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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十章 ミーダイ国編
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第二百七十六話 帝様

カリカリカリカリカリ……。カリカリカリカリカリ……。……チリリリリーン。


机の上に置いているベルを鳴らすと、すぐに扉がノックされて、男が入室してくる。


「お呼びでしょうか?」


「決裁の書類には全部サインをしておいたから、持っていってくれ」


「畏まりました」


男は恭しく一礼をして紙の束を受け取り、そのまま部屋を後にした。


「ふぅ~。やれやれ……おっ。もう時間か。じゃあそろそろ行くか」


俺はそう言って、再びドーキの店に転移した。



「リノス様!」


店に入るなり、ドーキは飛び出すようにして俺の許にやって来て、ペコペコと頭を下げる。


「大丈夫だったか?」


「はい。今のところ、お客様以外は、誰も……」


「そうか」


俺たちはそんな短いやり取りを交わしたあと、彼が経営するもう一軒の料理屋に移動する。


「旦那……」


「クロヌロさん、何かありましたか?」


「いえ、大丈夫ですが……」


「あなたには迷惑は掛からないようにしますから、大丈夫です」


ドーキは落ち着いた声で虎獣人の男に話しをしている。そして、俺たちはもといた座敷に向かう。


「……」


俺たちが部屋に入ると、ポーセハイのゼンハイとフィットが小さく一礼した。彼らの前には、三人の女が眠っており、そして、そのすぐ横でチワンもまた、幸せそうな顔をして眠りについていた。


「大丈夫だったか? すまんな、お前たちも巻き添えにしてしまって」


謝る俺に、二人は笑顔で首を振った。


「チワンは……徹夜続きなんだな。しばらく寝かせといてやろう」


そう言って俺たちは笑顔を交わし合う。そして俺は、ゆっくりと視線を女たちに向けた。


サツキを氷漬けにしたあと、女たち三人は結界に閉じ込めて眠らせた。そのとき、サツキの氷は溶かしておいた。その後、俺はアガルタで片付けなければならない仕事があるために、そこから転移し、国王としての業務に取り掛かったのだ。同時に、ドーキは料理屋を手伝いつつ、お菓子屋の開店準備にかかった。


彼の店の営業形態は、この世界においてはかなり特殊だ。料理屋については昼と夜の営業だが、昼は11時に開店し、14時で一旦店を閉めてしまう。その後、18時に再び開店し、21時まで営業する。お菓子屋については、12時に開店し、16時で閉店という短い営業時間だ。しかも、お菓子屋については、16時まで営業していることが珍しい程に、かなり早く店じまいをしてしまうのだ。


一見すると随分強気な営業姿勢に見えるが、これにはちゃんと訳がある。ドーキは味を落とさないように、数量限定販売を貫いているのだ。結果、料理屋もお菓子屋も、基本的に予約で完売してしまう。儲けは少ないのだが、彼も、いっしょに働いているクロヌノも、儲けることにはあまり興味がなく、自分たちが食べていけるだけの収入があれば十分と考えていて、余った時間は北町衆の活動や、町衆が主催する勉強会に行くなどして、自己投資に充てているのだ。


ドーキとの付き合いから、俺は彼の生活スタイルを知っていたために、サツキたちを眠らせて、彼の手が空くであろう夕方の時間に帝と会おうと考えたのだ。基本的にドーキが頼めば帝はいつでも会ってくれるそうなのだが、彼は調整能力にも長けていた。店番をしながら、菓子を買いに来た客に帝への嘆願書を邸宅に持っていくように頼み、その数時間後には、帝から目通りを許すことが書かれた許可証が既に届けられていた。帝の直筆で書かれているというその文字は、とても迫力がある一方で、どこか優美さを感じさせる書体であり、この字から見ても、帝という人はタダ者ではない雰囲気が見て取れる。


「では、行きましょうか」


俺はドーキと連れ立って店を出る。そのまま館に沿って進み、大きな門を潜って中に入ると、倉庫のような大きな二棟の建物が目に入った。


「こちらです」


その建物を左手に見ながらゆっくりと進んでいく。足元は玉砂利のようなものが敷き詰められており、歩くたびにジャリジャリと音を立てている。しばらく歩くと、本格的な館が見え、俺たちはそこを超えてすぐ左に曲がった。


……実に見事な庭が目に飛び込んできた。大きな池があり、その周囲に色々な木が植えられているが、それらが池の水面に映り、何とも言えない癒しの空間が作られていた。


「帝様!」


ドーキの声でふと我に返る。彼は俺に目配せをして小走りに走っていく。よく見ると、その庭の周囲にも建物があり、それらをつなぐ渡り廊下のようなところに人影のようなものが見えていた。俺はドーキの後を追いかける。


