味ないから」
淡々と双子は答える。無表情というか真顔。警戒している春野達に対して、不快感、苛立ちなどを一切感じておらず、何でもないと警戒が無駄だとアピールする。
それは事実であった。四層へ続く門を守っていた門番は、春野たちが相手した二体よりも強敵。それを双子は数分で無傷、しかも疲れた様子もまったく見せず勝利している。
「興味ない?」
「あなた達は別に脅威でも何でもない」
「恨みもないし、敵対する理由が皆無」
格が違い過ぎる。学園では鬼苑や白坂と同じAランクとなっているが、明らかにそれ以上。Sランクも超えてSSランクに匹敵してもおかしくない。
「私たちも四層に用があった」
「目指した門番の前にあなた達がいただけ」
双子は顔を向けて視線を合わせる。
「「ただ回り道が面倒だった。理由はそれだけ」」
言い終えてもう用はないと言わんばかりに先へ進む。目的の場所がまだ先にある。こんなところでモタモタしている暇は双子にはなかった。
だから双子の後ろをついて来ようとする二人にも一切振り返らず、皆の共通の目的である彼がいる場所へ急いだ。
『黒き秘密箱』を解除すると、中で囚われていた未央がグッタリとした様子で倒れて来た。
敵だけどスルーは流石に可哀想だと思ったので、反撃に注意しながら抱き止めたが、力全く入っていない。すっかり戦闘不能になっていた。
「終わりだ。君も、チームもな」
「そう、みたいですね」
閉じ込めた未央を箱から出した時には、追い付いて来た他の『星々の使い魔』のメンバーも片付いていた。
追い付いた時はこの箱を見て、何か悟ったように激昂したが(アイドルがキレると超怖い)、全員気絶しており俺の『一体化』や『魔力・融合化』も解除していた。倦怠感と一時的な魔力消耗でちょっとフラつく。
「属性強化のスキルですか? 魔力自体はそんなに大きくなかったのに、纏っている属性だけ別の何かに感じました」
「近いが、致命的に惜しい。強化みたいな事はしているが、それがメインじゃない」
融合スキルの第二権能だけでは、『一体化』まで辿り着けない。
火、水、風、雷、土、そして光と闇の七属性に影響を与える派生属性の【天地】を合わせる事で、初めてSランク技法の領域に辿り着ける事ができた。
その分、疲れるし魔力もキツいけど、『魔力・融合化』で十分フォローが可能になった。
「諦めてもらうよ、未央」
「いや、だと言ったら?」
「そちらの襲撃、明らかに試験のルールに逸脱して計画的でした。戦闘エリア解禁前から既に待ち伏せ、禁止されていたテント内の俺への攻撃。集団による過剰攻撃、そして奥義魔法と過剰な暴力行為……免罪符があるとは思えませんが?」
まぁ、あるんだろうな。でなければ彼女たちはこの場にいない。
いきなりの登場と攻防でそこまで頭が回っていなかったが、終わって見てなんとなく理解した。
「確かに禁止行為ばかりでしょうが、確かな証拠があると思いますか?」
「普通ならバッジ分かるだろうな。学園側が裏切ってなければ」
「……」
倒れる彼女は残念そうに俯く。当たりか。なるほど、そう来たか。
「よろしい。ならば全面戦争だ」
「え、ええええ!?」
「冗談です」
一度言ってみたかった。珍しくギョッと悲鳴みたいな声を出したからすぐ訂正したけど。
「本気にした?」
「そ、そういう事を言う人じゃなかったので……」
だよね。自分でもそう思う。何でだろうか…………きっと師匠たちの影響か。
「どうでもいいや。彼女たち、任せていいか?」
追撃なんてもうないだろうが、このまま放置するのもちょっとと思っていたところだ。
閉じ込めていた未央が気絶していなかったのがラッキーだった。
「もう何も出来ません。貴方が行ったら通信で教員の方々に来てもらうので、先行っても大丈夫です」
「諦めないんじゃなかったのか?」
「今のところは、何も出来ませんので」
少し揶揄ってみたが、反応に悔しさは見られなかった。
何か疲れたような様子だ。マドカの情報通りならバックに緋奈がいるのは間違いないと思うが……。
「お互い苦労しやすいタイプのようだな」
