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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三章 クルムファル編
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第七十九話  国に叛くのは「謀反」。国が叛くのは?

深夜、けたたましく屋敷の勝手口を叩く音で目が覚めた。クルムファルからの使者らしい。


「どうしたアーガ?」


「敵襲です。夜間探索のハーピーから敵襲来のサインがありました」


「わかった。すぐ行く」


俺とリコ、ゴン、フェリス、ルアラ、そしてイリモを連れて転移結界に乗る。館の中は騒然としており、ピウスが傭兵たちを集めて防衛体制を敷いていた。窓の外にはハーピーが集まっているのが見え、ゲュリオンキングのゲーキも外に控えているのが見えた。みな、俺の到着を待っていたようだ。


「きゅいいいいー」


館の第二の主人と化しているベビーゲュリオンのイトラが、パタパタと小さな羽をはばたかせて俺のところに飛んでくる。俺はイトラを抱っこして外に出る。そこにはハーピーとゲーキが控えていた。


「ご主人様、館からまっすぐ東の方向、森を出たところに、敵が集結しています」


「我々ゲュリオンも既に森の中に控えているのである」


「わかった。敵の様子を見てくる」


俺はイトラを胸に抱き、ゴンを背中に乗せ、イリモに乗って空に舞い上がった。


まだ夜明け前の薄暗い中、敵は森を囲むように陣を敷いていた。どうやら帝国騎士団のようだ。


「狙いはご主人の館のようでありますなー」


「そのようだな。森の中の魔物を討伐しながら進むのだろう。この様子じゃ、館に到着するまで数時間はかかるだろうな」


「そんなに早くでありますかー」


「そうだな、夜が明けると進軍してくるつもりだろう。それまでに、準備を終える必要があるな。しかし何故、帝国騎士団から俺は狙われるんだ?皇帝陛下の命令を忠実に実行しているのにな」


「不思議なこともあるものでありますなー」


「なあゴン、家来が国に背くのはよく聞くけど、国が家来に背くのは何て言うんだ?」


「謀反、とは違うでありますなー。吾輩にも、わからないでありますー」


そんな話をしながら、俺たちは館に戻った。


イリモから降りた俺はまず、上空に雨雲を作り、強い雨を降らせた。これならば地面がぬかるむので、敵の進軍速度は遅くなるはずだ。そして俺は、最悪の状況を想定してこの館を中心に結界を張る。これでリコたちが襲われる心配がなくなった。


「ピウス、お前は傭兵部隊を率いて館の正面の森に迎撃部隊を展開しろ。全員に魔物除けも付与した結界を張ってやる。攻めてくる敵に矢を放ち、石や魔法をぶつけろ。そして、ゲーキ、おまえたちゲュリオンは館の東西の森に潜め。魔物が出てきたら蹴散らしながら行け。ハーピーたちは森の中で待機だ。斥候部隊として敵に動きがあれば知らせてくれ。最終的にお前らも攻撃に移ってもらう」


俺は後ろを向いて、フェリスに指示を与える。


「フェリス。お前はルアラと一緒に空を移動して、カイリークとトホツのほうに向かえ。ルアラはトホツのカールスに、フェリスはカイリークのマルセルに、それぞれ海人族を集めて、集落の外に陣取り、帝国騎士団をけん制してもらいたいと伝えるんだ」


「「わかりました」」


「皆聞け!この戦いは俺がこの館に着いた段階ですでに勝利は確定している。あとは敵をいかに殲滅するかだ。ギリギリまで敵を引き寄せて一網打尽にする。俺が上空に花火を上げる。それを合図に、攻撃を開始してくれ!」


