はい、異世界統轄局です2*悪役令嬢案件*
以前、短編で書いた『はい、異世界統轄局です』の第二弾。
『異世界転生』『異世界転移』『異世界召喚』とは、元の世界で一般人だった人が異世界へ訪れることである。一般的に『異世界転生』『異世界転移』の場合、元の世界で病死だったり、トラックに轢かれたりなどの事故死だったり、稀に大往生だったりする。
異世界人が、元の世界での知識や常識を活用することで、この世界を変えていく。それにより危機を回避できたり、逆に危機に瀕する場合もある。そこで異世界人が、世界の均衡を崩さないため管理、取締をする組織がある。
それが、異世界統轄局(Another World Control Division)。通称、A.W.C.D。
***悪役令嬢案件***
プルルル、プルルルルル……。
「ーーはい、異世界統轄局 窓口の山口です。転生ですか? 転移ですか?」
窓口の仕事とは、発明王が作った魔道具フォンでお客様からの話を聞き取り、迅速に判断し各部署への連絡すること。ここにくる話の内容は似たようなものが多く、対応にはマニュアルがある。私もそれに則って、お客様から内容を聞き出し必要事項用紙に記入していく。
「転生ですね……はい、はい。失礼ですが、ご本人様でいらっしゃいますか? さようですか、では改めてお名前宜しいでしょうか?……はい、エリザベス・ローレル様。ローレル侯爵家のご令嬢でございますね。では、ローレル嬢がご記憶というタイトルをお教えいただけますか? ……はい、ライトノベルの、はい『フラワーウェディング〜真実の愛の先に〜(通称:花愛)』で、ございますね。それの……なるほど、悪役令嬢でございますね。かしこまりました。では、後ほど担当の者から連絡致します。しばらくお待ち下さい。え?……あ、ご家族に知られないように……かしこまりました。では、その方のご友人という形で、ご連絡させて頂きます。はい、では、失礼致します」
お客様との通話を終え、自分の記入した必要事項用紙を確認して魔道具フォンの短縮番号を押した。コール音が5回鳴ったところで、ようやく担当部署に繋がった。
《お待たせしました、転生部ラノベ課、佐藤です》
「あっ、あきちゃん。お疲れー、山口だけど」
《おー、山口ー。お疲れー、今日は何案件?》
「今回は『悪役令嬢案件』。本人からの連絡で、家族には知られたくないって。詳細はメールにー」
《あー、はいはい、これね。断罪回避したい感じね。了解。ちょうど私空いたところだから、やっとくわ》
「マジ助かる。よろしくー」
それから一ヶ月後、私直通の魔道具フォンが鳴っていた。今回も内線の呼出音なので、他部署から調査報告だろう。
「はい、窓口の山口です」
《あ、もしもし山口?》
「あ、あきちゃん、お疲れー。もしかして、この前の?」
《そうそう報告メールはあげたんだけどーー》
あきちゃんの報告によると、転生者として連絡してきたエリザベス・ローレル侯爵令嬢はやはり転生者で間違いなかった。そして、彼女の予想通りラノベ『フラワーウェディング〜真実の愛の先に〜(通称:花愛)』の悪役令嬢だったようだ。
花愛は、ヒロインである孤児院で育った女の子が健気に花売りをし生活する上で、攻略対象者である公爵家令息、侯爵家令息、伯爵家令息、商会の息子と何かしらの関わりをもつ。ヒロインは色々な問題に立ち向かいながらも攻略対象者との中を深めていく。そして、ヒロインのライバル、公爵家令息の婚約者としてローレル侯爵令嬢が現れ嫌がらせをする。それをヒロインは公爵家令息と共に助け合い乗り越えて、ハッピーエンドとなる話しらしい。ちなみにハッピーエンドは公爵家令息とヒロインが結婚し仲良く暮らし、悪役令嬢は虐げたことを断罪されて婚約破棄され修道院に行くらしい。そして攻略する対象ごとにライバルが現れるテンプレ設定らしい。
あきちゃんと調査班の魔術師は、早速連絡を取り今の段階がストーリーのどの部分か確認したらしい。ローレル嬢からの聞き取りでは、来週末に公爵家との顔合わせが予定されているらしく、出来ることなら公爵家令息との婚約は結びたくないとのこと。婚約についての詳細を確認すると、相手は公爵家の三男で侯爵家当主となるローレル嬢に婿入り予定。事業提携がある契約結婚の予定。つまり、簡単に言うと婿入り予定の公爵家三男が街で見かけて一目惚れしたヒロインと結婚するために奮闘、しかしローレル嬢側からしたら婿入りするはずなのにその相手を蔑ろにしヒロインに牽制したら断罪されるというヒロインご都合主義の話だ。
あきちゃんは、ローレル嬢に未だ攻略対象者とは面識がないということから、この物語が始まらないように設定することが可能と説明。その方向で進めて欲しいと言われたので、その後、ローレル侯爵当主夫妻つまりローレル嬢のご両親にもローレル嬢が立ち会いの元、状況説明し公爵家との顔合わせ自体を取りやめたそうだ。ローレル侯爵家当主としても入婿予定の男が、近い未来で自分の愛する娘を蔑ろにされることは物語上であったとしても納得が出来るわけもなく、あきちゃんと魔術師はいたく感謝されたそうだ。ローレル嬢は、いくらA.W.C.Dの存在をほとんどの国民が知っているとはいえ、両親がすんなり自分の話を受け入れたこと嬉しかったらしく泣き出してしまったらしい。
転生者として前世の記憶があるとしても、まだ一〇歳の女の子。そのローレル嬢にA.W.C.Dの存在を教えてくれた専属侍女も実は転生者だった。A.W.C.Dには本人が連絡したものの、一〇歳の友人としては無理がある。そのため、あきちゃんはその侍女の友人としてローレル嬢に連絡を取り、聞き取りができたというわけだ。
「じゃあ『花愛』自体なくなった感じ?」
《あー、それが事後調査したところ、ヒロインがこれまた転生者だったのよ。んで、ちょーっと良くない思考だったから、ちょちょいとね〜》
「あー、抹消した感じ?」
《そ。なんで転生ヒロインって逆ハーしたがるんだろうね〜》
「なんだろね〜。フィクションと現実の区別つかなくなるのかね?」
《って、ことだよね。あー、とりあえずこの案件は終わったから、今日このあと一杯どう?》
「おっ、いいね。行く行く!」
《じゃあ、終業後いつもの所でいい?》
「了解。じゃあ、あとで」
数少なくなってきた同期のあきちゃんとの電話で、軽くリフレッシュできた私は、報告を改めてメールで確認。未解決ボックスから先程の案件についての必要事項用紙を探し、『済』印をポンと押した。そして背面にあるキャビネットにある『済ファイル』にいつも通りファイリングした。
終業まで、あと三時間。
ずっと鳴り続いてる一般回線の魔道具フォン。終業後の楽しみを想像しつつ、はぁーと溜息を一つつき通話ボタンを押した。
「ーーはい、異世界統轄局 窓口の山口です。転生ですか? 転移ですか?」
*『このライトノベルがすごい!2026』 Web投票が開催中です(~9月23日迄)
『享年82歳の異世界転生!?〜ハズレ属性でも気にしない、スキルだけで無双します〜』も対象です。
*『享年82歳の異世界転生!?〜ハズレ属性でも気にしない、スキルだけで無双します〜』(マッグガーデンより)
書籍:第2巻 9/10発売
コミックス:第2巻 9/12発売
好評発売中です!
ぜひ、お求め下さい!!




