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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三章 クルムファル編
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第八十二話  収穫とメイの覚醒

俺は今、汗だくになりながら小豆を煮ている。そして、その前ではペーリスがおはぎをせっせと作っている。


「ペーリス、大丈夫か?」


「あんこがもう少しでなくなりそうです!」


「わかった。ちょっと待っててくれ」


朝5時から始めたこの作業は既に6時間ぶっ通しで行われている。窓の外をふと見ると、遠くに大勢の人が見える。まだまだ作らなければ。その決意を新たに、俺はあんこの作成に取り掛かる。



よく晴れた秋の日。クルムファル領では、手の空いている者が総出で収穫を行っていた。特に水田に実った稲は黄金色に輝き、その生育の良さがにじみ出ている。


「おい、そっちはもういい。昼飯に行ってくれ!ピウスさんたちはそっちが終わったらメシにしましょう!」


朝から働きどおしとは思えない程の力強い声で指示を出しているのは、元帝国騎士団のクノゲンだ。彼は今、クルムファルで傭兵たちの教育を一手に引き受けている。


オーシェとともに帝都に帰還したクノゲンは、その五日後、再び俺たちの下に現れた。そして、


「私を、クルムファルで雇ってもらえませんか?あ、ここにラファイエンス団長の推薦状もあります」


そこには、「先日のお詫びにこの男を贈る」と書かれていた。すぐさま俺はクノゲンを採用し、ピウスの部下に付けた。クノゲンは瞬く間にその才覚を現し、新しく組織した傭兵たちに訓練と戦略を教え始めた。その統率力は見事で、今日の収穫でも彼の号令一下、傭兵たちの無駄のない動きで、次々と広大な田んぼの収穫が終了している。


畑はフェリスとルアラが中心となり、農家のおばさんたちに交じって収穫を行っている。カイサームから海人族の男性が手伝いに来てくれており、こちらもかなりの速さで収穫が終わっていく。


その収穫された作物の品質を管理しているのが、ゴンとメイだ。二人とも厳しい目で食材をチェックしている。そしてリコは、ゲュリオンとハーピーを指揮して、空と陸から魔物が収穫物に手を出さないよう目を光らせている。さすがに、Sランクの魔物であるゲュリオンとハーピーに手を出してくる魔物はいない。彼らに対応できないドラゴン辺りが来れば俺が出ていく予定だ。


クルムファルの姫たるベビーゲュリオンのイトラは、俺たちが作るおはぎとぜんざいの味見だ。気に入ったらしく、きゅいきゅいとうれしそうな声を上げている。


昼過ぎにようやくある程度目途が立ち、俺とペーリス、そしてイトラを抱いたリコは出来上がったおはぎとぜんざいを持って収穫場所に転移する。


「おーい、メシにしよう!デザートはおはぎとぜんざいだ!」


およそ1000名近い人間が大歓声を上げる。


三日前から用意した炊き出し用のおにぎり、サンドイッチ、スープ、パスタ、から揚げ、野菜炒め、サラダ・・・などをバイキング形式で、いくつか机を出しながらそれぞれに載せていく。そこにおはぎとぜんざいも一緒に置く。瞬く間に皿が空っぽになっていく。そこにまた料理を補充していく。


警備を担当しているハーピーとゲュリオンにも昼飯を出してやる。彼らだけは交代を取りながらの食事となるので、人間より二品ほど多めに作ってある。


皆、ガツガツ食べてくれている。あちこちから談笑の声が上がっている。平和な光景だ。


「・・・まさかこんなことになるとは」


突然リコが呟く。


「どうしたんだ、リコ?」


「リノス、ご覧なさいまし。男も女も、老いも若きも、獣人も冒険者も、魔物も人間も、皆一緒になって働き、食事をし、笑いあっています。こんな姿が見られるとは・・・奇跡ですわ」


