第八十五話 ペーリスの人化
「それでは、やるでありますー」
「ゴン、頼むぞ」
深呼吸をしながらゴンは精神統一をしている。今のゴンは、いつもの人化した姿ではなく、本来の白狐の姿に戻っている。そしてその前には、緊張した面持ちのペーリスがいた。
「リノス、ペーリスのことで相談がありますの」
きっかけはリコからの相談だった。以前からペーリスに相談を受けていたのだという。
「もうすぐペーリスも16歳になります。帝都の大学に入学させてはどうかしら?」
「帝都の大学?」
「ええ。ペーリスはもっと沢山のことを学びたがっていますわ。それならば、大学に通うのが一番ですわ」
「それって入学するの難しくないの?」
「ペーリスの知識であれば問題ないですわ。ただ、魔物の入学が許可されるかどうかが問題ですわ」
「うーん、一応結界はかけてあるけどなー」
取りあえず、キッチンに居るペーリスをダイニングに呼んで話をする。
「大学には・・・行ってみたいです。色々なことを学んでみたいです」
「ペーリスにはいつもコック長として頑張ってもらっていますし、留守番ばかりで申し訳ないと思っていたのですわ。ペーリスが学びたいなら、是非、応援してあげたいのです」
「そっかー。じゃあ行ってくるといい。俺は賛成だよ」
「ペーリスがいない間は、私やフェリス、ルアラが食事を作りますし、畑の方はゴンがやってくれますから、ペーリスは勉強に集中するといいですわ」
「すみません・・・」
「ただ、もうすこし小型化したほうがいいかもな」
大学に行くとなると、基本的に服を着替えないといけない。さすがに俺の結界では毎日服を変えることはできない。まあ、できないことはないが、それを完成するまでにかなりの時間を要しそうだ。
「ゴン先生のように人化できればいいのですが・・・。大学に入るまでに習得してみようと思います」
「いや、ゴンからスキルを与えてもらった方が早いだろう」
「人化」のスキルはゴンが持っている。そのゴンに教えてくれと頼むと、
「吾輩の人化スキルはLV3でありますー。LV3以上のスキルを与える場合には、おひいさまの許可が必要になるでありますー」
早速俺は、久しぶりにゴンを連れておひいさまの屋敷に移動した。
「おひさしぶりでございます」
「ほんに久しいのう。・・・そなたまた称号が増えたのう。そなたのスキルを見ておると、目がチカチカするわぇ」
うん?俺の称号??慌てて俺は自分自身を鑑定する。
リノス(結界師・19歳)LV∞
HP:55859
MP:92114
結界魔法 LV5
火魔法 LV5
水魔法 LV5
風魔法 LV5
雷魔法 LV5
土魔法 LV5(UP)
回復魔法 LV5
生活魔法 LV3(UP)
詠唱 LV5
鑑定魔法 LV5
剣術 LV5
MP回復 LV5
気配探知 LV5
魔力探知 LV5
魔力吸収 LV5
肉体強化 LV5
回避 LV5
行儀作法 LV3
教養 LV5
麻痺耐性 LV5
毒耐性 LV5
精神耐性 LV5
黒魔術 LV5
加護 LV5
軍神、知神、大魔神、鉄人、鉄腕、結界神、闘将、智将、名伯楽、生殺与奪、博学才穎、天下創世
軍神:剣術LV5 雷魔法LV5 風魔法LV5
知神:鑑定魔法LV5 回復魔法LV5
大魔神:黒魔術LV5
鉄人:精神耐性LV5 毒耐性LV5 麻痺耐性LV5
鉄腕:肉体強化LV5
結界神:結界魔法LV5
闘将:火魔法LV5 水魔法LV5
智将:詠唱LV5 MP回復LV5 魔力吸収LV5
名伯楽:気配探知LV5 魔力探知LV5 回避LV5
生殺与奪:加護LV5
博学才穎:教養LV5
天下創世:土魔法LV5
・・・土魔法がカンストされている。一体どういうこと??MPが大幅に上がってますやん!
「一つの魔法を使い続けると、成長が早いわぇ。そなたは何度も限界までMPを使って土魔法を駆使したのじゃろ?しかも加護スキル持ちじゃから、スキルが上がるのは当然じゃな」
自分のレベルが既に無限大と表示されているのにもかかわらず、HPとMPも上がっている。この世界の基準がよくわからん。
おひいさま曰く、土魔法がカンストすると土を使って自分の好きな形に作り出すことが可能であるそうだ。暇が出来たら陶芸でもしてみるか。
気を取り直して、おひいさまに貢物を差し出す。今回は、これまでのものに加えて、新開発をしたカスタードクリームを使ったクリームパンも持ってきた。フェアリが作り出したバニラビーンズを駆使し、ハーピーの卵から作った一級品だ。
「ほう、くりーむぱんか。・・・悪くはないが・・・妾はおはぎの方がよいのぅ」
・・・おひいさまは和菓子党か。千枝、左枝のお付きの女官は美味い美味いと好評のようだ。とりあえずクリームパンは今後、女官用のお土産にしよう、そう思っていると、
「むむ!これは美味ではないか!うむうむ、これはよい。儂ゃ気に入ったぞ!」
・・・サンディーユには好評のようだ。この爺さん、甘党かな?
