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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第七章 クリミアーナ教国編
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第百八十五話 気が付けば前哨戦

大海原に一艘の船が見える。ヒーデータ帝国の旗を掲げた巨大な船が、ゆっくりと海原を進んでいる。この世界にこれほど巨大な船を建造できる国は、そうはない。既にこの船の威容だけで、ヒーデータ帝国の力を十分に伺い知ることができる。


その船に乗っているのは、アガルタ国の国王リノスと、その愛妾である羊獣人のメイリアス、そして黒いウサギ獣人、チワンとローニが乗船している。そして、ヒーデータ帝国からは、帝国大学の医学研究所の所長、ロベルトとその部下たち数名が乗船しており、さらには、ニザ公国からは、ドワーフ王の高弟であるピタンとその部下たちが乗船している。総勢、15人にも及ぶ集団が乗船しているのである。


「ようやく見えてきましたね・・・」


そう呟くのは、ヒーデータ帝国皇帝の弟であるヴァイラスである。


「そうですね。あと、半日で到着というところでしょうか」


「船上での十日間は、さすがに疲れましたよ」


「まあ、船酔いは仕方がないですね」


義兄上あにうえの回復魔法とメイリアス殿のお薬がなければ、今頃どうなっていたか・・・」


「無理せず帝都におられればよかったのに」


「仕方がありませんよ。陛下の命令ですから」


「まあ、殿下にも頑張ってもらいますから、本当によろしく頼みますよ?」


「ええ、任せてください」


俺はヴァイラス殿下とそんな話をしながら和んでいる。実際、一昨日はかなり船が揺れて、研究者たちも船酔いで苦しんでいた。俺たちは全く問題がなかったので、俺は回復魔法をかけつつ、メイの作る船酔いの回復薬を飲ませてやったのだ。


船の旅は基本的にすることがないと思いきや、研究者たちは飽きることなく朝から晩まで、今回の問題に対する討論会と勉強会を続けていた。こういう理系の話はチンプンカンプンな俺はすることがなく、釣り三昧の日々を過ごしていたのだった。高校生の頃、数学と理科類の授業は散々睡眠学習をしたのだが、全く身についていない。勉強しておけばよかったと、ちょっとだけ思ってしまったのは、ナイショの話である。


夜は当然、帝都の屋敷に転移して眠った。同行しているポーセハイのチワンとローニも屋敷に泊まってもらう。ちょうど、屋敷で匿っていた猫人族のウィリスが、アガルタの獣人村に移ったのと入れ替わりのような形になった。


ローニは、どうしても屋敷での食事が食べたいたらしく、船での朝食と夕食はほとんど食べず、屋敷で夕食の残り物を少々食べ、朝、それはそれは遠慮なくガッツリ食べて船へと戻っていったのだった。ペーリスは気を利かせてローニの分を別に作ってくれるなどしてくれ、かなり負担をかけてしまった。もっとも彼女は笑顔で、帰ってきたローニに夜食用のサンドイッチを渡し、朝は嬉々としてローニのためにステーキを焼いていたので、そこが救いと言えば救いなのだが。


そんなこんなで、俺たちはようやく目指す場所であるクリミアーナ教国の首都、アフロディーテに到着したのだった。




「・・・一体、これで何か国目なのだ?」


机の上で頭を抱えているのは、司教のコフレシである。公開質問会の前日であるというのに、訪れる使節団が後を絶たない。てっきりアガルタ、ニザ、ヒーデータ、ラマロンの使節団は来るとしても、あとはクリミアーナの周辺国くらいで、精々百人も来ればいいところであろうと考えていた。しかし、蓋を開けてみると、かなり遠方の国からも使節団がやってきている。しかも、自分が書いた招待状を携えて。彼はアガルタ王が何か策略を巡らしたと確信を持ちつつ、使節団の対応に追われていた。


一応は国を代表する人々であるため、粗略に扱うことは許されない。従って、当初予定していた迎賓館ではとても収容しきれず、慌てて他のホテルを手配している始末なのである。


結局、蓋を開けてみれば、参加した国は41か国に及び、300名を超える使節団がアフロディーテに到着していたのである。それに加えて、招待されていないにもかかわらずやってくる市民や学生たちも多くいたため、港は大混乱に陥っていた。そして今また、サンダンジ王国から使節団が到着したとの知らせが届いたばかりなのである。


