第百十一話 気まぐれは時として、俺を悪魔に変える
『それにしてもラース、お前どうしたんだ?傷だらけで、気絶してたぞ?』
『ラース殿、お久しぶりでありますー。傷とMPはご主人が治してくれたでありますー』
『キツネさん、お久しぶりです!また、リノスさんに助けていただきました・・・。ありがとうございます』
『いったい何があった?』
「人化の練習をしてたんですよ」
「人化?」
ラースはフェリスと同様、「人化」のスキルを身に着けようとしていたようだ。しかし、今のラースではMPがすぐ枯渇してしまう。MPが0で気絶していたのは、そのためらしい。
「でも何で傷だらけだったんだ?」
「それは・・・エヘヘ・・・」
聞けば、ラースは久しぶりに帰ってきた姉に「人化」のコツを聞いたらしい。フェリスも色々とコツを教えてやっていたのだが、如何せんラースはまだまだうまくできない。じれてきたフェリスはついつい手が出てしまった。出しまくってしまった。つまり、タコ殴りにしてしまったというわけだ。
『姉ちゃんはやりすぎなんだよー』
『できないアンタが悪いんでしょうが!』
「ハイハイ、二人ともケンカしない!ふーちゃんもそのくらいで」
「・・・そ、その呼び方、やめてください」
ラースも腹が減っているので、昼飯は全部フェリス姉弟にやることにして、俺たちは非常用の弁当を食べることにした。おそらくそれたけでは足りないだろう。即席ではあるが、無限収納にあるオーク肉を焼いてやる。二人とも、うまい美味しいとすごい勢いで平らげていく。
『ちょっと!それ私のでしょ!』
『いいじゃないか!俺、今日は何も食べてないんだぞ!』
そんな微笑ましいやり取りをしながら、短い食事の時間は流れていった。
『・・・ありがとうございました!本当に美味しかったです!』
『もう食べるもの食べたんだから、アンタは早く帰りなさいよ!』
『ラース、すまないな。ちょっと急ぐんだ。またの機会に、今度はもっとどっさり持ってきてやるからな!』
『ありがとうございます!楽しみにしてます!』
ラースは大きな羽を羽ばたかせて、空に舞い上がった。
『リノスさん、俺も脱皮が終わったら・・・』
『ああ、いいぞ。いつでもウチに来い。ただし、フェリスもいるけどな?』
『ハイ!姉貴は大丈夫です!』
嬉しそうな顔をして、ラースは飛び去っていった。
「じゃあ、麓までご案内します」
「ああ。フェリス、頼む」
俺たちは再びイリモに乗り、ルノアの森を目指した。
フェリスの案内のおかげで、途中から険しい道のりがなくなったため、イリモに地上に降りてもらい、走って移動することにした。そのお陰でかなり早く進むことができ、日暮れ前にはルノアの森に着くことが出来た。
「イリモ、お疲れ様。助かったよ」
「まだ全然平気ですよ?」
実に頼もしいことを言ってくれる。取りあえず、今日の移動はここまでにして、転移結界を張って屋敷に帰る。ちょうど夕食の準備にかかったところで、キッチンではリコとペーリスが忙しく動いているところだった。
「じゃあ、私たちも手伝ってきますねー」
フェリスとルアラもキッチンに向かう。ダイニングを見るとフェアリがパタパタと飛んでいる。俺が手招きをすると嬉しそうに飛んできた。
『フェアリも留守番ご苦労様でした』
『ジェネハさんがいるから全然平気ですー』
『そいつは良かった。ところで今日、お前の仲間に出会ったぞ?』
『仲間―?』
『フェアリードラゴンに襲われた』
フェアリはギョッとした顔をして固まっている。
『心配するな。全匹確保の上、拘束してある。命に別状はない。フェリスは昔の仲間に会いたいか?』
『・・・会いたくない』
『わかった。じゃあ、奴らをお前に会わせないようにする。お前はいつまでもこの家にいていいからな』
『うん!』
フェアリは嬉しそうに俺の胸の中でパタパタと羽を動かした。
俺は再びフェアリードラゴンの結界に転移し、非常食用の弁当と食材を適当に結界の中に放り投げる。
『オラ、メシだ』
『いつになったらここから出られるんだ!』
『知らん。俺の仕事のカタがついてからだ』
『できれば暖かくて、美しい水があって、花が咲き誇るところがいいのだが』
『心当りはあるな』
『ではそこに連れていってくれ!』
『天国だけどな?』
『・・・』
『お前ら囚われの身のくせに贅沢言ってんじゃねぇよ。飯を食わせてもらえるだけありがたいと思え。一晩そこで頭を冷やしてろ』
そう言い残して、再び屋敷に戻ってきた。基本的に俺の張る結界は、一定の温度が保たれるようにしている。間違ってもヤツらが凍死することはないだろう。
