第二百六十四話 みんなイイ人ばっかりだ
「帝様ぁ?」
予想外の答えだったためか、チワンが頓狂な声を出している。そんな様子を見ながらドーキは、ぼそぼそと帝との関係を語り始めた。
話を聞くと、ミーダイ国は約10年前に、国を二分するような大乱があったらしい。今の帝は、その乱が収束した後に、わずか12歳で即位されたのだという。しかし、その大乱で都の大半は焼け野原と化し、国は大きく衰退した。一時期は住まいの御所は荒れ放題となっていたらしい。本来は、貴族たちが帝を支えねばならないのだが、彼らも、その日の暮らしで精いっぱいであり、帝のことまで構う余裕などない状況なのだそうだ。
そのため帝は、即位はしたものの財政難からその即位式すら行うことが出来ずに、今に至っているという。国の財政はほぼ破たんした状態であるらしく、帝の地位にありながら、食うに事欠く有様なのだそうだ。ある時期などは、一日一食、しかもそれさえも粗末な食事のみで命をつないでいたこともあったのだという。
そこで、見かねたドーキがある朝、なけなしのもち米を撞いて、こぶし大程の餅を6つ作り、それを御所に納めたのだと言う。応対した女官は驚き、そして大いに喜び、そのまま帝の許にそれを持って行った。しばらく待っているとその女官が戻って来て、庭に回れという。大きくて広い、しかし、荒れた庭を歩くことしばし。彼は、大きな建物の前に出た。キョロキョロとあたりを見回していると、風よけの布がはためいているのに気が付いた。元々ここには壁があったのだが、戦乱の影響で壁に大穴が開いてしまい、その部分を布で覆っている、というより、布をぶら下げているようにしか見えないのだが、そこから、小柄な男が顔を出していた。
「……それが、帝様だったんです」
「え? ずいぶん気さくなんだな」
「はい。それでわざわざ僕のところまでお出ましになって、餅が美味しかったとお礼を言われたのです。とても喜んでくれまして……。うれしいじゃないですか。それで、その日から毎朝、お餅をお届けしているんです」
「マジか……」
「女官様は、気を使わなくていいと言われるのですが、どうやら、僕のお餅を帝様と皇后様が仲良く召し上がられているようで……。この間などは、皇后様もお出ましになって、毎日お餅を楽しみにしていると仰いました。僕が朝餉をお持ちせねば、お二人が飢えてしまいます。だから、僕が店を長い間空けるわけにはいかないんです」
あまりの話に、俺は絶句する。何、この話。メッチャええ話ですやん。
「認められません」
いきなりキツイ言葉が飛んでくる。発言しているのは、ローニだ。
「王ならば、なぜ、国を復興されないのです? なぜ、ご自身で他国に赴いて救援要請をしないのですか? 財政が破たんしているのなら、まずは財政再建をするべきでしょう」
「うーん。ローニの言う通りなんだよね。ただ、国内はまだまだ治安が悪いし、盗賊なんかも出るんだ。それに、帝様は高潔すぎるんだよね……」
「高潔すぎる?」
「うん。他国に救援といっても、とても不便な場所に国があるので、なかなか物資を届けるのが難しいんだ。それに、帝様は支払う対価がないと仰ってね。だから、その対価となる物をご自分でお作りになっているんだ」
「何ですって?」
「帝様が土をこねて焼き物を作り、皇后さまが機を織って布を拵えて、それを売っているんだ。で、そこから得たお金の大半を民に分け与えている。帝様のお作りになる茶わんや壷はとてもいいもので、結構売れるんだよ。でも、最近は偽物も出回るようになってね……。帝様はそれを取り締まるどころか、偽物を作っている者にも生活があるだろうと仰って、応援しようとさえなさるんだ。そりゃ、いつまで経っても暮らし向きは楽にならないさ。お付きの方も、もっと上手に儲けましょうとご意見も申し上げているし、実際、支援の申し出もあったんだけど、帝様が断られるんだ」
「何ですか、それ? 売れるなら売ればいいじゃないですか?」
「うん。邪心があると仰ってね。国の民を唆そうとしているから受けないとキッパリと断られたんだ。でも、帝様はそういう高潔さがあるから、国の人々にはとても慕われていてね。だから何とか今、国が滅びずに持っているんだ」
「何だか、スゲエ王様だな」
