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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第四章 ニザ公国編
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第九十九話  ドワーフ工房の見学

目が覚めると、シーツの波間に俺はいた。前日は、頑張りすぎた。あんなに濃厚な夜は初めてだった。それから数時間しかたっていないため、まだ気だるい。のろのろと体を起こすと、シーツの波の向こう側にメイの姿が見えた。


「おはようごさいます。ご主人様」


メイも気だるそうだ。虚ろな目でキョロキョロと周りを確認している。なぜベッドのシーツがこんなにもぐちゃぐちゃになっているのかが不思議なようだ。そして、昨日のことを思い出したのか、ハッとした表情を浮かべて、うつ伏せになって恥ずかしそうに顔を伏せる。


「おはよう、メイ」


朝日に照らし出されたメイの背中がキレイだ。


「メイは、背中もお尻も、きれいなんだな」


俺はうつ伏せのメイの傍に寄る。


「ご主人様・・・アッ、そこは・・・そんなとこ・・・イヤッ・・・ふうっ・・・アッ・・・」


シーツを思いっきりつかんで、声を殺すメイ。体が波打っている。


「メイは・・・ここか?これがいいんだな?」


「ああっ!アハッ!・・・リコ様が、転移してこられますぅ・・・」


「朝食はいらないって言わなかったのか?」


「一応・・・アッ・・・朝食を・・・もって・・・クッ・・・行くと」


リコが転移してきたとしても、俺はまだまだ止める気はない。



「おはようございます、リノス。メイ。朝食を持ってきましたわ。まあ、何ですか、二人して裸で。早く服をお着替えなさいな」


俺がメイの背中を指圧している姿を、ちょうど転移してきたリコに見られてしまった。仕方がないので、俺たちはテキパキと服を着る。


「やっぱり、リコとペーリスが作った朝食が一番おいしいな」


王宮の侍女に朝食はいらないと告げ、メイと二人で朝食をとる。サンドイッチとサラダとスープというシンプルなものだが、サンドイッチはいくつかの種類があり、スープも野菜たっぷりの健康スープだ。


「メイ、今日の予定はどうなんだ?」


「今日は午前中に王宮薬師のウーセン様と、今後について打ち合わせをするくらいです。お昼から時間があれば、ドワーフの工房を見に行こうかと思っています」


「そうか。俺もポーセハイたちのことをユーリー宰相と決めなきゃいけないんだ。午前中で終わるだろうから、昼から俺も一緒にドワーフの工房を見に行ってもいいか?」


「もちろんです!」


朝食を終え、俺たちは部屋を出る。ポーセハイの処遇については、早速にクルムファル領に護送することになった。俺はクルムファルに転移し、リコに相談する。


「わかりましたわ。それでしたら、各農村と漁村に、ポーセハイを数名ずつあずかってもらうといいのですわ。ホテルクルムファルの近くにある結界村も、かなり空きが出ています。残りはそこに収容すればいいのですわ」


「ではリコレット様、その結界村の管理は私が行いましょう」


名乗り出たのはピウスだった。


「うん?軍関係の仕事はいいのか?」


「クノゲンに任せておけば全てことが足ります。私よりもクノゲンの方が向いています。どちらかというと私も、回復魔法や薬草類に興味があったので、彼らと打ち解けることができれば、そこで学びたいと思います」


「わかった。よろしく頼む」


リコとピウスたちの迅速な準備により、ポーセハイたちは明日から受入れができる体制が整ってしまった。これにはさすがのユーリー宰相も、ドワーフ王も舌を巻いていた。


「バーサーム侯爵は迅速さが、他の者とは群を抜いているな」


「まったくでございます。我々も見習わねばなりません」


「ところで、ウーセンからメイリアス殿が工房を見に行かれると聞いた。ならばニカンガの工房に行くとよい。奴は儂の古くからの弟子でな。技術はドワーフでも五指に入る」


「しかし国王様、ニカンガ殿は・・・」


「見るだけなら問題ないであろう。川を渡らねばならんが、行く価値はある。きっとヤツの鍛冶を見れば、メイリアス殿のことだ、自分も打ってみたくなるだろう。儂の金槌を持っていくがいい」


