第六十三話 条件付きで採用します
俺の腕枕はさておいて、まずはメシを食うことにした。
今日のメニューは、チャーハンと山菜の天ぷら、野菜と肉の炒め物、卵焼きだ。そして、デザートには俺の力作であるプリンを出した。
「おっ、美味しい!こんなに美味しいもの初めて食べましたー。ラースの言ってたことは本当だったわ!」
予想通り、フェリスはよく食った。この二日間ほとんど何も食べていなかったせいもあり、山盛りにもったチャーハンをあっという間に完食した。このペースで食われると全ての料理が完食されてしまうので、俺は追加でから揚げを作る羽目になった。
デザートも完食し、それでもまだ食いたそうな顔をしていたので、無限収納にあったおはぎを20個出してやると、それをペロリと平らげて、やっと満足した。
メシのあと、彼女からラースのことも聞くことができた。泣き虫ぶりは相変わらずらしいが、かなり頑張っているらしい。率先して狩りにも出ているらしく、このままいけば優秀な戦士になりそうだとのこと。ラースの脱皮が終わり、旅に出るようなら一度、会いたいものだ。
フェリスは、ラースから俺たちのことをほぼ、毎日のように聞いていたらしい。ラースと一緒にいたのは一週間かそこらであるが、内容がかなり誇張されており、その上、フェリスの妄想と期待と都合のいい解釈と相まって、それはそれは神のごとき人物として俺は認識されていたようだ。
夜は、ペーリスの部屋に一緒に泊めてもらうことにした。風呂を沸かしてやると、風呂という物を初めて見るらしく、目をキラキラさせていた。
「お風呂はすごく気持ちいいですよー。一緒に入りましょう!」
ペーリスがいいお姉さんぶりを発揮してくれているので、あとは彼女に任せることにする。
俺たちも離れに戻って、風呂に入る。
「フェリス、どうするかなー」
「ご主人様はもう、決めておいでになるのでは?」
「うーん、ラースのお姉さんだからなー。無下にすることもできないんだよなー」
「しかし、あれほどの食欲であれば、ペーリスさんとリコ様が大変だと思います」
「うーん。フェリスにも、料理を覚えさせるか?」
「それが最低限かもしれません」
風呂から上がると、ゴンが俺たちの部屋にやってきた。夜にゴンが訪ねてくるのは珍しいことだ。
「あのフェリスという龍娘、条件次第ではここにおいてもいいかもしれないでありますー」
「ああ、俺たちもさっき話してたんだ。アイツよく食うだろ?料理させようと思うんだよ。あと、自分で狩りもやらせてもいいかもしれないな」
「そんなことより、もっと大事なことがあるでありますー。彼女がいれば、もしかしたらジュカ山脈を無傷で通れるかもしれないでありますー」
「なるほど!」
俺がジュカ王国に帰らないのは、帰りたくても帰れない理由があった。ヒーデータ帝国からの距離が問題なのだ。ジュカ山脈をぐるりと迂回するルートを取っているため、帝都からジュカ王国までは約二ヶ月の行程になる。行って帰ってくるだけで四か月もロスすることになるのだ。約半年間も館を空けるのはさすがに憚られるし、宰相閣下もいい顔をしないだろう。しかし、ジュカ山脈を越えれば、わずか数日。イリモを使えば最短で二日あれば着くことができる。これは非常に大きいのだ。
早速明日の朝にその条件を出してみることにして、俺たちはベッドに入った。
しかし、さっきからリコの様子がおかしい。一言もしゃべらないのだ。そんな様子を察してか、メイは自分の部屋に入っていった。
「・・・リコ?」
「・・・」
「リコちゃーん?腕枕は、いいのかなー?」
「・・・」
さっきから俺に背中を向けたままで何も答えない。俺は腕を彼女の首の下に入れ、腕枕をしてやる。するとリコはガバッと俺に向き直り、
「どうしてあの龍娘を屋敷に置くのですの?」
「リコは反対なのかい?」
「なんだか許せませんわ。あんなふてぶてしい態度を取るなんて。それに招待もされていないのに、食べたいだけ食べて、リノスにも世話をかけていますわ」
「まだ子供なんだから仕方ないだろう」
「それに、どうして腕枕などと・・・」
「ああ、あの子の弟を山に返すときに、腕枕してやったんだよ」
「私の他にも腕枕をしたのでしょう?」
「雄の幼い龍だよ。そうしないとなかなか寝なかったんだ。女性にはリコとメイだけだよ?」
「あんな小娘を屋敷に・・・あっ」
俺は有無を言わさずリコを抱きしめ、唇を奪った。
「フッ、ハッ、ハッ、私は、私は・・・」
「わかっている。腕枕は、リコだけにする。それじゃダメかい?」
「それでしたら・・・いいですわ」
「ありがとう、リコ」
