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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第四章 ニザ公国編
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第九十一話  針のムシロだけどイヤミは言わせてもらうよ?

結局、俺は一睡もせずに朝を迎えた。どうやら他の奴らも眠れなかったらしい。


朝食を食べられる状態ではないので遠慮し、ハーブティーを飲みながら出発の準備をする。そこにリコが転移してきて、サンドイッチを届けてくれる。


「もしかしたらお昼ごろにはお腹がすくかもしれません、持って行ってくださいな」


リコにお礼を言い、サンドイッチを無限収納に収める。そして、全ての準備が整ったところで、コンシディー公女自らが俺たちの部屋に迎えに来た。魔術師らしからぬ、鎧姿での登場だ。


「ご準備は整いましたでしょうか?それでは、出発いたします。皆様は、国境付近までは警護いたします。途中、シカを見つけましたら討伐態勢に入る予定です。その時は警護が疎かになるかもしれませんが、ご了承ください」


手短に説明を終えて、颯爽と公女は部屋を後にする。俺たちはただ無言で、彼女の後ろに従った。



討伐軍ではまさに、針の筵状態だった。クルムファルを復活させた英雄が、シカ被害に苦しむニザ公国に乗り込んできたのに、それが何もできなかった。シカに結界を抜けられて作物の被害を拡大させ、国王にかけた結界も機能せず、結局何の成果も出せないまま、すごすごと帝国に舞い戻るのだ。反感もひとしお、というところだ。


「・・・どんな英雄が来るのかと思えば、随分若い男なのだな」


「だから俺は最初から怪しいと思っていたんだ。あんな若けぇのがクルムファルを復興させただなんてな」


「聞くところによると帝国皇帝の妹の婿だって言うじゃねぇか。きっと、復興させたのはその家来たちなのだろうよ」


「それを自分の手柄だと過信してきたのか・・・。迷惑なやつだな」


「結局、公国に来て数日間、ドワーフたちの命をつなぐ食料を食い散らかしただけで国に帰るのか~」


冒険者たちの口さがない言葉に、反論する言葉がない。むしろ俺は、昨晩からずっとドワーフ王のことを考えていた。王が死ねば果たしてこの国は救われるのか?鹿神様とやらは、本当にドワーフ王の命と引き換えに、シカによる作物の被害を食い止めてくれるのか?何か方策はないだろうか。しかし、考えてみてもいい案は浮かばない。


「リノスさん、あの冒険者たち、斬りましょう」


「師匠、もうこの辺で、私たちは別の道を行きましょう」


女子二人の声で我に返る。冒険者たちは俺の話題に飽きて、別の話題で盛り上がっているらしい。


「あの女たち、どっちが先に侯爵の手がついたのかな?」


「イヤイヤ、もしかしたら女の方から迫ったのかもしれんぞ?」


「どちらも男好きのしそうな顔と体だな。特に尻が何とも言えんな」


「鬼よりも怖いリコレット皇女様にバレたら、侯爵殿が泣いちまう。みんな内緒にしようぜ?ハハハハ」


先頭を行くコンシディー公女は、俺たちに振り返りもしない。おそらく、冒険者たちの会話は聞こえてはいるのだろうが、それを注意するそぶりもない。隣の、同じく馬に乗ったローブ姿の者と何やら話をしている。おそらくこのローブ姿の奴が、レコルナイ博士の部下の一人なのだろう。


しばらくすると、行軍が止まる。コンシディー公女は馬を返して俺たちの下に近づいてくる。


「これより休息をとります。ちょっと早いですが、昼食にしたいと思いますので、侯爵様もどうぞ、お召し上がりください」


「いえ、私たちは遠慮しておきます。我々も食材はありますので」


「遠慮されることはありませんわ。お出しする食事は、もともとあなた様がヒーデータより持ってこられた救援物資。しかもそれはあなた様の領地で採れた作物なのでしょう?言わばあなた様のものを自分で食べるのですから、何にも問題はありませんですわよ?」


フード姿の奴が話に割って入ってくる。声の感じから行くとコイツは女性のようだ。


「ありがとうございます。そう言っていただければ助かります。しかし、お気持ちだけで結構です」


「そうですか。それでは我々は昼食の準備に入りますので、出発は2時間後を予定しています。それまではどうぞ、自由にお過ごしください」


俺たちはコンシディー公女から離れ、冒険者たちの声が届かないところまで移動して、休憩場所を作った。


「なんなんですか?あの冒険者たち!」


「全く礼儀ってものを知らないんですね!嫌いだわ、あんな男たち!」


女子二人はプリプリと怒っている。どうやら、俺の気づかないところで、かなり卑猥なことを言われていたらしい。冒険者の声を遮断する結界を張ろうかと提案してみたが、二人に強く拒否されてしまった。ヤツらに負けたみたいでイヤなのだという。


「森に入ればすぐに国境だ。あと少しだ。辛抱しろ」


彼女らを宥めながら、俺はコンシディー公女が率いる部隊を眺めていた。おそらくニザ公国がドワーフが作成した武器や防具を提供したのだろう。今まで見たこともないような武器や防具を装備している。しかもそれらはほぼ全てに魔力を帯びていた。肉体を強化する魔法が付与されているのかもしれない。


そんなことを考えていると、遥か先の森の入り口に、シカの群れが現れた。部隊は騒然となり、皆が慌てふためいている。そして、装備を完了した者は我先に馬に乗って、シカたちに突撃していった。