俺は金槌と紹介状を手に部屋に帰ると、メイは既に帰って来ていた。早速国王様からの話について相談する。


「ニカンガ様のお話は聞いたことがあります。ぜひ、行ってみたいです!」


目を輝かせながら返事をするメイにちょっと萌えながら、俺たちは早速工房に向かうことにした。



ルニホンは齢250歳になろうかという老ドワーフである。若い頃はその卓越した技術力で様々な製品を生み出し、ドワーフ族始まって以来の天才と言われた男である。現・ドワーフ王も、このルニホンが手ほどきをしたほどだ。しかし、最近は耳が遠くなってきたこともあり、一線を退き、悠々自適の隠居生活に入っている。


このルニホンの日課は、毎日の散歩である。雨の日も風の日も、この川べりをゆっくりと歩き、季節の移り変わりを感じるのが何よりの楽しみになっている。


この日も川べりを散歩していると、向こう岸から見慣れない二人の人間が目に入った。



「ご主人様、川がありました」


「ええと・・・橋はずいぶん先にあるんだな。この川を渡った方が早いな。しかしこの川の深さはどのくらいかな?」


「そうですね・・・あっ、向こう岸に人がいますね。あの方に聞いてみましょうか?」


「そうだな。・・・おーーーい!すみませんが、この川の深さはどのくらいですかーー!」


「・・・何だ?向こう岸から人間が何か言ってやがる。・・・耳が遠いから聞こえん。おーーい!儂は耳が遠いから聞こえんのじゃ!他の人に聞いてくれぃ!!」


「・・・何か教えてくれてるみたいなんだけどな~。よくわからないな。・・・すみませーん!教えていただいてますが、ちょっと聞き取れませーん!!膝か、腰か、どのくらい深いか教えてもらえませんかーー!!」


「・・・野郎、まだ何か言ってやがる」


ルニホンは耳に指をさして大声で答える。


「儂ぁ、耳が聞こえんのだ!!!!」


「・・・そんなに深いのなら、渡れないな」



やっとの思いで、俺たちはニカンガの工房に着いた。思ったより大規模な工房で、いくつもの部屋がある。俺たちが通されたのはいわゆる「空き工房」のような部屋であり、そこには古ぼけた机の他に、色々な道具が壁に掛けられていた。


「ようこそお越しくださいました。ここは公国が設立した鍛冶工房です。私は、ここの管理を任されております、ナルニと言います。ニカンガ殿は今、精錬の真っ最中で手が離せないとのことです。まずは、私の工房からご覧になりますか?」


「是非、お願いします」


案内されたナルニの工房は様々な鉱石を溶かし、棒状に作り上げていく工程を担当するところだった。色々な鉱石を溶かすのにあたっての工夫などを説明してもらったが、俺にはチンプンカンプンだった。メイの方は目を輝かせて聞いていたので、これはこれでよかったのだろう。


そのうち、ニカンガの手が空いたという知らせがあった。


「では、ニカンガ殿の工房にご案内します。彼は鉱石の精錬から精製まで得意にしています。これから生成に入るようですので、もしよければメイリアス殿も何か作られてもいいかもしれませんね」


「ありがとうございます!」


ニカンガの工房は狭く、しかもかなり高温とのことだったので俺は遠慮し、この部屋で待つことにした。その間は、この工房で作られた製品を眺めながら時間をつぶすことにした。


「いやじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


突然、怒号が響き渡った。驚いた俺は思わず、その声のする部屋に向かう。


部屋には目から下を髭で覆われた小柄な、しかし、がっしりとした体躯を持った男が何やらキレまわしており、それを必死で宥めるナルニの姿と、ドン引きしているメイの姿があった。