「本当は、僕が転移を使って、世界各国に帝様や皇后様がお作りになった品を売って歩けばいいんだろうけれど、僕の魔力は少なくて……僕一人を転移させるので精一杯なんです。子供の頃から、もっと魔法の修行をしておけばと、今になって後悔しています」
「うん? でも、ドーキ。君は確か、リコに食べさせたお餅を転移して取りに帰ってたじゃないか。2~3回転移できるのなら、王様の作品を売りに行くことくらいは出来るんじゃないのか?」
俺の質問に、ドーキはちょっと悲しそうな表情を浮かべて口を開く。
「あれは……MPを回復させるポーションを飲んだのです。通常であれば、転移を使って往復してしまうと、回復するまでに二日かかります。ポーションもそんなにたくさん持っているわけではないので……」
「なるほど。それなら……難しいな。てゆうか、そんな大変なことなのに、わざわざ餅を持ってきてくれたのか? ……ありがとうな」
俺はちょっと感動してしまった。どこまでいい奴なんだ。そんな中、ローニが突然口を開いた。
「と、いうことは、もし、万が一、億が一、私があなたと結婚したとすると、私はそのミーダイ国に住まねばならなくなりますね? 私はアガルタの研究所に勤めていますし、さらに私は、アガルタ王妃のリコレット様、コンシディー様の主治医です。ミーダイ国には住むことは出来ません。よって、あなたとの結婚は……」
「お前は何度も転移できるだろう。できなければ、鍛えてやるから安心しろ」
「ぐはっ!」
チワンの適確なツッコミにローニが悶絶している。この日は、ドーキが国に戻らなければならないと言って、話し合いは後日に持ち越された。
その日の夜、俺はメイとシディーを伴って、再びリコの産室に向かい、彼女と息子を見舞った。ドーキのことはローニから聞いたらしく、リコは子供におっぱいをあげながら、口を開く。
「ドーキというお方は、いい人ですわね。それに、ミーダイ国の帝様も、とても良いお方のようですわね。私たちが出来ることであれば、お助けして差し上げたいですわね」
「そうだな。機会があれば一度、伺ってもいいかもしれないな」
「そうですわね。私も一度、お目にかかりたいですわ」
そこまで言うと、リコはイデアを胸から離し、肩に抱いて彼の背中をトントンと叩いてげっぷをさせている。そして、イデアをメイに渡して衣服をあらためながら、再び口を開いた。
「ところでリノス、一つ聞きたいことがあるのですわ」
「何だい?」
「ローニから聞いたのですが、男性と女性の考え方ですか? 女性は今を見て、男性はいつまでも昔の恋人を覚えている……というお話、あれは、どなたから学ばれたのですか?」
「え? 誰って……?」
「男性はさておき、女性の……は、女性でないとわからないものですわ。どなたから学ばれまして? メイからですか? シディーからですか?」
メイもシディーも、顔を見合わせながら首を振っている。そして、二人とも俺に注目している。何? この展開? いや、前世の記憶ですよ。昔……ね。教えてもらったんだよ。でも、そんなことをここで言えるわけはない。俺は目を泳がせながら、口を開く。
「エリルだ」
「エリル? エリルはまだ……」
「いや、エリルお嬢様の方だ」
「え?」
「お嬢様が昔、俺にそう教えてくれたんだ。うん、お嬢様が、だ」
「……そうでしたか。さすがはリノスの先生ですわね」
リコが笑みを浮かべている。よかった。何とか乗り切ったようだ。ただ、今夜あたり、もしかすると、エリルが夢に出てくるかもしれない。そのときは……ひたすらに怒られることにしよう。いや、イメージアップは図れたから、逆に褒められるのかも……って、エリルに限ってそれはないな。まあ、出たら出たで、そのときはそのときだ。
その夜、俺は寝言で何故か「話せばわかります!」という言葉を繰り返していたらしい。
先日から募集していますキャラクター名、アイデアをいただきありがとうございました。現在、下記の名前を採用し、次章にて使用させていただきたいと思います。
男性名:クロヌノ、ゼンハイ、フィット、ベンテ、ダエモ、カホシ、ナンゴ、リーヘイ
女性名:ハーギ、サツキ(メイがいてサツキがいないのはアカンやろ、のメッセージに大納得でした)、ゼザ、シロン
まだまだ募集中です(特に都市名)。よろしくお願いします。