ワイワイと皆で今日あったことを報告し合い、美味しい料理に舌鼓を打つ。そして、ゆっくり風呂に入る。ここ最近メイはお疲れ気味だ。ニザでかなり力仕事をしているらしい。肩や腕がパンパンに張っている。ということで、夜は必然的にリコを抱きしめて寝る。次にメイと寝る時が少々怖いが、その時はその時で覚悟を決めて対峙したいと思う。
戦争に突入する寸前の緊迫した時期だというのに、我が屋敷だけは平和そのものだ。ここがあるおかげで、やってられない仕事も何とかやってられるのだ。
そして朝、いつものようにリコから昼食のバスケットをもらって、俺たちは転移結界に乗る。フェリスもルアラも手伝ったようで、今日もバスケットが4つもあった。自分の食べたいものをルンルンで詰めていたようだが、戦争を仕掛けに行っているので、もう少し緊張感も必要ではないか、と思ってしまうくらいこの二人には緊迫感がない。
ルノアの森を徒歩で抜けようとすると5日程かかってしまうので、イリモの翼で飛んでいくことにした。彼女には負担だが、これならばかなりの距離が稼げる。
「イリモ、今日は頼むぞ。フェリス、はぐれるな。全力で付いてこい」
「わかりました!」
イリモの全力での飛行は思った以上に速かった。フェリスが付いてこられるかが心配だったが、彼女も何とか付いてきている。このまま進もうと思っていたところに、俺の視界に何かの塊を捉えた。
よく見ると、黄金鳥の群れだった。
「イリモ待て!」
「え?どうしたんですか!?」
イリモもフェリスも驚いている。俺は二人に目もくれず、黄金鳥をガン見している。見たところ、300羽くらいいる。あの濃厚な味、肉汁・・・あの肉の美味さが口の中に湧き上がってくる。・・・食いたい。
「一旦下に降りてくれ」
ヤツらに見つかり、警戒されてしまうと逃げられてしまう。ここは細心の注意を払うところだ。
「ご主人様・・・?」
皆、けげんな顔をしている。俺はそれどころではない。どうやって黄金鳥を狩ろうかで頭がいっぱいだ。前回のような作戦はダメだ。時間がかかりすぎる。一網打尽にするためには・・・。
「そうだ、アレを使うか!」
俺は転移結界を張って移動する。そしてすぐさま戻ってくる。
「ご主人、これは・・・」
「コイツを使う」
俺は閉じ込めたフェアリードラゴンを結界ごと持ってきていた。
『え~フェアリードラゴンの諸君。緊急任務を与える。非常に名誉ある作戦に従事できる幸せを嚙みしめたまえ』
うん?なぜかヤツらが慄いて見えるのは、気のせいか?
『諸君たちの任務は、北東の方向にいる黄金鳥の捕獲だ。上空に至ればすぐにその姿は現認できるだろう。羽根と嘴が金色であるために、見つけることは非常に簡単だ。その鳥を生け捕りにしてもらいたい。ただし、ヤツらの逃げ足の速さは折り紙付きだ。そこで、諸君たちの出番だ。その機動力をもってヤツらを圧倒し、逃げる前に捕らえるのだ。これから広範囲に結界を張ってヤツらを閉じ込めるが、襲撃がヤツらに知れると厄介だぞ。光の速さで逃げるからな。短時間で一匹も殺さず、捕らえることが出来れば、今後の君たちの処遇は変化するだろう。期待している。以上だ』
『いきなりそのような・・・』
『聞こえんな。何か言ったか?お前・・・名前がないと不便だな。そう・・・サダキチ。お前を本日よりサダキチと命名する。サダキチ、お前が頭領となり、捕獲せよ。捕らえた黄金鳥は、この紫の結界の中に放り込め。簡単だ。黄金鳥を捕らえたままこの結界に入れ。お前たちは出られるようにしておいてやる』
俺はすぐさま捕獲用の結界と、数十キロ四方に結界を張る。ぶつかっても衝撃を吸収する優しい仕様の結界だ。これで黄金鳥は死ぬこともなく、結界外にも逃げられなくなった。
『では、お前たちの結界を解除する。あ、言い忘れたが、お前たちの誰か一名でも逃亡を図った場合、お前らは全員魔物のエサになってもらう。それでは・・・解除した。行け』
キョトンとしたドラゴンたちだったが、恐る恐る森の外へと飛び上がっていく。そして、一瞬のうちに紫の結界には黄金鳥が満杯になった。黄金鳥は一瞬キョトンとしていたが、逃げようにも逃げられず、必死で鳴いている。
「キェーッ!!キエエェェェェェェェェェェーッ!キキキェーーーーーーー!」
「おお!懐かしいな!黄金鳥といえば、この鳴き声だな。しかしこれだけいるとうるさくてかなわん」
取りあえず、音が外部に漏れないように効果を追加で付与する。
「黄金鳥のあの鳴き声は、狩人の心が折れると言われているでありますのにー」
ゴンの驚嘆も俺には目に入らない。あっという間に黄金鳥はフェアリードラゴンに狩りつくされた。
『・・・39、40、41。よし、全員揃っているな。優秀だな、お前ら』
『あ、ありがとうございます』
「コイツらは、マジで使えそうだな」
とんでもなく悪い顔をして、微笑む俺がそこに居た。




