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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十章 ミーダイ国編
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第二百九十三話 さて、どうしよう?

「タナ王国は、我が国を攻め滅ぼす算段を立てておりました」


ショゲツは周囲に丹念に注意を配りながら、ヒソヒソと話し始めた。自然と俺たちも彼女の側に近寄っていく。


「無論その後ろには、クリミアーナ教国が糸を引いているに違いはおへん。何で今、タナ王国が攻めてくるんやと思わはるのは道理どす。おそらく、プリルの石を手に入れたからやと思います。何せ、クリミアーナは支配国を使って、手を変え品を変えして、石を手に入れようとしていましたさかいに」


「なるほど。今回、クワンパック様のお屋敷から魔吸石とプリルの石を持ちだせたことによって、目的は達せられたというわけですね? で、ミーダイ国が邪魔になって、滅ぼそうとしていた……と」


ドーキが頷きながら言葉を返している。


「せや。クワンパック家の家宝であるプリルの石は、子供の握りこぶしほどもある大きさの物や。あないな大きさの石は、そこいらにはないものどす。クリミアーナからしてみれば、願ったりかなったり。しかも、魔吸石まで手に入れたのや。これ以上の成果はあらしまへん。そこで、我が国を滅ぼして、二度とプリルの石を生産できんようにするために、攻め滅ぼそうとしたのやろ」


「ちょっと待ってくれ。確か、10年ほど前の大戦もクリミアーナが介入していたと聞いたが、それってもしかして……」


「せや。さすがはリノスはんやな。その通りや。プリルの石を奪うために仕掛けられたんどす。帝様を含めた、あの石を下賜された家と、まだ持っていない家同士が争うたんや」


「で、結果は……」


「辛うじて、帝様たちが勝ちはった。せやけど……」


ショゲツはチラリと帝様に視線を向けた。彼は小さなため息をつきながら、ゆっくりと口を開いた。


「我が父ゴカーシが、命と引き換えに賊軍を討ったのじゃ」


「そのとき、プリルの石は……?」


「元々、プリルの石が下賜された家は少ないのじゃ。オージンたちのクワンパック家を筆頭に、4家しかない。その4家にある石はいずれも無事で、全て我が下に集めた。リノス殿に預かってもらった、あの石たちがそれじゃ」


「なるほど……。ではなぜクワンパック家は石を差し出さなかったのです?」


「差し出す前に隠棲されてしまってな……奪い取るわけにもいかぬでな……」


「何とまあ……」


俺は思わず絶句してしまう。そしてさらに聞けば、帝様の父上は、体中の魔力を絞り出して敵に火の雨を降らせ、そのまま絶命したのだと言う。元々プリルの石を精製するために、膨大な火を扱う術を知っていたために、それだけの大魔法が撃てたのだが、魔力が不足している状態であったために、自分の命までも犠牲にして魔法を構築したのだそうだ。


「……せやけど、解せんのは、タナ王国の動きどす。アテに全く悟られずに軍を動かしたやなんて……信じられまへん。ここに居るオワラ衆にもおそらく知られずにこれだけのことをしやった……。一体、タナ王国はどんな手を使こうたんか……」


「おそらく、魔法陣を使ったのでしょうね」


「魔法陣……? クズノイッハか。しかし、あれはかなりの魔力を使うと聞いた。この……仕儀は一人二人でできるものではあるまいに……」


「いえ、帝様。どうやら少ない魔力でも魔法陣を描くことができるアイテムを持った者が、タナ王国にいるようです。そしておそらく、そいつがサツキさんを誑かし、プリルの石を奪った張本人です。おそらく、この山の山頂に、いくつかの魔法陣を描いて大量の岩を落としたのでしょう。帝様が仰るように、一人二人の魔術師ではなく、少なくとも数十人規模の魔術師が一斉に岩を落としたのだと思います」