とりあえず俺たちも休憩を中断して、部隊を追いかける。フェリスとルアラは徒歩なので、彼女の走る速さに合わせてイリモも走っているので、スピード的には大したことはない。


約100名の冒険者が我先に突撃する様に驚いたのか、シカたちは森の中に引き上げていった。部隊はそのままシカを追いかけて森の中に入っていくのかと思いきや、森の遥か手前で何故か止まっている。近づいてみると、どうやら部隊の先頭で何かモメているようだ。


「何をバカな!シカなど見つけ次第片っ端から殺せばよいのだ!」


「この部隊の長は私です!私の命令なく勝手な行動を取ることは許しません!」


どうやら、先ほどの突撃は冒険者たちが勝手にやったことのようだ。


「大丈夫だお姫様。俺たちに任せてくれればいいんだ。ちゃんとシカを討伐してやるから」


「そうだそうだ。お姫様の言うことを聞いていたんじゃ、命がいくつあっても足りないからな」


ほぼ、収拾がつかない状況になっている。そんな光景を見て、フェリスが俺の足をツンツンと突く。俺は彼女らを見て頷き、イリモをコンシディー公女に向けた。


「お取込み中失礼します。シカが出現したということは、これからシカ討伐に入られると愚考します。我々はお邪魔でしょうから、こちらで先に失礼させていただきます。もうすぐ国境も近いことですし」


「あ、ああ。お見苦しいところをお見せしました。申し訳ありません。これから我々はシカ討伐に入ります。侯爵様の警護はここで打ち切りとさせてください」


「ええ、それではご武運を」


「・・・お待ちください」


何故かコンシディー公女に呼び止められる。俺は再び公女の下に近寄る。


「こういうことをお聞きするのは恐縮なのですが・・・その・・・侯爵様はヒーデータ帝国の内乱を鎮められた方と伺います。それに、森の中での戦闘に長けてらっしゃるとの評判です。我が部隊が、森の中で戦うにあたって何か注意するべき点はありますでしょうか」


「注意するべき点・・・ですか」


「お姫様、侯爵様にそんなことを聞いても無駄だぜ?俺たちはドラゴンの征伐にも参加したことのあるパーティだ。森の中の戦い方は俺たちが一番よく知っている。俺たちに任せておけばいいんだ!」


冒険者らしき男が大声で怒鳴ってくる。俺は少し声を大きくして、


「ドラゴンを討伐した者がおいでになるなら、それは心強い。それならば、シカの討伐など朝飯前でありましょう。ただし、本当にドラゴンを倒した者であれば、ですが」


「何ぃ?どういう意味だ!」


「ドラゴンを征伐したといっても、色んなヤツがおります。部隊の後ろで震えている奴でも、ドラゴン征伐に参加したと言えてしまいますので」


「貴様などに何がわかる!」


「本当にドラゴンを征伐できるようなパーティであれば、獲物を見つけたからと言って無暗に動いたりはしない。自分の独断で勝手に行動するような奴は、皆無だ」


「貴様・・・死にたいのか?」


「おやめなさい!侯爵様、ご無礼をいたしました。これも全て、私の統率力のなさが故の失態です。どうか、お許しくださいませ」


「いえ、コンシディー様が詫びる必要はありません。そうですね。森の中の戦闘に際して、助言するとしますと・・・二つあります。退路を確保すること、足の速い馬に乗ることです」


「・・・それはどういう意味なのでしょう?」


「このシカ討伐は間違いなく失敗します。そうなれば、あとは貴方のお命が助かるか、助からないかが重要になってきます。あなたご自身を助けるためには、退路を確保し、速やかに戦場から離脱することが肝要です。ですから、退路を確保し、足の速い馬に乗る必要があるのです」


「フン、役立たずのムダ飯し食らい貴族の言いそうなことだ。オイみんな、聞いたか?これから戦闘、しかも、シカ討伐に行くのに退路を確保しろってよ!面白いじゃねぇか、なあ!」


「ギャハハハハー!本当だ。最初から逃げることを考えるなんてな!ギャハハハハ!」


冒険者たちの大爆笑に包まれる。コンシディー公女も俺にちょっとした軽蔑の視線を投げかけてくる。


「古より、統率の取れぬ部隊が勝利したという話は聞いたことがございません。まあ、私のこの懸念が杞憂に終わることを信じておりますが。どうぞ、ご存分に采配を振るわれませ。ご武運をお祈りしております」


それだけ言うと、俺はイリモを走らせ、仲間の待つ場所に戻っていった。そして、ヒーデータを目指して森の中を進んだ。


「コンシディー公女のシカ討伐は、失敗するでありますかー?」


「ああ、かなり高い確率でな。冒険者連中が好き勝手に行動しては、作戦も何もあったものではないだろう。シカたちもバカじゃない。100名程度の人間など、簡単にあしらうだろう」


「あんな奴ら、シカにいいように振り回されればいいのよ!」


「さて、俺がするべきことはひとつだ。早く帝国に帰還し、陛下に救援物資の増援をお願いすることだ。あと、クルムファルの作物の収穫を早めてもいいかもしれないな。そこら辺はリコとメイに相談しなきゃならんな。と、なれば早く屋敷に帰る必要があるな。今すぐここに転移結界を張る」


「了解しました!」


フェリスが元気よく答える。


「・・・イリモ?どうした?」


イリモがピタリと歩みを止め、そこから動かなくなっていた。

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