「ニカンガ殿、別にそのくらいいいではありませんか!」


「いや!断る!」


「ニカンガ殿・・・」


俺はメイにそっと耳打ちして、一体何があったのかを尋ねた。


「ナルニ様が私に金槌を貸してやってくれとニカンガ様に仰ったのです。しかし、ニカンガ様は断ると・・・」


「貴様ら、儂に金槌を貸してくれという。ということは、金槌で何かを打つのだろう?儂の金槌が削れるではないか!」


思わず俺は声を上げる。


「何と、世にもケチなヤツがいるもんだな!金槌で叩いたくらいでどれだけのものが削れるんだ!そんなところから借りる必要はねぇ。俺のを使え!」


気が付くとニカンガがズッコケていた。



「儂もかなりケチだと言われているが、儂以上にケチな奴がおったわい」


「俺はそこまでケチじゃないですよ?」


「隠すな。儂もお主も、道具を大事にしている者同士だ。自分の道具を傷つけるのであれば、他人の物を使う。儂はお主の考え方に深く共感するぞい」


「ニカンガ殿はいつもこの調子なのです・・・」


「ナルニよ!お主は物を大切にしなさすぎる!それではいい鍛冶師にはなれん!最近儂は自分の目も勿体ないと思っておるんじゃ」


「目が勿体ない?何をするつもりだ?」


「知れたこと。二つの目を二つとも使うのは勿体ない。どちらか片方だけを使うのじゃ。そして、その目が悪くなればもう片方の目を使う。いい考えじゃろう?どうじゃ若いの、お主ならわかるじゃろ?」


「もう片方の目を使ったら、世間の人が誰だかわからなくなってそうですね」


「なるほど、片方の目を使わなんだら、そうなってしまうか!それは、やめるとしよう」



ニカンガに変なところで気に入られてしまい、鉱石から製品を精製する技術を気前よく教えてくれた。それだけでなく、お土産に色々な鉱石もくれた。これにはナルニは驚いていた。ケチで有名なニカンガが人にものをやるのは、驚天動地のことらしい。


工房を訪問して数日後、ポーセハイのクルムファルへの護送が完了した。あとは農地問題を解決するだけになり、ようやく一息つけるかと思っていた矢先に、再びドワーフ王から呼び出しがかかった。


「ニカンガから鉱石をもらったと聞いたが、本当であろうか?」


「ええ、気前よくくれました。どうもかなり珍しいことみたいですが・・・」


「ヤツはケチで有名でな。少々意地汚いところがある。そのニカンガが自分の精製した鉱石を人に渡すとは・・・いまだに信じられぬが・・・やはり、事実なのだろうな」


「そうですね。妻のメイリアスは、その鉱石を使って休みの日に何かを作っています。かなり純度の高い鉱石で、妻も感心しておりました」


「フム、それはよかった。・・・さて、バーサーム殿、今日貴殿を呼び出したのは他でもない。我が娘、コンシディーのことだ」


「コンシディー様はこのところお姿を見ませんね。どうなさっておられるのでしょうか?」


「今は蟄居中なのだ」


「蟄居?」


「自分から部屋に閉じこもり、外に出ようとしない。食事は採っておるようだが、食は細くなっておるようだ。日の光を入れず、薄暗い部屋で一日じっとしておるらしい」


「それはまた、何とも・・・。で、この私に何をせよと?」


「コンシディーを外に出してもらえないだろうか?」


今度はひきこもりの相談かい。この国はどうしてこうも次から次へと問題が発生するのだろう・・・。

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[一言] さんぼう噺のつんぼの噺ですね、落語を知ってる人だとクスリとしますw この噺を知らないと、なぜわざわざ遠回りするの? ってなりますね。
[気になる点] 主人公、元日本人とは思えないほど魔法?の使い方に柔軟性が無いな。屋敷や城に結界を張れるなら向こう岸まで結界の橋や道を作って渡る事も出来るはずなんだけどな。アニメや漫画が豊富な現代日本出…
[気になる点] 目が覚めると、シーツの波間に俺はいた。前日は、頑張りすぎた。あんなに濃厚な夜は初めてだった。それから数時間しかたっていないため、まだ気だるい。のろのろと体を起こすと、シーツの波の向こう…
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