フェリスはルアラを抱えて飛び上がり、空の彼方に消えた。俺は雨を止ませる。それと同時に、それぞれが配置についていく。全ての戦闘準備が整った時、日の出を迎えた。


同じ頃、帝国騎士団も準備が完了していた。


「日が昇ってきたな」


「まさしく、我々の輝かしき未来を象徴するかのような見事な朝日だな」


ジョーノとグラゴレイルは眩しそうに朝日を見ながら呟いた。


「よーし、そろそろ出発する。お前たち、吉報を待っていてくれ」


馬に乗ったままで得意げにオーシェが声をかけてくる。二人は笑顔で彼を見送った。


「全軍、出発するぞ!」


「ちょっと恐れ入ります!」


行軍を開始しようとしたところ、思わぬ横やりが入る。忌々しそうに声のした方向を見ると、部下のクノゲンが馬を走らせて近づいてくるのが見えた。


「クノゲン、何だ!」


「この攻撃、しばらくお待ちください」


「何故だ!」


「森の中の進軍です。先ほどの雨で地面がぬかるんでおります。先頭の部隊が崩れますと、群衆雪崩になり、味方に甚大な被害が出る可能性があります」


「先頭の部隊が崩れるだと?何故、そう言い切れる?」


「長年、戦場におりました勘です。このままではあまりに敵の注文通りの展開になる恐れがあります」


「クノゲン、お前の爵位は何だ?帝国士官学校の何期生だ?」


「・・・自分は平民です。士官学校には通っておりません」


「そんな戦場の教訓ならイヤというほど学んでいる。お前の経験よりはるかに多い教訓をな。お前のその勘とやらはどのくらいの確率で的中するのだ?絶対なのか?」


「いえ、絶対とは言い切れませんが・・・。せめて、地面が乾くまでお待ちください。それに後方に海人族の部隊も見えます。背後を突かれますと我々は躱すことのできない痛打を受けることになります!」


「勘でしか考えられないお前に教えてやろう。海人族どもはただの牽制だ。魚を取ることを第一とする奴らが戦闘に加わるわけはなかろう。この戦いは日が昇りきるまでが勝負なのだ。我々は太陽を背にして進む。敵は太陽を見ながら戦わねばならん。この好機を逃すバカがどこにいる?」


「戦況はよく存じております。副隊長殿が戦場に出る前から戦場を駆け回っておりますので」


「黙れ!言わせておけば!指揮官はこの俺だ!この戦闘は俺のやりたいようにやる!お前の指図は受けん!」


そう言い捨ててオーシェは進軍を開始した。


屋敷の窓辺から、帝国騎士団の全ての部隊が森の中に入ったのを見届けた俺は、思わずつぶやいた。


「勝ったな」


「もう、戦いの趨勢を読んだのでありますかー」


「勝手知らない森の中、しかもぬかるんだ足元のまま軍を進めるのは自殺行為だ」



一方のオーシェも勝利を確信していた。敵は寡兵。多く見積もっても100が精々だろう。一気に力押しで攻めれば陥落させることはたやすい。しかも、兵士たちには全員、ダーケ商会から買い取った結界石を装備させている。そのため、森の中で魔物に遭っても傷つけられることなく兵を進めることができる。現に前方では魔物との戦闘はあるようだが、問題なく駆除できている。バーサームは自分が作った結界石を装備した者に殺されるのだ。これほど滑稽な話はあるだろうか?オーシェは思わず笑みが漏れそうになるのを必死でこらえた。


気晴らしに周囲の森の風景を見る。オーシェの頭の中はすぐに、この戦いが終わった後のことでいっぱいになっていた。


その時、ふと乗っている馬の足が止まった。いきなり現実に引き戻されたオーシェは、不愉快さをあらわにしながら、前方の部隊を見た。部隊の進軍が止まり、馬たちが硬直している。進軍を止めるなと言おうとしたその時、オーシェの耳に聞きなれない音が聞こえた。



マップで見ていると、帝国騎士団とピウスの部隊が肉薄してきている。あと5分少々で両軍がぶつかる地点まで来ている。おそらく、ピウスからは敵の部隊が見えているはずだ。俺は灼熱弾を空に向かって放つ。ドゴォォォォーンをいう凄まじい音が上空に鳴り響く。すると、左右に配置したゲュリオンが突撃を始めた。


