Ch3.2 欠落《ナーフ》(2)
『………………アレ』
ふよふよと体が浮いている。まるで質量がないかのようだ。
それに透けている。
「……説明する必要なんてないと思ってたのだけど。……これが今回から導入されたゴーストモードってやつね。肉体が消滅したらその状態になるわ」
『……はぁ』
「改変度の出力だけでいったら、2位だったのだけどね。……おかしいわね。アナタ、転移魔法はどこやったのよ」
『……』
僕もその魔法に賭けていたのだけど。
……ところでどうしてだろうか。
なにも気にならない。
なんだか感情の揺れが少ない。知的好奇心も、やる気も、気概もどこかへいってしまった。
……これが初のゲーム上での死の感覚なのか。
喪失感は少ない。というか感覚がマヒしてる。何事に対しても食指が動かない。
ゴーレムの拳の下で爆散した僕の体が、まるで炭酸のように空間に溶けていくのを真下に捉える。
『…………』
じーっとその溶けていく様子を見つめていても、死んだという実感はまるで皆無だ。
ストレスもない。精神的に負担が少なすぎる。
悔しくもなんともない。
だからこそ、一抹の不安を覚えてしまう。
これは、多分正常ではない。僕という生物学的におかしい。
これは僕の知っている自分ではないかもしれない。
なにかを……そう、たとえば人間性かなにかを、欠落させてしまったかのような――。
ほんのささいな違いかもしれないが、今の僕は、先ほどの僕には二度と戻れないような――。
そんな感覚に襲われる。
この状態は、まずい……のか?
なんてそんな判断もつかないとは。
うん。まずいねこりゃあ。
ガッハッハ。
「――ずいぶんと乾いた笑いね。……混乱しているようだし、特別に再生成してあげようかしら。うん。そうよそうしましょう。ウフフ。
――サモン/コール:ヒュ――」
「ダメだ。それは負荷がかかりすぎる」
ブツン、と音がした。世界が暗転する。
……この感覚は知っている。
強制退避だ。
――――――――
「――この機器の優れたところは、肉体の知覚情報と、魂のバックアップ、そして送信機能だ。スキルに関しては適当なところが多いが、……まあ悪くないもんは作れたとは思ってる」
声が、耳に響く。
VRのヘッドセットを外す。
……視界が広がる。ログインする前と同じ部屋に……いるはずだ。
指は……動く。そして多くの見知った感情も。
――――――。
「調子はどうだ。……アキヒト。人生、楽しんでるか」
…………。感情を受け止め、せき止める。
……そのせいか思考も、まとまりだしてきた。
「……親父。ここって現実だよな?」
「さぁなあ。自分が決めろよ」
……。
相変わらず変なことを言うなあ。
じゃあ、多分現実なんだろう。
そうしよう。
「――お。帰ってきたか。けっこう長く入ってたな」
少し遅れて僕の友人たちも現実に帰還してきた。