……そこには、布を体に巻き付けたような衣装を纏った、小柄な男が立っていた。しかも、その頭には、二本の角が生えていた。彼に近づくにつれ、その風貌が明らかになっていく。目は細く、しかもタレ目であるために、柔和さを感じさせる。巻きつけた布から見える髪の色は銀色で、その顔は薄緑色だった。


「よう参った」


予想以上にカン高い声だった。ドーキは地面に片膝をつき、恭しく頭を下げる。


「緊急のこととはいえ、申し訳ありませんでした」


「なに、構わぬ。外ならぬドーキの頼みじゃ。何を差し置いてでも会おうぞ」


帝は優しい笑みを浮かべながらドーキを見ている。そして、スッと視線を俺に向け、ニコリと笑みを向けた。


「ここでは話はできぬによって、ささ、中に入られよ」


そう言って彼は建物の中に消えていった。


案内された部屋は何もなく、ガランとしていた。唯一目に入ったのが、ほのかに青白い光を放つ、トラのような置物だ。帝はその前に自ら緑色の座布団のような円形の敷物を二つ床に並べ、自分はその置物の側にフワリと腰を下ろした。


「さ、座ってくれい」


「き……恐縮です」


ドーキはわざわざ座布団を外して床に座る。俺もそれに倣って床に腰を下ろした。


「ホホホホホ、二人とも、遠慮深いことよな。さて、マロに伝えたいこととは、一体なんだえ?」


「帝様、こちらは、僕たちに塩を提供していただいた、リノス様です」


「なに、塩を?」


「はい。この国の人々が3か月は持ちこたえられるだけの塩を提供いただきました。あ、ご懸念には及びません。お代金は、いつでも払える時にと言っていただいて……」


ドーキがそこまで言うと、帝はスッと立ち上がり、体に巻き付けてある布をクルクルと解きだした。あっという間に彼は上半身裸になり、その布を丁寧に畳んで、ゆっくりと俺の許に差し出した。


「ミーダイ国を治める、ゴンナーラじゃ。支払代金にはとても足りぬだろうが、せめてその足しにしてくれ。マロが使ぅてしもうたが、妻が精魂込めて織った布じゃ。それでも売ればそれなりの価値になる物じゃ」


あまりに予想外の行動に俺は、慌ててその布を帝の許に返す。


「いいえ、本当に結構です。お代金は後でも十分です。私の国では塩が大量に採れます。それに、ドーキには私の妻が出産したときに、滋養のある餅……こちらではカチンと言うのですか? を持って来てもらって、色々と助けてもらいました。今回はその恩返しです。気にしないでください」


「さりとて……ドーキの作るカチンと、此度の塩とでは、全く釣り合わぬが……?」


「ええ。代金は少額でも月々に返してもらうようにします。決して無料というわけではありません」


「月々……。代金を取る、というのであれば、マロは何も言わん。……心から感謝するぞよ。しかし……そなたは、一体何者だえ?」


「色々と商売をしている者です」


「商人……か。見たところ邪念は感じぬな。それに……なにやら強い力を感じる」


「恐れ入ります。買い被りですよ」


一瞬表情に出そうになるが、何とかこらえる。アガルタの国王と名乗ってもよかったのだが、本能的に身分を偽ってしまい、思わず商人と答えてしまった。だが、嘘は言っていない。それに、何となくではあるが、俺の力を感じ取っているところを見ると、レベルの低い鑑定スキルを持っているのだろうか。先ほどから帝はずっと俺の目を見続けている。彼の瞳はとても美しい。大きな目をしているので、よく見えるのだ。エメラルドグリーンの瞳を見ていると、何だか吸い込まれそうな気分になってくるが、とても心地がいい。そのために鑑定スキルを発動させようと思うのだが、その瞬間に、それをしてはいけない気分になってくる。どうやら彼は、タダ者ではなさそうだ。ここは、サツキたちのクレームではなく、彼女らを鑑定した内容を話した方が良さそうだ。そんなことを考えていると、再び帝様が口を開いた。


「ところで、マロに会いたいというのは?」


「はい。今回、ミーダイ国は塩止めにあっていますよね? それは実は、隣国のタナ王国の策略のようなのです」


「タナ王国? なぜ、そなたがそのようなことを知っているのじゃ?」


「ええ、私がこの国に来た時に、とある誘拐事件に巻き込まれまして、その濡れ衣を着せられたのです。それに関わった者たちと話をしているうちに、とんでもないことが分かりましてね。それを、帝様にお伝えしたいと思いまして、このように無理を言ってお時間をいただいた次第です」


「ほう……それは……是非、聞かせてもらおうか」


帝は姿勢を正して、俺に向かい合った。それを見て、俺はドーキに目配せをするのだった……。

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