戦端を開いたのは、ピウスの部隊だった。正面から堂々と攻撃していく。いきなりの爆発音で浮足立っていた帝国騎士団は完全に虚を突かれた形になった。帝国騎士団は結界石を装備しており、ピウスたちの剣や魔法は弾かれてしまう。しかし彼らは馬の足を狙った。馬たちは痛みと驚きのあまり暴れ、兵士を地面に放り出したり、兵士を乗せたままあらぬ方向に走り去ったりした。


その様子をハーピーたちは冷静に森の木の上から観察し、鳴き声を使って仲間たちに伝達し、俺に情報を伝えてくる。俺はすぐに魔石を無効化する結界を森全体に張る。かなりMPを消費したが、それでも、全体の1/3程度だ。全く問題はない。


一方で側面に展開した部隊は、その両方からゲュリオンたちの突撃を受け、ある者は吹き飛ばされ、ある者はゲュリオンの下敷きになった。当初は結界に守られて命をつないでいたが、突然結界が機能しなくなり、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開された。正面の部隊も同様に斬られる者が続出し、部隊は大混乱に陥った。



オーシェは夢を見ているかの如き感覚に陥った。前方の部隊が小競り合いを続けながらゆっくりと退却を開始し、両側面からゲュリオンの集団が迫っていた。


「あ、ああ、あああ・・・」


声にならない声を出すオーシェの横で、クノゲンの叫び声にも似た声が聞こえる。


「・・・団長!副団長!撤退しましょう!撤退です!」


「ああ、うわあああ」


「ええい!役に立たん!皆、撤退だ!森の外まで撤退する!総員撤退!」


オーシェの馬の轡を取り、無理やり馬を操りながら、クノゲンは撤退を開始した。


オーシェは固まったまま身動きが出来ない。思考が追い付かない。なぜ俺は逃げている?1000もの騎士がいるのに。なぜ兵士たちは死んでいるのだ?結界はどうなっている?


オーシェは、クノゲンに引きずられるようにして撤退する。結果的に帝国騎士団は、その1/3を失いながら撤退を行っていた。泥と化した地面を馬の蹄がさらに抉ったことで、泥は更に深みを増していた。皆、慌てて撤退しているので、統制が取れておらず、馬同士がぶつかり、兵士が地面に投げ出されるということも頻発していた。


ようやく森を抜け、ジョーノとグラゴレイルの下に戻ってきた時は、オーシェの周囲にはわずか15騎が従うのみであった。


「一体何だ!どうしたんだ!」


「おいオーシェ!何なんだこの有様は!説明しろ!」


信じられないという顔をするオーシェは、二人の質問に答えられない。徐々に兵士たちが森から撤退してくる。それを追うようにして、ゲュリオンの大群が森の中から姿を現し、上空には数十羽のハーピーが出現した。兵士たちに動揺が走る。


「森の中で我々は敗北しました。バーサーム軍とゲュリオンに完全に敗北しています」


荒い息でクノゲンが答える。


「これだけの魔物がいるなんて聞いてないぞ!」


「ジョーノ、あれを!」


グラゴレイルが指さした方を見ると、海人族の部隊が彼らの背後を固めようとしている姿が目に入った。


「完全に我々は包囲されましたな」


息を整えながらクノゲンは冷静に戦況を分析する。


「おい、どうすればいいんだ!全軍をまとめて、帝都かグラゴレイル領まで突撃するんだ!」


「この包囲を突破するのは無理です。大人しく降伏するしかないでしょう」


「貴様、それでも帝国騎士団の兵士か!」


「兵を無暗に死なせないのも戦いの基本です。降伏がお嫌ならば、自決なされませ。毒を煽るもよし、短剣で心臓を突くのもよし。短剣であればお貸ししますぞ?むしろあなた方貴族は、潔い自決が求められますがね」


「自決・・・」


グラゴレイルとジョーノは顔を見合わせた。


しばらくして、ジョーノ、グラゴレイル、オーシェは、クノゲンを使者として、三名の連名で降伏を願い出たのだった。

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