「何でこうなったのか、俺にもわからないが・・・」


「・・・もっと多くの地で、こんな姿が見られるといいですわね」


「そうだな」


俺はリコの肩をそっと抱いた。


しばらくすると、ゴンとメイが帰ってきた。


「おーご苦労さん。メシを食ってくれ!」


「ご主人様、ゴン先生と収穫物を確認してきました。全然、問題ないです!とてもいい出来栄えです!」


「そうか!よかったな。おい誰か、ウィリスを呼んできてくれ。あと、マルセルも呼んできてくれ」


しばらくすると二人がやってきた。


「ウィリス、収穫物はいい出来栄えだそうだ。予定通り明日からスーパーを開店する。昼飯を食い終わり次第、食材を運び込め。品物の配置はお前たちに任せる。明日は忙しくなりそうだから、早く寝ろよ」


「わかりました!お任せください!お客さんから開店はまだかとせっつかれてたんです。明日、間違いなく開店させます」


「そして、マルセル、お前はご苦労だが、これからカイリークに帰ってかつお節と削りかつお節、乾燥昆布をスーパーに運び込んでくれ。そして、明日の朝、獲れた魚をスーパーに運び込んでくれ」


「わかった。任せてくれ」


ここ数ヶ月、乾燥エサラハルを使ってのかつお節と、乾燥昆布の開発に力を注いでいた。そしてようやく、俺の納得いくものが出来上がった。事前にウィリスの露店で売ってみたところ、大人気となり。今では売りに出した瞬間に売り切れるほどの人気商品だ。これのお陰で、我が家の料理はさらに美味くなっていた。今回は満を持しての販売なのだ。


俺が忙しくしている一方で、メイは多くの人に囲まれており、戸惑いの表情を見せていた。


「あの・・・みなさん、どうされたのですか?」


「メイちゃん・・・」


「「「「「「ありがと~お!!!!!」」」」」


余りの大声にメイは目を丸くしている。


「あ、え?どうしまし、た?」


「儂らはこの土地はもうダメじゃと思っておった。しかし、メイちゃんが儂らの土地をこんなによくしてくれた。ありがとうよ」


「アタシャ、地面が真っ白になった時は途方にくれたんだけどねぇ。今じゃこんなに豊かな土地になっちまった。それもこれも、メイちゃんのお陰だよ」


「メイ様のこの農具、本当に便利です。収穫がこんなに早く済むなんて・・・助かりました」


「おねえちゃん、私たちを助けてくれてありがとう」


「ありがとうメイちゃん」「ありがとうね」「本当に助かったよ」「またいろいろ教えてね」


多くの笑顔の中にメイはいた。すごく戸惑いながら、でもうれしそうな顔をしながら、笑顔で農民たちと話をしていた。


「よーし、メシが済んだら、残った作物を収穫するぞ!今夜は収穫したものを使って、宴会だ!」


「「「「「「「「おーっ!!!!!!!」」」」」」」」


夕方までにすべての収穫を終え、俺たちは宴会の準備に入った。海に落ちていく真っ赤な太陽を見ながら飲む酒は抜群にうまく、海人族が用意してくれた刺身はおそろしく美味だった。そして、当然のことながら、収穫した米や野菜は絶品の旨さだった。俺は取って置きのカースシャロレーの肉と黄金鳥の肉を全て提供し、宴会に華を添えた。


どのくらいの時間、皆で騒いだろうか。騒がしい宴会の場を離れて、メイは一人、小高い丘の上から収穫が終わったクルムファルの大地を眺めていた。



「メイ、どうした?」


「・・・いえ、なんでもありません」


「あんまり夜風に当たりすぎると風邪ひくぞ。最近めっきり朝と夜が寒くなったな。もうそろそろ宴会もお開きだ。明日は開店するウィリスに手伝いに行かなきゃいけないから早く休んだ方がいいぞ。もうすぐ屋敷に帰るから、メイも一緒に帰ろう」