「……貴方は自らその道に進んでいるのでは? しかも極めて険しくて、誰もが諦める筈の道を」
神崎以降の俺を知らない未央でもそう思ってしまう。それくらい今の俺のポジションは異常という事か。
「そうだな。否定しない。超キツいよ」
「でしたらなぜ?」
何故、そう言われると色々ある。
転移が切っ掛けと思われそうだが、厳密には複数の偶然が重なっている。
少量の魔力体質、神崎家からの追放、竜崎家、転移、師匠……そして無意識に自分の中で眠っているソレを意識した。
「色んな出会いがあった。だからこんな道を進んでもいいと思うようになった」
「出会い……それは貴方をそんなふうに強くした者達の───っ!」
「……!」
気付いたのは殆ど同時だ。咄嗟に未央を庇うように移動して、とんでもない魔力がした方向を見つめた。
「刃君……」
「立てるなら仲間を守れ」
心配そうな声音の未央を背中越しで受け止める。当分は無理そうだが言っておくと、猛烈な速度で駆けてくるそれらを目視した。……一度目をつぶった。
「…………」
「刃君?」
今度は不思議そうな声音。……ノーコメントでお願いします。
つぶっていた瞳を開ける。それらはもうすぐ近くまで来て……。
「「見つけた───ブレイド」」
そんな呼び方を知っているのは、あの世界の住人しかいない。殆ど定着してないと思ったけど、どうやらダンジョン外では結構広まっていたらしい。
特徴的な金髪の双子。スタイルは割とスレンダーで背丈はやや低め。無表情なマドカとか違う。仏頂面で怒っているように見える。……実際に怒ってるのかも。
「見つかったか」
「「覚悟しろニセモノ」」
やっぱり怒ってるな。双子は装備していた槍と剣を構える。全身の魔力が殺気立って『身体強化』の魔法を発動させた。
属性は水と風だ。
「勝負の前に訊きたい。偽者とは、どういう意味だ?」
逃げるのは不可能だ。未央たちに続けて連戦になるが、いま戦闘不能になる訳にはいかない。時間を少しでも稼ぎたいところだが。
「シルバー・アイズの弟子」
「全世界最強の魔法使い。魔導王の後継者は───貴方ではない」
殺気がいっそう増した。これは危険だ……!
「「貴方であっていい筈がない。だから後継者の証を渡せ」」
「っ!」
消耗していた集中力を無理やり引き上げた。
減っていた魔力も気の回復力で体力から補填。この回復回数には限界と反動もあるが、なりふり構っていられない。全快状態まで魔力量を戻した。
「融合!『身体強化』!」
そして『魔力・融合化』、身体強化の魔法を使用。
両手に魔力で構成された二刀を構えて、双子を対峙するが……。
「「ふっ!」」
双子の動きは騎士のように綺麗で速かった。不意に視界から消えた。
学生のレベルを遥かに超えており、異世界の特殊な歩行だろう。一瞬で俺の間近まで急接近した二人の武器攻撃を──。
「ッッッ!」
速さスタイルの“風魔”に変更して無理やり躱した。
そのまま後方へ素早く跳んで一旦逃げる。『天地』で風を操作してさらに逃走しようとするが、二つの巨大な魔力があっさり俺に追い付いた。
「遅い」
「その程度?」
未央の時と違うのは、特別な事をしてない事だ。
純粋な身体強化の速力と魔力を合わせた歩行術。一歩で遠くまで跳べる。師匠の歩行技法の一つ『跳び兎』だ。
「師匠の技を……」
「「融合」」
俺との間合いを詰めた双子はお互いの剣と槍をクロスした。
俺のスキルとは違う。Sランク技法の融合を使用して纏っている水と風を一つにした。
「「『雲海竜の暴風』」」
「──ッ!」
咄嗟に魔法陣の障壁を出せたが、ほぼ紙装甲であった。
「グ、アアアァァァッ」
ここに来て初めてダメージを負った。しかもかなり重い。
「頑丈な体」
「鬼神の因子か」
双子にとって想定内だった。
もう一度クロスさせると新たな融合魔法を解き放った。
「「『雲海星の一閃』」」
剣と槍の先から放たれた薄水色の斬撃が頑丈な俺の体を斬り付ける。
「うっ!」
肩から腹にかけて血飛沫が上がってしまった。
あっという間に2月が終わる。
予定通りになりません。寒いせいか眠気が増して大変(汗)。
遅くはなりますが、頑張っていきまーす。




