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もっとも近くて遠い場所  作者: 阿久津ゆう
第一章 故郷へ
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0話 「ルベドと名もなき少女」

この作品は「Never Island(アイランド) https://book1.adouzi.eu.org/n4243gj/」と同じ世界権を共有した物語でこちらを読んでいるとこの作品がより面白く感じるかと思われます。



 凍てつく吹雪が吹き荒れる。


 「……っ!」


 全身を襲う寒気に歯を食いしばる。白い視界の中、彼は必死で足を動かす。指先の感覚などとうに失われていた。雪に埋もれかけた看板が目に入る。文字がすり切れて全くよめない。


 しばらく歩くと研究施設のような大きな建物を発見する


 迷っている暇はない。重い鉄の扉を押し開けると、埃っぽい空気が迎えた。内部は静寂に満ち、非常灯だけが赤く点滅している。足跡一つない廊下を進むうち、不自然な暖かさに気づいた。


 「誰か……いるのか?」


 返事はない。無人の施設のはずだ。だが通路の先にはぼんやりとした光が漏れていた。部屋のドアを開けると、巨大な円筒形の装置が目に飛び込む。壁一面に並ぶモニター群が青白く輝いている。透明なカプセルタンクのような形をした装置が置いてある


 「……っ?」

 

 その装置の中は何かの液体で満たされている。よく見ると10歳くらいの女の子が入っていた


 喉が凍りついたように声が出なかった。半透明の液体に浮かぶ小さな身体。栗色の髪がゆらゆらと漂い、閉じられた瞼からは微かな光が漏れている。何よりも異様だった

 「……!」


 装置全体が脈打つように明滅する。呼吸器を付けているにも関わらず耳元で囁かれたような錯覚に陥ったからだ


 『―――』

(いま……何か言ったのか?)

しかしそんなわけがない。少女は眠っているようだし生命維持装置に接続されて眠っており瞳孔に反応もない状態なのだから


 警報音が鳴り響いた。警備ロボットが接近してくるのが見える。咄嗟に物陰に隠れ息を潜めた。緊張しながらしばらく待機し続けること数分後ようやく遠ざかる気配を感じ取り安堵のため息とともに立ち上がるものの依然として心臓は早鐘を打ち続けていたのであった。


 彼は装置の中の少女の顔を見る、すごく可愛らしい見た目をしている。こんなにも美しい少女なのに目を覚ます様子がなかった。


 思考より早く体が動いていた。手袋を外し、震える指で装置パネルを探る。非常用ハッチ開放レバー──あった。警告表示も構わず引こうとした刹那、


 ヴゥゥン……


 低周波音と共に装置全体が微かに揺れた。少女の閉じたまぶたが一瞬痙攣する。

「!?」


 パネル警告ランプが急激に増えていく。システム侵入者検知、セキュリティレベル3──致命的な誤算だ。ここに来てようやく悟る


 この娘は単なる被験体ではなく

(罠……?)


背筋が粟立った。だがもう引き返せない。完全停止までのカウントダウンが始まったのだ。


「ごめん!」

意を決してレバーを引き抜く。ガシャリと乾いた音。次の瞬間──


 真っ白な世界に放り出された。

肌を刺す冷気が心地よい。重力が戻ってくる感覚と共に肺いっぱいに空気を取り込んだ。「ぐああッ!!」


 焼け付く喉と裂けるような頭痛が現実だと告げる。倒れ込みながらも視線だけは逸らさず前方を見つめる……そこに倒れている金髪の少女を見つけた


 そして彼は彼女を抱えあげ外へ脱出したのであった。

 

 しかし問題は山積みであることに変わりはないことなのだと思ったのである。


 凍てつく吹雪が吹き荒れる中、彼は全速力で走っていた。腕の中で眠る金髪の少女は、まるで壊れ物のように軽かった。凍傷寸前の指先に力を込め直し、彼はひたすら前へ進む。時折振り返れば、かつての研究施設が蜃気楼のように霞んで見えた。


「大丈夫……絶対に助けるから」


 吐く息が白く染まり、耳を覆う雪風が全ての音を掻き消していく。だが胸の奥で燃え上がる使命感だけは冷めることを知らない。彼女の未来は自分が守ると誓ったのだ。


 数時間後ついに人里近くまで辿り着くことができた頃には体力的に限界を迎えかけており意識朦朧としたまま道端へ座り込んでしまうのである。


 「あぁ……やっとここまで来れたんだな」

そう呟きつつ彼は安堵感からそのまま深い眠りへ落ちてしまうのであった。


 翌朝、少女が目を覚める、彼女が寝ているベットの隣りに腰掛け様子を見守る彼。

するとゆっくりと瞳を開きこちらを見つめてきたのだ。


「おはようございます」

そう言うと彼女は微笑んだ。


 どうやら記憶喪失になっているようで自分の名前以外何も思い出せないと言う彼女であった


 彼は少女に自分の名はルベド・ガードナーだと名乗る


 「ルベドさん……」


 彼女の澄んだ声が耳に届く。窓から差し込む朝日が彼女の金色の髪を優しく照らしていた。シーツの上に座り、こわばった指で枕を握りしめる姿は痛々しいほど儚げだ。


 「私の……名前……わかりません」


 俯く彼女の細い肩にそっと毛布をかける。冷たい洞窟内の簡易住居ではこれが精一杯だった。外ではまだ吹雪が唸りを上げている。


 「今は無理しなくていい」


 「でも……何か思い出さないと……迷惑かけてばかりで……」


 ルベドは自分がなずけ親になってもいいかと少女に言う


 ルベドの言葉が洞窟の冷気に溶けていく。風の唸りが遠くで聞こえるだけの静寂の中、金髪の少女はゆっくりと顔を上げた。澄んだ蒼い瞳が揺れている。


「……私に?」


 声は小さく、しかし確かな意志を感じさせた。ルベドは慎重に言葉を選ぶ。


 「ああ。もし君が望むなら。君が自分の過去を思い出すまでの仮の名でも良いし、新しい人生の始まりを象徴する名前でも良い」


 「……そんなの」

少女は唇を噛んだ。


 「もらっていいんですか?私が何も思い出せないのに」


 「記憶なんて取り戻せるかどうかもわからないものに囚われてるより」

ルベドはポケットから一枚の古い地図を取り出した。


 「今この瞬間こそ大切にするべきだと思うんだ」

紙面には荒れた字で〈希望〉という言葉が書き込まれていた。


 「名前は過去を束縛する鎖じゃない」


 「……」


 彼女は長い沈黙の末、小さく頷いた。その表情には複雑な感情が交錯していたが、瞳の奥に小さな灯りが宿りつつあった。ルベドは満足げに微笑み、彼女の額にそっと触れる。


 「決めたよ。今日から君の名は—エリシア」


 「エリ……シア?」


 少女—いやエリシアはぎこちなく笑った。それが彼女の初めて見せた本物の笑顔だった。


 「ありがとうございます、ルベドさん」

エリシアは翌日にはある程度回復した

まだ少しふらつくが日常生活なら問題なさそうだ。


 凍てつく吹雪が吹き荒れるこの世界で二人の物語が今始まる


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