「クッ・・・。アガルタ王め・・・どんな手を使ったのだ・・・。ああ、そのアガルタ王がまだ到着していない。おそらく、ヒーデータとニザ、ラマロンの使節団も来るだろう。そうなれば・・・。ええい、忌々しい」


教皇の信頼を得ようと、この仕事を一人で安請け合いしてしまったことを、コフレシは今更ながらに後悔するのだった。


当初開催が予定されていた質問会の会場は、医学研究所の講堂であったが、予想外の人数になったために、大聖堂を使わざるを得ない状況であった。こうした予想外の出来事に教皇は相変わらず優しい笑みを湛えながら同意してくれ、労いの言葉をかけてくれたのが、彼にとってせめてもの救いであった。


質問会の開催は、明日である。時間を忘れて準備にかかるコフレシの部屋に、一人の若い司教が入室してくる。


「失礼します」


「今、私は忙しいのだ。何ですか?」


「たった今、港にヒーデータ帝国の船が到着しました。アガルタ王、ニザ公国のお使者の方々もご一緒とのことです。ラマロン皇国は、国内の復興に全力を挙げるとのことで、使節団の派遣は見送るとのことです」


「・・・そうか。よし、では、教皇宮殿に案内しなさい」


「それが・・・」


「何だ、早く言いなさい」


「今夜は船にて宿泊するとのことで、明日の質問会には直接船から向かうとのアガルタ王からの伝言です」


コフレシは舌打ちをする。


「まあ、いい。アガルタ王らがそう言っているのなら、そうさせなさい」


「畏まりました」


「・・・ったく・・・こちらの気も知らないで・・・」


コフレシはブツブツと呟きながら、明日の準備に意識を切り替えるのであった。




フンフンフンフンフンフフフ~ン♪フフ~フンフンフフフフ~♪フフフフフ~イエイ!

フンフンフンフンフンフフフ~ン♪フフ~フンフンフフフフ~♪フフフフフ~イエイ!



夜、帝都の屋敷で、誰も居なくなったダイニングで一人で鼻歌を歌いながら、テーブルの上で何かの作業をしているのは、リノスである。


「・・・ご主人様」


「ああ、メイか。先に寝ていてくれ。明日も早いからな」


「何をされているのですか?」


「ああ、米粒で紙を張り合わせているんだよ」


「一体何に使われるのですか?」


「うん?メモ用紙だ」


「メモ用紙・・・ですか?」


「ああ。あんまりカッコいいものじゃないけど、こうやって張り合わせた方が、やりやすいんだよ」


「お手伝い・・・します」


「ああ、いい。もうすぐ終わるから。あとはコメが乾けば完成だ。朝になればカピカピになってるよ」


「何だか申し訳ないです・・・」


「別にメイが悪いわけじゃない。ただ、わからないから質問しに行くだけだ。それだけだ。メイも納得できないんだろ?堂々と質問すりゃいい。メイやローニは間違っていない。俺は詳しいことはわからんから、あまり口出しできないかもしれんが、できるだけの協力はする。大丈夫だ、メイ。思い切り話をしてこい」


「・・・」


メイは黙って俺に抱き着いてくる。


「風呂、入るか?」


「・・・ハイ」


メイは小さな声で呟いた。




クリミアーナ教国首都、アフロディーテの大聖堂の外には、人々があふれ出していた。二千人を収容できる大聖堂であるが、各国からの使節団とクリミアーナ教国医学研究所の所員、教皇をはじめ枢機卿などの教会関係者などで席は瞬く間に埋まり、そこに入ることを許された一般市民はごくわずかだった。


それに加えて、主神、クリミアーナの御声を聞き、クリミアーナ様の使徒様か、はたまた御名を語る大悪人かと噂されるリノスの動向や発言は、この都に住む者にとって注目の的であった。そのために、そのリノスを一目見ようと、敬虔なクリミアーナ教の信徒でもある一般市民は大挙してこの大聖堂に訪れ、どさくさに紛れて入国してきた研究者や学生なども加わって、会場周辺は大混乱をきたしていた。


そんな中、リノスたちは教国が迎えによこした馬車に乗って、会場である大聖堂に向かっていた。


いよいよ、クリミアーナ教国との戦いの幕が開こうとしていた。

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