Ch2.5 デイリークエスト(3)
学生のデイリークエスト、それこそが学校だ。行きたくない時もあるが、我慢して続ければ報われる、かもしれない。
「もうあんなゲームやってらんないわぁ……」
学校に着いたら、エミリが机に突っ伏してなぜかぼやいている。
十中八九 I.F.ワールドに対して文句を言っているよね。……なんか予想していた反応と違うぞ。
てっきりエルフの美しさをずっと語られるかと思っていた。
いままであんなに求めてやまなかったのに……。ビーフORチキンって聞かれたら飢えてるからどっちもよこせえって感じだったのにねえ。
チャプター2で一体なにがあったんだろう?
カケルのほうを見やると、肩をすくめている。正直彼も彼女の状態はよく分かってないらしい。
「あのエルフたちこそ、ホンモノの美を持ってるって思ってたのに! その美しさを体験できるのかと期待してたのにぃ……。どうしてくれんのよぉ!」
ばんばんと机を叩く涙声のエミリ。文句の内容も暴論というか理解ができないので、慰めようがない。
というか、あんな絶世の美女であるコロン姫を見てそんなことを抜かしていたら、エミリの美人への渇望が底なしすぎて、心配でしかないのだけど……。
ついにエミリもコワレタのかもしれない。諸行無常の響きあり。なむ。
「――はぁ? なにあなたたち、気づいてなかったの? ……カケルはまあいいとして、アキヒト――あんたなら分かると思ってたわ。期待外れもいいとこね。……フンだ!」
手を合わせ拝んでいると、突っ伏しながら赤い横目でこちらを覗いてきたエミリがそんなことを言ってきた。
……僕なら分かる?
「あ・ん・な・どブスなのに気付けないんだ。あーあ、男ってやっぱ目が節穴だわ!」
ええ。……あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ。そんなヒドイ言葉を使うように育てた覚えはありませんよ!
「ああでも一人ワンちゃん可愛い子はいたわね。心が絶望に染まりすぎてあの時は気付かなかったわ」
はぁーっと、大きいため息をついて、気が晴れたのか顔を机から上げるエミリ。
「やっぱり、視力悪いほうが世界は美しく見えるのかなぁ……」
流し目で、意味深なセリフを吐くエミリ氏。なんだコイツ浸ってやがる。思春期かよ。……いやそうだわ。
よーわからん。なんか混乱してきた。
エッちゃんは時々常人とは視点が違いすぎる。
「……どゆこと?」
「いやオレもさっぱり。エルフから召喚されてすぐむすっとしてた。そっからずーっとあんな感じ。色々と大変だったぞ」
はぁ、と小さくため息をエミリに聞こえない程度吐くカケル氏。
「アンダインには着いた?」
「アンダイン? ……あのネオン都市のことか? いやビビってそこらへんで野宿しながら時々侵入したり偵察して過ごしてた」
あんなおどろおどろしいとこ初見じゃズカズカと入れねえよ、とぼやくカケル。
「知ってる? あそこの住人全員めっちゃ優しいよ。マロンちゃんに色々と教えてもらえなかったの?」
「いや都市の直前で別れてさ。自由にしていいってことを言われたのは分かったけど、特にヒントとかはあまり教えてはくれなかったな」
あれ見かけ倒しなのか、なんてぼやくカケルの隣で自分なりに分析してみる。
――プレイヤーたちの中でもそういったコミュニケーション不足の弊害が出始めてるのかもしれない。僕はなんにも苦労せずともできることが、もしかしたら他人からは達成するのが想像もできないほど難しいのかも。
そういう意味では僕の以心伝心は今回チートスキルなのかな。その場でなにか分からなかったらすぐにマロンちゃんやら誰にでも聞けるし。無知の知、というやつがふんだんに使える。
現実でも、ゲームでもコミュニケーションというのは案外当たり前に取れるものではないもかもしれない。伝えるのを怠ったり人の話を聞かなかったりすると、途端に色んな人との可能性は閉じられてしまう。……そういうバランスが案外親父はうまいのだろうな。
ゲームでも配布されたスキルを通して最低限コミュニケーションを取れたとしても、コミュニケーション不足またはコミュ力の欠如による不都合はやはりどこかで発生してしまうのだろう。
ふーん、今回こそ僕がプレイヤーのなかでも一番のアドバンテージを持ってるのかもしれない。なんて、そんな自信のある考えが頭をもたげる。
「――ホンモノの美少女エルフはどこにいるのよぉ……」
そんな分析を終えるやいなや、あてどもなくエミリが立ち上がりさまよいだした。するとふらふらとケイのところまで行って抱きついたではないか。
いつのまに仲良くなったんだあの二人。いやケイが困惑した顔してるから、多分あれはエミリからの一方的なアプローチかもしれない。
スリスリとエミリが顔をケイの胸にこすりつけてる様子が見える。……人間、余裕がなくなるとなにするかわからない。そんなことしてダイジョウブか、エッちゃん。訴えられるぞ。
変態がすぎる。……でも幸せなら、オーケーです。
……あ、ケイがエミリを膝の上にのせて抱っこし始めた。頭をなでてあやしている。
マジか。結局仲良くなるのかよ。
……たまには自分の欲に、正直になるものいいのかもね!




