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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三章 クルムファル編
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第七十八話  敵は本能寺にあり

「クルムファル領がとんでもないことになっている」


「どういうことだ?」


「北の草原が穀倉地帯に生まれ変わっている。米、麦、そして畑・・・見渡す限り作物が育っていた」


「まさか、あんなどうしようもない土地にか?夢でも見たのではあるまいな?」


「バカなこと言うな!ここに来る前にしかとこの目で見たのだ。間違いない」


「クルムファル領は、塩に加えて食物というカードも手に入れたわけだ」


「それだけではない。館を改良したホテルを中心に、クルムファルには多くの人が集まっている。人口も飛躍的に増えている。また、傭兵も多く召し抱えたという噂もある。我々が知っているクルムファルではないということだ」


「くそっ、忌々しい。これもみな、あのバーサームのせいか!」


帝都にある高級ホテルの一室にいるのは、ジョーノ男爵、オーシェ北方軍副団長、グラゴレイル男爵の三人である。三人ともクルムファル領の管理を任されていたが、現状を知るやすぐにそれを投げ出したという共通点を持つ間柄である。実はこの三人は王立学校の同級生であり、いわゆる幼なじみの関係にあった。


彼らはまだ知らない。バーサーム家が「漁業」というもう一枚のカードを持っていることを。


「これ以上クルムファルを放置すれば面倒くさいことになりそうだな」


「いや、もう既に面倒くさいことになっている。我が領からもクルムファルに移住する民が絶えぬ。これ以上民の流出があれば、我が領は窮地に追い込まれることになる」


そう嘆くのはグラゴレイル男爵だ。ちょうどクルムファル領の北側に領土を持っているが、領土の半分を森に覆われ、山の中という条件も相まって、少ない平地に肩を寄せ合うようにして民と共に生きている。


「確かにグラゴレイルのあの狭い領土で民が流出すると、厳しいものがあるかもしれんな」


「・・・いいことを考えた。バーサームを追い落とし、そしてクルムファルの食料全てを手に入れる方法がある。僕たちであの領土の塩と作物を山分けしようじゃないか」


「さすがはジョーノ。今まで黙っていたのは、そんなことを考えていたのか!相変わらず知恵が回るな!」


ハッハッハ!と愉快そうに笑うオーシェ。三人の密議は、夜を徹して行われた。



三日後、グラゴレイル男爵は帝国騎士団北方軍団長、ラファイエンスと副団長のオーシェの下を訪ねた。


「珍しいな。男爵殿が私を訪ねてくるとは」


「いやなに、三日前、帝都に向かっていたところ森の中で盗賊に襲われてな。何とか襲撃は躱して難を逃れたが、明後日に私が領地に帰る際に帝都の森を通らねばならん。できれば騎士団に護衛を頼めないかと思ってな。なにも我が領土まで護衛せよとは言わん、森を抜けたクルムファル領の近くまで護衛してくれればよいのだ」


「盗賊?・・・そんな話は聞いていないが?」


「ならば調べてくれ。しかし、私の明後日の帰還は変更が出来んのだ。ジョーノ男爵が、我が領に視察に来られることになっていてな。私と一緒にグラゴレイルに行くのだよ。本来ならば警護を雇うのだが、何せ客人を連れている。万が一があってはならない。だからこそ帝国騎士団にお願いに来ているのだ。そこのところを考えてもらって、警護を付けてもらうことは出来ないか?」


「団長、自分からもお願いいたします。クルムファル領では、100名を超える盗賊がおり、私が帝都に引き上げる際にも襲われました。精強な帝国騎士40名を討ち取る者たちで、油断がなりません。おそらくその一部が帝都の森に潜んでいるかと思われます。ここは軍勢を出して男爵を警護しながら森の中を調べるべきです。」


