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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第六章 アガルタ国編
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第百四十二話 好事魔多し

降ったり止んだりのぐずついた天気が終わりを告げ、ここ最近はきれいな青空が見られるようになった。その、抜けるような青空のもと、アガルタの都は建築ラッシュを迎えている。職人たちの威勢のいい声に交じって、石を削る音、釘を打つ音などがそこかしこで聞こえてくる。


まず、俺たちが着手したのは、家を失った人々が住む場所の建設だ。これは旧ジュカ王国の兵舎が有り余っていたので、その一部を改装して、彼らの住居に当てることにした。それと並行して、壊れていた城壁や、その他諸々の施設の修復などを行っている。これには、ゴンの知識がとても役に立っており、今のゴンはほぼ、現場監督として八面六臂の活躍ぶりだ。


当然こうした建築作業には人手がいる。そうなると、都に住む男たちは自然とそこに従事していく。それと同時に、建築資材が必要となるわけで、そこは商人や都の人々がそれらを調達し、販売する商売を始める。そして、その人たちに対して、食堂や衣料を扱う店が出てくる・・・。そんな流れで、少しずつ都に金が回り始めている。お蔭で、ウィリスが店長を務めるスーパー・ダーケもようやく黒字化してきたところだ。


都の経済が回り出すと、自然と周辺の領土にも金が回り出す。俺に従う領主たちから、地元の名産品や特産品を把握し、それを買い上げて都で売る。今のところは経済が順調なので、領主たちもホクホク顔だ。彼らの偉い所は、その儲けた金を自分の懐に入れないで、きちんと領民に還元していることだ。


ちなみに、俺に従わない領主たちは、放ったらかしにしている。俺から何かを頼むこともないし、彼らから俺に何かを言ってくることもない。今年は豊作のようなので、彼らからすれば、食えているだけで十分、というところなのだろうか。


とはいえ、俺も自分の陣営との差別化は図りたいところだ。そこで、生産量をさらに上げ、それを継続する手法を確立するべく、メイたちが中心となって動いてくれている。


メイ曰く、アガルタの土地は、サイリュースたちが使役する精霊たちの加護を受けているせいか、とても肥沃な土地なのだという。それに加えて、メイのストーカーでもあるノームの爺が、作物が実りやすいようにしてくれているのだそうだ。


爺はメイが呼べばいつでも出てくる。メイの守護霊のようなものらしいが、ということは、俺とメイの、下手をするとリコも交えたエロい場面も見ている可能性もある。それは一度確かめたいが、もし、爺からそのことに突っ込まれたら、俺はおそらく萎えてしまうだろう。今は、怖くて聞けない。


リコ、フェリス、ルアラたちは、いつも書類と格闘している。あまり俺には何も言わないが、彼女らで話している内容が、少しずつ俺にはわからなくなってきた。専門用語が飛び交うのだ。彼女らの仕事は、王都から移住してきた優秀な貴族の子弟や、都の若者たちが手伝ってくれている。何より偉いのは、きちんと夕食までに仕事を終わらせることだ。残業なし。プログラマー時代の、ダラダラした仕事ぶりしか知らない俺にとっては、奇跡のような仕事ぶりだ。


軍関係は、相変わらずラファイエンスが嬉々として兵士を鍛えている。今日は裏庭から鉄が打ち合う音が聞こえてくる。ちょっと興味がわいたので行ってみると、そこにはラファイエンスと刀で斬り合う兵士がいた。よく見ると、マトカルだった。


彼女は、人質としてアガルタに拘留されることになった。しかし、何もしないのはさすがにどうよ?という意見があり、マトカル本人も嫌がった。そこで、普段はラファイエンスの副官として、将軍の仕事の手伝いをすることになったのだ。


兵士たちは動揺するかと思いきや、彼女はすぐに兵士たちと打ち解けた。老将軍と共に、彼女も兵士の育成に携わっているようだ。ちなみに、彼女のあだ名は「小鬼」だそうである。


なお、マトカルについては、普段は女性の格好をして暮らすことを義務付けられている。これは俺の指示ではなく、リコの指示だ。


「美しくなる可能性があるのならば、それを伸ばすべきですわ!」


リコの意見にだれも反対する者がなく、マトカルはリコの衣装を身に着けて建物の中をうろついている。当然、下着は着用している。最初は彼女の抵抗感が半端なかったが、最近になってようやく慣れてきたようだ。もっとも彼女は人質のため、基本的には元王国軍本部の敷地内から出ることはない。


マトカルの剣は、一言で言えば力技だ。とにかく敵を力任せにブッ叩く。一方のラファイエンスは、流れるような動きから、狙った所をピンポイントで突いていく。自ずと勝負の行方は明らかだった。


