第六十七話 盗賊退治②
「帝国騎士団の面汚しですわね」
館に帰り、戦果報告を聞いたリコはプリプリと怒っている。
「まあ、もう終わったことです。我らは我らで、これからのことをやるだけです」
殊勝な言葉をピウスが言い、その場を収める。俺はピウスたちに休憩を命じ、クエナにお茶を出してもらうようお願いして、ゴン、リコ、フェリスと共に執務室に入った。
「もう屋敷に帰るのですの?」
「いや、実はまだ仕事が残っている。さっき倒した盗賊のアジトに、まだ反応があるんだ。しかも、魔物のね」
「倒しておいた方がよいでありますなー」
「是非、私をお連れ下さい!お役に立って見せます!」
盗賊のアジトには三つの魔物の反応がある。うち二つは大したことはなさそうだが、そのうちの一つは、かなり反応が大きい。取りあえずイヤな予感がするので、討伐することにする。
「では、これから行くのですか?」
「夕食を食べたら、な。リコはそのまま屋敷に帰っていてくれ。俺とゴン、フェリスは残った魔物の討伐だ」
「そうでしたら、私もここでお待ちしますわ」
「それじゃ、ピウスやクエナたちと一緒にいてくれ。危険なことがあったら、迷わず屋敷に逃げること。そして、日付が変わるまでに俺たちが帰らなければ、リコは屋敷に帰っておいてくれ」
「わかりましたわ」
夕食を済ませた俺たちは早速、イリモに乗り、盗賊のアジトを目指した。
森の中を歩けば1日の距離だが、イリモの翼を使えば、20分程度で着く距離だ。フェリスは人化していても飛ぶことができる。さすがにイリモの速さにはまだ付いてこられないので、フェリスの様子を見ながら夕闇迫る森の上空を飛んでいく。
しばらく行くと森の中に小高い山が見え、その中腹に大きな屋敷が見える。その周りを取り囲むように、無数のテントや掘っ立て小屋が見える。どうやら盗賊の下っ端どもは、キャンプ生活だったようだ。
俺は気配を完全に消す結界を張り、館の中に入っていく。中は明るく灯がともされていた。館を入ってすぐの応接間に、大きな魔物の反応がある。まずはそこに向かう。そっと扉を開けようとしたところで、部屋の中から声が聞こえる。
「遅いわねぇ~。ああ~体がうずく~。早く帰ってこないかしらぁ~」
俺は静かに扉を開けた。中に居たのは、絶世の美女だった。しかも、とんでもないエロい格好をした美女が。
20歳くらいだろうか?たわわに実った豊満な胸をふるわせ、大事な部分は隠してあるものの、ほぼ裸と変わらない様子でソイツはいた。この姿はおじさんならば、たまらないだろう。
「アーラ、帰ってきたのね~おかえりぃ~。一人なの~?じゃあ、二人っきりねぇ。フフフ」
ヤバイ、俺の、ストライクど真ん中だ。しかしよく見ると、背中に黒い羽が生えている。肩にしがみついているゴンが
「あれは、サキュバスでありますなー。男の精気を吸い取る悪魔であります~。ご主人、目を奪われてはいけないのでありますー」
余りのエロさにドキドキするが、心を奪われるわけではない。平常心平常心。サキュバスは腰をくねらせ、人差し指を口にくわえながらゆっくりとやってくる。昭和の臭いがするが、やっぱりエロい。
「盗賊どもは全員死んだぞ」
ビクッとサキュバスの体が震える。あっけにとられた顔をしていたが、眉間にしわを刻んだかと思えばいきなり激高しだした。
「男どもが全員死んだぁ?精気が足りなくなるじゃない!精気が・・・精気が・・・」
体から黒い霧が立ち込めてくる。俺はこのサキュバスを素早く結界の中に閉じ込める。
「お前の精気を吸いつくしてやるっ!」
体中から鋭い針がサキュバスから放たれる。何と俺の結界を破り、その一部がこちらに飛んできた。俺はすぐさま自分の前に結界を張ってそれを受け止めるが、残りの一部がフェリスに飛んで行った。
「フェリス!」
「・・・ぜーんぜん、大丈夫です」
フェリスの腕に数本の針が刺さっているが、その腕は竜の鱗で覆われており、貫通はしていないようだ。
「その程度じゃ、私の鱗には効かないですよ?」
「おんのれぇ!!お前のような小娘が一番嫌いなんだ!しかしお前は殺さないよ?男たちを引き寄せるエサになってもらうよ?」
「バカかお前。下らねぇこと喋ってねぇで、自分のことを心配しろ」
俺は結界が破られた直後に、さらに強力な結界を張る。ドラゴンのブレスでも悠々と耐える。俺のMPを3000程つぎ込んだ、優れものだ。
「結界師・・・。これは私には破れそうにないわね。いいわ。アナタには抵抗しないわ。私のカラダを自由にさせてあげる」
そう言ってサキュバスは、一糸まとわぬ裸になった。
「いつでもいいわよ?貴方のお望みのままにご賞味ください?」
「・・・ご主人、このサキュバス、一日放っておくでありますー」
「何かあるのか?」
「一日置いてから考えても遅くないでありますからなー」
「・・・そうだな。一度、自分の心をリセットして対応したほうがよさそうだな」