「ありがとうございます。サンディーユさんには、新しいあぶらあげをご用意しています」
俺はカツオで取ったダシの中に、パリパリに焼いたあぶらあげを入れ、その上に大根おろしに醤油をかけたものを取り出した。
「こっ、これは!!お主、やるよのう」
一瞬で平らげてしまった。貢物も気に入ってもらったようなので、俺も本題に入る。
「実は、ウチにいる魔物に「人化」のスキルを与えたく思います。ゴンの人化スキルLV3を与えてもよろしいでしょうか?」
「魔物には、スキルは与えられぬわえ」
「しかし、その者はおひいさまの貢物を作っている者です」
「ふむ。・・・ならば、ゴンにやらせてもよかろう」
よかった。許可が下りた。おひいさまはクルムファルの成功を既にご存知で、ことのほか喜んでくれた。そして、魚の刺身が食べたいので持ってくるようにとご注文をいただいた。その横でサンディーユが鼻の穴を膨らませていたので、この爺さんにも贈っておこう。
屋敷に帰ると早速、ペーリスを呼び、ゴンから人化のスキル付与をしてもらう。
精神統一をしてピクリとも動かないゴン。しばらくすると、ゴンの白い体表が黄色に輝きだした。そしてそれに合わせて、ペーリスの体も金色の光に包まれた。そして一瞬、まばゆい光が屋敷の部屋中を覆った。目を開けてみると、そこには倒れたゴンの姿があった。
「ゴン!大丈夫か?」
「・・・」
ぐったりとしている。どうやらMPを限界まで使って気絶しているようだ。ふと見ると、そこにはペーリスがいた。特に何ともないようだ。俺はペーリスを鑑定する。
ペーリス(ベリアルの王女・15歳)LV22
HP:264
MP:229
火魔法 LV3
水魔法 LV3
風魔法 LV2
雷魔法 LV2
回復魔法 LV2
MP回復 LV2
気配探知 LV2
魔力探知 LV2
肉体強化 LV2
槍術 LV2
回避 LV1
行儀作法 LV1
教養 LV3
飛行 LV2
人化 LV3
ちゃんと人化スキルは付いている。ウチに来て約5年、全体的にスキルが上がっているが、戦場には出していないため、劇的な成長はない。今後はペーリスも戦いの場に出すべきだろうか。そんなことを考えながら、俺はペーリスに人化スキルを使ってみるように促す。
「ええと・・・じゃあやってみますね」
ペーリスの体が紫色に光る。ずんぐりむっくりの体が、どんどん人体に近づいていく。しばらくすると完全に女性の体になり、そこには、紫色の髪の毛を持ち、とても均整の取れた体をした美少女が立っていた。
「おお!美しい!」
「すごい、ペーリスちゃんキレイ!」
「ペーリス姉さま、キレイ!」
俺とフェリス、ルアラから思わず声が漏れる。フェアリは目を丸くしている。ペーリスは全裸で、しばらくその体を眺めていたいと思ったが、リコから声が入る。
「まあ、カワイイ!さすがペーリスですわ!早速服を選びましょう。私の新品の服がありますわ。それを着てみましょう!」
「は、はい。よろしくお願いします」
手を引かれてリコの部屋に行ってしまった。ちょっと残念な気持ちもないではないが、リコに任せておけば安心だろう。そう思っていると、リコが飛び込んできた。
「ペーリスが倒れましたわ!」
急いでリコの部屋に行ってみると、いつものベリアルの姿をしたペーリスが倒れていた。どうやらMPが尽きたようだ。俺はMPを補充してやる。
「・・・ありがとうございます。MPの消耗が予想以上に激しいですね。これはちょっと、練習します」
「MPを限界まで使うと、MPがアップする。最初はキツイだろうが、慣れるまで頑張ってみな」
「ハイ、頑張ります」
この日からペーリスの修行が始まった。最初こそ人化してすぐにぶっ倒れていたが、何度かそれを繰り返しているうちに、人化できる時間も長くなった。最初は人化しても全裸のままであり、キッチンに立つ時も裸のままエプロンをつけるという、ひょんなことから、男の願望を叶えてくれる形になった。
人化を続けること2ヶ月、新年が明ける頃になってようやく丸一日の人化ができるようになった。これにはリコが大喜びで、早速リコの服を着せて、帝都に買い物に出かけた。丸一日かけてとんでもない数の服、下着、アクセサリーを買ってきた。手ぶらで出かけたはずが、馬車に乗って帰ってきたのには面食らってしまった。
その買ってきた服を着たり脱いだりと、ペーリスはリコのいい着せ替え人形になっていた。やはりスタイルがいいのと美しい顔立ちもあって、何を着ても似合う。うらやましい限りだ。
そして、春の息吹が感じられる頃になって、大学の試験が行われた。日本の大学入試とは違って、ペーパーテストだけでなく、魔法の実技テストもあったらしい。志望者は500人くらいいたそうで、人間と獣人が半々だったそうだ。そしてそこから、100人くらいに絞られるらしい。
結果的に、ペーリスは合格した。しかもトップで。ペーパーテストも、魔法もダントツの一位だったらしい。ペーリスは謙遜し、合格できたことにホッとしていたが。
しかし、彼女は知らない。大学の教官がペーリスの才能に驚き、特待生として大学で丁寧に育てていこうと画策していることを。そして、あまりの美少女ぶりに、新入生の間で大評判になっていることを。
ペーリスの大学生活が、間もなく始まろうとしている。