「・・・まあ、男爵の警護と盗賊の探索であれば、兵を出してもいいだろう。100ほど連れていけ」


「いえ、団長、できれば私の配下1000名を連れていきたいと思います。部下たちの演習です。良い訓練の機会になろうかと思いますので」


「・・・わかった。しかし時間をかけることは許さん。多くて三日だ。それ以上の捜索は控えよ」


「ハッ」


「団長殿、ご配慮、感謝する」


こうしてオーシェは兵を動かす許可を得たのだった。



さらに三日後の昼過ぎ、ジョーノ男爵、グラゴレイル男爵を同道したオーシェ軍が帝都を出発した。


一行は順調に駒を進め、夕方には森の中、クルムファル領との境まであと少しというところで行軍は停止した。そしてオーシェは全軍に野営を命じた。


「まずはここまで順調だな」


「僕の作戦に抜かりはないよ。きっと明日の昼にはバーサームの首と胴は離れてしまっているよ」


「あの成り上がり貴族はこの俺様に、指揮官として無能などとぬかしおった。今こそその汚名をすすぐとき。ヤツに俺の戦いのやり方をじっくりと見せてやる!」


「おいおい、あんまり熱くなりすぎないでくれよ?」


「わかっている。俺はいつでも冷静だ」


「そう願うよ。では、ここで作戦の最終確認をしておこう。夜に紛れて僕たちはクルムファル領を進む。そして、夜明け前に森に侵入し、バーサームの館を急襲する。ヤツは館にいる。クルムファルに放った僕の斥候部隊が、昨日も館に帰る姿を目撃している。ヤツは殺す。そして・・・、館の人間も全員殺してしまおう。その後は帝都に引き返す。バーサームの首と盗賊の首、盗賊の方は、帝都のスラムから適当に人間を選んでいるので問題はない。それらをもってラファイエンス団長の下に行く。途中で盗賊に襲われて戦闘になった。そして盗賊はバーサームの館に逃げ込んだ。捕らえようと屋敷に踏み込むと、名誉侯爵殿は盗賊をかばい、俺たちに攻撃を仕掛けてきた。僕たちは仕方なく戦い、乱戦になった結果、屋敷内の人間にも被害が出た。実は盗賊の黒幕はバーサーム名誉侯爵だった、という筋書きだ」


「ああ、わかっている」


「事がなった後に僕が陛下にお目通りして、グラゴレイル男爵と共にクルムファル領を管理させてもらえるよう奏上する。そして、クルムファル領に入った僕たちは、全ての作物と塩を収穫し、それを山分けにする」


「しかし、そんなにうまくいくのか?ヴァイラス殿下が黙っていないと思うが」


「それがいくんだよ。バーサームは陛下の覚えがめでたいからね。それを嫌う貴族たちも多いのさ。バーサームが反逆者となれば、ヤツを押すヴァイラス殿下も、ひいてはグレモント宰相の発言力も弱まる。それを狙って僕を支持してくれる、というわけさ」


「それがうまくいくとなると、我がグラゴレイルは潤うし、オーシェは出世のための資金ができる。なによりジョーノはクルムファル領が手に入るかもしれんな」


「ぜひ、そうしたいね。僕は陛下がほれ込んだというホテルとその景色を手に入れてみたいんだ」


「お前は子供のころからそういった変わった物を手に入れたがるな」


「何を言う!君にはわからんのだよ。あのホテルの価値というものが」


「お前たち喧嘩をするな!なぜかいつもお前たちの喧嘩はこのオーシェ様が仲裁役になるな。喧嘩は作戦完了後にしても遅くはないぞ」


「確かにな」


「そうだな」


「よし、そろそろ部下たちを招集する。ここから先は俺の役割だ。俺の手並みを見せてやる」


「期待していますよ」


「頼んだぞ!」


深夜、静寂を破って、野営中の帝国騎士団に緊急招集がかかった。訓練の行き届いた兵士たちは直ちに準備を整え、整列を完了する。それと同時に、オーシェが彼らの前に立つ。


「これから、夜間行軍を実施する。全員、実剣を装備せよ!盗賊の討伐に向かう。攻撃対象は盗賊共がねぐらにしている館だ。中にいるものは全員討伐せよ!」


オーシェは剣を抜き、それで東の方向を指しながら声を上げた。


「盗賊の首魁は、バーサーム!帝国名誉侯爵、バーサームである!続け!」


1000名の帝国騎士団が、音もなく行軍を開始し始めた。

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