「そんなこと言わないでぇ~。私をオモチャにしてぇー。あなたの、太くて、たくましい・・・」
・・・フェリスの教育上あまりにもよろしくないため、俺たちは無言で部屋を後にした。
「どうして殺さないんですか?」
「うん、一日あのままにしておくことにする」
「あ!一日何も与えずに弱らせて、それから殺すのですね?さすがです、リノスさん。でもあの魔物、どうして裸のままなのでしょうか?てっきり人化の術を解くのだと思っていましたが・・・」
「うん、まあ、その、何だ。あれも敵を油断させるための作戦なのだろう」
「なるほど!裸になって降伏すると見せかけて攻撃するつもりだったのですね!まるで黒龍のような狡猾さだわ!そこを見抜くとはさすがはリノスさんです!」
「ああ、うん、そうだな。ハハハハ・・・」
キラキラしたフェリスの目が俺の心に突き刺さる。俺は足早に弱い反応を示している魔物のところに向かった。
マップには地下にその反応が示されていた。屋敷の裏庭に地下に降りる階段があり、扉を開けると、中は真っ暗だった。俺は「ライト」の魔法を出して中を明るくする。すると、部屋の中には、古くなった斧や剣などの武器や、錆びた鎧があった。そして奥のテーブルの上には、鉄製の籠が置かれていた。そこに近づいてみると、背中に羽の生えたトラ模様の子猫が震えていた。
「何とこれは、ゲュリオンの子供でありますかー」
「ゲュリオン?」
「風のように速く走り、さらに飛行することもできるでありますー。風魔法を自在に操る一方で力も強く、グリズリーなど一撃で倒してしまうでありますー。成長すればおそらくこの森の最強に近い、Sランクの魔物でありましょうー」
俺たちはその籠に近づく。
「きゅう?」
俺たちの姿に気づいた子ゲュリオンはゆっくりと顔を上げ、眩しそうに俺たちを見つめていた。
「おい、大丈夫か?お前はここの盗賊たちに捕まってたのか?」
「きゅうー」
どうやら俺たちの言葉はわかるが、言葉が喋れないらしい。それでも何かを俺たちに伝えようと
「きゅーききゆーきゅー」
と泣き続けている。
「ちょっと待ってください」
フェリスが子ゲュリオンの前に出て、じっと見つめる。しばらくすると、
「この子は森の中ではぐれたところを連れ去られたみたいですね。そして・・・うん?母ゲュリオンが助けに来てくれたそうですが・・・うんうん。・・・返り討ちにあったそうです。それで・・・この子の目の前で皮を剥がれて解体されたそうです。・・・盗賊をやっつけるので、ここから出してほしいそうです」
「それはまた・・・辛かったなぁ。安心しな。盗賊どもは全員あの世に送った。敵はちゃんと取ったから、もう、お前は闘わなくていいんだぞ」
「きゅー。きゅー」
「ありがとうございます、って言ってます」
「それにしてもスゲェなフェリス。こんな子供の言葉でもわかるんだな」
「いいえ。念話です。私たち竜族は思念で相手に言葉を伝えることができます。こんな風に」
『リノスさん、リノスさーん』
おおすげぇ。頭の中にフェリスの声が聞こえる。これは便利だ。
取りあえず、この籠をぶっ壊してこの子ゲュリオンを外に出してやる。外に出た途端、小さな羽をパタパタと動かして、俺の胸に飛び込んでくる。何この子、めっちゃかわいいですやん。
子ゲュリオンを抱っこしながら、もう一つの魔物の反応のある、隣の部屋に向かう。そこには一人の少女が倒れていた。
「何だこの子?」
とてもかわいらしい顔をした少女だが、頭の上に鹿のような角がある。獣人か何かだろうか。頬を叩いてみるが反応がない。取りあえずこの娘も抱えて屋敷を出ることにした。そしてそこに転移結界を設置し、俺たちは館の応接室に帰ってきた。
「おかえりなさいませ。どうされたのです?」
「とりあえず、この子ゲュリオンに何か食べさせてやってくれ。そして、この女の子をどこかに寝かせてやってくれ」
クエナがてきぱきと動いてくれ、準備をしてくれる。獣人少女は眠っているだけのようなので、ソファーの上に寝かせる。そして、最悪のことを想定して、この少女に結界を張る。
「一体どうしたのです?」
俺は屋敷であったことをリコに話した。
「まあ、それは、驚きましたわね。それではこの子たちはしばらく館で預かりましょうか。場合によっては屋敷に連れて行ってもいいかもしれませんね。ところで、そのサキュバスというのはどういう魔物だったのですか?」
それは、説明に困る。あのエロさ・・・ああ、いかんいかん。そんな俺を見かねてフェリスが口を挟む。
「ああそれは、裸のですねー」
「リコ!・・・その・・・今夜は、抱きしめたいんだが、いいか」
「もちろんですわ!」
かなり食い気味に返事をされてしまった。ポカンとする皆を引き立てるようにして俺たちは転移結界に乗り、館に帰った。
その夜、俺は、存分にリコを愛でた。