「私・・・このままご主人様のところに居ていいのでしょうか?」


「どうしたんだ?」


「私はたくさんの人を殺しました。でも、そんな私が沢山の人から感謝されています。本当にこれでいいのかと・・・」


「いいに決まってるじゃないか。メイ、この世の中で生きていくためには、二つのことが守れればいいんだよ。メイはちゃんとできているから、いいんだよ」


「二つのこと、ですか?」


「そうだ。一つ目は、人に迷惑をかけないこと。そして、二つ目は人を助ける仕事をすることだ。今のメイは誰にも迷惑をかけないで、一人で、たくさんの人を助ける仕事をした。十分だよ」


「・・・・」


「クルムファルのみんながメイに感謝していたけど、メイにとっては迷惑だったかい?」


「そんなことありません!でもちょっと戸惑いました。これでいいのかと・・・」


「メイはこれからどうしていきたい?今みたいに、研究をして人の役に立つのはイヤかい?」


「私は・・・色んな人を助けることをしたいです。私の知識が、技術が、たくさんの人を助けられれば本望です。どんなことでもいい。どんな仕事でも」


「仕事ってそういうものだよ。どんな簡単な仕事でも、それが人の幸せの一部をつくっているんだ。メイはたくさんの人を助ける仕事をした。これからも、それを続けてくれないかな?」


「・・・はい。是非、そうさせていただきたいです!」


「おお・・・メイ、空を見てごらんよ。すっごくキレイだよ」


「・・・うわぁ」


空には満天の星々があった。冬の訪れを感じさせる冷たい空気が、さらに星の光を冴え渡らせていた。


「メイ、帰ろうか」


「は・・・っ、くっ、ううううううう・・・」


「メイ、どうした!?」


頭を抱えてうずくまるメイ。俺は慌てて皆を呼び、屋敷に転移する。そして、メイの部屋に彼女を寝かせた。他の者たちは明日もあるために早く寝るよう指示を出す。しかし、リコとゴンはどうしても看病するといい張り、三人で彼女を見守った。


メイは高熱を発して苦しんでいた。時折、「ごめんなさい」「ゆるして」と言ったうわごとを言いながら。そして、夜が明ける頃、ようやくメイの呼吸は落ち着きを取り戻した。


「リノス、もうお休みになったら。あとは私がやっておきます」


「熱も下がったようでありますし、もう大丈夫でありましょうー」


「いいや、もうすぐウィリスのところに向かう時間だ。このままでいい」


そんな会話をしていると、メイがゆっくり目を開く。


「メイ、大丈夫か?」


「ああ、頭が軽い。すごく頭がすっきりした気がします。さっき、頭の中にパキンと音がして、そのあとすごく楽になりました。ご主人様の魔法でしょうか、それともゴン先生の・・・?」


頭がパキンと音がした?頭が軽くなった?・・・俺が奴隷から解放された時と同じような感覚だ。俺は慌ててメイを鑑定する。


メイリアス(奴隷賢者・19歳)LV57

HP:282  

MP:750 

錬金術  LV5

鍛冶師  LV5

薬師   LV5

MP回復 LV4

教養   LV5

行儀作法 LV1


老成円熟、上医医国


老成円熟:錬金術LV5 鍛冶師LV5

上医医国:薬師LV5 教養LV5


「自己韜晦」の称号が消えている。それどころか、ほぼすべてのスキルが上がっていて、四つもスキルをカンストしている。どうやら、今まで抑えていた自分の成長が一気に解除され、その反動で溜まっていたスキルが上がったのかもしれない。しかも、二つの称号も獲得している。これは一体・・・?


後に、その深い教養と技術を駆使して多くの人命を救い、「聖女」と敬われると同時に、教育者として多くの優れた人材を育て上げ、後世にその名を刻む「大賢者・メイリアス」が覚醒した瞬間なのであるが、その事実をリノスも、メイリアス本人も、今は知る由もない。

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