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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第六章 アガルタ国編
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第百六十七話 出陣、という名の物見遊山

「うおーい、ぶつからないように気を付けろよー」


「わかってるよー。お前こそヘンなところにぶつけるんじゃないぞー」


「誰に言ってるんだー。こっちゃ子供の頃から慣れてるんだー」


「バカ野郎、そりゃ俺もだー」


兵士たちの口喧嘩が続いている。しかし、そこには緊張感はほとんど感じられない。どちらかと言うと、のんびりとした雰囲気が漂っている。一方で、別の場所では、兵士たちのノホホンとした会話が交わされている。


「ああ・・・癒されるな」


「移りゆく景色、木々を彩る優しい光・・・。あちこちに咲く花・・・美しい・・・」


およそ、これから戦闘に向かうとは思えない会話であるが、これらの会話を交わしているのは、漆黒の兜を身にまとい、ある者は帯剣し、ある者は槍を持ち、ある者は弓矢を装備している兵士たちである。一見すると、すぐにでも戦闘態勢に入ることが出来る出で立ちであるが、彼らの大半は、呑気にキョロキョロと移り行く景気を愉しんでいる。


「貴様ら!ひっくり返るなよ!結界で守られているとはいえ、ひっくり返ると戻るのに時間がかかる!細心の注意を払え!」


兵士たちに注意を喚起しているのはクノゲンだ。そのすぐ隣には、笑顔で悠々と酒を飲みながら移りゆく景色を楽しむラファイエンスの姿があった。


「たまにはいいものだな。こんなのんびりとした戦いは」


老将軍自身、長い軍歴の中でも初めて体験する、緊張感のない戦いが始まろうとしていた。




その頃、俺とソレイユはイリモを連れて、ダイタス村に来ていた。


「ジンビ、どうだ、皇国の動きは?」


「山を降りた麓に、5000程の軍勢がいますが、特に攻撃してくる様子は見られません。山に入ろうとする者や、山から出ていく者は一応取り調べをされているそうですが、特に何かがあるわけではありません」


「そうか。ダイタス村に新たに来たヤツはいるのか?」


「おりません」


「山を越えようとするヤツは?」


「それも、おらんでしょうな。山頂まで行くには我が村を通らねばなりません。リノス様がお見えになって以来、この村を訪れたものは皆無です」


「わかった。あと、確認なんだが・・・。食料は、足りてるな?」


「十分です」


ジンビは笑顔で答えた。俺はその姿に安心して、村を出て山頂に向かった。そしてそこで、ソレイユに森の精霊であるクレイドルを呼び出してもらう。


「お呼びでしょうか、ソレイユ様」


「我が主からあなたに、お願いがあります。聞いていただけるかしら?」


「はい、何なりと」


「すまないが、夜になったらイルベジ川を照らしてもらうことは出来ないだろうか?いや、イルベジ川に沿って光ってもらえばいいんだ」


「お安い御用です。それでは、日没から夜明けまで、イルベジ川を照らしてごらんに入れます」


「すまないね。何かお礼をしないといけないな」


「いいえ。ソレイユ様がお越しになるだけで、我々森の精の精気は上がるのです。お見えいただくだけで、十分でございます」


そう言って笑顔を見せながら、クレイドルは消えていった。そして、俺たちはイリモに跨り、彼女の羽を使って大空に舞い上がり、川伝いに進んでいった。程なくして、大きな街が見える。それを上空から俺は観察する。その時、フェアリードラゴンが俺の前に現れる。