瞳を潤ませ、顔を真っ赤にしたリコは本当にキレイだった。俺は再びリコを抱きしめた。
朝になり、ダイニングに行くと既にフェリスが待っていた。ペーリスは朝食を手際よく作っており、それを見たリコが手伝いに向かう。メイはイリモの世話に出ているようだ。俺とゴンはフェリスの前に座る。するとフェリスは立ち上がり、
「昨日は、色々と失礼をしてすみませんでした。お役に立てることがあれば何でもしますので、こちらに置いてください、お願いします」
ペコリと頭を下げる。
「わかった。座っていいよ。ウチは「働かざるもの食うべからず」だ。よって、何もしない奴はウチにはいらない。フェリスをここに置くにあたっては、二つの条件を付けたい」
フェリスがゴクリと唾を飲み込む。
「一つ目の条件は、ここにいるにあたって、フェリスには、リコとペーリスの手伝いをしてほしい。要は料理を覚えてほしい。沢山食べたいのであれば、森で食材を狩ってくることもしていいかもしれん。森の狩りはハーピーたちに任せているので、そいつらと共同でやるのもいいだろう。それがまず一つ目。二つ目は、これは出来なければそれでいい。実は、ジュカ山脈を通過できるように計らってくれないだろうか。あそこはドラゴンの巣窟で、ヘタに近づくとドラゴンに襲われてしまう。フェリスの群れが管理する場所だけでも、無事に通してもらえるよう計らってもらえないだろうか。それが二つ目だ」
フェリスは俺の顔をじっと見て、コクリとうなずく。
「狩りは得意です。そのために修行してきましたから。それに、ジュカ山脈の通過も大丈夫だと思います。私が一緒に居れば、きっと皆も手を出さないと思います」
「よーしわかった。じゃあ、好きなだけここにいていいぞ!」
「あ、ありがとうございばずぅぅぅえええええ」
泣き出してしまった。弟に劣らず、彼女も涙もろいらしい。
「皆集まってくれ!今日から新しい仲間になってくれたフェリスだ。みんなよろしくな!」
「よろしくお願いしますねー」
「よろしく」
「よろしくでありますー」
「よろしくー」
「びっ、びなざん、よろじくおねがいじまずぅぅぅう」
号泣しながら皆に挨拶をしたフェリス。しかし、用意された朝食はキレイに平らげてくれた。
「では、仕事に行ってくる。今夜はフェリスのお祝いにしよう。帝都で材料買ってくるよ!」
「では、砂糖をお願いします!」
「今日はお魚を買ってきてくださいませ。あと昆布と、エビとイカも」
「ご主人、ニガリもなくなってきているでありますー」
「了解、今日は店を早く閉めて帰ってくるよ。メイ、行くぞー」
俺とメイは、イリモに跨った。
今日の店は、開店直後に数件の依頼があったほかは、かなり暇な一日であった。俺たちはこれを機会に店でケーキを作ることにした。
無限収納に入れてある大量のハーピーの卵、小麦粉、砂糖、バターをはじめ、旬のいちごを市場で購入してコツコツと作り上げた。途中、火魔法の加減を間違えて危うく焦がしそうになったが、何とか閉店までにバカでかいホールケーキを作ることに成功した。
その日の夕食は、いつになく豪華だった。肉、魚、サラダなどがテーブルの上に所狭しと並べられ、皆で舌鼓を打った。早速フェリスも狩りに出たようで、デカイ牛の化け物を八頭も狩ってきた。ゴンはそれを解体するのが大変だったそうだが、この肉も脂が上品でとても美味だった。
そして、デザートには俺とメイの力作のケーキを振る舞った。沢山のいちごを使用した豪華なケーキだ。皆、美味い美味いと喜んで食べてくれた。やはりハーピーの卵の味がいいためか、実に上品な仕上がりだ。あとで聞くと、ハーピーの卵は超高級品であり、王族でもめったに口に入らないものらしい。どうりでうまくできるわけだ。
フェリスの部屋については、ペーリスの部屋の隣、俺がもともと使っていた部屋を使わせることにした。基本的に人化したままでいるそうで、これも修行の一環なのだそうだ。そうなると毎日同じ服を着ているわけにもいかず、さっそく俺たちは次の日から、フェリスの服や狩り用の武器や防具、そしてベッドなど日用品を揃えに帝都に通った。
元々持ってきた荷物は、食料が大半で、私物はほとんど持っていなかった。俺たちの屋敷が見つけられなければどうするつもりだったのか。そんなこともあり、日用品を部屋に運び込むしりから必要なものが出てくる有様で、俺たちは数日の間、帝都に買い物に通うことになった。
フェリスが来て一週間、ようやく彼女の生活も落ち着いてきた。そしてその時を待っていたかのように、ジェネハたちが帰ってきた。そこで俺にもたらされた報告は、衝撃のものだった。