「何ちゅう……。ここまでしやはるのか……」


「しかしなぜ、タナ王国がそこまでするのじゃ……。いきなり……」


「恐れながら」


戸惑う帝様に、オワラ衆のお頭であるイッカクが前に進み出る。彼は静かに平伏し、ゆっくりと口を開く。


「戦略上、我が国は、邪魔」


「どういうことじゃ?」


「我が国は、フラディメ、サンダンジに通じる国。わが国潰せば、タナ王国、後顧の憂いなし」


「なるほどな……。タナ王国は、何かさらに大きなコトを起こそうとしているのかもしれぬな……」


帝様は大きなため息をつきながら、天を仰いだ。


「したが……この闇の状況……。これはもしかして……リノス殿、そこもとが?」


「はい。咄嗟のことだったのですが、この国全体に結界を張りました。全てに張れているのかどうかはわかりませんが……」


「国全体に!? そこもとは……」


「ええ。本職は結界師なのです。かなり丈夫な結界を張っていますので、石が崩れ落ちることはないと思います。」


「結界師……。わが国全てが石で閉ざされているようであるとは、先ほどオワラ衆が申して参ったが……まさか、結界で守られていたとは……」


帝様は天を仰ぎながらポカンと口を開けている。いや、完璧に結界を張れていれば、エヘヘと照れ笑いも出来るのだが、完ぺきではないのだ。かなり恥ずかしい……。


「……大丈夫です。問題ございません」


不意にターマの声が聞こえる。見ると彼女は、皇后さまの脈をとっていたようだ。丁寧に皇后さまに毛布のような布を着せ掛け、肩が冷えないようにしている。


「お腹のお子様も、問題ないと思います」


「かたじけないの、ターマ殿」


「お上……」


皇后さまが不安そうな面持ちで口を開く。彼女はゆっくりと帝様の前に進み出て、彼の手を両手で握りながら、涙声で話しかける。


「このようなことを……ここで申し上げるのは甚だ……甚だ不躾ですが……私は、怖ぅございます。お上……お上……」


帝様は皇后さまの手を握りながら、もう片方の手で、その背中を優しくなで続けた。


「せやけど、問題はこの石や。これ、どないします? 皆で掘り起こすちゅうてもやな……」


「あ、それなら問題ないですよ。この結界を上昇させればいいだけですから」


「え? リノスはんどういうことや?」


「今、上に張っている結界を上昇させます。そうすれば、石たちは山の斜面に落ちていきますよね?」


「なんとまあ、器用な……。うん、それやったら、それでお願いするわ。お礼は弾みますえ」


「よし、それじゃ」


「待て」


結界を上昇させようと立ち上がった瞬間に、帝様から声が飛んできた。何事かと思って彼に視線を向けると、彼は姿勢を正して座り、重々しく口を開いた。


「今、この上にある石がなくなれば、再びタナ王国から軍を向けられるであろう。少数であれば、オワラ衆を駆使して排除することはできるが、大軍をもって攻められると、兵力のないマロたちは、蹂躙されるほかはない」


「では、どうしろとおっしゃますのんえ?」


「しばらくは、このままでいるのじゃ」


「そんなアホな! 現に皇后さまは怯えてあらしゃいます。このままではお腹のやや様も、どうなるものか……」


帝様は心配そうに皇后さまに視線を向ける。そして、絞り出すように口を開いた。


「とはいえ、国の者の命がかかっておる……。今は、耐えるのじゃ……」


「恐れながら、光は肝要」


とつぜんイッカクが口を開く。


「闇の中にては、人、生きられず」


「それやったら、石を一つ一つ取り除きましょう。それで、光を……」


帝様はショゲツに向かって、ゆっくりと首を振った。彼女は一瞬動きを止めたが、やがてガックリとうなだれてしまった。


「……帝様、この国に住む人は、どのくらいですか?」


「……リノス殿、そこもとには、迷惑をかけ通しじゃの。すまぬ。ここから先は我らで何とかするによって、そこもとは、すぐにこの国を離れられよ。ドーキ、済まぬが、リノス殿を国に送り届けてくりゃ」


「帝様、さすがにこの環境で暮らすのは無理というものです。何より、皇后さまのお体のこともあります。ここはひとつ、住む場所を変えてはどうでしょうか?」


「どういうことじゃ?」


「いえね、アガルタには結界村というものがありましてね。以前、ある難民を保護した場所がそのまま残っているのですよ。3000人くらいなら収容できると思うのですが……」


「私も、その現場を知っていますが、なかなか快適なところですよ。転移するのであれば、我々ポーセハイがお手伝いしますよ」


チワンが助け舟を出してくれる。帝様は、俺とチワンと交互に見比べていたが、やがて視線を床に落として黙ってしまった。


全員が、帝様の決断に固唾を呑んで注目していた。

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