「・・・いかんな。無駄な動きが多すぎる。突撃して敵をかく乱するのには向いているが、敵に囲まれてしまうと、命を落とすな」


「ハイ・・・。精進します」


「いや、しかし、センスはある。磨けば光るぞ」


「ありがとうございます」


そんなことを話しながら、二人は俺のいるところに歩いてくる。ふと、老将軍は軽く手を上げながらニコニコした笑みを浮かべた。


「もう着いたのか?」


驚いて俺は横を見る。すると、いつの間にか上品な老婦人が立っていた。


「はい。つい今しがた到着しました」


彼女は老将軍に恭しく一礼をする。


「リノス殿、紹介しておこう。私の妻、ルイシファーだ。ルイシファー、アガルタ国国王の、リノス殿だ」


「これは気付きませず、ご無礼をいたしました。ラファイエンスの妻、ルイシファーでございます。以後お見知りおきをくださいませ」


老婦人が膝を曲げ、右手を胸に当てて一礼する。


「やめてください。そんな畏まらなくても大丈夫です。リノスでいいですよ。ラファイエンス将軍にはいつも助けていただいています。こちらこそ、よろしくお願いします」


老婦人はニッコリと微笑む。俺はラファイエンスに向き直る。


「それにしても将軍、マトカルとの模擬戦を見ていましたが、見事ですね」


「いや、マトカルは本当にセンスがある。鍛えがいがある。ずっとそばに置いておきたいくらいだ。ハハハハ」


マトカルの目が泳いでいる。


「・・・将軍、マトカルに手を出さないでくださいね?」


「何を言うか!私のはもう干物だ。そちらに関しては、今は無理だ。ハハハハハ」


豪快に笑い飛ばして、老将軍はマトカルを伴って建物の中に入っていった。その後姿を眺めながらラファイエンス夫人は呟く。


「今は・・・なのですね」


俺はギクっとしながらも、フォローを入れる。


「・・・干物って言っていましたから、大丈夫ですよ」


「・・・干物は水に漬けると、また元の姿に戻るのです」


「まさか・・・」


「いえ、いいのです。モテない主人よりマシですわ。モテる男性の方が、私も張り合いがあります。なんかこう・・・燃えますの」


俺は心からラファイエンス夫人を尊敬した。



ちなみに、フルチン野郎とカルギの息子については協議の結果、終身重労働の刑に処すことになった。二人とも体力だけには自信のある肉体バカである。それにふさわしい就労場所を用意しておいた。


「フッ、フッ、フッ、ああ、もうダメだ・・・」


「もっとぉ!ほらぁ!ほらぁ!ほらぁ!」


「か、勘弁してくれ・・・」


「ダメェ!早くゥ!ああん、そっちも?ダメねぇ。でも、ほーら、こうすれば・・・」


「うっ、うわっ、はぁぁぁぁぁ」


「ほーら、元気になった。いくわよー」


「くっ、はぁぁぁ、もう、もう、やめてくれぇぇぇぇ」


彼らが送られた所は、サキュバスの里だった。サイリュースの族長であるヴィヴァルに聞くと、ツテがあるとのことだったので、彼らを眠らせている間に護送したのだ。ちなみに、彼らが城門を出る時は、全裸のまま都の人々に見送られての出発だった。


さすがに、普通の男をサキュバスの里に行かせるのは危険すぎたため、護送はサイリュースたちにお願いした。屈強な男が二人も贈られたサキュバスは大喜びで、将来、必ず俺に恩を返すとのことだ。どんな恩が返ってくるのか・・・。仇で返ってこないことを祈るのみだ。


全ての事柄が上手くいっていた。俺も、このまますべてが順調に行くと思っていた。しかし、不幸は突然俺たちに襲いかかってきた。



いつものように皆で朝食をとっている時に、それは起こった。リコがフラフラと立ち上がり、ダイニングを出て行こうとする。


「リコ、大丈夫か?顔色が悪いぞ?」


「大丈夫・・・ですわ」


リコが部屋を出た直後、ドン!という大きな音が聞こえた。俺たちは慌ててリコの元に向かう。


「リコ、大丈夫か?」


「うううう・・・」


リコが蹲っている。


「リコ?」


「リコ殿!」


「姉さま!」


俺は思わずリコの肩に手をやる。リコは俺の手をものすごい力で握ってくる。


「痛い・・・痛い・・・痛い・・・痛い・・・」


腹を押さえて苦しむリコ。握っている俺の手が小刻みに震えている。俺はすぐさま回復魔法をかけてやる。痛みが引いたのか、リコは激しい息遣いのまま、ゆっくり顔を上げる。


そして、そのままリコは意識を失った。

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