Ch2.7 誰が宿敵か(3)
爛々と、七色なのに昏昏な視線を向けてくるピグモン族たち。
加えてその体格の大きさと数の多さが相まって、まるで熊の群れにでも囲まれているかのような閉塞感と危機感を感じる。
今にも四方八方から飛び出してきそうだ。
「――ッ、こいつは虎の子だったんだがな!」
ブゥさんが銃口を向ける。前方のオゥルではなく、上空に。
「――なるほどそう来ますか。ならば……!」
そのすきにオゥルは自ら羽織っていたローブを、自分の姿を隠すようにこちらに放ってきた。
「……そいつの対処を頼む!」
「――はい!」
手に持っていた槍をローブごと突き刺すように、その陰に隠れたオゥルへ向かって投げる。
同時に、空へとブゥさんが何かを打ち上げた。
一瞬の閑静。
そして、2つの光が爆ぜた。
槍がローブに当たった瞬間、その2つが反発したかのように、七色の光が爆ぜる。
そして上空でも夜の闇を照らし上げるような眩い光が爆ぜた。
奇しくもオゥルとブゥさんは同時にまばゆい光を放つ択をとった。一人は目くらましに、そしてもう一人は多分、応援を呼ぶための照明弾だ。
「――逃がしたか」
2つの光が止み終わった後、忽然とオゥルの姿は消えている。
そして残るは、続々と窓から飛び降りてくる狂ったピグモン族たち。
「ブゥさん……!」
「……」 なぜかこんな危機的状況なのに、落ち着きを払っているブゥさん。
後ろを振り返ると、いつのまにか逃げ道も複数人にふさがれているではないか。
……まずい。ケイともまだ別行動中だし、先ほどの照明弾でも流石にこんな速さでは他のピグモン族も救援には来られまい……!
「――ブルアアアアアァァアアアア! ……アア?」
――突如として蜃気楼につつまれていくはピグモン族の暴徒たち。
続々と空間に溶けるように消えていく。
……おいまさか。こんな現象を引き起こすのは――。
『――フハハハァ! ついにやっと新作のゲームが手に入るわあ!』
空間に突如として現れたのは……誰だ? 中高生程度の年齢に見える青い髪をした真っ白な肌が特徴の女性が、空間に優雅に……いやその優雅さの大半を失ったかのように、万歳して嬉し気に立っている。
――記憶の中にある、先ほどの魔法の使用者とは、印象と姿かたちが大分違う。
前回の髪形はのばしっぱなしのロングだったが、今回はセミロングで切りそろえられている。相変わらずのアメーバのようにスライム状に髪はうねっている一方、体全体ではスライム状になっていない上、背丈が小さくなっている……?
手先や足先は青いが、あとは肌色でまるで僕たち人間の姿に近づいたかのようだ。しかも前回は裸だったのに、今回は動きやすそうな、パジャマにも見える厚手のワンピースを着ている。
なによりの違いとして、その表情には酷薄さが不思議と感じられないのはどうしてだろうか。
前回は一目で残虐性が感じられたが、今回は……どこか違う。
陽気で、幼さを感じられて表情も豊かで……。なんだろう、どこか にん** らしい――。
――いや、違う。どこか女神らしからぬ。
……本当にあの女神なのか? まるで獰猛な肉食野生動物が、しつけられて家猫にでもなったかのようだ。
正直、彼女が僕の宿敵でないと思いたい。
「お早い登場だな」
『おうとも。ちょうど暇を持て余していたからな。こやつら、転移させてもよいのじゃろう?』
「ああ頼む」
『しかしてこやつら、なにがあったのじゃあ? ……魔力を体内に宿しておるぞ。……ふぅむ。よかろうあとで対処しておこう。出血大サービスじゃ!』
気づくと、ものの数秒でピグモン族の暴徒たちは霧のように消えてしまった。
……結果的に僕は助けられたのか。
「ブゥさん、あの人は」 ……聞きたくないが、聞くしかない。
「おうよ。我らが女神ちゃんのお出ましよ」
――やっぱり、そうであってしまうのか。
このようにしてこの緊急クエストの騒動は、より混迷とした状況へと変化していくのであった。