『ご苦労。様子はどうだ?』


『鎧を付けた兵士はほとんどいません。奴らはあの大きな、四角い建物から出てきます』


『あれが兵舎か・・・。わかった。では、サダキチに伝えてくれないか?』


『畏まりました』


俺の指示を聞いたフェアリードラゴンは、一瞬のうちに姿を消した。


「じゃ、俺たちは将軍たちが来るまで、休憩しようか」


そう言って、俺たちは森の中に降りて行った。




そして、日が落ちた頃。アガルタの兵士たちは、ラマロン皇国との国境に差し掛かった。その時、一人の兵士から声が上がる。


「おい、見ろ!森が・・・」


「おお~」


兵士たちから歓声が上がる。何と、森の木々が発光し、イルベジ川を煌々と照らしていたのだ。


「美しい・・・」


「すばらしいな・・・」


兵士たちが口々に感嘆の声を上げる。その幻想的な光景に、兵士たちは時間を忘れて見入るのであった。




「・・・ご主人様、見えました!」


ソレイユが声を上げる。カシャカシャと、暗闇の中から鎧の鉄が擦れる音が聞こえる。俺はあらかじめ用意しておいた篝火の下に立つ。


「リノス様!」


俺の姿を見つけた兵士たちが、次々と俺の周りに集まってくる。


「お前たち、道中は問題なかったか?」


「もう最高でした!景色はいい、気候はいい、メシは美味い、森は美しいわで、大満足でした!」


「そうか。ただし、俺たちは物見遊山で来たんじゃないからな?これから、仕事してもらうぞ?」


「ええ、お任せください!」


兵士たちの間から、ラファイエンスとクノゲンが顔を出している。


「将軍、お疲れ様です」


「いや、こんなにのんびりとした戦いは初めてだ。いいものだな」


ラファイエンスはご満悦の表情を浮かべている。


「ほとんど何もしていませんので、体力は万全です。今すぐにでも戦えますな」


クノゲンは腕をブルンブルンと振り回している。


「俺も休養十分だ。クノゲンたちには、これから働いてもらうが・・・。おそらく、それもすぐに済んでしまいそうなんだけどな」


俺はニヤリと笑う。その時、フェアリードラゴンが目の前に現れる。俺は、ソイツから報告を受ける。


「さて、準備は整ったようだ。みんな揃っているのか?・・・それじゃ行こうか。あの階段を登った所に目標がある。俺が案内するから付いてこい」


そう言って俺は、断崖絶壁の上にそびえ立つ建物を目指して歩き出した。




ラマロン皇国の皇都にある宮殿の一室には、皇太后、ラマロン・クロウ・レイシスと皇帝、ラマロン・クロウ・フレインスが和やかな時間を過ごしていた。


太陽の光が降り注ぐ午後、取り巻きの女官たちと共に過ごす、まったりとしたティータイム。まさかこの国で数万の兵士が他国に侵攻している最中であるという雰囲気は、微塵も感じられない平和なひと時がそこにあった。


皇太后は机の上に広げられた地図を、上機嫌で見つめている。


「そろそろケーニッヒ公爵が、アガルタの国境に着く頃でしょうか?であれば、今日の夜にはイルベジ川を上って・・・明日の今頃にはアガルタの都。明後日には都は陥落しているでしょうか?その知らせが来るのは・・・五日後くらいでしょうか?」


皇太后は持っている扇で地図を指しながら、ラマロン軍が取ると思われる進路を予想していた。そんな様子を皇帝は目を細めて見ている。


「お母上様は心配性だ。ケーニッヒ公爵のことですから、もっと早くに知らせを寄越すかもしれませんよ?」


「おお、それでは、使者を迎える準備をしてやらなくては」


「お母上様、使者の者は、報告をした後でケーニッヒ公爵の下に帰るのです。引き留めて使者が戻らないと、公爵が心配いたします」


「おや、それでは準備をするだけ無駄ですね?ホホホホホホ」


皇太后の笑い声が契機となり、皆が大笑いする。そんな楽しげな時間を打ち消すかのように、部屋の扉が乱暴に開かれる。そして、そこには青い顔をして、肩で息をしながら小刻みに震えている侍従が立っていた。


「何事です!そんな乱暴な開け方は、陛下のお耳障りになりますわ!お気をつけあそばせ!」


女官の一人が、目を吊り上げて侍従を睨みつける。しかし侍従は、そんな視線を意に介すことなく、必死に言葉を絞り出す。


「も・・・申し上げます!た・・・たった今・・・報告が・・・報告が参りました」


その声を聞いて、皇太后の顔が、ぱああっと明るくなる。


「もしや、ケーニッヒ公爵がもう、アガルタを占領したのですか?いや、我が皇国軍が国境でアガルタ軍を撃破したのでしょう?アガルタ王を討ったのですか!?」


侍従は唾を飲み込み、息を整えつつ、言葉を続ける。


「ガルビーが・・・城塞都市のガルビーが、アガルタ軍によって陥落しました」


その瞬間、皇太后以下、そこにいた者全員が、ピクリとも動かなくなった。


ラマロン皇国の時が、止まった。

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