第五十三話 えーのか?これでええのんか?
「私をイジメる?冗談にしては面白いわ。いいわ、身の程をわからせてあげる」
黒ウサギは、ピンク色のオーラを纏い始めた。手にはレイピアを持っている。
「うふふ、地獄の業火があなたを焼き尽くすわよ?早く逃げないと丸焼けになっちゃうわよ?」
俺はポーセハイを見据えたまま微動だにしない。
「アッハハハ、あまりの恐ろしさに動けなくなっちゃったかしら?」
「ご主人様、お逃げください!」
メイリアスが俺の背中にしがみついてくる。
「二人ともひと思いに殺してあげるわね?」
「さっきから一人でブツブツと、何やってんだ、お前?クサい三文芝居だな」
「は?」
「ああ、メイリアスには何もしてなかったな。ほらよ」
「・・・火が消えた」
「幻影が見えればそれなりに盛り上がるのでありましょうが、見えなければ、見るに堪えない姿でありますなー」
「ああ、見ていて痛々しい。つーか、イタイよお前。もう終わりか?お前はいろいろと面白そうだから、イジめがいがありそうだ」
既にこのポーセハイには周囲10メートルの結界を張り、閉じ込めてある。そしてその中に、大量のゴ○ブリを発生させる。
「うわっ!何これ!いやっ!!」
思わずポーセハイは空中に逃れる。俺はその黒い翼を爆発させ、飛行能力を奪う。激痛に悲鳴を上げながら着地し、必死でゴ○ブリから逃げ惑う。俺は両足を爆発させ、その動きを封じる。大量のゴ○ブリに全身を蹂躙されながら、のたうち回るポーセハイ。
「いやぁぁぁぁぁ!ぎゃぁぁぁぁぁぁ!やめてぇぇぇぇぇぇ!!やめてぇぇぇぇぇぇ!!」
さすがにこの場面は見るに堪えないので、メイリアスやゴンにはゴ○ブリは見えないようにしている。彼らからは突然ポーセハイが錯乱しているように見えている。
俺はその光景を見ながら改めて、このポーセハイを鑑定する。
リヨナ(ポーセハイ・37歳) LV29
HP:183
MP:116
幻影術 LV3
誘惑術 LV3
人化術 LV3
精神魔法 LV3
転移術 LV2
飛行 LV2
人を惑わすことが専門のスキルである。まともに俺と闘うと、お話にならないレベルであるが、この「転移術」に俺は興味を持った。
「なあゴン、転移術ってどういうやつだ?」
「空間魔法の一種でありますが、あまり活用できないスキルでありますなー。自分しか転移させることは出来ないでありますし、MPもかなり消費するので、逃亡用の最終手段に使われることが多いでありますなー」
何だ。行ったところに好きに飛んでいけるんじゃないのかよ。
「それならば、まさしく結界スキルが使えるでありますー。結界を極めれば多くの人を転移させることができるでありますー。おひいさまの祠も、結界の一部でありますー」
何だそれ?早く言えよー。一度ゴンにスキルの詳しい説明をしてもらわなきゃいけないな。なんだか宝の持ち腐れになっているような気がしてならない。
そんなことを考えていると、ポーセハイの周囲の空間がゆがみ始めた。よく見ると仲間のポーセハイが転移してきているらしい。その中でもひと際、体の大きいポーセハイの転移が終わるや、大声で叫ぶ。
「救援信号を頼りに来てみればリヨナ!一体どうしたのだ!!」
のたうち回っているポーセハイの結界の中身をクリアにしてやる。全身汗まみれになりながら、ぐったりとしてピクリとも動かない。
リヨナと呼ばれるポーセハイの周囲に8匹のポーセハイが集まっていた。なるほど、集団で行動するというのは、こういうことなのか。
「お前らコイツの仲間か?大人しく帰るのなら、コイツを連れて帰っていいぞ」
「何だお前は!リヨナのこの傷はまさかお前が・・・?ありえん!リヨナがここまでやられるなど!!」
「ありえようがあり得まいがそんなことはどうでもいい。早く飯が食いたいんだ。今日のところは見逃してやるから、とっとと帰ってくれ」
俺が喋っている最中に、一匹のポーセハイが俺に斬りつけてくる。斬りつけた瞬間に俺はそいつを結界に閉じ込めて、その中身の温度を急上昇させる。一瞬のうちにポーセハイは火に包まれ、消し炭のようになって姿を消した。
「ミヒジぃ!!・・・許さん、許さんぞ!!殺せ!!!」
でかいポーセハイが大声で命じる。残りの六匹は魔法の詠唱を始めた。それを察して俺は詠唱中のポーセハイに「灼熱弾」を放つ。ポーセハイたちの体に穴が開き、そこから一気に炎が噴き出す。奴らは何をされたのかも分からぬまま、その命を散らした。
「おいデカイの。お前にはいろいろと聞きたいことがある」
「くっ!ぬぁぁぁぁぁ!」
俺が結界を張ると同時に、でかいポーセハイは転移し始めた。断末魔の絶叫を上げながらそいつは姿を消した。
「転移・・・したのか?」
「ポーセハイが仲間を見捨てて逃げるとは、初めて聞いたでありますなー。おそらく、ご主人の結界の中から転移をしたので、かなりのダメージを受けたでありましょうなー」
「仕方がないな。あいつに聞くか」
俺は傷つき、倒れている女の下に近づく。後ろからゴンとメイリアスが付いてくる。ピクリとも動かなかった女だが、俺が近くに来るとゆっくり顔をあげた。
「今のデカイのはお前の仲間か?見捨てて逃げちまったみたいだけど」
俺を見る女がニヤリと笑う。その瞬間、閃光が走り、爆発が起こる。
「あぶねぇ!」
反射的に俺はメイリアスを抱きしめていた。モフモフの髪の毛と腕に生えた毛が心地いい。
振り返ってみると、そこには何もない、いつもと同じ草原があるだけだった。
「自爆したでありますー。まさか、自分で爆発するとは、初めて知ったでありますー」
ゴンが妙に感心している。よく見ると草原に一本の剣が落ちている。拾って鑑定してみると、
レザーソード:全ての物質を鋭く切り裂く剣。
ほう、切れ味抜群の剣と見た。剣身が美しい。
「それは、私が作った剣です」
俺が剣に見とれていると、メイリアスが独り言のようにつぶやく。
「かなり切れ味がよさそうだな。いい剣じゃないか」
「命じられていたのは、空気も切り裂く剣を作れと言われていたのです。しかしそれには膨大なMPを流し込まなければいけません。何とかしてMPを節約する術式を考えていたのですが、上手くいかなくて・・・」
MP?俺は有り余ってますけど?取りあえず、MPを流し込んでみるか。MPを剣に流し込むイメージをすると・・・おお、どんどんMPが吸われていく。まだまだ入りそうだ。どんどん入れて・・・と、調子に乗ってMPを入れていくと、剣身が青く光りだす。メイリアスは目を丸くしてその光景を見ている。
およそ10000程のMPを注ぎ込んだ時、剣のMPが満杯になったような気がした。気が付いてみると、剣が磨き抜かれた鏡のように美しい剣身になっていた。思わずメイリアスが「きれい・・・」と声を漏らす。再びこの剣を鑑定してみると、こんな内容が表示された。
ホーリーソード:全ての物質と空間を切り裂く剣。特に邪悪な物には鋭さを増して切り裂く
・・・聖なる剣が出来上がったようです。ええのか、これでええのんか?
無言で俺は剣をメイリアスに渡す。メイリアスは剣身を食い入るように見つめ、剣身を何度も何度も舐めるように見回していく。
「ど、どうやってこれを・・・?合金配合?いや、組み込む術式をクオッシュ方式に変更して・・・いや、式じゃなくて・・・あれ?ガムリ草が焼き切れてる?あれ?あれ?」
美少女が目を見開いて剣を見つめながら一人でブツブツと言っている姿は、かなり怖い。
「メイリアス、取りあえずその剣、むき出しだから鞘か何かを作ってもらえるかな?今すぐじゃなくてもいい。材料は・・・明日また買いに行こうか。腹が減ったな。メシにしよう!」
ハイ、と大切そうに剣を抱えるメイリアスと、お腹がすいたでありますーとあくびをするゴンを従えて、俺は屋敷に向かった。




